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『SWEET×SWEET……? 〜彼の場合 』
藤村 蓮jb2813

 バレンタインデー。
 毎年、久遠ヶ原学園中を巻き込んで何かしらのイベントを行い、この時期にはまるでお祭でもやっているかのように賑やかな――もっともこの学園では、だいたい常にどこかでお祭り騒ぎが起きているのだが――雰囲気に包まれる。あちらこちらでチョコレートを渡したり、貰ったり、大切な人へと贈るとっておきのチョコレートを作るために、毎日特訓をして見たり。
 その、言うなれば学生達の血と汗と涙と情熱の集大成である今日はことさらに、学園内はとても賑やかで。けれどもこの時間ともなれば、さすがに人影もまばらになるようだと、部室でもある『もどきっさ』の外の気配にふと耳を済ませて、藤村 蓮(jb2813)は考えた。
 小学部から大学部まで擁し、入学年齢の制限もない久遠ヶ原学園では、学校そのものが寝静まってしまう、と言う事はまずありえない。とはいえ表通りならばともかく、蓮が居る建物は一本外れた路地に面していて、日頃からあまり人が居ないものだから、夜中といっても過言ではないこの時間には、人の姿を見ることのほうが珍しい。
 良いけどね、と蓮は再び意識を外から、目の前へと戻した。独自の組み合わせや配合でブレンドしたコーヒー粉に、ケトルで沸かしたお湯をゆっくりと回しながら入れて行く。
 こぽこぽと、ドリッパーからコーヒーが落ちる音を聞きながら早すぎず、遅すぎず、何度も繰り返してすっかり身体に馴染んだ速度で。母親が経営している実家の喫茶店を継ぐために、さまざまなブレンドを試して研鑽を重ねて行くのは、蓮の日課であ合った。
 コーヒーが落ちるのを待って、味見をして、今日試したブレンドの配合などを書いたメモに書き込んで行く。豆そのものの配合はさることながら、何度か淹れて、さらにお湯の温度や量、淹れ方などを細かく変えていかなければ、最良のコーヒーの味は引き出せない。
 どうにかそれなりに満足ができそうな結果が出て、ん、と蓮は小さく頷いた。もちろんまだまだ改良の余地はあるし、そもそもまた配合を変えなければならないかもしれないけれども、今日の所はこれまでだろう。
 そう考えて手早くカウンターを片付けて、出入り口の木戸へと向かった。そうして鍵をかけようとした瞬間、バタン! と大きな音がして古ぼけた風合いの木戸が荒々しく開かれ、黒い影が飛び込んでくる。
 あれま、とその影に蓮は目を丸くした。

「珍しい時間にくるねぇ」
「――蓮」

 そう、蓮の名を呼んだのはケイ・リヒャルト(ja0004)だ。この、喫茶店をイメージしてレイアウトした『もどきっさ』の常連客であり、久遠ヶ原学園高等部の生徒であり――蓮の友人。
 よほど急いで来たのだろうか、ケイは荒く乱れた息を吐き出しながら、いつものようにどこか捉えどころのない、柔らかな微笑を浮かべた。そうして何か呟いたけれども、まだ息が整っていないせいもあるのだろう、上手く聞き取ることが出来ない。
 ん? と蓮は首を傾げた。

「どしたの」
「ううん。――まだ開けてたのね」
「ん、そろそろ離れようと思ってるけどねぇ」

 蓮の問いにはゆるりと首を振り、違う言葉を紡いだケイに、それ以上は聞かないまま蓮はひょいと肩を竦める。そうなの? とケイが呟いて、眼差しを『もどきっさ』の中にさ迷わせた。
 少し古びた一軒家風の外見を持つこの建物と同じように、レトロな雰囲気で統一した空間。正確には、それを目指してアンティーク家具を少しばかり置いただけの、まだまだ未発展の場所。
 ふうん、と呟いたケイを見下ろすと、見上げてきた彼女の不思議な色合いの瞳とぶつかった。

「じゃあ、お邪魔だったかしら?」

 そうして紡がれた軽口に、とんでもない、と首を振る。誰であれ、こんな辺鄙な場所――と蓮は思っている――にわざわざ訪ねて来てくれる人が居る、と言うのはありがたいことだ。
 自分の身体が邪魔でケイが中に入って来れないのだ、と言うことに気付いて少し横に避けながら、蓮はだからこう言った。

「とりま、入りなよ。寒いしねぇ」
「ありがとう。――今日はバレンタインデーでしょう? だからチョコレートを、直接渡したかったのよ」
「えぇと……わざわざ悪いねぇ」

