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『ケチャラー達の忘却ショコラ 』
マキナja7016


●いつもの集い

 それは家人不在のある日の事。
 甘酸っぱい香りの満ちる自宅のキッチンで、星杜 焔は嬉しげに鍋をかきまわしていた。
「うーん、いい匂いだよね〜」
 鍋の中には大量の赤い物体。チーズとワインの香りも漂っている。
 今日は定期開催の『ケチャラー友の会・定例会』の日なのだ。何やら物々しい名前だが、要するにケチャップを愛してやまない人々が思う存分ケチャップ料理を堪能する日である。
 早速玄関のチャイムが鳴り響いた。インターホンの画面にはマキナの姿。
「今日は有難うございます。……少し早かったでしょうか」
 赤毛の逞しい体躯の青年は、玄関先で少し頭を下げて挨拶した。
「大丈夫だよ〜上がって上がって」
 焔が笑顔で出迎える。
 マキナの背後から顔を出したのは、点喰 縁だ。
「おじゃましやす。いつもすいやせんねえ」
 いなせな青年は、そう言いながら持ってきた風呂敷包をほどき、中の箱を焔に手渡す。
「これ、よかったら」
 中には縁のお気に入り猫型スイーツ。今回は茶とらの手型の一口サイズマフィンだ。バレンタインらしくチョコ味である。
「わあ、ありがとう〜後で皆でたべようね〜」
 その後から現れたのは七種 戒と大八木 梨香だった。
「今日もいい天気でケチャップが美味いですよね。ほむたん、味見係は全面的に私に任せると良い」
 一見素敵なおねえさんなのに、言動が全てを裏切る戒。
「お邪魔します。いつもお言葉に甘えてすみません……あら?」
 頭を下げた梨香が、綺麗に整頓された玄関に並ぶ靴を無意識に数える。
「七種先輩、今日は待ち合わせは……」
「あー、残念ながら奴は……」
 戒が少し顔を曇らせる。その瞬間、樹脂容器が見事に後頭部にヒットした。
「いてえ!! てめ、誰が……」
「戒、お前、何で先についてんねん」
 別の容器を手にした小野友真が冷たい微笑を浮かべて立っていた。戒が一応弁解を試みる。
「いやだって、思い出したのここについてからだったもんでな。子供じゃねえんだし、自力で来れる。実際、来れたじゃねえか」
「アホかーっ!」
「痛っ!?」
 すかーん! 二つ目の容器が戒の額に当たって飛んだ。
 まあ多少は痛いが、所詮は柔らかい材質の容器、大したダメージはない。
「それやったら連絡入れて来いやっ!!」
 寧ろ言葉の方が気になるお年頃の戒である。
「ちょ、おま、命令形!? 多少は先輩に対する遠慮とか敬意とかだな……!!」
「ハハッ」
 鼻で笑う友真。
「ええとこれ……」
 拾った容器を差し出す梨香が、目で(うしろー! うしろー!)と訴えて来た。
 梨香の背後で、戒と友真に向かって腕組みで微笑んでいるのは焔。目に見えないどす黒いオーラが漂っているのは気のせいか。
「えっと……すんません」
「お、おじゃまします〜♪ 本気にせんとってや、ほむほむ〜ちょっとしたコミュニケーションってやつやん?」
 乾いた誤魔化し笑い。友真は戒を楯に家に入る。


●素敵なクッキング

 料理の準備はほとんど整っていたが、今日はちょっと特別。
「折角のバレンタインだからね〜チョコも作ってみようか〜」
「え、料理は味見係でs……」
 戒は早々に宣言した。が、友真が即応する。
「わーい、俺もやるやる! この前梨香ちゃん達と一緒に作ったんよなv」
 梨香も頷いて笑顔を見せる。
「とても楽しかったです。チョコレートも結構上手にできたと思いますよ」
「なー! せやんな! なので俺も参戦しましょう。レシピさえあれば出来る!」
 友真、ほとんど化学の実験感覚である。実際チョコレートに関しては、厳密な温度管理による再結晶化がうんたらかんたら。それはさておき。
 なんとなく友真が『できる』と言い切ると、戒の中に負けたくない心がむくむくとわき起こった。
「しゃーねえな、では私の本気をお見せしよう」
 ふっとニヒルな笑いを浮かべるのだった。

