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『ダンジョン・キター! 〜運命・友真編 』
小野友真ja6901


●帰省中

 空に向かって伸びゆくような稜線を目にし、小野友真はしばし足を止める。
 久しぶりの梅田は目新しい綺麗なビルが立ち並び、それでもまだ何かを生み出そうと蠢いている。
「俺はキタのが馴染みあるんよなー。でもなんか、えらい綺麗になったなあ」
 母の書類作成の手伝いと呼び戻され数日を地元で過ごした後、友真は梅田に足を向けた。
「うーん、せっかくやしちょっとその辺回ってから帰ろかな」
 とはいえ、どうせなら誰かと一緒の方が楽しい。画面の『亀山 淳紅』の連絡先を眺めしばし悩む。
「そんな都合よく、帰省してへんわなあ……」
 コール数回、淳紅は明るい声で電話に出た。何と大阪にいるという。
「うっわー、これはもう運命やな! うん、梅田におるん。大丈夫、ゆっくりきてや!」
 友真は大喜びで待ち合わせ場所を指定する。


●自動生成ダンジョン

 待ち合わせポイントはいくつかあるが、とりあえずお互いの最終知識がどのあたりかわからない。なので、昔からよく皆が使う場所を指定した。
 私鉄の駅舎内にある大きな本屋の、テレビ前。しかし。
「あれ、テレビに名前ないわ」
 友真が真顔で佇む。昔は愛称がでかでかと書かれていたのだ。
 それでも辺りには多くの人がたむろしている。名前は変わっても待ち合わせ場所としては相変わらず人気があるようだ。

 そこに響く淳紅の良く通る声。
「ゆーま君ー! ごめん、待たせてー!!」
 顔を真っ赤にして駆けて来る。
「良かったあ、会えた!」
「なんかあちこち、すごい変わってて。ほんまびっくりしたわ!」
 ふたりは再会を喜び合う。
 梅田は昔から地下街が迷路のように入り組んでおり、しかも常にどこかで改装が加えられている。冗談で『自動生成ダンジョン』と呼ばれるほどなのだ。それが最近ではJRの駅の改装に伴い、地上も複雑さを増していた。

「とりあえず何処から行く?」
 淳紅が鞄をかけ直しながら聞いた。
「うーん、せっかくやし美味しいもん食べたいなー」
 友真はそう言いながら、ふと本屋の入口に目をやった。
 どこかで見た金髪頭が見事な早足で、通行人を避けて出てきたのだ。
「淳ちゃんっ!!」
 思わず友真は淳紅の袖を引く。
「え、何……あ!」
 二人は顔を見合わせた。
 その後の行動に言葉は不要。人ごみの中に紛れるように、金髪の後を追う。


●運命の再会

 信号の上に表示される電光ゲージが、じわじわと減っていく。
 あと十秒。信号待ちの群衆が一斉に足を踏み出そうと身構える。
 ジュリアン・白川は正にその瞬間、おんぶお化けに襲われた。
「今夜は……帰さない」
 妙に良い声で淳紅が耳元に囁く。
「ジュリー先生、また会えたんはきっと運命やと思う。……今回は北を堪能しましょう」
 友真が腕につかまり、済んだ瞳で見上げてきた。
「どこから現れたんだ……!」
 白川は学生二人をぶら下げながら、観念したようにビルを見上げた。

 以前遭遇した時に『案外怖くない財布、もとい、人』と認識したおかげで、淳紅はうきうきと白川と並んで歩く。
「というわけで! 前回のミナミ編は途中で逃げ……や、残念ながら別行動になった白川先生と一緒に、今日は大阪駅周辺を探検していきたいと思いまーす!」
 どこのテレビレポーターかというテンションの高さだ。
「京都も今復興中ですしね! 関西良いとこPRでーす!」
 友真もノリノリでスマホを自撮りモードである。
「先生、俺、なんかおいしいもん食べたいな♪ 先生のオススメんとこ行きましょう、食べ歩きましょう!」
 きゃっきゃと嬉しそうにはしゃぐ男子高校生。
「うーん。とりあえず百貨店ならほとんど揃うのじゃないかな?」
 白川は苦笑いでJR駅舎に隣接した建物を指さす。

