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『連理の枝を伸ばす空。 』
鳳 双樹(eb8121)&リーディア・カンツォーネ(ea1225)&シェアト・レフロージュ(ea3869)&デニム・シュタインバーグ(eb0346)&リア・エンデ(eb7706)&桂木 涼花(ec6207)

 そわそわと落ち着かない気持ちを胸に抱いて、デニム・シュタインバーグ(eb0346)は幾度となく見やった窓の外へとまた視線を向けた。よく晴れた空は抜けるように青く、見るからに気持ちの良いお天気だ。
 こんな日はどこか暖かな陽だまりの中で、のんびりと過ごすのも気持ち良い。或いは陽気に浮かれながら、恋人と一緒にあちらこちらをそぞろ歩くのも楽しいだろう。
 とはいえ今日のデニムには、そんな余裕はまったくなかった。ついでに言えば、デニムの最愛の恋人である鳳 双樹(eb8121)にだって、そんな余裕は一切ない。
 なんとなれば、今日は2人の晴れの舞台。恋人という甘やかでくすぐったい関係がついに終わり、唯一無二のパートナーとして生涯を共に歩み続ける事を誓い合う、待ちに待った結婚式の日なのだから。
 だからデニムはこうして落ち着かない気持ちを胸に抱いたまま、そわそわと新郎の控え室で式が始まるまでの時間を、パリッとした礼服に身を包んでひたすらに待っている。否、ともすれば愛する双樹のウェディングドレス姿を思い浮かべたり、或いはこれから始まる新生活のあれやこれやを想像したりして、ついつい喜びに緩んでしまいそうな表情と必死に戦って、いる。
 何しろ、控え室に居るのはデニムだけではないのだ。デニムが所属するブランシュ騎士団の先輩達が、まだまだ新米といっても過言ではない後輩の祝福に駆けつけてくれたし、デニムの兄だって同じ部屋の中に居る。
 だから。ここで緩んだ表情を見せたりしては、どんなに冷やかされ、からかわれるか判ったものではないからこそ、デニムは一生懸命、真剣な顔を作っていて。
 ――だが、そんなデニムの内心は実のところ、人生と言う意味でも先輩である騎士団の面々や、デニムの兄にはすっかりお見通しだった。自分達にからかわれないように、真面目な表情を頑張って作っているのだ、と言うことすら。

「いやぁ、デニムがついに所帯持ちか〜。早く嫁さんと2人きりになりたいだろう?」
「とうぶん飛んで帰る日が続くな。熱いねぇ」
「で、子供はいつの予定なんだ?」
「あの、その‥‥ッ、兄さんまで‥‥ッ」

 ゆえに結局、寄ってたかって冷やかされながら、気もそぞろにデニムは式までの時間を過ごしていた。実のところ、デニムを絶賛冷やかし中の兄もまた、最愛の女性を妻と迎えることになっているのだから、同じように冷やかしたりしても良さそうなものだが、とちらりと視線を向けると「うん?」というイイ笑顔が返って来る。
 そんな兄になんとなくふるふる首を振る、デニム達と同じように賑やかなひと時を、新婦である双樹もまた過ごしていた。ほっそりとした肢体を包む美しいウェディングドレスは、この日のためにどんなデザインが良いか相談し、仮縫いを重ねてもっとも双樹の魅力を引き出すものを、と仕立てられたもの。
 仮縫いのたびに試着を重ねたとはいえ、愛する人の妻となる特別な日に、とっておきの特別なドレスを身に纏う事が、嬉しくないわけがない。知らず表情もいつも以上に明るく綻ぶ一方で、このあとに控えている結婚式や、その先の新しく始まる日々に、自分でもどうしようもない緊張を覚えていたりも、して。
 そんな可憐で初々しい双樹の姿に、知らず、桂木 涼花(ec6207)は目を細めた。双樹の手を強く握って、心からの寿ぎの言葉を贈る。

「本当におめでとうございます‥‥!」
「はわッ。ありがとうございます‥‥! えと、涼花さん、わざわざありがとうございます!」
「双樹さんとデニムさんがご成婚されるのですから、当たり前のことです」

