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『愛しい人と、スイーツ作り 〜桜井・L・瑞穂編〜 』
桜井・L・瑞穂ja0027

 バレンタインデーとホワイトデーというイベントがある冬の季節。
 降り積もる雪を溶かすほどのアツアツカップルである緋色と瑞穂は、それぞれ相手にプレゼントするスイーツを一緒に作ることにした。


☆甘々なお菓子作り
「僕はチョコレートケーキを作るよ。まあ本来なら女の子の瑞穂が男の子の僕にチョコを贈るんだけど、でも瑞穂もチョコを食べたいでしょう?」
 言いながらも緋色は白いロリータワンピースの上から、ピンク色のフリルがたくさんついているエプロンを身につけた。
「楽しみにしててよ。腕を振るっちゃうからさ」
 自信ありげに片目でウインクをする愛しい恋人を見て、瑞穂は優しく微笑む。
「お互いに贈るお菓子を作り合うのも、一興ですわね。ちなみにわたくしはマカロンを作りますわ。楽しみにしててくださいまし」
 瑞穂は清楚な青白いエプロンをつけた後、張り切って腕捲くりをする。
 二人はキッチンでお菓子をそれぞれ作り始めるも、緋色の手馴れたケーキ作りを見て、瑞穂は複雑な表情で手を止めてしまう。
 視線に気付いた緋色は、瑞穂を見て首を傾げた。
「……うん? 瑞穂、僕にどこかおかしいところでもあるのかな? さっきから、じっと見つめているけど……」
「いえ、お菓子作りに随分と慣れていらっしゃると思いまして……」
「まあ料理は普段から、趣味としてやっているからね。お菓子もそんなに凝ったものじゃなければ、大体は作れるし」
 話しながらも、銀のボールに入ったケーキ生地を手際良く混ぜていく緋色。
 性別は男ながらも女装をしている緋色は、女の子の服は着慣れている。今は結んでいるものの黒い髪も長く伸びている為、普段から女の子として見られることが多い。
 今ももしどこかの料理教室でこの姿を他の人に見せたのならば、男性はまず眼をハートにしただろうことを瑞穂は想像して、少し険しい顔付きになった。
「……あの、もしかして、ですけど」
「何だい?」
「緋色が作ったお菓子を、わたくしの知らない方にあげたことがありますの?」
 言いづらそうに問いかけてきた瑞穂を見て、一瞬、緋色はキョトンとしたものの、すぐに軽く笑う。
「違うよ。ほとんど僕が食べたくなったから、自分で作って自分で食べたんだよ。もしかして誰かに作ってあげたと想像して、嫉妬したの?」
「えっええ、まあ……。わたくしの見知らぬ殿方が、緋色の手作りのお菓子を美味しそうに食べたかと思うと、胸が苦しくなりましたわ!」
 瑞穂は至って真面目な表情で、両手を握り締める。
 しかし熱くなる瑞穂とは反対に、緋色は冷めた表情になった。
「何で『男』限定なのかは、あえて聞かないでおくよ……」
「でも安心しましたわ! これでスッキリした気持ちで、お菓子作りができます」
 心底ほっとして、瑞穂はお菓子作りを再開する。
 緋色は深いため息を吐いた後、再び手を動かし始めた。


 ハートの型にケーキ生地を流し入れて、予熱したオーブンに入れた緋色は、一段落ついて肩を下ろす。
「ふう……。少し休憩時間ができたな」
 両腕を伸ばして緊張を解いた後、緋色は振り返って瑞穂の所へ行く。
「瑞穂はどう?」
「わたくしの方はオーブンが空きましたら、生地を焼きます。今はクリームを作っている途中ですわ」
 瑞穂は銀のボールに入ったピンク色のクリームを、緋色に見せるように向ける。
「ピンクのクリームとは可愛いね。食紅を入れたの?」
「いいえ、イチゴですわ。今が一番美味しい季節ですし、甘酸っぱいイチゴのマカロンはホワイトデー向きだと思いましたので」
「順調そうだね。僕が手伝えることがなさそうなのは少し寂しいけれど、瑞穂のお手製マカロンは楽しみだよ」
「アラ、お手伝いをしてくださるんですか? それでしたら……」
 瑞穂はゴムベラを上げて、クリームを指ですくう。
「味見してみますか? 緋色がどのぐらいの甘さがお好きなのか、知りたいですし」
「いいよ」
 緋色はニコッと微笑むと、瑞穂のクリーム付きの指をパクッと咥える。すぐに頭を後ろに引いて指を口から引き抜き、クリームを味わう。
「……うん、このくらいの甘さで良いと思うよ。マカロンの生地にもグラニュー糖を入れているんだよね? クリームは少し酸っぱいぐらいが、ちょうど良いよ」
 助言をしつつ、緋色は唇に少し付いたクリームを真っ赤な舌でペロッと舐める。
「はうわっ!?」
 その艶かしい姿を見て、瑞穂の顔が真っ赤に染まった。青い瞳が泳ぎ、口をパクパクとしている。瑞穂の頭の中では、彼とキスをする自分の姿が浮かんでいたのだ。
「ん? どうかした?」
 緋色はその仕草を無意識に行ったので、瑞穂が突然固まってしまった理由が分からずに首を傾げた。