 地下に降りると、怒涛の人波は整然と左右に分かれて押し寄せる。
 その両脇には明るい光が灯っていた。
 黒いエプロン姿の店員が立て札を立てるのを見て、淳紅が友真を引っ張った。
「わ、クリームパン! 時間ちょうど!! ゆーまくん早よいかんとめっさ並ぶで!」
「えっクリームパンで並ぶん? それは食べてみんとあかんな!」
 ぱたぱたと駆け出すふたりに引っ張られ、白川も列に加わる。
「いくつにするんだね?」
 白川が聞くと、友真が激しい葛藤の色を浮かべ、絞り出すように言った。
「うう……この後も食べる事考えたら、一つにしとく……!」
「ははは、若いんだ、クリームパンぐらいぺろりだろう?」
 そう言いながら、白川が買い求めたパンをそれぞれ手渡す。
 見た目よりずっしりと重いクリームパンは、カスタードクリームがこれでもかと詰め込まれていた。
「ちょ、なに、これ……めっちゃうまいやん」
「な? な? 並んででも買いたなるよな!!」
 ほくほくとその場でかじりつく友真と淳紅。

 人間には、物を食べる生き物を見るのを好むタイプが一定数いる。
 そういう人間が公園で麩を買い求めて鯉に投げたり、奈良でシカせんべいを買い求めて襲撃を受けたりする訳だが。
 実は白川もそういう所を素通りできないタイプだった。
 早い話が、旨そうにクリームパンを頬張る学生二人を、不覚にも面白いと思ってしまったのだ。
「じゃあ次は、何にするかね」
 率先して先を促してしまう有様だった。


●美食の迷宮

 通路の向かい側にうっかり足を踏み入れ、淳紅が震えていた。
「ゆーま隊員……! あかん、もう自分はここに置いて行って下さい……!!」
 お惣菜コーナーの魔力に囚われ、淳紅の足が止まる。
「ここは持ち帰りがメインか。たしかもう一階下にはイートインがあるはずだよ」
 白川が記憶を掘り起こすような目をした。
「あ、知ってます! オムライスの有名なお店の! 支店が!!」
 友真が淳紅の腕をがっしと捕まえ、引っ張っていく。
「マジおすすめやでー、俺も大好き! いこ、淳ちゃん!!」
「え、美味しいオムライス!? 行くぅ!」
 きゅうとエスカレーターに詰まりながら、団子になって地下二階へ。

 カウンターが十席ほど並ぶだけの小さな店は、オムライスを食べる人でほとんど埋まっていた。テイクアウトの人も番号札を手に、出来上がりを待っている。
「すご、作ってるとこ見えるー!」
 戦場の形相でオムライスを作り続けるお店の人を横目に、席を確保し、メニューを睨む。
 淳紅はすぐに目を回してしまった。
「えーと……どれも美味しそうで迷うっ! お勧めのやつで!」
「ここ、ミナミの本店は何か旅館みたいな感じで、高級感ありますよねー……くっ……迷う……! 先生どれがいいと思う!?」
「ええと。エビとキノコとチキン、一つずつ」
 淳紅と友真に丸投げされ、白川は適当に三種をオーダーする。もう好きなの食べればいいじゃない。
 特にパンチが効いているわけでもない、目新しい見た目でもないオムライスだが、素朴な味わいは何とも穏やかだ。
「おいしい……!」
 ケチャップ好きな友真はとろけそうに目を細める。
「そうかそれは良かった」
「先生、あっち、パン屋さんも見たいな!」
 淳紅はオムライスを忙しく口に運びながらも、背後の焼き立てパンの店が気になるらしい。
「何か後ろのうどん屋さんも、すごい人並んでる……」
 友真の目がきらりと光る。
「さすがにそこまで時間はないのじゃないかな」
 白川が口元をナフキンで拭いながら、懐中時計を取り出した。
 今日中に大阪から久遠ヶ原まで帰るには、新幹線の制限時間があるのだ。
「うーん、残念。じゃあ今度にしましょう!」
「ああ。え、今度……?」
 白川は暫しその言葉の意味を考える。


●夜景を後に

 すっかり暗くなった夜空に、人の営みを誇示するようにビルの灯が輝く。
 百貨店を出たところで友真が提案した。
「ちょうどええ時間ですね。折角やし夜景見て行きませんか!」
「展望台があっただろうか?」
「こっちですー!」
 友真が先に立って駆けて行く。

