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『昼下がりのまいごちゃん 』
春名 璃世ja8279


 穏やかな羊雲が凛と澄んだ空を、のんびりと闊歩していた。
 風は冷たいけれど、少しずつ春は近付いてきている。
 春名 璃世と黄昏ひりょは、のんびりと凍て緩む街を歩いていた。
 特に目的があるというわけではないけれど、ただ並び歩いているだけで、ほんのりと楽しくなってくる。

「クリスマスの時は街で迷子になって、璃世さん達に救助されたんだっけ」
「そういえば、あの時もこんな街だったもんね」
 のんびりとした璃世の呟きが蒼い空へと溶ける。特に目的はないから、取り留めのない話をしながら
「あの時のひりょくんのホッとした顔、可愛かったよ」
 ひりょは言葉を返そうとして、そちらを見るとほわりと優しく璃世は笑っていたから。その笑顔にほだされるように、ひりょの表情にも笑顔が咲く。
 ふたりがそうして歩いている最中。目の前の花屋の前で泣いている少女の姿を見付けたのはひりょ。
「あれ、迷子かな」
 ひりょの指の先。その場所にはひとりぼっちで泣き続ける少女の姿。
 璃世は黙って頷いて、一緒に近づいた。
「ほら、ねこさん」
「えっ?」
 璃世の指さした方向には三毛猫模様の猫が居た。
「わぁ、にゃーさん!」
 少女は猫にはしゃいだ少女は駆け寄ろうとするけれど、その前に猫は逃げてしまった。
「君はどうしてこんなところに?」
「……ままといっしょだったんだけど、どっかいっちゃった」
 しょんぼりとした様子を見せる少女にひりょは訊ねると、また不安を思いだしたのか泣きそうな顔になる少女。
「ねえ、あなたのお名前、聞かせて貰ってもいいかな?」
「ん、えと……アイ」
 答えた少女に、ぽふりと優しく頭を撫でた璃世は優しく笑いかける。
「アイちゃんだね。もう大丈夫だよ。一緒にお母さん、探しにいこ?」
「ほんと?」
 きょとりと上目遣いで見つめてくるアイにひりょは胸を張る。
「大丈夫だよ、こう見えてもお兄さん、迷子の達人なんだ」
「もう……それは、自慢することじゃないよ?」
 でも、迷子仲間が居たということは迷子だったアイには心強かったようで、不安げな表情にちょっとだけ明るさが戻る。
「さて、アイちゃん。このお兄さんが迷子にならないように手繋いであげてね」
「はーい!」
 場を和ますようにわざと茶化すように言った璃世のお願いに元気よく答えたアイはひりょの手を掴んだ。
 これにはひりょも少し苦笑。そうして、もう片方の手を璃世は繋いで。
「よし、母親を探しにいこうか」
 ひりょの声とともに踏み出す。そして、3人並んで母親を探しに行った。



 未だ春は遠い。
 商店街を歩く天花寺 桜祈は丸くなりながら吹き抜ける北風に抗っていた。
「にゃー、さむさむなのですよ。こたろーさん」
 暖かい家の中でボーッとしているだけでは眠くなってしまうだけだからと外へと繰り出したものの、少しだけ後悔。
「きっと、桜祈の前世はねこさんなのですねー。けど、出来ればおいぬ様がいいのですよ。ね、こたろーさん」
 桜祈は抱えた犬のぬいぐるみ語りかける。当然答えがあるはずもないけれど、それでも楽しい。
「おこまりごとでしょーか?」
 てくてくと暫く歩いて行くと、きょろきょろと辺りを見渡しながら女性が居たから声を掛けた。女性は焦った様子で応えた。
「娘が迷子になってしまって、4歳の子なんですけど……」
「桜祈に任せておいてくださいです! 桜祈はぶれいかーですから!」
 女性に精一杯胸を張った桜祈は、とてとてと駆けだしていった。



「それにしても、寒いね。こんな日はおでんが食べたくなるね」
「あい、おでんすきだよー」
 ひりょの呟きにアイは元気よく返した。
 道中アイの不安を紛らわす為、出来るだけ明るく。
 子どもが喜ぶ話などは正直詳しくは解らないから探り探りだったけれど、普通の会話内容でも噛み砕いて話せば楽しんでくれるようだった。
「アイちゃんはおでん、何が好きなの? 私は餅巾着とか好きかな。お出汁をいっぱい吸った柔らかなお餅は美味しいと思うんだよね」
 璃世の問いかけに、んー、と考えるアイ。
「えっとねー、はくさいー」
「ず、随分渋い選択だね」
 ひりょは思わず引きつり笑いを浮かべる。アイは、とても楽しそうだった。
(……ひりょくんが、お父さんになるならどんな
 他愛のない話をしながら手を繋ぎ歩くひりょと、璃世と、アイ。
 ふと璃世の脳裏を過ぎったのは、幸せな家族の形。父も母も亡くした璃世は不思議な感覚を覚えていた。
 幸せな家族というものは遠く思いつつも憧れを感じるものだから、もし家族が居たとするならばこんな形なのかなと、ふと思った。だから。
「んー」
「どうしたの?」
 きょとりと首を傾げるアイに璃世は言葉投げかける。
「えとね、おにーちゃんとおねーちゃん。なんだか、おとーさんとおかーさんみたいだなって思ったの!」
 そのアイの、無邪気な言葉に思わず驚いてはしまったけれどふたりは優しく笑った。