 その場でふと顔を曇らせたのはマキナである。あ、戒の事は現時点では関係なくて。
 それでなくても食欲旺盛な青少年、ケチャラー会とあっては到着後即食事会スタートと信じ切っていたのだ。
 だが直ぐに気持ちを切り替えた。
(まあいいか。この機会に一度、きちんとした作り方を覚えておこう)
 身内から何やら不穏な物をよく受け取るマキナとしては、何故そうなるのかという探究心も働いたようだ。
 尤も、きちんとした物ができるかどうかは作成者次第なのだが……。

 結局のところ、早々に文句を言い出したのは戒だった。
「えーめんどくせえ、電子レンジでチンすりゃいいだろこんなの」
 チョコレートを湯せんにかけてかきまわして、直ぐに飽きたらしい。当然持ち方も適当である。湯気どころか湯が入りかねない勢いだ。
 それまで黙って見守っていた縁がここで口を開く。
「さてと、それじゃあちっとはお手伝いしやすかね?」
 伝家の宝刀、消毒済み巨大ピコハンで戒を片付ける所から。
「いてぇ!!」
「他の事はともかく、料理の基本で手を抜くのは見過ごせねえんです」
 いい笑顔の縁。とりあえず戒を要注意人物とみなしているようだ。
「チョコレートはね〜ちゃんと作るととってもおいしくなるよ〜」
 チョコレートをテンパリングしながら焔が言った。
「こうやっておいしくなあれ〜おいしくなあれ〜って心の中で呟くといいのだ〜」
 それぞれが好きな型に入れて固める、シンプルだがチョコレートの味が出来栄えに大きく影響するチョコレートである。
「へええ、結構手間かかるんやな!」
 友真が感心したように呟いた。
「ナッツは色々ローストしてあるからね〜」
「あ、これ良かったら使ってくだせえ」
 縁が愛用のネコの型を各種取り出して作業台に並べる。

 それぞれが好みの型に好きなナッツやフルーツを入れたり、チョコレートにフレーバーをつけたり。ワイワイ賑やかに楽しく作業を続ける。
 ミルクティーを煮出す作業をしていた戒がふと思いついた。
(カレーにチョコレートちょっと入れたら隠し味になるって言うよな)
 やばい発想が始まった。
(つまりだ。チョコレートに何か入れたら隠し味になるんじゃね? そう、ケチャップとか……)
 戒は隣のコンロにかかっているケチャップフォンデュの鍋を見つめる。


●天国と地獄

 チョコレート作りもひと段落し、ようやくケチャラー会本番である。
 友真はほろりと崩れるように柔らかな鶏を口いっぱいに頬張った。至福の時である。
「うまっ……。なあほむほむ、レシピ貰って帰ってもええかな」
「いいよ〜簡単に作れるからぜひ頑張るのだ〜」
「え、いや、家で作って貰おーとおも」
「頑張るのだ〜」
「あ、はい」
 ついでに友真のオムライスの傍に置かれた生トマトの行方を監視している焔。なせばなる。焔は心から友真を応援しているのだ。
「簡単なんですか。でも一人で作っても余りますね……」
「保存の効く料理もありやすからね。後は下ごしらえで冷凍しておくのも」
 縁は梨香に色々と説明してやる。
 マキナと戒はほとんど無言で、ひたすら手の届く範囲の料理を食べ続けていた。

