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『花園三姉妹が作ったモノとはっ……! 〜ソルシェ・ロゼ編〜 』
ソルシェ・ロゼjb6576

★恐怖のお菓子作り
「ねぇねぇ、イザベラにリーゼ。もうすぐバレンタインだし、今度の休日はソルシェの家でチョコを作ろうよ!」
 ソルシェの無邪気な笑みを浮かべた誘いに、イザベラとリーゼロッテの表情が複雑なものへと変わる。二人の頭の中には、それぞれ別の悩みと迷いが浮かんだのだ。
「バレンタインチョコを作るのは、楽しそうなんですが……」
「まあお店で売っている物より、手作りの方が気持ちは伝わりそうですけど……」
「じゃあ決まり! ソルシェの家に行く前に、商店街で材料を買おうね」
 三人の心中はそれぞれ違っていたが、それでもバレンタインチョコを作ることは決定する。


 そして休日、三人は朝早くから商店街に材料を買いに来た。
「ソルシェの家にはお菓子作りに必要な調理器具が、全然ないんだよね。でもこの時期にはいろんな調理器具がたくさん出るから、買うの迷っちゃったよ」
 そう言いつつも満足そうに微笑んでいるソルシェの両腕には、大きな紙袋が抱えられている。
「ソルシェさん、リーゼさん! お待たせして、すみませんでした! 先に私の個人的な買い物をしていましたら、遅くなってしまいました!」
 バレンタイン用のお菓子の材料を売っている店から、イザベラが大きな紙袋を持って出て来た。
「私もいろいろと買ってしまいました。うふふっ、こういうのを選んで買うのって楽しいですよね」
 リーゼロッテの手にも買い物袋があり、しかし何故か怪しげな笑みを浮かべている。
「それじゃあソルシェの家に、レッツゴー!」


 ソルシェの家に到着した三人はエプロンを身に付け、各々買ってきた物をテーブルの上に置いていく。
 そんな中、イザベラは紙袋の奥に入っている物を見て、青ざめた顔でこっそりため息を吐いた。
(胃薬とエチケット袋……。ドラッグストアで買っていたら、肝心のお菓子作りの材料を買うのを忘れてしまったんですよね。ギリギリになって、思い出して良かったです)
 ドラッグストアで購入した物は二人の前に出さないまま、こっそり自分のバッグの中に入れる。
 一方でリーゼロッテは鼻歌をうたいながら、買ってきた物を次々と出していた。
(バレンタインチョコを上手に作ってあの人に渡せば、きっと私の女子力が高いと思われ、好感度もアップすること間違いないです。そうすれば他の女を出し抜くことができます! ……そういえばおまじないの本に書いてあったんですけど、手作りのお菓子に自分の髪の毛を入れて、好きな人に食べさせると夢中になってもらえるというのは本当でしょうか?)
(……何だか冷気を感じますね)
 リーゼロッテから出される不穏な空気を感じたのか、イザベラは不安そうな表情でキョロキョロと周囲を見回す。
 だが二人の視線がソルシェが持つ紙袋に向けられた時、同時に顔が強ばった。
「あの、ソルシェさん? その赤黒い水玉模様の紫色の紙袋には、何が入っているんですか?」
「微妙にイヤ〜な匂いが漂ってくるんですけど……」
「ああ、コレ? お菓子作りに必要な材料だよ。前から用意してたの」
 ソルシェはニコニコしながら、テーブルの上に紙袋の中身を置いて見せる。
「この人型の根っこは取れたて新鮮なマンドラゴラ、惚れ薬になるんだよ。瓶に入っている赤紫色の小さくて丸いのは霊薬、この緑色の液体は魔法薬で、バレンタイン向けに出た新製品なの! お菓子を作る時に入れると美味しくなるし、いっぱいあるからたくさん使ってね♪」
 その他にも動いたり鳴いたりする材料もあり、真っ青な顔色でイザベラはソルシェに問いかけた。
「ソルシェさんっ! 私達、バレンタインのチョコを作るんですよね? 決して誰かを人外にさせる薬を作るわけじゃありませんよね?」
「やだぁ。当たり前じゃない」
 涙を浮かべながら必死に訴え掛けるイザベラに向かって、ソルシェは朗らかな笑みを浮かべて見せる。
 しかしそんな二人から離れた場所で、リーゼロッテは血の気の引いた白い顔でメモ帳とペンを持ちながら、自分に何かあった後に発見者に読んでもらえるよう、とある手紙を書いていた。


