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『【AFO】終わらない冒険 』
サラサ・フローライト(ea3026)&ウィル・ウィム(ea1924)&以心 伝助(ea4744)

 穏やかに晴れた昼下がり、三人の元冒険者がキエフの賑やかな表通りを歩いていた。
「冒険者ギルドが閉鎖されてから、もう何年になるでしょうね」
 修道服姿のウィル・ウィム(ea1924)は、久しぶりに顔を合わせた友人達の顔を懐かしむ様に目を細める。
「さあ、そんなもん数えちゃいないっすよ。ねえ姐さん?」
 以心 伝助(ea4744)は少し腰を屈め、脇を歩くサラサ・フローライト(ea3026)の顔を斜め下から覗き込んだ。
「そうだな」
 僅かに口元を綻ばせたその端正な顔立ちに、歳月による変化は見られなかった。
 エルフである彼女には勿論、その三倍の速さで時が刻まれて行くであろう伝助自身にもウィルにも、目立った変化は現れていない。
 まだ、その程度の時間だ。
 冒険者としての勘は鈍っていない。
 その証拠に、伝助は後ろ向きで友人二人と向き合ったまま、まるで背中にも目があるかの様にすいすいと人混みを抜けて歩いていた。
「そう言えばキエフは初めてですね…私にとってはこれも冒険、でしょうか」
 普段はパリに居を構えているウィルは、見慣れない様式の建築物や、道の両脇に並ぶ露店で売られる商品を物珍しそうに眺めている。
「フワフワしていると、物盗りに狙われるぞ」
 サラサが小声で注意を促した。
「平和になったとは言え、こそ泥の類がいなくなった訳ではないのだからな」
 いや、寧ろ増えているかもしれない。
 かつては冒険者達が町に溢れ、各地の自警団とも連携して不届き者に目を光らせていたものだ。
 しかし今やその目も少なくなっている。
 それどころか、食いはぐれた元冒険者が盗賊に成り下がる例もあると聞いた。
「いつの世も、真に恐ろしいのは人間って奴っすね」
 伝助が肩を竦めた、その時。
 背後にふと湧いた、ただならぬ気配。
 振り向くと、こちらに向けて走り込んで来る人影が見えた。
 背格好から見て、まだ少年の様だ。
 更にその後ろから、切迫した声が追いかけて来る。
「泥棒だ、そいつを捕まえてくれ!」
 三人は咄嗟に身構え、その行く手を遮った。

 相手の動きは素人、自分達なら楽に止められる。
 止められる筈だった。
 しかし、真っ正面から突っ込んで来た少年と目が合った瞬間。
 一瞬の躊躇いが生じ、僅かに反応が遅れた。
 その隙に少年は三人の間をすり抜けて、見る間に後方へと走り去る――サラサの手に、ずしりと重たい何かを残して。
「姐さん、それは…」
 伝助に問われ、サラサは今初めて気付いたかの様に、自分の腕に抱えられたずだ袋に目を落とした。
「今の子供が、押し付けて行った」
 腑に落ちないままに中を確かめると、そこには雑多な宝飾品と共に、何処かの貴族のものと思しき紋章の付いた金杯が無造作に突っ込まれていた。
「どういう事でしょうか?」
 ウィルが首を傾げるが、サラサにも見当が付かない。
 ただ、あの少年の目が、何かを訴えかける様な表情が、その脳裏に焼き付いていた。
 あれは――
「ああ、取り返してくれたのですね!」
 サラサの思考は息を切らした追っ手達の声で中断される。
「ありがとうございます、本当に助かりました」
「いや、私達は何も」
 感謝の言葉を浴びせられ、サラサは首を振った。
 聞けば彼等はこの近辺の自警団、袋の中身は貴族の屋敷から盗まれた物だと言う。
「この謝礼は後ほど。盗品は我々が責任を持って持ち主にお返ししますので」
 自警団の一人が、袋を受け取ろうと手を出した。
 だが。
「いや、これは私達が取り返した物だ。私達が届けよう」
 暫し考えを巡らせたサラサは、ずだ袋をしっかりと抱え込む。
「途中でまた何者かに狙われないとも限りませんし」
「あっしら、腕っ節にはちょいとばかり覚えがあるんでやす」
 ウィルと伝助も口を揃えた。
「謝礼はそこで直接受け取るという事で、問題はなかろう?」

 そういう事ならと自警団の面々が納得し、引き上げた後。
「ウィル、伝助。二人も見たのだな、あの子供の目を」
 サラサの問いに、二人は無言で頷く。
「あっしらに何を伝えたかったのか、それはわからないっすけど」
「ただの泥棒の目ではないと、それだけは感じました」
 どうやら、この事件には何か裏がありそうだ。
 乗りかかった船に、このまま乗り込んでしまうのも悪くない。
 それが一体何処に流れ着くのかは見当も付かないが、不思議と気分が高揚して来る。
「久しぶりだな、この感じは」
 互いの視線を合わせ、頷く。