 ぺこりと頭を下げた双樹に、むしろ呼ばなかったら怒りますよ、と涼花は真剣な顔を作ってそう言った。それに、きょとんと目を瞬かせてから、慌てて双樹も真剣な顔でこっくりと大きく頷く。
 そうして2人真剣な顔を見合わせて、くすッ、とどちらからともなく笑い声をこぼして。くすくす、くすくす笑い合いながら、おめでとうございます、ありがとうございます、と改めて頷き合う。
 かつては双樹らと共に冒険者として過ごした涼花だけれども、今はギルドのあったパリを離れ、生涯を供にと誓った方の領地で微力を尽くしてのお手伝いに勤しむ日々だ。とはいえ双樹に言った通り、親しき友人である双樹とデニムの結婚式とあっては、何を置いても駆け付けたいと思うのは当たり前の事だろう。
 そんな風に、2人の結婚式の為にと駆け付けたのは何も、涼花だけに限った事ではなかった。かつてはリーディア・カンツォーネ(ea1225)という名前で共に冒険者として過ごした、今はノルマン王妃たる人もまた、双樹とデニムを祝福するために、お忍びで駆けつけている。
 かつてはシスターだったリーディアが、ノルマン国王ウィリアム・3世(ez0012)との結婚のために還俗して久しい。けれども例え聖職者ではなくなったとしても、彼女の心の在り様までもが変わってしまったわけではないから。
 もはや軽々しく出歩けない身分となってしまったリーディアだけれども、心からの祝福の言葉を伝える為に、こうして駆けつけて来た。夫である国王陛下もまた、今日は幸い仕事が落ち着いており、体調も良いようだったので、一緒にお忍びで教会へと足を運んでいる。
 ――のだが、しかし。

「それにしても‥‥」
「お似合いですね‥‥」
「本当ですよね」

 ほう、と感嘆の息を吐いた双樹と涼花に、うんうん頷くリーディア。3人の視線は今、リーディアの傍らに立つ1人のすらりとした、線の細い美しい女性に向けられている。
 何を隠そう、彼女こそがリーディアの夫であるウィリアム3世。すでに『貴族ヨシュアス』という有名なお忍び姿を持つ国王陛下だけれども、今日はちょっと趣向を変えて、性別を転換する禁断の指輪を使い、『とある貴族の夫人マリー』に身を窶すリーディアの妹としてお城を抜け出してきたのだ。
 とはいえ、彼女達の変装(?)はすでに、新郎デニムの先輩たちには見つかって居たりするのだけれども、あくまで『マリー夫人とその妹』を押し通す国王夫妻に、礼儀正しく知らない振りをしてくれた。後が怖い気がするが、気のせいだと信じたい。
 そんな武勇伝(?)で盛り上がる教会を、けれども少し離れたところから、リア・エンデ(eb7706)は1人静かに見つめていた。ここからでも十分に、新たに夫婦となる2人への祝福の気配は感じられる。
 それにほっとして、それから少し吐息を漏らした。大切な、大切な友人である双樹――彼女の結婚をもちろん、リアは心から祝福しているのだけれども、同時に決して双樹には言えない寂しさも確かに、この胸に宿っている。
 大好きな人に置いていかれるような、どうしようもない寂しさ。それは結婚という大きな節目の意味でもあるし、双樹とリアとの間に決して縮まることなく存在する、種族の違いによる加齢の差という意味でもあった。
 双樹は着実に時を進めて、大人になり、人生の伴侶を見出し、結婚する。そうして新しい家庭を築き、やがて子供を産み、育て、年老いていくのだろう。
 そして――リアはきっとその頃になっても、せいぜい40代かそこらの外見にしかなっていない。それは最初から判っていた事なのに、こうして双樹が人生の節目を迎えると言う事実は、リアに想像以上の大きな衝撃をもたらした。
 だから。ここしばらくはずっと、日頃のお気楽な様子が嘘のように沈み込み、思いつめて、居る。