 一通りの食事が終わり、皆で作ったチョコレートの試食会。各人の前に、色々なチョコレートが綺麗に並んだプレートが配られた。
「結構綺麗にできてやすねえ。初めてにしては上出来ってものでしょう」
 縁が皿を眺めて合格点を出した。
「このアーモンドのやつ! 俺が作ってん!」
「綺麗にできてますね。友真さんって結構器用ですよね。あ、一応そのトリュフは私です……」
「キャラメル風味のトリュフなんて食べたのは初めてです」
「あ、すみませんマキナさん、形を作っただけで。本体は焔さんです」
「梨香も初めてにしては上手にできたのだ〜戒さん、食べないのかな〜?」
 慣れの油断が色々と互いの呼び名を混乱させている状態の中、黙ってチョコレートに手をつけないままの戒に気付いた焔。
「あ、いや。食べる食べる」
 トリュフを口に放り込み、戒は周囲を窺う。
 見つめるのは全員の皿の上のチョコレート一種類。見た目はシンプルなハート型である。
「これ誰がつくったん? 結構かわいくできてるなー」
 友真がハートをつまんだ。心の中で拳を握る戒。
「うん、結構うま……?」
 何故か言葉はそこで途切れた。
「どうしました?」
「いやなんていうか……紅茶風味で美味しいねんけど……?」
 やはり最後が疑問形。梨香が首を傾げ、自分も続く。
「ミルクティー風味がいいですね! ……あら……?」
 梨香も何やら考え込むような表情に。
 焔と縁が顔を見合わせ、それぞれが口にする。そしてマキナも。
「うーん、最初口に入れたときは美味しいんだけど……」
「なんか後味が微妙な気がしやすね」
「……ちょっと不思議な刺激が残るような気がします」
「後引く美味しさってやつじゃねえのか」
 戒も自分の分を口に入れた。

 その直後。

 惨劇が起きた。


●惨劇の現場

 目を覚まして暫くの間は、状況が飲み込めなかった。
「ここはどこ……俺はだあれ……?」
 うすい緑色の髪の青年が顔を上げ、イマイチ緊迫感のない声を漏らした。
 どうやらここはどこかのマンションの一室のようだ。同年代と思しき男女が何人も周囲に倒れている。改めて彼らを順に見て行って、青年は驚愕した。
「って……ひ、人殺し……ッ!!!」
 一人の青年が頭から赤い液体を大量に撒き散らして、テーブルの上に倒れ伏して目を回していたのだ。
「どどど、どうしよう……」
 泣きそうな顔でおろおろと辺りを窺っていた緑髪の青年は、やおら目を回していた青年をラグの上に転がすと、くるくると簀巻きにした。結構手際がいいように見えるのは何故だろう。
「どうしよう、とりあえずどこかに……ひっ!?」
 簀巻きを持ち上げようとした手が、別の手によって押さえられたのだ。
「なァ何してンの?」
 いつの間にか起き上がっていたオレンジ色の髪の青年が、ニヤリと笑う。どこかすれた感じのする笑顔だった。
「兄さん、隠すンはアカンでェ。やったモンは正直に言わな」
「ごごご、誤解、だよ! ……うわあっ!?」

 その時簀巻きの中身がごそごそと動く。
「良かった、生きてた〜! これで殺人じゃない」
「ほんまに証拠隠滅のつもりやったんかい!! ……って、誰よ自分ら」
 オレンジ髪の青年が胡散臭そうな様子を隠そうともせず睨みつける。
 そのとき、もうひとりが起き上がった。明るい色の長髪を束ねた青年だ。
「あの……みなさんどちら様で? いや、自身のことも分からないのですが」
「人に名前訊くときはなあ……訊くときは……あれ?」
 お下げに眼鏡の地味な女子学生と、美人だが何やら妙なオーラを発している女子がやはり状況が飲み込めない様子で辺りを窺っていた。
「記憶……喪失……?」
 簀巻きの中から這い出た青年が、手近のタオルで顔をぬぐう。
「ここはどこで俺は誰だ? ……グッ」
 タオルで乱暴にぬぐった頭を押さえて屈みこむ。かなり痛い。

「ちょ、ちょっと、一旦皆でおちついて状況整理しよう」
 緑髪の青年の提案に、オレンジ髪の青年が賛同した。
「確かにこの状況は……少し冷静に考えよか」
 全員が一度着席する。
 散らばる食器。辺り一面にこぼれている赤い液体。
「ああ、びっくりした……。ケチャップか」
 茶髪の青年が粘っこい物体を指先にとって恐る恐る匂いを嗅ぎ、安堵のため息を漏らす。
「どうやら俺はここに突っ込んだらしいな」
 赤髪の青年が痛む頭を押さえながら、目の前に転がる小鍋を取り上げた。中身はほとんどなくなっているが、こぼれているケチャップはここに入っていたらしい。
「なるほど。恐らく我々は重度のケチャップ愛好家……」
 良く見ると鍋の中身がかかっていない食べ物も、ほとんど全てがまっかっか。ちょっと偏り過ぎているぐらいだ。
「なら、ケチャップが記憶を取り戻す鍵になるに違いない! とりあえず目の前の料理を食べてみよう」
「賛成だ。とりあえず腹減った」
「そうだな。しっかし、ここどこだよ……」
 赤毛の青年と青い瞳の女子が何事も無かったかのように料理に手をつける。