 さあ、冒険の始まりだ。

 その夜、三人は近くに宿を取ったウィルの部屋に転がり込んでいた。
 部屋の隅に置かれたチェストの上には、あの袋が置かれている。
「無事に取り返した事は手紙でお伝えしましたし、そう急ぐ事もないでしょう」
 ウィルは仲間の杯に火の様な酒を注ぎながら言った。
 それにしても、少年がわざわざ紋章付きの品を盗んだのは何故だろう。
「普通に売り払えば足が付きやすから、何か裏のルートでもあるんすかね?」
「或いは、わざと足が付く事を狙った…か」
 何にしても、真相を暴くにはまだ情報が足りない。
 今はただ、待つしかなかった。

 そして真夜中。
 しんと静まった闇の中、裏通りに面した窓の鎧戸が静かに開く。
 そこに現れた、黒い人影。
 窓枠を乗り越えた影は、青白い月明かりがぼんやりと照らす室内に目を懲らした。
 ベッドにひとつ、床にひとつ、毛布が人の形に盛り上がっている。
 それが身動きひとつしない事を確かめると、影はチェストの上に手を伸ばした。
 と、その時――
 一瞬にして闇が払われ、影に光が宿る。
 眩しさに目を細めた侵入者は、昼間見た自警団の一員だった。
「こんな時間に、何かご用ですか?」
 ドアを背に微笑むウィルの手には、ホーリーライトの光球が輝いている。
「用があるにしても、普通はドアから入るもんでやすがね」
 伝助は侵入者の背後にぴたりと貼り付き、その喉元に小太刀の刃を当てた。
「しかも、ここは二階だ。泥棒と間違われても文句は言えまい…もっとも、間違ってはいない様だが」
 サラサが窓の前に立つ。これで退路は全て封じた。
「くそっ、騙しやがったな!?」
 明かりの下で見れば、寝ている人影に見えたのは丸めたシーツやクッションだった。
「人聞きが悪いっすね。騙したのはそっちでやしょ?」
 あの後、三人は本物の自警団の詰所に赴き、確かめたのだ。
 先程の自称自警団が、実は盗賊団であった事を。
「あの追われていた方は、あなた方から盗品を取り返そうとしていたのではありませんか?」
 穏やかな微笑を浮かべたまま、ウィルはずだ袋を手にとった。
「ならば、これをお渡しする訳には参りません」
「…なるほど、タダモノじゃねぇってわけだ」
 盗賊は顔の片側だけで笑った。
「だが、こっちにも切り札があってな…窓の下、見てみな」
 言われてサラサは半身を窓に向け、盗賊に注意を向けたまま視界の端で外を見た。
 窓から漏れる明かりの下、そこには盗賊の仲間と思しき数人の男と――猿轡をかけられ羽交い締めにされた少年が一人。
 サラサにずだ袋を押し付けた、あの少年だ。
「この辺をチョロチョロしてやがったから、とっ捕まえておいたぜ。俺等のことをチクるつもりだったんだろうが…はっ、とんだ足手纏いになっちまったな」
 少年を押さえ付けた男が笑う。
「さてと、そういうワケだ」
 後は言わなくてもわかるだろうと、盗賊はウィルに向かって手を伸ばした。
「姐さん」
 指示を仰ぐ伝助の声に、サラサは黙って首を振る。
「そうそう、物わかりの良い奴は好きだぜ?」
 無抵抗なウィルの手から袋を引ったくると、盗賊は窓から飛び出した。
「妙な真似しやがったら小僧の命はねえぞ!」
 そう言い残して。

「人質を取られたのは予定外でしたね」
 盗賊達が引き上げた後、ウィルは溜息と共にそう漏らす。
 少年は恐らく彼等に連れ去られたのだろう、路上に人影はなかった。
「だが、手がかりは得た」
 盗賊とすれ違いざまに、サラサが仕掛けたリシーブメモリー。
 アジトの場所を突き止める事は出来なかったが、僅かでも情報があれば、後は――
「あっしの出番っすね」
 こちらにはプロの情報屋がいる。
「私もお手伝いします」
 ウィルの温厚な人柄は、井戸端会議に潜り込んで噂話を聞き出すには最適だ。
 そしてサラサはパーストで盗賊達の足取りを追った。