 そんな蓮にお礼を言って、ケイは遠慮なく中へと足を踏み入れる。そうしながら、まだ少しだけ荒い息ながら軽い口調で紡がれた来訪の理由に、蓮は戸惑ってとりあえずそう返した。
 我ながら、どこか困ったような響きだと思う。けれども、こんな夜中にわざわざ、しかも直接チョコレートを渡したくて、と言われればやはり、色々とその意味を考えてしまうもので――けれどもケイみたいな見るからにモテそうな美人が、蓮みたいに運動も出来ない非モテ男子にわざわざチョコレートをくれるなんて、友チョコ以外に理由があるわけもなくて。
 うんそうだ、そうに違いない、と1人胸の中で納得していたら、ケイがくすりと笑った。すれ違いざまに見上げてくる、悪戯っぽい眼差しに何故か、たじろいでしまう。

「もう沢山貰ってるんじゃないの?」
「そうでもないんだけどねぇ」

 からかうケイの言葉に、蓮はますます困った顔になった。そんな蓮に、「どうかしらね」とくすり笑って、ケイはカウンター席へと足を向けたのだった。





「コーヒーで良い?」
「もちろん」

 ケイがカウンター席に座ったのを見て、カウンターの中に戻った蓮はそう尋ねながらケトルを火にかけた。そうして彼女が頷いたのを確かめると、少しだけ考えてから、さっきのブレンドにしようとコーヒー粉の準備を始める。
 ケトルでお湯の沸く、少し金属音の混じったシュンシュンという音。食器の触れ合う、カチャカチャという微かな音。ケトルからお湯を注いだ時の、コーヒーが落ちて行く音――
 いつも通りの手順で、いつも通りに美味しいコーヒーを。気持ちはそう心がけ、蓮は淹れたてのコーヒーが揺れるカップをソーサーに載せ、カウンターの向こうのケイの前にカチャリと置いた。

「本日のブレンドをどうぞ、ってね。――これは俺から」

 それから自分の分のカップを手に、カウンターのケイの隣に座った蓮は、何かのついでにでも渡そうと思っていたチョコレートを差し出した。仲の良い人たちにと作った、お店で出すお菓子の練習を兼ねて作ったものだ。
 わざわざチョコレートを渡す為に来てくれた、というケイの言葉を思い出すと、何やら申し訳ない気分になって、蓮は少し早口で付け加えた。

「なんか、ついでみたいで悪いけどねぇ」
「あら……蓮から貰えるなんて、嬉しいわ」

 幸い気を悪くした様子もなく、ケイはくす、と笑って快く受け取ってくれた。それからカウンターの上に置いてあった、如何にも丁寧にラッピングされた包みを「はい」と蓮の前に差し出す。
 おおう、と蓮は嬉しくなって、ほくりとした笑顔で受け取った。

「ありがとうだねぇ」
「どういたしまして。――ねぇ蓮、せっかくだから一緒に開けてみましょうか」
「良いねぇ」

 ケイの提案に、面白そうだと大きく頷く。そうして互いにくすくす笑いながら、相手に貰ったチョコレートの包みを、どこかいそいそと開封して。
 中から出てきた箱のふたを、そっと開けた蓮は思わず、「おおう」と感心した声を上げた。

「こりゃ美味しそうだねぇ」

 ケイがくれた包みの中に入っていたのは、とても美味しそうなベリーチョコレートケーキ。立派に商品としても通用しそうな出来栄えだけれども、以前にもベリーパイを作って来てくれた彼女だから、これもまた手作りなのに違いない。
 ハート型に焼き上げられたガトーショコラの上には、何種類かのベリーとデザイン的なモチーフのチョコレート細工が飾られていて、見た目も美しかった。そしてケイの作ったものだから、味の方だって間違いなく、とんでもなく美味しいのに違いない。
 ひたすら感心するしか出来ない連に、ふふッ、とケイが笑った。

「蓮が作ってくれたこの生チョコレートには、きっと敵わないけれども……心はたっぷりこもってるのよ」
「いやいや、たいしたもんだねぇ」

 だから食べてね、と笑ったケイに、真剣な顔で蓮はそう言った。誰に聞いて回ったって、蓮が練習で作った生チョコレートなんかより、ケイが作ってくれたこのベリーチョコレートケーキの方が、百倍も良いと言うに決まっている。
 そう、素直に感心する蓮にケイは、くすぐったそうに笑った

「じゃあ今度、このベリーチョコレートケーキも一緒に作りましょうか。きっとこれだって、蓮ならすぐに覚えてしまうわ!」
「ぜひお願いしたいねぇ。俺のはなんか、店で出してるのの延長って感じでわるいねぇ」
「ううん、とっても美味しいわ! 蓮らしい味ね」
「俺らしいってどんなだか。じゃあ、俺も頂こうかねぇ」

 ケイの心からの賛辞に、照れ交じりの苦笑いを浮かべて蓮は、カウンターの中へと戻ってケーキ皿とフォークを取り出した。そうして早速、ベリーチョコレートケーキを箱から移して、フォークを動かし始める。
 しっとりとしたケーキを一切れ口の中に入れた瞬間、ひょい、と目を見開いた。チョコレートの甘味と苦味、ベリーの酸味と甘味がそれぞれ、絶妙に互いを引き立てあっていて、実に美味しい。
 もぐもぐと味わって、ごくんと飲み込んだのを見計らったように、ケイが尋ねてきた。