 眼鏡の女子が怯えきった声を漏らす。
「えっ大丈夫ですやろか、それ……」
 オレンジ髪の青年とは微妙に異なる響きの関西弁だった。
「美味い。だいじょぶだ」
 何の根拠もないが、女の返答は力強い。
 オレンジ髪の青年はまだ胡散臭そうにテーブルの上を調べている。目の前の皿には、一口かじったまま放り出されているハート形チョコレートが乗っていた。
「おい、それはちょっと……」
 何故か赤毛の青年はそれがとても危険な食べ物の様な気がした。
 そいつは自分の目の前の皿にもちょこんと乗っている。
「なんやあ? ただのチョコレートがなんやねんな!」
 凄まれて、赤毛の青年はそう言えば何故このチョコレートが危険なのかが改めて分からなくなる。
「いや、なんでも……」
 だが人生にスリルはつきものだ。何故かこのチョコレートを無視してはいけない気がした。赤毛の青年は結局好奇心に負けて、自らチョコレートに手をつける。
 ――そして昏倒再び。
「おい、明らかにこれ元凶やろ! 何これ。作成者出てこいシメる。いてこます!!」
 だが現時点では誰も覚えていないのである。
 寧ろ自分自身が犯人の可能性すら否定できない状況だ。
 オレンジ髪の青年は舌打ちすると、胡坐をかいて真剣な顔で考え込む。


●記憶の迷宮

 結局料理を食べることは、何の解決にもならなかった。寧ろ悪化したと言ってもいいぐらいだ。
 赤毛の青年が倒れたことで、眼鏡の女子は完全に部屋の隅で壁とお友達になっていた。
 緑髪の青年が提案する。
「思ったんだけど。所持品に自分に関する情報があるんじゃないかな」
 なるほどと、それぞれが鞄やポケットを探り始めた。
「所持品ねぇ……」
 オレンジ髪の青年がポケットを探り、学生証のような物を取り出す。ふとその目が自分の指で止まった。
「なんや。指輪するよな恋人いるんか俺」
 まるで実感がない。どうにも居心地の悪い思いを抱えたまま、学生証を読み上げる。
「小野友真。これが俺の名前なんか。んで高3と……あー3、4年位記憶ないわ」
 友真はオレンジ色の髪をくしゃくしゃと掻きまわしながら溜息をついた。

「ああ。学生証やねえ!」
 眼鏡女子が慌てて部屋を見回した。男性用とは思えない鞄なら、とりあえず自分かもうひとりの女子の物であるはずだ。
 遠慮がちに中を探ると、出てきたのは自分の写真がついた学生証だった。
「大八木 梨香、これがうちの名前いうことですやろか」
「リカ? どんな字書くんや」
「えっ……と……?」
 友真に声をかけられ、しどろもどろになる梨香。どうやらヤンキー系は苦手らしい。
「こらこら。誰に許可を得てかわいこちゃんに声をかけとるんだ」
 ひたすら無言で食事を続けていた女が、友真の肩を掴んだ。
「なんやて!? ヤンのかこら」
 威嚇するように肩をいからせる友真を、しっしっと邪険に追い払い、女は梨香を座らせる。
「やっとお腹いっぱいになったら眠くなってな。昼寝はかわいこちゃんの膝の上ときまっているのだよチミィ」
 言った瞬間にはすやあ。
「え、いや、あのう……」
 でも余りに気持ちよさそうなので、何となく起こすのはかわいそうな気がする。
 梨香は友真と顔を見合わせ、諦めたように小さく笑った。