「まいごさーん、まいごさーん。どこなのですかー?」
 3人で歩き続けて、やがて聞こえてきたのはそんな声。
 其方へと視線を向けると小犬のような少女がぱたぱたと忙しなくあっちらこっちら何かを探している様子で駆けていた。
「天花寺さん!」
「ひりょさんなのですー!」
 ひりょが声を掛けると桜祈はすぐに尻尾を振らすように近付いてきた。
「桜祈ちゃんは、何をしていたのかな?」
「えぇっとですねー。迷子の女の子を探しているのですー! おかーさんがとっても心配しているのです。桜祈はぶれいかーなので、困っている人は助けねばいけませんっ!」
「どんな子か聞かせて貰ってもいい?」
 少し屈んで訊ねた璃世に、桜祈は大きく身振り手振りも加えながら説明し。だいぶ
「えっと、あとですねーハート型のポシェットを持った4歳くらいの女の子って聞いてますです」
「あ……」「それってもしかして」「にゃっ」
 一同の視線はアイに向く。視線の雨を浴びて、きょとりと首を傾げるアイ。
「……あいさん、で間違いないですか?」
「うんっ」
 桜祈の問いに頷いたアイにぱぁっと桜祈は顔を笑顔を咲かせて。
「にゃっ アイさんはっけーん、なのです!」
「もしかして、天花寺さんが探していた子ってアイちゃんのことかな?」
 ひりょの問いかけに桜祈は頷き、指を差す。
「まだ向こうの方探していると思うので、桜祈呼んでくるのですよ!」
「だーめ」
 とてとてと走り去ろうとする桜祈の背に抱きとめる璃世。
「桜祈ちゃんは迷子さんになるから、おてて繋いで一緒に行きましょう」
「璃世さん、それもっともらしいことを言っているようで自分が繋ぎたいだけじゃないのかな……」
 ひりょのツッコミも。璃世は凄く嬉しそうに桜祈とアイの手を握って数歩ほど先へ行き、振り返る。
「ひりょくん、行くよー」
「そ、そうだね。俺が迷子になったらいけないしね」
 少し駆け足で追い掛けるひりょ。小さい子を連れ歩く璃世は相変わらず優しい微笑みを浮かべていて。
(相変わらず、璃世さんは優しいな……俺も、そんなところに惹かれたんだろうか)
 ずっと、アイのことを気遣い続けていた。そんな優しい彼女だからこそ、幸せにしたいとも思った。
 今日みたいな日々。例えばこれからも一緒に並び歩けたのならば、どんなに良いことなんだろうか。



 桜祈が言った通りの場所に女性は居た。
「アイ!」
「ままー!!」
 声を掛けると、アイの姿にすぐ気付いた女性はバッと駆け寄ってきた。
 アイも手を離し、抱き着きに
「あのね、あのねおにーちゃん!」
 アイはポシェットをがさごそと弄る。そして、取り出したのは一口サイズのチョコレート。
「きょうは、ありがとうね! アイのとっておきなの! おねーちゃんにもあげるー!」
「ありがとね、アイちゃん」
 アイはもうひとつ、色違いのものを璃世に差し出した。受け取った璃世も笑顔で返す。
「本当にありがとうございました」
 そうやって、何度も何度も丁寧にお礼の言葉を繰り返す女性に気にしなくてもいいよと軽く笑う。
「……よかったね」
 璃世は繰り返すように呟いた。そして、夕焼けの中に消えていくように、母娘の姿は遠ざかる。
 その光景を眺める璃世の瞳は何処か羨ましそうで。
「天花寺さんは、これからどうするの?」
「えとですねー。もーすぐ暗くなってしまいそーなので、お菓子を買ったら帰ろーと思いますっ」
 その傍ら、ニコニコと笑顔を浮かべていた桜祈にひりょは訊ねた。
 そして、軽く雑談を交わして桜祈とも別れ、またふたりっきり。



 遠くの空を染める藍の色。輝く一番星と長く伸びる影法師。
 暖かな気持ちに包まれて、言葉もなく家路を歩く。
 ひりょは先程のチョコレートを大切そうに持っていた。何やら物思いに耽っているようで。
(先、越されちゃったかな……)
 鞄の中、璃世の手に触れたのはチョコレートだった。






━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja8279 / 春名 璃世 / 女 / ディバインナイト】
【jb3452 /  黄昏ひりょ / 男 / 陰陽師】
【jz0189 /  天花寺 桜祈 / 女 / 陰陽師】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 大変お待たせしてしまい、申し訳御座いません……!
 ほっこりと、楽しく描かせて頂きました。璃世さんからのらぶらぶっぷりで、これでいいのでしょうか?
 もっとやった方がよかったかな……(おろおろ)
 まさか今回、桜祈を誘って頂けるとは思わずお話を頂いた際は本当に嬉しかったです。
 桜祈共々、有難う御座いました……!
不思議なノベル -
水綺ゆら クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年03月26日

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