「――双樹ちゃん、おめでとうございますなのですよ〜」

 そっと小さく呟いて、リアは教会の白い建物を見つめた。こんな自分を双樹にだけは見せたくないから、せっかくのお祝いだけれども結婚式には出席せず、旅に出てしまおうと思っている。
 けれどもせめてここから、大好きで大切な双樹への思いを込めて、彼女の限りない幸いを願って歌おう――リアに声がかけられたのは、そう考えていた時のことだった。

「何だか賑やかですね♪ あそこで何かあるんですか?」
「‥‥‥?」

 その声に振り返ったリアの目に映ったのは、背丈ほどもある大きな白亜の杖を持つ、月の光のような金色の髪の女性だった。旅の魔法使いを名乗るマリン・マリン(ez0001)である。
 常に気の向くままに世界各地を旅して回っている彼女は、このノルマンにももちろん、ちょっと近所でお散歩を、ぐらいの気軽さでちょくちょく訪れていた。そうしてあちらこちらを歩き回っているものだから、リアも知らぬ仲ではない。
 そんなマリンの言葉に、リアはパチパチ目を瞬かせながら、ええと、と言葉を返した。

「結婚式があるのですよ〜」
「あら、そうなんですか? ふふッ、素敵です♪」

 リアの言葉に、マリンはぱっと嬉しそうに顔を輝かせると、うきうきとした様子で教会へと視線を注ぐ。賑やかな事や楽しい事が大好きなマリンにとって、恐らく結婚式はとてもとても魅力的な催しなのだろう。
 今にも飛んで行きそうなマリンに、そう考えてリアはまた双樹を想い、小さく息を吐いた。そうして「それでは、わたくしは失礼しますのですよ〜」と断り、ひとまずその場を立ち去ろうとする。
 だが、そんなリアをくるんと振り返り、マリンは輝くばかりの笑顔でこう言った。

「エンデさん。エンデさんもご一緒に行って見ませんか? きっと楽しいですよ♪」
「え? いえ、あの、わたくしは〜‥‥」

 マリンの言葉に、リアはぎょッと目を見開いて、ふるふると大きく首を振る。だがその頃にはすでにマリンは、「人間の結婚式を見るのは久し振りです♪」などと言いながら、リアの言葉にまったく気付かず、ずるずる引っ張り始めていて。
 そうして引きずり、引きずられながら教会へと姿を現したリアとマリンに、双樹の頬が綻んだ。

「マリンさん! リアさんも‥‥来てくれたんですね」
「マリン様に、そこでお会いしたのですよ〜‥‥その、双樹ちゃん‥‥‥おめでとうごさいますですよ〜」

 嬉しそうな双樹に、さすがにどこか決まり悪く、けれども彼女のウェディングドレス姿を見ることが出来た喜びも抱きながら、リアは改めて、小さく小さく祝福の言葉を告げる。そんなリアの傍らでマリンも「あら、鳳さんだったんですね♪ ふふッ、おめでとうございます♪ 鳳さんに、月精霊の祝福を」と祝福の言葉を紡ぐ。
 そんな2人にまた、双樹は嬉しそうに笑った。彼女にとってもリアは、最初に知り合った大切な、大切な友人だ。そんな彼女の、どこか固い雰囲気が心配でもあるけれども――
 来てくれて嬉しいと、心から思う。いつも気まぐれに世界のどこかを旅している、マリンも今日と言う日にたまたまノルマンを訪れて、しかも偶然にもこの教会に来てくれるなんて、こんな幸せがあるだろうか。
 ――やがて、そろそろ式の時間だと、デニムが双樹を呼びに来た。新郎新婦は控え室で、聖堂に入場するまで待機するのだ。
 だが、ウェディングドレス姿の双樹を目にした瞬間、デニムは文字通り息を飲み、しばし立ち尽くして見惚れてしまった。何しろブランシュ騎士団での仕事が日々忙しく、彼女がドレスを着ているのを見るのは仮縫いの時期から含めても、正真正銘初めてだ。
 故に、今まで「どんなだろう」とあれこれ想像を巡らせた、どんな双樹よりも華蓮で綺麗な最愛の人を見て、デニムが見惚れてしまったのも無理からぬことだった。そうして胸に沸き起こってきた愛おしさのままに、ぎゅっと強く双樹を抱き寄せて、衝動のままに情熱的に褒めちぎる。
 他の誰にも聞こえないぐらい、耳のすぐ傍で囁かれた数々の褒め言葉に、「はわッ」と双樹はそれこそ、耳まで真っ赤になった。だが同時に何故か双樹の胸には、小さな不安がゆっくりと湧き上がってくる。
 愛する人との結婚式を、心から待ち望んでいた。けれども、人生の晴れ舞台に挑むという緊張と同時に、この瞬間から何かが決定的に変わってしまうと言うことが、何だか恐ろしくも感じられて。
 どこか頼りない表情を浮かべた、双樹に気付いたシェアト・レフロージュ(ea3869)が、愛らしい反応だと微笑を浮かべた。そうして小さく見える背中に、さあ、と優しく手を触れる。