 そこに控え目なコール音。
「あれ、なんだろう」
 縁が不思議そうに取り出したスマホには『姉』の表示。メールだ。
「そうか。これで何か分かるかも……!」
 急いで添付ファイルを開くと、何故かバニーガールの格好の自分がそこにいた。
 メールの内容によると、昔の写真が出てきたので面白いから送ってみた、らしい。
「…………」
 余りに酷い画像にスマホは見なかった事にする。ポケットを探るとこちらも学生証が出てきた。
「点喰 縁、か……」
 口の中でその名前を確認するように呟く縁である。

「そうか。フォルダを見れば何か……」
 緑髪の青年は所持品に身分証を持っていなかった。なので、スマホを操作する。
「俺は星杜焔か…… …… ……」
 操作する度に焔の顔が青くなったり赤くなったり。
 ウェディングドレス同士のツーショットで自分の横にいるのは、部屋の隅の眼鏡女子か?
 というか何で自分がドレス。どころか、ボンテージスタイルで楽しげに女王様として鞭を振るう写真の余りのインパクトに、思わず画面を閉じた。
 だが一歩遅かった。
「ぶはははは!! 超似合うやん自分。普段からしていいんちゃう?」
 いつの間にか覗きこんでいた友真が指さして笑っている。
「あとなあ、梨香ちゃんは普段髪下ろしといたら? 今も可愛いけどこっちはもっと良いわ」
「えっ……え……!?」
 ヤンキーの上に馴れ馴れしい。梨香にとっては天敵の様な友真である。

 そこで焔が慌てて操作したスマホが、別の画面を映し出す。
 久遠ヶ原学園HP。学生証と同じマークが大きく載っていた。
「あっ、関係者向け画面に入れた……データベースがある。これで何か分かるかも」
 かちゃかちゃかちゃ。
 自分の名前から色々なリンクを辿る。
  ▼星杜 焔
  ▼称号一覧〜〜『おかあさんになりました』
「え……???」
 彷徨う視線が、今まで気づかなかった棚の上に釘づけになる。
 若い男女と小さな赤ちゃんの家族写真としか思えない一枚。実に幸せそうだが、その男の顔が自分なのだ。
「え、ええ!? じゃあこっちのふわふわの女の子がおとうさん!?」
 んな訳あるか。焔は頭を抱えて座り込んでしまった。

 それを見て縁も怖いもの見たさで、自分の名前でデータベースを漁る。
  ▼点喰 縁
  ▼称号一覧〜〜『全日本美脚愛好協会会員』
 あかん。あかんすぎる。
 縁は再び何も見なかったことにして画面をそっと閉じた。
「というかこの学園、何の学校なんでしょうねえ……」

「自分らほんまわらかすわ! なんやねんな、もう!」
 そう他人事のように笑う友真だったが、後ろ手に隠したスマホの画面にはやたら可愛くポーズを決めた女装姿の自分が写っていたのだった……。
 

●神の見えざる手

 焔はとりあえず、この酷い有様の部屋が自宅だという事実を受け入れた。
「うん、ちょっと落ち着いて、水でも飲もうかな……」
 ふらふらと立ちあがり、キッチンへ向かう。
 その背中を追う様に、部屋の隅から梨香がぽつりと呟いた。
「ここは、ややこしいお人の集まりやったんですやろか……」
 自分は除外か。誰もがそう突っ込もうとした時だった。
「うお……うおおおおおおお!!!!」
 突然起き上がった赤毛の青年が、何やら苦悶の表情で呻き声をあげた。
 もし記憶喪失がチョコレートによるものならば、この青年だけが随分と過剰反応していることになる。
 体質的なものか、あるいは危険な食べ物に対するトラウマでもあるのか。
 ともかく彼の行動が、意外な結果を引き起こす。

 錯乱状態で突然、残っていたハート形チョコレートを、恐ろしい物のように手で強く払い除けたのだ。
 チョコレートは物凄い勢いで飛んで、天井にぶつかり、そのままのスピードで落ちて来る。
「……痛ッ!!」
 梨香が脳天を押さえて前につんのめった。
「「うぎゃあ!?」」
 膝枕でいい気持で寝ていた女のおでこと、梨香のおでこが激突。
 痛みと驚きの余り、女が片足を跳ね上げる。
 その爪先が、焔がうっかり床に置きっぱなしにしていたスマホを蹴ったのだ。
「……!!!」
 スマホは部屋を真っ直ぐ横切ると、考え事をしていた友真のこめかみを直撃した。
 縁は慌てて駆け寄り、暴れている赤毛の青年を羽交い締めに。
「ちょ、落ちついて……ぐほぉ!?」
 が、不幸にして足元の丸まったラグに躓き、ふたり一緒にバックドロップ状態で床に後頭部を強打する……。