「ソルシェはチョコレートケーキを作ろうっと♪ おっきなのを作って、みんなと一緒に食べるの!」
「……リーゼさん、溶かしたチョコってあんな斑色でしたっけ?」
「少なくとも私の記憶の中では、違っているような……。しかもヘラで混ぜるたびに、色が変わりますね」
 イザベラとリーゼロッテはソルシェが持つ銀のボールの中身を見て、冷めた目になる。
「私は普通のチョコクッキーを作るつもりですが……何だか嫌な予感がします」
 イザベラはいろいろな種類のクッキーの型を買っており、ハートの他にも星や花の型をクッキー生地に押し当てていった。
「私は普通にチョコを溶かし、型に流して入れて固めるものです」
 リーゼロッテは三十センチほどもある大きなハート型を買っていて、テンパリングしたチョコを慎重に流していく。
「ずっ随分と大きな型ですね。冷蔵庫に入るでしょうか?」
「あっ、冷蔵庫に入れなきゃいけないんでしたね。ソルシェさん、ちょっと冷蔵庫の中、開けて見てもいいですか?」
「いいよー。もし入らないようだったら、中の物、移動させちゃってもいいからね」
 家主の許可を得たので、イザベラとリーゼロッテはお菓子作りの手を止めて冷蔵庫へ向かう。
 二人が冷蔵庫の中身の整理に夢中になっている間に、こっそりソルシェは二人が作っている途中のお菓子を見に行く。
(イザベラとリーゼって結構器用だからお菓子も上手に作れているけど……でも隠し味を何も入れないのって、もったいないなぁ)
 にぱっと笑うとソルシェはエプロンのポケットから、緑色の液体が入った瓶を取り出す。そして中身をこっそり、二人のテンパリング途中のチョコに入れる。
(チョコの甘みとこの液体の苦味が合わさると、たまらないんだよね〜♪)
 液体はチョコと混ざると茶色に変色した為、一見は何も混ざっていないように見える。その上無臭なので、二人はチョコに何かが入れられたことには気付かないだろう。
 ソルシェは瓶が空っぽになると、音も立てずに静かに自分の場所へと戻った。
「ふう……。冷蔵庫に何とか空きができましたし、これなら入りそうですね」
「チョコを冷蔵庫で冷やすこと、すっかり忘れていました。イザベラさんが言ってくれて、助かりましたよ」
 冷蔵庫の中身を整理し終え、何とか三人分のチョコを入れるスペースを作った二人は、再びお菓子作りをはじめる。
 ソルシェが俯き、ニヤっと笑っていることを知らないまま……。


★恐怖のチョコは作られた
「ソルシェのチョコケーキ、完成したよ! みんなで食べよう!」
 冷蔵庫からチョコが固まったケーキを取り出し、テーブルの上に置いたソルシェ。しかしチョコケーキを見た途端、イザベラとリーゼロッテは一瞬意識を失いかける。
 ケーキの表面には何かを嘆いている女の子の顔が浮かんでおり、泣き声をあげていた。色はチョコレートそのものだが、顔はまるで溺れているように浮かんだり沈んだりを繰り返しているのだ。
「女の子の顔が浮かぶ、可愛いチョコケーキでしょう? 味も良いんだよ♪ 何せいーっぱい美味しくなるのを入れたからね!」
 二人は慌てて部屋の隅にあるゴミ箱に視線を向けると、怪しげな薬の空になった容器が溢れ出ているのを見つけた。どうやらソルシェは不気味な材料を、惜しげもなくチョコに入れたらしい。
「このチョコケーキは見てても良いけど、食べると健康にもなるんだよ。早速食べようね」
 ソルシェはケーキを三人分、切り分けようとするが、ナイフが入るたびに女の子の口からは絶叫が出る。
 覚悟を決めたイザベラは買ってきた胃薬をバッグの中から取り出して、先程入れた紅茶で飲む。
 そしてリーゼロッテは先程書いた手紙を買ってきたキッチンタイマーの裏に貼り付け、自分のバッグの中に入れた。
「「いっいただき、ます……」」
「はい、召し上がれ♪」
 イザベラはまず紅茶が入ったカップを手に持ち、口の中を潤す。
 リーゼロッテはフォークでケーキを一口サイズにして、恐る恐る口の中に入れる。
「んぐふぅっ!?」
 すると見る見るうちにリーゼロッテの顔が土の色になり、ドターンッと床に倒れた。
「リーゼさんっ! しっかりしてください!」
 慌てて近付こうとしたイザベラだが、リーゼロッテが体中にねっとりした汗を出して、茶色い液体をグハッと口から吹き出すのを見て止まる。
「やっやっぱり他の人を……出し抜こうなんて考えたのが、いけな……かったんですね……。ごっごめん……な、さい」
 最後の言葉を言った後、リーゼロッテは意識を失った。
 そんな彼女の姿を見て、イザベラは後ろに数歩下がる。
(……胃薬とエチケット袋で何とかなるものではないですね。ここは一つ、ソルシェさんの気をそらして、何とかあのケーキを食べないようにしなければっ……!)
「あれれ? リーゼ、寝ちゃったの?」
 ケーキを平然と食べているソルシェは、床に倒れたリーゼロッテを見て不思議そうに首を傾げた。
「そっそうみたいです。昨夜、楽しみで寝られなかったようですから」
 アハハと苦しい笑みを浮かべながら、イザベラは冷蔵庫へ向かう。
「あっ、私のチョコクッキーができあがったようです。ソルシェさん、一緒に食べましょうか」
「わーいっ! 食べる食べるぅー!」
 自分が作ったチョコクッキーなら安全だと思い、イザベラはハート型のものを一口で食べてしまった。
「うぐっ!? なっ何故、私のチョコクッキーまでもがっ……」
 チョコクッキーにまでソルシェが用意した怪しい薬が入っていることを瞬時に気付いたイザベラは、しかしリーゼロッテと同じく床に倒れる。
「……次は人間に……生まれたい、です……ね」
 ガクッと頭を揺らして気絶したイザベラを、ソルシェは怪訝そうな顔で見つめた。
「二人とも、何で寝ちゃったの? 眠り薬、入っていたかなぁ?」
 ソルシェは買ってきた薬の種類を思い出しながらも、ケーキとクッキーを口に次々と運んでいる。
 魔女と名乗りながらも千年以上生きている悪魔のソルシェは、数々の薬は効かない体質であった。