「行ってらっしゃい」
「シェアトお姉ちゃん‥‥」

 そうして告げられた言葉に、はぅ、と双樹は振り返った。他の誰に言われるよりも、姉と慕う彼女の言葉は、双樹の胸に大きく響く。
 そんな双樹を、しっかりとデニムが抱き締めた。その力強い温もりを感じて、シェアトの、他の皆の暖かな想いを感じて、はい、と双樹は頷く。

「行ってきます」

 心からの、精一杯の感謝を込めて、そう告げた双樹の手をデニムはしっかりと握った。そうして彼女をエスコートして、新婦控え室へと向かったデニム達を見送って、友人達も顔を見合わせ、聖堂へと足を向けたのだった。





 この教会を営んでいるのは、ノルマンで聖なる母の教えに忠実に生きる、とあるエルフの神父である。そうして神父は同時に、今日の新郎新婦や主だった参列者達の、親しい友人でもあって。
 晴れ晴れとした気持ちの良い空が広がる、絶好の結婚式日和だった。厳かながらも、どこか和やかで晴れやかな雰囲気の中を、純白の衣装に身を包んだ花嫁と花婿が、ゆっくりと歩いて行く。
 一歩ずつ、踏み締めるように。真っ白な手袋に包まれた、ほっそりとした双樹の手を恭しく取って、デニムは凛とした表情で胸を張り、背筋をぴんと伸ばしてエスコートしながら、真っ直ぐに祭壇へと歩いて行く。
 一歩。また一歩。
 踏み締めるごとに2人の胸に、たくさんの想いが、思い出が湧き上がった。初めての出会い、共に冒険者として依頼で、冒険者酒場で、そうして何気ない日々の中で重ねた時間――
 双樹にとってノルマンは、生まれ育ったジャパンから旅立って初めて訪れた、異国の地だった。言葉も違えば文化も違う、そんなノルマンに戸惑う双樹を優しく出迎えてくれた、たくさんの人達がいた。
 今日、その人達に見守られて、この地で出会った愛しい人と、永久を共にする誓いを立てる。ぎゅッ、と知らず力を込めた双樹の手に、緊張と喜びを感じてデニムは微笑み、力強く、優しく握り返した。
 そうしてゆっくりと歩んでいく、2人を涼花は目を細めて見守る。自分と同じくジャパンを出て、ノルマンを生きる地とした花嫁――そうして明るい未来に輝く、若きブランシュの騎士たる花婿。
 そんな2人の幸いが、我が事のように嬉しかった。どうか彼らの道行きに幸多からん事を、聖なる母に心から祈る。
 時折は知らず、2人に自身を重ねてしまいそうになりながらも、粛々と進行を見守る涼花の傍らで、リーディアもまた夫と共に、進んでいく新郎新婦を見守った。厳かな空気は自然と、彼女の心を神の僕として生きた日々へと戻らせる。
 やがて祭壇へと辿り着いた、新郎新婦を前にエルフの神父がまずは、聖書を片手に朗々と聖句と、それから説話を紡いだ。愛の尊さを、互いを思いやる大切さを、重ね続ける日常の中で常に感謝を忘れてはならないという教訓を。
 そんなエルフの神父を見つめ、しみじみとシェアトは感慨に耽る。

(あの双樹さんとデニムさんが、ついにこの佳き日を‥‥)

