▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『素材探しに犠牲は付きもの? 』
セレシュ・ウィーラー8538)&(登場しない)

 緑の山々が連なり、緑の草原、森が広がる。
 空は青ではなくやや緑がかった不思議な色をしており、その下をゆったりと流れる雲は白い。
 街には中世のもののようでどこか違う衣服を着た人々が、見たこともないような変わった果実や花々を売り、魚や肉などを売っている。
 ここは、セレシュが住んでいる世界とは異なる世界だ。
「さて、今回は特殊な鳥の羽を集めに来たで!」
「特殊な鳥って、何よ……?」
 本来の姿に戻っているセレシュと悪魔は、街から少し離れた場所に佇んでいる。
 怪訝そうに呟く悪魔に、セレシュはきょとんとした顔をしたまま答えた。
「まぁまぁ、見たらすぐ分かるって。とりあえず巣を探そ。その鳥が巣を作りそうな場所は何となく掴んでるんよ」
 そう言いながらセレシュが指差した先には、緑の山々の連なりのその向こうに見える、山の頂が雲に隠れるほどの岩山だった。
「うそ……。本気であれに登るの?」
 青ざめた顔で呆然とその山を見詰める悪魔に、セレシュはポンと背中を叩いた。
「誰も歩いて登るやなんて言うてないわ。うちらには翼があるやろ。上手く風を捕まえて登るんや」
「……」
 じとっとした眼差しを向けてくる悪魔の事などお構いなく、セレシュはバサリと翼を大きく広げ宙に舞い上がる。そして悪魔を振り返りニンマリと微笑んだ。
「ほな行くで!」
「ちょ、待ってよ!」
 ゆったりと大きく翼をはためかせ、飛び去ったセレシュを悪魔は急いで追いかけた。


 飛べばさほど遠さも感じず、あっという間に辿り着いた岩山は下から見上げれば圧巻の一言だった。
 常に風は吹き乱れ、上手く上昇気流に乗ればあっという間に頂まで辿り着けるだろう。
 セレシュと悪魔は風を読み、上手く上昇気流を捕まえてグングン山頂を目指して飛んだ。だが、ふいに二人の視界が暗くなる。
「何? 天気でも変わったのかしら……?」
 悪魔は何気なく空を見上げると、そこには驚くほど大きな鳥、ロック鳥が自分たちを追い越して飛んでいく姿が見えた。
「ちょ、まっ……?! はぁ?! 何よ、これぇっ!」
 あまりの大きさに、悪魔は焦りの色を露に頓狂な声を上げる。だが、セレシュはまるで気に留めていないかのようにサラリと言ってのけた。
「巣を離れてる今がチャンスや!」
「はぁああぁぁ?! 本気で言ってんの?!」
 半ばやけくそになっているかのような悪魔の不満な叫びに、セレシュはぐっと親指を突き立てて見せた。
「見てみい! 巣を見つけたで!」
 断崖絶壁の一部突き出た岩の僅かに平らになっている場所にある巣を指差すと、そこを目指すと目で合図を送ってきた。
 巣に降り立った二人は、落ちている羽がないかくまなく見て周った。
「セ、セレシュ。マズイって……」
 へっぴり腰になりながら、懸命に巣の中を探し回るセレシュの後について歩く悪魔を、セレシュは別段気に留めた様子もない。
「ほら、ちんたらせんとちゃんと探してや。卵には触ったらあかんで」
「と、当然でしょ!」
 巣の隙間から少しずつ抜け落ちた鳥の羽を拾い集めていると、遠くにこちらを目掛けて飛んでくる鳥の姿が見て取れた。
 悪魔はうろたえながらセレシュの袖をひっぱり始める。
「ちょっと、早くしてよ! 鳥がこっちに向かって飛んできてるっ!」
「ちょっと待ってや。これじゃ足りんねん」
「足りるとか足らないとかどうでもいいのよ! 早くしないと私たち食べられちゃうっ!」
「うーん……。まだまだやな。集めるのにもう少しかかるから、時間稼いでや」
 こちらを振り返りもせず、手元の羽の枚数を数えながらサラリと凄い事を言ってのけたセレシュに、悪魔は愕然としてしまった。
「本気で言ってるの!? あんなのの相手なんか出来ないわ!」
「嘘言うてどうすんねん。あんたの方が早く動けるやろ。ここに近寄らせんように気を引いてくれたらええんや」
「だって!」
 抗議の声を上げる悪魔の鼻先に、セレシュはびしっと指を突きつけた。
「うちがマスター。あんた使い魔。……な?」
 にんまりと笑いながら小首を傾げたセレシュに、悪魔はわなわなと打ち震える。
「な? じゃないわよっ!」
「集め終わったら合図送るから、これを使って逃げるんやで」
 そう言いながら無理やり手に押し付けてきたのは閃光玉だった。
 悪魔は半べそかきながら、閃光玉を握り締めて渋々巣から飛び発つとやけくそになりながらロック鳥に向かって行った。
 鳥は自分に向かい飛んでくる悪魔の姿に警戒の声をあげ、一気に飛び掛ってくる。
 悪魔は引きつった顔を浮かべながら何とか鳥の攻撃を避けつつ、彼の周りをひょいひょいと飛び回り時間を稼いでいた。
 その間、セレシュは黙々と羽の回収をしている。
 持って来た袋にありったけの鳥の羽をねじ込みながら、最後の一枚を拾い上げると大きく手を振って悪魔に合図を送った。
 汗だくになりながら飛び回っていた悪魔は合図を見つけると、すぐに手にしていた閃光玉を鳥目掛けて思い切り投げつける。
 パンパンッ! と弾ける音を立てて火花と共にもうもうとした白い煙が上がる。気が立っていたロック鳥は突然の事に驚き、目を回してしまったのだった。
 急降下していく鳥を横目に、巣から飛び立ったセレシュの後を追いかけて悪魔も全速力で鳥から離れて飛び、二人は森の中に身を隠した。
 生い茂る葉を利用して身を隠し、二人は木にもたれ掛かりながら肩で呼吸を繰り返す。
「……あんたはやっぱりちゃうなぁ。さすがの一言に尽きるわ」
 汗だくになり、息を乱しながらもニヤリと笑って声をかけると、悪魔はガックリと肩を落としうな垂れたまま荒い呼吸を繰り返す。
「じょ、冗談じゃ……ないわよ……っ」
「いやいや、功労賞もんやで。あんたのおかげで素材を沢山採ることが出来たんや。よう頑張ってくれたな。ありがとう」
 ぽんぽんと頭を軽く叩きながら労いの言葉をかけてくるセレシュに、悪魔は目では睨みつつも僅かに頬を染めて口を尖らせ、プイッと横を向いた。
「……別に」
 むくれたようにポツリと呟いた言葉に、セレシュは腹を抱えて笑ってしまったのだった。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
りむそん クリエイターズルームへ
東京怪談
2014年03月24日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.