「口に合うかしら。コーヒーに合うように、少し甘めにしてみたのだけれど……」
「いやいや、ほんと、ケイは上手だねぇ……! すんごい美味しいねぇ、これ」

 我ながらボキャブラリーのなさにこっそり絶望しながら、蓮は満面の笑顔でそう返す。そうしながらも次を求めて、すでにフォークは動いていて。
 それにケイが、くすりと笑いながら蓮の生チョコレートを口に運ぶ。運びながらコーヒーを飲み、飲みながらお菓子作りのことや、学園で今日あった出来事や、そんな他愛のない話をする。
 ――それはとても穏やかで、心休まるひとときだった。





 ベリーチョコレートケーキを頂き終わった頃には、すっかり夜も更けていた。

「さすがにそろそろ帰らなくてはね」
「ん。なら俺もそろそろ片付けるかねぇ」

 空になったコーヒーカップをソーサーに戻し、そう言ったケイの言葉に時計を見て、蓮は同じく空になったカップとケーキ皿を手に立ち上がる。手伝いましょうか? といったケイに笑って首を振り、蓮は流し台で2人分のカップと皿を手早く洗った。
 そうしてケイを促して、見送りをしようと出入り口の木戸から外へ出る。その瞬間、冬の夜の、身を切るような冷たい空気が、一瞬にしてコーヒーとチョコレートで暖まった蓮の身体を包み込み、熱を奪って行った。
 こりゃ一段と寒いねぇ、と白い息を吐き出した蓮の横で、ケイもまた寒さに大きく身を奮わせている。けれどもすぐに彼女は艶やかな笑みを浮かべ、蓮、と彼を振り返った。

「今日は有難う」
「や、俺こそありがとう、ってね」

 ケイの言葉に、蓮は笑って肩を竦めた。そんな蓮にくすりと笑い、ケイが軽くハグをしてきて。
 思わず動きを止めた蓮の頬に、大きく伸び上がったケイがトドメとばかりにキスをする。――されているのだと、理解した瞬間に頭が真っ白になって、蓮は文字通り驚きに身を強張らせて、ケイにされるがままになった。
 けれども彼女はすぐに身を離すと、呆然とキスされた頬に手を当てている連にくるりと背を向けて、「またね」と手だけを振って歩き出してしまう。驚き、戸惑い、混乱する蓮を置き去りにしたまま。
 呆然と彼女の真っ直ぐな背中が夜闇に消えて行くのを見つめていた蓮は、少ししてようやく我に返って――真っ赤になった。

「な……何してるの……!」

 一体果たして、冗談なのか本気なのか。チョコレートを直接渡したくてきたのだといった彼女の言葉は、行動は、どうにも蓮には難しくて理解できない。
 だから、あうう、と赤くなった顔のままその場にしゃがみこみ、頭を抱えてしまった蓮の耳に、去っていったケイの足音だけが冷たい空気を震わせ、響く。――いやいや、俺みたいな運動出来ない非モテ男子に、なんてそんな事、絶対にあるわけないんだし。
 すっかり混乱してしまった気持ちを抱えて、半ば必死に自分にそう言い聞かせながら、蓮は大きな大きな息を吐き出した。どうやら今夜はもう少し、コーヒーを飲みながら気持ちを落ち着ける必要があるようだった。





━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 /   PC名    / 性別 / 年齢 /     生業    】
 ja0004  / ケイ・リヒャルト / 女  / 18  / インフィルトレイター
 jb2813  /   藤村 蓮   / 男  / 17  /    鬼道忍軍

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもお世話になっております、蓮華・水無月でございます。
この度はご発注頂きましてありがとうございました。
愛の叫びもありがとうございます、本当にありがとうございます……!(平伏土下座

バレンタインデーの夜の密やかな物語、如何でしたでしょうか。
息子さんのご家庭事情を伺って、何だか一瞬にしてあれやこれやのやり取りが思い浮かんでしまい、しばらく本文そっちのけで妄想に浸っていたとかは全力で秘密です(
お2人がこれからどんな関係へと進んでいかれるのか、心から楽しみです。
ちなみに蓮華は生チョコレートとか作った事がないのですが、あれは作れるものなのでしょうか……!(何
口調ですとか雰囲気ですとか、何か違和感のあるところがございましたら、いつでもお気軽にがっつりリテイク下さいませ(土下座

息子さんのイメージ通りの、何かが動き出すような素敵なバレンタインのノベルになっていれば良いのですけれども。

それでは、これにて失礼致します(深々と
不思議なノベル -
蓮華・水無月 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年03月31日

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