「とにかく落ちつくんだ……」
 焔は冷蔵庫を開けた。ふと目に入ったのは保存容器。蓋を開けると鯖の味噌煮が入っている。
 懐かしくて、悲しくて、優しくて、怖くて……そんな訳のわからない感情が一気に押し寄せて来て、焔は気がつけば鯖の味噌煮を口に運んでいた。
 その瞬間だった。
「あれ……」
 時折作ってしまう得意料理。けれど決して自分が口にすることはなかった鯖の味噌煮が、焔の意識をクリアにしたのだ。
「みんな! だいじょう……」
 駆け戻った部屋には、ケチャップの匂いが満ちていた。
 その中に倒れる、数人の男女……。


 マキナは風呂場を借りて、ケチャップまみれのラグを洗う。
「ごめんね〜ラグなんか洗わせちゃって……」
 すまなそうに焔が声をかけると、マキナは優しい目をして笑った。
「いいえこれぐらいはさせてください。掃除だけでも大変ですし」
「助かるよ〜代わりにご飯食べてってね〜」

 フローリングを機械的に雑巾がけしながら、縁は何やらぶつぶつ呟いている。
(なんで……なんでよりにもよって、このタイミングでメールを……)
 元来のマメな性格から手は無意識の内にもきちんと掃除しているが、写真とそれを見られたことによる精神的ダメージは相当大きいようだった。
(も一度皆がチョコ食ったら、忘れてくれねえもんですかね……)
 そんな危険な発想もよぎったりするのだが。

「記憶を失ってる間の記憶は、記憶を取り戻した時にはなくなるって何かで読んだのですけどね……」
 何やらややこしい事を言いながら、梨香がキッチンで皿洗い。
「よおわからんけど、とりあえず梨香ちゃんの素の言葉、めずらしかったなv」
 友真が笑うと梨香が吹きだした。
「友真さんも中学の時は、今とは随分違ったんですね?」
「しー、な! みんなには内緒な!? 若気の至りってやつやで!!」
 友真は慌ててテーブルに散らばったチョコレートを集める。
「とりあえずこれ、処分しよか……」
 ハート形チョコレートの入ったビニール袋を掴んだ友真の手が、ぶるぶる震えていた。
「勿体ないですけど……危険すぎますね……」
 梨香も困ったような表情だが、同意せざるを得ない。
「これ作ったん戒やろ! ほむほむがちゃんと用意してくれてるもんに、何でそう余計なことすんねん!!」
「ばっかおめえ、隠し味だよ、隠しあ……嘘ですごめんなさい」
 戒、華麗なる土下座。
「分かった、全部責任もってお前が食えばええんや。勿体ないしな!」
 戒を見下ろし、友真が冷たく笑う。
「おちつきたまえ。はなせばわかる」
「いや、よう考えたら、お前だけ全然変わらんかったし。製作者は大丈夫なんやろ。全部食え!!」
「ぎゃああああああああ」
 その後の戒がどうなったのか……と言えば。
 結局、普段通りなのだった。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【ja1267 / 七種 戒 / 女 / 18 / 泰然自若】
【ja5378 / 星杜 焔 / 男 / 18 / 証拠隠滅】
【ja6901 / 小野友真 / 男 / 18 / 青い記憶】
【ja7016 / マキナ / 男 / 21 / 鮮烈な赤】
【ja7176 / 点喰 縁 / 男 / 18 / 美脚会員】

同行NPC
【jz0061 / 大八木 梨香 / 女 / 18 / 色々克服】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
どうしてこうなった。はい、自分が書いたOPのせいですね。知ってます。
色々酷い感じですがお楽しみいただければ幸いです。
尚、今回はストーリー展開の都合上、分岐はなしとなっております。
この度のご依頼、誠に有難うございました!
不思議なノベル -
樹シロカ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年03月26日

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