 それは永き時を生きるシェアトにとっても、随分と長かったように感じられる時間だった。けれどもなぜだか振り返ってみると、デニム達の婚約を知ってから今日まで、あっという間に過ぎ去ったようにも感じられるひと時だった。
 厳かな調べに合わせて、シェアトはそんな想いを込めながら、聖歌を心から丁寧に歌い上げる。そのすぐ傍でリアもまた、改めて双樹の幸せと、彼女が大好きだという気持ちを込めて、澄んだ歌声を響かせて。
 粛々と式が進んでいく。真剣な表情の新郎新婦に、エルフの神父が厳かな口調で問いかける。

「デニムさん。あなたは双樹さんと結婚し、妻としようとしています。あなたはこの結婚を神の導きによるものだと受け取り、その教えに従って、夫としての分を果たし、常に妻を愛し、敬い、慰め、助けて変わることなく、その健やかなるときも、病めるときも、富めるときも、貧しきときも、死が二人を分かつときまで、命の日の続く限り、あなたの妻に対して堅く節操を守ることを誓いますか?」
「誓います」

 その言葉に、デニムは力強くしっかりと頷いた。繋いだ双樹の手を強く握り、この人を生涯唯一の伴侶として愛し、守り抜くのだと、誓った。
 頷いたエルフの神父が、次は双樹へと眼差しを向ける。

「双樹さん。あなたはデニムさんと結婚し、夫としようとしています‥‥」

 その言葉を聞きながら双樹は、そっとはにかみながらデニムを見た。これから一生を共に過ごしてくれる人――最期の時まで自分と共に居てくれると、誓ってくれた人。
 その心に、心を重ねた。掌の暖かな温もりから、想いと想いが重なり合うのを感じた。

「‥‥死が二人を分かつときまで、命の日の続く限り、あなたの夫に対して堅く節操を守ることを誓いますか?」
「誓います」

 神父の青い瞳を見つめながら、しっかりと頷いた双樹の言葉に、デニムの胸に暖かな幸せと、満ち足りた想いが沸き上がる。思わず綻んだ顔は、見守っていたブランシュの騎士達をして、あとで冷やかそうと言う気にもならないほどに幸せなそれ。
 そうして神父と参列者が見守る中で、新しく生まれた夫婦は何よりも神聖で、何よりも尊い誓いの口付けを交わしたのだった。





「おめでとうございます!」
「おめでとう!」

 新郎新婦が進む花道の上を、惜しみない祝福が華やかに飛び交った。あちらこちらでライスシャワーやフラワーシャワーが宙を舞い、2人の上に降り注ぐ。
 その中を幸せそうに、姫抱きにした双樹と共にデニムは満面の笑顔で歩んでいく。そんなデニムの首に腕を回して、双樹もまた恥ずかしそうな、けれどもとても嬉しそうな笑みを浮かべる。
 そんな2人の姿をシェアトは、愛娘を抱きながら見守った。外で待つ夫に託していた娘の青い瞳は、キラキラと輝くような新郎新婦に釘付けだ。

「タリア、何時かあなたもね」

 娘の、夫譲りのふわふわの金髪を撫でながら、囁いたシェアトに「ん」とこっくり頷いたのを見て、優しく微笑む。そんな母娘に気付いたマリンが、あら、と目を輝かせてとことこと寄ってきた。
 人の営みをこよなく愛する、シェアトやリアより遥かに長い時を生きてきた彼女にとっては、人の子もまた不思議で、愛おしい存在であるようだ。にこにこと幼き子を見つめるマリンにくすりと笑い、シェアトは彼女の手にする白亜の杖へと目礼する。
 このあと始まる披露宴に向けて、賑やかにごった返し始めた教会の一室に、涼花が大きな樽を幾つも運び込んだ。おや、と目を見張る人々に、にこりと微笑んだ涼花が説明する。