 展望台は思っていたよりも『屋外』だった。
 屋上庭園の上は吹きさらしの空。ビル風が吹きつける中、人工のせせらぎが埋め込まれた照明の灯に煌めいている。
「ふおあー! 高い! めっーさ高い綺麗ー!!」
 淳紅は友真と並んで、手すりギリギリから足元を見下ろす。
「ちょいクラッとしますよね……落ちたら痛そう」
 そこにはごった返す車の灯が溢れていた。痛いどころですまないのは確かである。
 ふと友真が呟いた。
「大阪はまだ結構平和ですね」
「そうだね」
 白川はただ頷く。
「この景色、守っていきたいですね」
 そう続けた友真の思いの外真剣な表情は、遠くを見るようで、近くにある何かを見つめるようで。
「……何かあった時は期待しているよ」
 何もない方がいい。そうは思うのだが。

(ゆーま君、ゆーま君!)
 押し殺した声に友真が振り向くと、淳紅が手招きしていた。
「……?」
 いぶかしく思いながら近付いた友真に、淳紅が笑いを堪えながらスマホを示す。
「……ていっ!!」
 カシャリ。
 覗き込んだ画面には、白川が夜景をバックに決めポーズで写っていた。
「よーない? このカット、絵になるっていうか」
 淳紅は何故かその写真に『デート前』というタイトルを付けて保存した。
「後で送って、な!!」
 友真が共犯者の顔で囁いた。
「ん? どうしたね?」
「「なんでもありませーん」」
 白川が小首を傾げる。


 新大阪駅についたのはかなりギリギリの時間だった。
「さすがにちょっと油断しすぎたか……!!」
 すれ違う人を器用に避けながら、三人は程々のスピードで先を急ぐ。
 いくらなんでも、ここで全力移動をかける訳にも行かない。
「最後に色々買いこみましたから、ね!!」
 友真は大きな紙袋を抱えながら走っている。

 みどりの窓口の列についたところで、淳紅がふと思いついたように言いだした。
「先生、もしかしてグリーン車なんです?」
「まさか。学園はそんなに甘くないよ」
 期待を籠めた視線に、白川が笑う。
「先生、俺らグリーン乗ってみたいな、てv」
 友真のおねだりポーズ。白川は不吉なものを感じた。
「はぁ!?」
「グリーンて、ふかふかなんやって聞きました! 憧れなんです〜!」
 淳紅が潤んだ瞳でじっと見つめる。
「私だって憧れだよ!」
 白川はやっと回ってきた順番に、すぐに窓口に振り向いた。
 だが……何の呪いか。
「え? 指定席、売り切れ……?」
 東京方面最終ののぞみである。舐めてはいけないのだ。


 グリーン車は恐れ多い程に静まり返っていた。
「なんか、あんまり話したらアカン感じ……?」
「でも椅子が違う……! 足おける。気持ちいいー……」
 配られたおしぼりの暖かさに、心もほぐれる。
 新幹線は滑るように新大阪駅を離れつつあった。
「あー、でも今回も楽しかった! 今度から帰省の時、淳ちゃんと先生の予定に合わせようと思うん」
「いや待ちたまえ、それは何かおかしくないかね」
 顔を向けた白川の視界に、立ちあがった淳紅が割り込んでくる。
「あ、先生! 車内販売のおねえさんきたっ! 上等のアイス食べたい……!!」
「落ちつきたまえ、後で車内で食べると言って、何か色々……」
 焼き立てパン、豚まん、イカ焼き、ワッフル……渾然一体となった匂いが溢れだしていた。
 友真が広いテーブルの上にそれらを広げていたのだ。
 だが顔を上げた友真は貪欲に言った。
「アイスは買ってないですう!! おねーさん、すいませーん!!」


 さらば大阪。
 お腹一杯の安らかな眠りを乗せて、新幹線は夜の闇の中をひたすら東へ。

 また戻る日まで、この平穏が変わらず続くように……。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja2261 / 亀山 淳紅 / 男 / 19】
【ja6901 / 小野友真 / 男 / 18】

同行NPC
【jz0089 / ジュリアン・白川 / 男 / 28】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
この度のご依頼、誠に有難うございます。
大阪グルメ紀行第二弾、お待たせいたしました。
他にもおいしいものは色々とあるんですが、とても書ききれないですね。
固有名詞が出せないので色々と制約はありますが、なんとなーく伝わると良いなと思いつつ。
白川は何しに大阪に来たのかよくわからないですが、運命だから仕方ないですね。
楽しい一日をどうも有難うございました!
不思議なノベル -
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エリュシオン
2014年04月14日

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