 やがて緋色のケーキは焼き上がり、オーブンには瑞穂のマカロンの生地が入る。
 緋色はケーキの熱が冷めるまでに、デコレーション用のクリームや飾りのお菓子を作っていく。ミルクチョコとホワイトチョコで花を作ったり、あらかじめ作っておいたトリュフチョコを冷蔵庫から取り出す。
 それらを冷めたケーキに美しく飾り付けていくのだが、作業中の緋色の背中にピトッと瑞穂が抱き着いた。
「もう少しで完成するから、良い子で待っててね」
 瑞穂に後ろから抱き着かれても緋色は冷静で、手を止めずに動かし続ける。
「ん〜、でも暇ですわ」
「なら大人しく、僕の背中にくっついていなさい。ケーキが出来上がっていくところを見ていれば、退屈じゃなくなるよ?」
 緋色よりも身長が高い瑞穂は彼の頭上から、ケーキがデコレーションされていくところをじっと見つめた。
「緋色ってパティシエみたいですわ」
「プロ級だと褒められるのは嬉しいけどね。今はもっぱら瑞穂専門のパティシエだから、自分の腕がどのぐらいなのかよく分からないんだよね」
「それはっ……! ……わたくしだけが知っていれば良いことです」
 瑞穂は緋色の腰に回した腕に、力を入れる。
 緋色は少し苦しさを感じながらも、笑顔を浮かべた。
 

 二人はそれぞれ完成したお菓子に、皿とフォーク、それに紅茶入りのカップをテーブルに置いていく。
 しかし瑞穂は緋色が二組の皿とフォークを用意したのを見て、不思議そうに尋ねる。
「緋色、このチョコレートケーキはわたくしに贈られるものですよね?」
「もちろん! でも瑞穂一人じゃ食べきれないだろうから、僕も手伝うよ」
「……どうりで大きなケーキだと思いましたわ」
 どう見ても一人用ではないサイズのケーキは、最初っから二人で食べるつもりだったようだ。
 少し呆れている瑞穂の目の前で、緋色は綺麗にケーキを切り分けて皿にのせる。
「ささっ、食べてみてよ」
「えっええ……。では頂きます」
 ペコリと頭を下げて、瑞穂はケーキをフォークで一口サイズに切り分け、口の中に運ぶ。するとココアスポンジのほろ苦さと香り、そしてチョコレートクリームの甘さが口の中いっぱいに広がって、瑞穂は眼を輝かす。
「美味しいですわ! こんなに美味しいチョコレートケーキ、生まれてはじめて食べました!」
「ふふっ、少し大げさだけど嬉しいな。どれ、僕も食べてみよう」
 緋色もケーキを食べてみて、満足そうに頷く。
「今まで作った中で、一番美味しく出来たよ。やっぱり瑞穂の為に作ったからかな?」
「ご自分の為――でもありますでしょ?」
「うっ!?」
 微妙に温度差ができた二人だが、あっと言う間にケーキを食べ終える。
 紅茶を飲んで一息ついた後、瑞穂はマカロンをのせた皿を緋色の前にすすめた。
「緋色の後ではちょっと出しづらいんですけど、わたくしのイチゴのマカロンもどうぞ」
「ありがたく頂くよ」
 緋色は可愛らしいピンク色のマカロンを一つ手にすると、そのまま一口で食べてしまう。サクサクしたバニラの生地と、甘酸っぱいイチゴのクリームが口の中で溶けて、春らしい味が生まれた。
「……ふふふっ、流石は僕の瑞穂。このマカロン、最高だよ!」
「まあ! 本当ですの?」
 パアッと表情を輝かせながら、瑞穂もマカロンを食べてみる。するとたまらないといった顔をして、思わず体を揺らす。
「上手にできましたわ! やっぱり最愛の人のことを思いながら作ると、一味違うのですね!」
 上機嫌になった瑞穂は、次々とマカロンに手を伸ばして食べていく。
「はわわっ! この食べる早さだと、すぐにマカロンがなくなってしまうよ!」
 慌てて緋色もマカロンを食べる。
 そして二人で何故か競うようにお菓子を食べ続けていたが、やがて最後のケーキを食べていた瑞穂の眼がとろんっ……としてきた。
「うふふ……。わたくし、幸せですわぁ。こんなに美味しいお菓子を、大好きな人と一緒にお腹いっぱい食べられるんですから……」
 どこか舌足らずな話し方をする瑞穂を見て、緋色はハッと気付く。
「……チョコレートケーキに洋酒を入れすぎちゃった、かな?」
 どうしても作る時に必要だった為に入れたのだが、緋色よりもケーキを多く食べていた瑞穂は酔いが回ってしまったようだ。
 慌ててアイスレモンティーを作った緋色は、グラスを持って瑞穂に近付いた。
「瑞穂、もう食べるのは止めた方がいいよ。ホラ、冷たいレモンティーでも飲んで」
 しかし赤い顔で目が据わった瑞穂は、緋色を間近で見るとニヤっと笑う。
「……こうすれば、もっと美味しくなりますわね」
「えっ? んむぅっ!?」
 瑞穂は突然、チョコレートケーキのクリームを緋色の唇に指で塗ると、立ち上がってペロッと舐める。
「――うん、やっぱり甘くて美味しいですわぁ、緋色の唇ぅ」
 にっこり微笑んだ瑞穂だが、そのままイスに倒れこむように座ると、寝てしまった。
「……『酔っ払いのおふざけ』と言うには、少しタチが悪いよ。瑞穂」
 グラスをテーブルに置いた緋色は、瑞穂よりも真っ赤な顔で熱い吐息をもらす。
 目の前で無防備に寝ている瑞穂を見て、何となく悔しい気持ちになった。
 すると緋色は屈み込んで、薄く開いた瑞穂の唇に自分の唇を重ねる。触れるだけのキスはすぐに終わり、瑞穂は緋色にキスをされる夢を見ていた。
「大好きだよ、瑞穂。……とりあえず、コレで男のプライドは守ったね」
 照れ隠しのように緋色は真っ直ぐに立って、胸を張る。しかし瑞穂の寝顔を見ると、その表情は優しいものへと変わった。