「お祝いに、領地のワインを持参しました。‥‥これは、まだ古くなってはいませんので」

 くす、と笑って悪戯っぽくつけくわえられた言葉に、知らず、誰もの口から暖かな苦笑いが零れた。ノルマンの地で冒険者として活動した事のある者の多くにとって、ワインは、そして古ワインは決して忘れる事の出来ない『思い出』だ。
 それは苦くもあり、暖かくもあり、酸っぱくもあり。デニムの兄もまた古ワインをこよなく愛し、時折友人達と古ワインの不味さに酔い痴れて夜を過ごしたぐらい、ある意味ではノルマン一有名な飲み物。
 もちろん結婚式のお祝いに、例え思い出とは言え古ワインを並べるわけにはいかない。けれども、涼花に頼んでワインの味見をさせてもらった者の中には、『いやぁ、さすが美味い! だがなぁ‥‥』とどこか寂しそうに呟く者もいて。
 仕方ありませんね、とシェアトは微笑みながら娘を抱いたまま、そんな光景を笑って見ている新郎新婦へと近寄った。宴後に落ち着いたら、と思ったけれども、この調子ではなし崩しに無礼講になってしまいそうだから。

「双樹さん、デニムさん。今日は本当におめでとうございます」
「シェアト姉さん」

 声をかけたシェアトに、双樹と同じく彼女を姉と呼ぶデニムが真剣な面持ちで、双樹と共に振り返る。そんな『弟』と『妹』にくすりと微笑み、想いを言葉へと紡ぎ出した。

「お二人の真っ直ぐで清らな愛情が、ノルマンの未来をより明るくするでしょう。心優しき守り手達‥‥どうか末永くお幸せに」

 そっと双樹を優しく抱き、デニムの肩を撫でたシェアトに、若い2人は大きく身を震わせる。間違いなく人生においても、夫婦においても遥かな先輩であり、何より心から慕う人からの祝福が、心を揺らさないわけがない。
 シェアトだけではなく、誰もが。リーディアも、涼花も、リアも――ブランシュの騎士達や互いの親族、他にも居るたくさんの友人たちすべてが、互いにとってかけがえのない存在だ。
 そんな人々を前にして、改めてデニムは双樹の肩を抱き、厳かに誓いを立てた。

「必ず、幸せにする。――愛しているよ、双樹」
「――愛しています、デニム。私、幸せになります」

 そんなデニムの言葉に、幸せに双樹は頷いた。彼女の全身を今、この上ない喜びと幸せがいっぱいに満たしていた。
 今までも、皆のお陰で本当に幸せだった。けれどもこれからはよりいっそう、優しい愛に包まれて幸せになる――幸せでないはずが、ない。
 ありがとうと、だから誰もに向けて心から呟いた双樹の肩を、強く強くデニムは抱いた。これから始まる、今までよりも尚いっそう幸せな日々を想いながら。





━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 /      PC名     / 性別 / 年齢 /    生業    】
 ea1225  / リーディア・カンツォーネ / 女  / 24  / ノルマン王国王妃
 ea3869  / シェアト・レフロージュ  / 女  / 23  /   吟遊詩人
 eb0346  / デニム・シュタインバーグ / 男  / 20  / ブランシュ騎士団員
 eb7706  /    リア・エンデ    / 女  / 22  /   吟遊詩人
 eb8121  /    鳳 双樹      / 女  / 22  /   調香師
 ec6207  /    桂木 涼花     / 女  / 25  /   武芸者

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもお世話になっております、蓮華・水無月でございます。
この度はご発注頂きましてありがとうございました。

大切なお友達の皆様での特別な日の物語、如何でしたでしょうか。
こんな特別な日のノベルをご指名頂けまして、心から光栄だと感じると同時に、いつも以上にどきどきしながら書かせて頂きました。
旅の魔法使いはこのあと、ちゃっかり披露宴にまで参加して歌って踊っているに違いありません(ぁ

呼び方などが違うとか、口調などに違和感のあるところがございましたら、いつでもお気軽にがしがしリテイク下さいませ(土下座
皆様のイメージ通りの、気の置けない友人同士の見守り、見守られる素敵な結婚式のノベルになっていれば良いのですけれども。

それでは、これにて失礼致します(深々と
WTアナザーストーリーノベル -
蓮華・水無月 クリエイターズルームへ
Asura Fantasy Online
2014年03月27日

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