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『実験と試行錯誤 』
セレシュ・ウィーラー8538)&(登場しない)

「っふ〜。ただいまぁ」
 大きな荷物を抱え、自宅に帰ってきたセレシュは玄関先にどすんと荷物を降ろしながら深いため息を吐いた。
 そんなセレシュを出迎えにきた悪魔はそのあまりの荷物の多さに唖然とする。
「何そんなに沢山買い込んできたのよ」
「色々使うもんがあんねん。ほれ、あんたの好きなお菓子も買うて来たで」
 近くの袋に無造作に手を突っ込んで探り、一つの菓子袋を掴んで引っ張り出した。
 ソルト&ビネガー味のポテトチップスや、ナッツぎっしりのチョコレート等等。
 どれも悪魔が大好きなおやつばかりで、ついそちらに気を取られ目が輝く。
「うわぁ! すっごい! 全部私の大好物!」
「そや。あとで食べような」
 ニッコリと笑うセレシュに、悪魔も疑う余地もなく満面の笑みを浮かべて大きく頷いた。


                 ****


 夕食が終わると、セレシュと悪魔は肩を並べて洗い物をする。
 洗剤を丁寧に洗い流しながら、隣で洗い上げた皿を拭く悪魔に、セレシュは声をかける。
「あんな。実はうち、今作ってる魔具があんねんけど、ちょっと一人じゃどうにもならんねん」
「うん?」
 悪魔はお菓子を食べる事に頭がいっぱいでニコニコとご機嫌なまま皿を拭きながら返事を返すと、セレシュは水道の蛇口を閉めタオルで手を拭きながら彼女を振り返った。
「ちょっと手伝うてくれへん?」
「……」
 この時になって、悪魔はピクリと肩を震わせて動きを止めると、様子を窺うようにセレシュを見た。
「もしかして、また実験?」
「そうや。うちはデータ取らなあかんし、あんたが実験してくれへんと売り物にならん」
「……どんな魔具なのよ」
 セレシュは待ってましたとばかりに部屋に置いてあった魔具を持って来ると、袋の中からそれを取り出した。
「これや。以前作った腕輪の派生品。緊急避難用で、石化と魔法で水や食料、呼吸もなしで救助や状況変化があるまで耐えられる仕様にしてある」
「へぇ。便利ね」
「ただ一つ難点があるんよ。意識を残すと動けへん事に精神が耐えられん。逆に意識を残さんと自分で解除が出来ん」
 セレシュは腕輪に注いでいた視線を悪魔に戻すと、にんまりと笑った。
「そこで、あんたの精神を操る力が必要やねん」
「ちょ……。随分サラッと言ってくれるじゃない!」
「まぁそう言わんと手伝うてや。人と石の中間のような精神状態にしたいと思うとるんよ。術式はもうほぼ頭に入っとるし、うちに任しとき!」
 ドンと胸を叩き、得意げに言い放つセレシュとは逆に、悪魔はどんよりとした怪訝な表情を浮かべている。
 こうなっては、何がどう言った所でやらないわけにいかないのは分かりきっている事だった。
 セレシュはずいっと悪魔に腕輪を差し出してくる。
「自分で試して貰うから、気張りや」
「自分でやるの?」
 目を瞬きながらセレシュを見ると、彼女は当然と言わんばかりの顔で頷いた。
「使う人の立場に立って作るんは大事なことやろ?」
「そ、そりゃ……まぁ、そうだけど……」
 悪魔は言葉を渋りながら、差し出されている腕輪を見つめる。そして恐る恐る手を伸ばし、それを手に取ると満足そうにセレシュは笑う。
「そんじゃ、ちょっと待っとって。今すぐ術式組み込むわ」
 そう言うと、セレシュは腕輪に小さな魔方陣を作り出し、コンピュータを打ち込むようにボタンを手早く打ち込んでいく。
 ほどなくして、無反応だった魔方陣が一瞬眩く光ったかと思うと吸い込まれるように腕輪の中に消えていった。
「よっしゃ。これでオッケーや。じゃ、早速やってみ」
「……」
 促されるままに、腕輪を腕に嵌めると、腕からすぐに石化が始まる。
 見る見るうちに体全体が石に変わり、悪魔を見つめていたセレシュは変わったところがないか簡単に所見する。
『外観的には問題なしやな。で、中はどうや?』
『……んー……』
 どこか呆けているのか、返事がいまいちハッキリしない。
 セレシュは眉根を寄せながら、腕を組み小首を傾げて考え込む。
「精神的にはいまいちハッキリせぇへんようやけど、別段動けないこと事態は苦痛はなさそうやな」
 どれ……。とセレシュはどこから持ってきたのか、ひょいと金槌を拾い上げ少し強めにコンコン、と叩いてみた。
 すると反応はないものの、僅かにくぐもったような悪魔の声が聞こえてくる。
 次にセレシュはやや乱暴に石化した悪魔を床に倒し、そのままゴロゴロと転がしてみる。
『ちょ、ちょっと! 何すんの!?』
『まぁまぁ。データの為や。ちょっとの間辛抱してや』
 突如ハッキリした切り返しがあったものの、セレシュは特別気にした様子もない。
 手にしていた金槌を放り投げると、今度は悪魔のわき腹を擽り出した。
『ちょ、わ、な、何!? やだ、ムズムズするんですけどっ!!』
「ムズムズ? 露骨にくすぐったい言う感覚は鈍るんやなぁ? どれどれ……」
 半分面白がってセレシュは更に悪魔を擽り出した。
 身動きが取れず、感覚も鈍っている分反応し難いところはあるものの、悪魔は何とも言えない感覚にゾワゾワしていた。
『や、やめ……! 動けないからって擽らないでってばっ!』
「なるほどなぁ……。うん。まぁこんなもんやろ」
 後半は遊び半分で擽ってみたものの、セレシュは手元のボードにデータを書き込む。
『時間になったら戻ってええで』
 カチカチとボールペンをノックしながらそう語りかけると、悪魔もぎこちなく答えた。
 それからほどなく、時間を過ぎたのだが元に戻る様子のない悪魔に、セレシュは怪訝な表情を浮かべた。
『どないしたん? なんで戻らんのや?』
『……どう、したって……』
 一応返事はあるものの、反応が鈍い。
 どうやら精神が石に近づきすぎたようだった。
「しゃあないな」
 セレシュは腰に手を当て、浅く息を吐くと悪魔に手をかざし石化状態を解いていった。


「もう元に戻れないのかと思った……」
 肩を落とし、暗い表情で落ち込んでいる悪魔の前には、彼女の大好物のお菓子が並べられている。
 セレシュは先ほど取ったデータの紙と睨めっこしながらお菓子をつまみつつ眉根に深い皺を寄せていた。
「う〜ん……何があかんのかなぁ……」
「聞いてんの!?」
 怒ったような口調で訴えてくる悪魔をちらりと見やりながら、セレシュはポテトチップスを一枚口に運び入れる。
「せやから、改善する為に今考えとるんやないの。あんたになんかあってもうちが何とかできるんやから大丈夫やて」
「まぁ……そうだけど……」
 そう言うと、セレシュは再びデータに目を落とした。
 悪魔は深いため息をこぼすと、目の前のチョコレートに手を伸ばすのだった。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
りむそん クリエイターズルームへ
東京怪談
2014年04月11日

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