【終わり】


★彼女は彼のことを……
「……ケーキを食べている途中で寝てしまうなんて、情けないですわ」
 夜、部屋の中で一人、瑞穂は少しボ〜ッとする頭を手で触れる。
 緋色に揺さぶられて起こされた時は、恥ずかしさと情けなさで目が回りそうだった。
「多分お菓子の食べ過ぎでお腹がいっぱいになったせいで、眠気に襲われたんですわね。……年上の女性として、そして恋人として見せてはいけない姿を見せてしまいましたわ」
 ただでさえ緋色は、年上の瑞穂を振り回すことが多い。それは良いのだが、よく考えてみると自分が単純な生き物のように思えてくる。
「緋色にはもっとこう……素敵な年上の女性として見てほしいのですが、わたくしったらいつも肝心なところで……」
 彼のことを愛するあまり、気を抜いてしまうことがあるのだ。そういう時は重要な場面であることが多く、結果として瑞穂は後から後悔と反省をすることもあった。
「まあ緋色はどんなわたくしでも、受け止めてくださいますけど。でも何だかわたくしの情けないところを見て、緋色が喜んでいるような時もある気がするのですが……」
 そういう時の緋色には、悪魔の翼と尻尾がついているように見える。
 けれどそんな彼も素敵に見えてしまうのだから、恋愛とは厄介な重病だと瑞穂は確信した。
「ですが今の緋色はまだ子供と言えますが、後一・二年もしたら立派に成長してしまいますわ。男の子の成長は早いと言いますし、そうなったらわたくし、どうしたらいいのか悩んでしまいます……」
 心配する瑞穂だが、その頭に浮かんだのは成長しても美しい女装をしている緋色の姿だった。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja0640/帝神 緋色/男/中等部3年/ダアト】
【ja0027/桜井・L・瑞穂/女/大学部1年/アストラルヴァンガード】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 このたびは依頼をしてくださり、ありがとうございました(ぺこり)。
 ラブラブな二人のお菓子作りということで、甘々な感じで書かせていただきました。
 『★』からは個人ストーリーとなっていますので、お二人分を合わせて読んでいただければと思います。
 ではまた機会がありましたら、よろしくお願いします。
不思議なノベル -
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エリュシオン
2014年04月04日

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