 ――やがて貼り付けが甘かったのか、リーゼロッテがキッチンタイマーの裏に貼り付けた手紙がバッグの中ではがれてしまう。その手紙には、こう書かれていた。

『この手紙を見つけた人が読んでいる頃、私は亡くなっているでしょう。何故なら理由は分かりませんが、見た目は12歳ほどの自称・魔女に命を狙われているからです。この手紙を読んだあなたには真相を暴いてほしい――それが私の望みです。ヒントはバレンタインチョコ。それだけしか伝えることができない私を、どうか許してください』

 と遺書のような手紙を書いたものの、数時間後には二人は何とか意識を取り戻す。
 しかしチョコを作る気はすっかり消え去ってしまった為に、バレンタインには店で売っているチョコを購入して渡すしかなかった。


☆ソルシェの乙女心
「イザベラとリーゼから、改めてチョコを貰っちゃった♪ 前にソルシェの家で作った手作りのチョコのお菓子も『あげます』って言われちゃったし、今年はチョコがいーっぱいね!」
 バレンタインデーの夜、ソルシェは上機嫌で自分の家のテーブルの上に貰ったチョコを並べている。
 イザベラとリーゼロッテから例の隠し味入りの手作りと、既製品の二種類のチョコを貰ったのだ。
「でも二人とも、ソルシェからは『ケーキを頂いたからもういらない』って言ってたけど、流石にちょっと悪い気がするなぁ」
 実際にはソルシェから貰うチョコが恐ろしいので二人は遠慮したのだが、彼女には上手く伝わっていないらしい。
 今も幸せそうに、隠し味入りのお菓子を頬張っている。
「ん〜っ! やっぱり隠し味を入れて正解だったわね。この味はお店で売っているお菓子じゃ味わえないもん♪ ……でも何故かソルシェの作る料理やお菓子って、イザベラとリーゼ以外の人達には不評なんだよね〜」
 ソルシェが料理やお菓子を作って持って行くたびに、イザベラとリーゼロッテは青ざめた笑顔で食べてはくれるものの最後には意識を失うことが多い。他の人達も同じ目に合うので、逃げてしまうのは本能と言えよう。
「でも時々は好評なんだけど……確か隠し味を入れない場合だったかな?」
 恐ろしい隠し味を入れていない料理やお菓子であればプロ級なので、食べた人々は涙を流しながら喜んで食べるのだ。
「けど隠し味を入れないのって、やーっぱり満足できないんだよね。ソルシェがっ!」
 ……だが本人が激マズの原因を喜んで入れる為に、好評を得ることはまず滅多にない。
「バレンタインデーは貰いっぱなしだったから、ホワイトデーには内緒で手作りのお菓子を二人にプレゼントしようっと♪ 何の隠し味を入れようかな〜?」
 ソルシェの紫色の大きな瞳が、一ヶ月後のイベントを考えて光り輝く。
 ――しかし同時刻、イザベラとリーゼロッテは原因不明の寒気を感じて身を震わせた。


【終わり】

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb6573/イザベラ/女/18/アストラルヴァンガード】
【jb6576/ソルシェ・ロゼ/女/12/ダアト】
【jb6732/リーゼロッテ 御剣/女/20/ルインズブレイド】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 このたびは依頼をしてくださり、ありがとうございました(ペコリ)。
 今回は女の子達の怪しげな(?)チョコ作りということで、めいっぱい怪しく書かせていただきました!
 『☆』の部分からは個人ストーリーとなっていますので、三人分を合わせて読んでいただければもっと面白くなると思います。
 ではまた機会がありましたら、よろしくお願いします。
不思議なノベル -
hosimure クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年03月25日

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