 そして見付けたのが――
「思った通り、か」
 今、彼等の目の前にあるのは立派な貴族の屋敷だった。
 その門扉に堂々と輝く紋章は、あの袋の中にあった盗品に付いていたものと同じだ。
 ここが盗賊団のアジト。
 あの少年は、それを伝える為にわざわざ紋章付きの品を盗んだのだろう。
 ところが、それを持って自警団に駆け込むつもりが、途中で見付かってしまった。
 逃げ切れないと思い、咄嗟の判断でサラサ達に託したのだろう――思いが伝わると信じて。
「その思い、確かに受け取った」
 サラサは屋敷の裏手に回り、物陰から様子を伺う。
 通常、奇襲は敵が寝静まった真夜中に行うものだが、相手が盗賊なら夜中は寧ろ活動時間。
 狙うなら昼間、それも午前中なら寝ている者も多いだろう。
「まずはあの子供を助け出す」
 囚われている場所は見当が付いている。
 突入の直前、ウィルのグットラックによる祝福を受けると、サラサは裏口の見張りをスリープで眠らせた。
 続いて伝助が開錠の術を使い、鍵を開ける。
 開いた扉の影に隠れ、サラサは中の様子を伺った。
 薄暗い廊下が続いた先に、見張りが立っているドアがある。
「あの部屋だな」
「あっしが見張りを引き付けやす」
 言うなり飛び出した伝助は、裏庭の真ん中で微塵隠れを使った。
 派手な爆発音に、眠らされていた見張りが飛び起き、奥の見張りも何事かと飛び出して来る。
 その隙にサラサとウイルが廊下を走り、瞬時に移動を終えた伝助が鍵のかかっていない扉を蹴り飛ばした。
 瞬間、奥の柱に縛り付けられた少年の姿が目に入る。
「何だ、てめぇら!」
 近くにいた男が剣を抜いて向かって来るが、ウィルがあっさりとコアギュレイトで体の自由を奪った。
「怪我はないか?」
 サラサが縄を切り、ウィルがホーリーフィールドの結界を張る。
 人質さえ助け出せば、もう遠慮は無用だ。
「あなた方の所業、見過ごすわけにはいきません!」
 ウィルは魔力の続く限りコアギュレイトを連発、向かって来る者達を次々に拘束していく。
 伝助は狭い室内を縦横無尽に駆け回り、手当たり次第にスタンアタックを仕掛けて回った。
 寝ぼけ眼を擦りながら起きて来た盗賊達は、何が起きたのかもわからないまま再び床に転がる。
「お前達も随分と運が無いな」
 残った者はサラサがコンフュージョンで同士討ちを誘い、或いはシャドウバインディングで影を縛り――
「何事だ! 貴様等、私の屋敷で何をしている!」
 遅れて飛び出して来た男が怒声を上げる。
 豪華な飾りの付いた重そうな長衣に、ジャラジャラと鬱陶しい装飾品の数々を身に着けたその男が、どうやらこの家の主らしい。
「見ての通り、捕り物でやすよ」
「この屋敷が賊の根城になっているという噂は、本当だった様だな」
「馬鹿な、何を根拠に!」
「お前が頭だという事も調べが付いている」
「私は何も知らん!」
 男はこの期に及んでまだシラを切るつもりの様だ。
 しかし、これだけの規模の賊が自由に出入りしている状況を、屋敷の主が知らない筈はあるまい。
「申し開きは、出るべき所へ出た上でお願いしますね」
 ウィルがにっこり笑ってコアギュレイト。
 彼等は歴戦の冒険者。
 その手にかかれば、盗賊団など物の数ではなかった。

「ごめんなさい、ありがとうございました」
 無事に救出された少年は、三人に深々と頭を下げた。
「俺、偶然あいつらの正体を知ったんだ。でも誰も信じてくれなくて、証拠を見せろって言われて」
 身軽さには自信があった彼は、単身で屋敷に忍び込んだ。
 そして盗品と共に証拠の品を盗み出した所までは良かったのだが。
「自分の信念に従って行動を起こす事は、悪いとは言わない」
 サラサが言った。
 しかし少年の行為は、理由はどうあれ泥棒と同じだ。
 今回はお手柄だった事もあり、大目に見て貰える様だが――
「それに、一人で出来る事には限界がある」
「そうっすね。あっしらも仲間がいてこそ存分に力を発揮出来るってもんでやす」
 最後に、ウィルが優しく微笑んだ。
「あなたにも、良い仲間が見付かる事を祈っていますよ」

 冒険は終わった。
 束の間の、小さな冒険。
「少し不謹慎っすけど…冒険は楽しいっすよね、やっぱり」
「…そうだな、悪くない」
 サラサが小さな笑みと共に呟く。
 事件が起きる事を期待する訳ではないが――
 やはり心が躍り、血が騒ぐ。
 また機会があれば、三人でパーティを組んでみようか。
 伝説のドラゴンを探す旅でも良い。
 行方不明の猫探しだって立派な冒険だ。

 いつか、どこかで――



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ea3026/サラサ・フローライト/女性/26歳/ウィザード】
【ea1924/ウィル・ウィム/男性/27歳/クレリック】
【ea4744/以心 伝助/男性/32歳/忍者】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 この度はご依頼ありがとうございました。

 ジスウ様の襲撃により、ここも多くは書けませんが――如何でしたでしょうか(どきどき
 お気に召して頂ければ幸いです、が、リテイクは遠慮なく……!
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2014年03月26日

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