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『銀を恐れぬ魔族 』
ファルス・ティレイラ3733)&(登場しない)

「銀製品を怖がらず、逆に好んで盗む魔族がいるんですか?」
 ファルス・ティレイラ(3733)は最初に話を聞いた時、信じられずに思わず聞き返した。
 数日前からティレイラが住む街で、大昔に作られた銀製品を美術館で展示する企画が行われている。
 チラシを見て前々から興味を持っていたティレイラの所へ、美術館の館長から依頼書が届いたのはつい昨日のことだ。
 依頼書を読んだ翌日に美術館を訪れると、初老の館長は困り顔で応接間にティレイラを案内して事情を説明する。
「我々も信じられないのですが……どうもそうらしいのです。銀には高い殺菌作用があることから、銀の銃弾は魔族を倒す武器として有名です。なので魔族が銀製品を盗むことなど、今までありえないと思ってきたのですが……」
 応接間の中は熱くないのに流れる汗をハンカチでふきながら、館長は続けた。
 ここ最近の出来事だが、深夜、まだ幼い少女の姿をした魔族が銀製品を展示している所に突如現れ、あっと言う間に銀製品を盗んで消えてしまうらしい。
 突然姿を現し消えてしまうことや、銀製品を一瞬にして持ち去られたことから、魔術を使う魔族であることが分かった。
「そして決定的だったのが、現場を魔族に詳しい専門家に調べてもらったところ、僅かに魔力が残っているのを発見したらしいのです。はじめは魔族が銀製品を盗むなんて、誰も信じなかったのですが……」
 しかし同じ姿の少女は何度も銀製品の展示場に現れては、盗みを繰り返している。
 結果的に、魔族の仕業だと決定するしかなかったのだ。
 だがそうなると、普通の人間が魔族を捕らえることはまず不可能。その為に、ティレイラが呼ばれた。
 説明を聞き終えたティレイラは軽く顔をしかめながら腕を組み、首を傾げる。
「……まあ魔族の全てが、銀を怖がるわけじゃないのかもしれませんね。とりあえず夜になるのを待って、閉館後にパトロールします」


 閉館後、最低限の灯りしかついていない館内の中を、ティレイラは一人で歩く。
「昼間も見て回ったけれど、夜になるとちょっと怖いわね」
 銀製品達は異様な存在感を放っており、ティレイラはなるべく展示品を見ないようにする。
 アクセサリー部門に来た時、不意に空気が変わったことに気付いた。
 すると突然、目の前の空間がぐにゃり……と歪み、その中から幼い少女が一人、飛び出てくる。
「ふう……。やっぱり夜の方が、動きやすいわね」
 魔族は夜の生き物であり、美術館は夜に閉館してしまうので、盗みをするにはいろいろと都合が良いらしい。
 しかし魔族の少女は目の前に、ティレイラという予想もできなかった存在を見た途端、くるっと体の向きを変えた。
「こんな深夜に人がいるなんて予想外よぉ!」
「あっ、待ちなさい!」
 魔族の少女は背中にあるコウモリのような黒い翼を動かしながら、館内を飛び回る。
 するとティレイラは頭に角、腰に尻尾、背中に紫色の翼を出現させて飛び上がり、少女を追う。
 そんなティレイラの姿を見て、少女はぎょっとした。
「その異形の姿……アンタも魔族なの?」
「残念だけど、私の翼は竜族のものよ! そんなことより、今まで盗んだ銀製品を返しなさい!」
「絶対にイヤよっ!」
 少女は懐に手を入れると、小さな手のひらサイズの銀のボールを取り出す。口元にボールを近付け、ティレイラに聞こえないぐらいの小さな声で呪文を唱える。すると銀のボールは黒いオーラを発しながら、ゆっくりと形を変えていく。
 少女が呪文に集中している間は飛ぶスピードが遅くなった為、ティレイラはチャンスだと思って飛ぶスピードを一気に上げる。
 だが呪文を唱え終えると少女はニヤっと笑い、ボールを後ろにいるティレイラに向けて投げた。
「捕まえ……きゃあああっ!?」
 あと少しで少女の肩に触れそうだったティレイラだが、突然視界は銀色に染まる。
「はあ……。ギリギリセーフね」
 少女は飛ぶのを止めて、安堵のため息を吐く。
 少女の目に映っているのは、宙に浮く二メートルほどの巨大な銀のボールだ。
 元々この銀のボールは生きた獲物を一体、捕獲する為の魔法の道具だった。呪文を唱えれば機能が働き、獲物に向けて投げれば、どんなサイズのモノでも生きてさえいれば銀のボールに包まれてしまうのだ。
「まさか竜族に警護をさせるとは思わなかったなぁ。ちょっと派手に動きすぎたかも」
 少しだけ反省しながらも少女は片手を上げて、銀のボールをまるで握り締めるように動かす。するとどんどん銀のボールは縮んでいく。
「えっ、何? どうして急に、狭くなっていくの?」
 銀のボールの中に閉じ込められたティレイラは、周囲が押し迫ってくるのを感じて慌てる。しかし先程から何をやってもここから出られず、焦りは募るばかり。顔色は悪くなり、嫌な汗が背中に流れた。
「まさか銀の魔法道具を使える魔族だとは思わなかったら、完全に油断しちゃったわ……! ああんっ、でもどうしよう?」
「安心しなさいよ。アタシは血なまぐさいことが、大好きな魔族じゃないからね。気品溢れ、歴史がある銀製品を、純粋に愛する優雅な魔族だから。アンタは死にはしないわよ」
 嘲笑いながら説明した少女は、よりいっそう手に力を込める。
 すると銀は、膜のようにティレイラの体にピッタリ張りつく。息ができない恐ろしい感覚にティレイラの顔は悲鳴を上げる形になるも、すぐに固まってしまった。そして銀の像になったティレイラは、音を立てながら床に落ちる。
「実はこの銀のボール、捕らえた獲物を生きたまま銀の像にする機能があったのよ。まあ気に入った形の生き物を、大好きな銀製品にする為に購入したんだけどね。まさか竜族に使うことになるとは……せっかく盗んだ物だったのに」
 思わぬところで使ってしまったことに、少なからず不満を感じているらしい。
「でもこれで邪魔者はいなくなったわ! さっさと銀製品を貰いましょう!」
 すぐに立ち直った少女は、銀の像になったティレイラを置きっぱなしにしたまま、展示品を次々と盗んでいく。
 気に入った物を一通り手に入れた後、満足そうに戻ってきた。しかしティレイラを見て、困り顔で首を傾げる。
「この竜族の女の銀の像、どうしようかな? 珍しいけど、持って帰ってもあんまり嬉しくないのよね〜。このままここに残して、『魔族に敗れたマヌケな竜族』として展示品にさせる方が面白いかな?」
 少女は好き勝手に言うが、ティレイラは何も反応を示さなかった。


【終わり】
PCシチュエーションノベル(シングル) -
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東京怪談
2014年04月14日

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