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『きもちアソート・ティータイム side鈴 』
扶桑 鈴(ib5920)

●春のひかりの訪れと
 バレンタイン、というと『恋愛ごと』という印象が強くて。
 『誰にあげるの?』なんていう会話がセットのような気がしていた。
 だけど。
(……ホワイトデーも、大事な人に、お菓子をお送りすると、聞きました)
 春の香りが近づく季節、一ヶ月前とはまた違った『賑わい』が聞こえ、扶桑 鈴は胸元できゅっと小さな手を握る。
「鈴ちゃーん! 遊びに来たよー!!」
 元気よく訪れたのは、エルクハウンドの神威人で鈴の友人、葛籠・遊生。
 鈴にとって、とても大切な、誰より気持ちを許せる相手。
「……遊生さん……、あの、もしも、よければ、なんですが」
「なになにー? 楽しいことなら大歓迎だよ!」
 視力が弱く、ほとんと目を開くことのできない鈴。
 それでも、好奇心旺盛な遊生の表情は瞼の裏に浮かぶようだった。
 
 ――今度、一緒に、ホワイトデーのクッキーを……作りませんか?

 どきどきしながらゆっくりゆっくり、紡ぐ鈴の言葉へ、遊生は笑顔で頷いた。




 どんなものを作ろうか。
 どんなクッキーが食べたい?
 家にある材料で、買い足さなくちゃいけないものはなんだろう?
 遊生はテーブルへ紙を広げ、アイディアを色々と書きこんでいく。
「クッキーも、色々種類、ありますけど……。何が、いいでしょう、やっぱり甘いの……?」
 鈴が、スタンダードなものから変わり種まで思い浮かべながら、自分たちで作ることのできそうなものを指折り数えた。
「お料理と違って、お菓子は中々つくらないから気合が入っちゃうな。甘くないクッキーなんて、あるの?」
「……お茶の味、とか、どう……でしょう?」
「あっ、なるほど。聞いたことあるね。お茶っ葉を刻むんだっけ。どんな種類でもいいのかな、紅茶かな」
 あれこれ、計画おしゃべりの段階からワクワクしてくる。
 一緒にお菓子作り、はいつでもできるけれど。
 『ホワイトデーのクッキー』は、年に一度なんだから。


「よーし、頑張っちゃうぞー!」
 遊生が用意したのはチョコチップやいちご、それから様々な種類の抜型。
「あ、……ことり、でしょう……か? かわいい……」
 その中の一つを指先で形をなぞり、鈴が小首を傾げる。
「うん、自作してみたんだ。組み合わせて、色んなものに変身させられるかなって! お花も種類あるよ!」
「楽しみ、です」
「ね!!」
 バターを室温に戻すまで、下準備。
 鈴が材料を渡し、遊生が種類に応じて測り分けていく。
「ほとんどは同じベースで作れるんだよね。あとは…… 何か、気になる味とかある?」
 お茶クッキーの用意を進めながら、遊生が振り向く。
「そう、ですね……」
 甘くないクッキーもいいけれど、とびっきり甘いのも、食べて見たいような。
 残った材料で、作れるかな?


 手の感覚だけでクッキー生地を均等に伸ばす鈴へ、覗きこんだ遊生が感嘆する。
「鈴ちゃん、上手だね!」
「そ、そう、ですか……?」
「今度は……麺類も良いかな」
「えっ?」
 何かインスピレーションを受けたらしい遊生。冗談だと気付き、鈴は穏やかに笑った。
 伸ばしたクッキー生地は、一度冷蔵庫へ。
 そうする間に、匙から落とす型いらずのクッキーを焼いていく。
「うわぁ、良い香り……ですね」
「焼きたてならではだね……! 木の実って、ここまで強く香るんだ!!」
 料理だったら、ここまで高温で調理することもないから、遊生も興味津々でシッポがピンと立つ。
「あっ、見惚れてる場合じゃなかった。型抜き、型抜き!」
「そう、でした……」
 数はほどほど、種類は楽しく。
 クッキーは焼きあがるのも早いから、休む間もなく目まぐるしく用意することが追いかけてくる。
 作りたいメニューを色々と盛り込んだら、クッキー生地が順番待ちとなっていた。
「へへ。鈴ちゃん、触ってみて!」
「えーと…… こちらが、犬……ですよね」
「そうそう。それで、こっちには……耳をつけたの!」
「……犬と、オコジョ……?」
「あったりー! 食べちゃうの、きっともったいないね」
 ココア味の犬と、真っ白なオコジョ。
 二人だけの、二人のための、スペシャルクッキー。
 



 プレーン、ココア、チョコチップ。
 紅茶、アーモンド、ストライプ。
 次々と焼きあがるクッキーを相手に遊生は忙しく立ち回り、鈴が慣れた手つきで片づけを進める。
 傍らでは、お湯を沸かしてティータイムの準備。
 優しい香りが室内を包み込んでいた。
(いつも、遊んで貰って、一緒にお出掛けして貰って……。いつも貰ってばかりな気がする……)
 遊生の気配を感じ取りながら、ふと鈴はそちらへ顔を向けた。
(ほんとは、一人で作って、プレゼント出来れば、いいの、だけど……)
「ひゃー、焼けた焼けた! みーんな美味しそう! 鈴ちゃん、お茶にしよっ」
 沈みそうな鈴の心を、眩い遊生の声が照らす。暖かなものをもたらす。


(……去年は一人だったけれど)
 鈴が、クッキーを作らないかと誘ってくれたあの日。
 遊生も、同じことを切りだすつもりだった。
(一緒なら心強いよね!)
 嬉しかった。
 こうして一緒に作ってみて、やっぱりとっても楽しい。
「鈴ちゃん、ありがとう!」
「え、え…… あの、遊生、さん……いつ、も……私の、方こそ……ありが……と……」
 ゆらり。戸惑いと喜びとで、鈴の尾が揺れた。
  

「遊生……さん、あーん」
 いっぱい、いっぱいの『ありがとう』の気持ちを込めて、鈴はクッキーを一つ、遊生の口元へ。
「んっ、美味ッしいー! 紅茶のクッキーだ! じゃあ、そうだな。鈴ちゃんには、コレ!」
「そ、それ……じゃあ……」
 甘い香りを頼りに、鈴は恐る恐る小さな口を開く。
「ふぁあ!?」
「むぐ、なんでしょうか……さくっとしたあと、柔らかくて、甘…… ……?」
 遊生が来た時、いちごを持参していた。それだろうか?
 でも、たしかソースにしたり生地に混ぜ込んで使い切ったと思うのだけど……
「!!?」
 甘噛みしてみて、それが遊生のひとさし指だとようやく気付く。
 顔を真っ赤にして、鈴は後ずさった。
「ご、ごごご、ごめんな、さい……」
「あははは! びっくりしたー!」
 照れくささを隠して、遊生が笑う。
「こういったことも」
 もう一つ、チョコチップクッキーを鈴へ『あーん』しながら。
「一人きりだったら、出来なかったね! 楽しいよ」
「はい…… 私も、凄く……」
(出来れば、これからも、一緒に居られる事が、多いと嬉しい……)




 暖かくて、甘くて、優しくて。
 春の陽だまりをミルクティーに溶かしたような、ほこほことした気持ち。
 大切な、大好きな友達と過ごす、美味しいティータイム。

 ありがとう。
 楽しいよ。
 これからも、よろしくね。

 ありったけの気持ちを込めて焼き上げたクッキーと、一緒に。




【きもちアソート・ティータイム side鈴 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ib5458  / 葛籠・遊生 / 女 / 23歳  / 砲術士 】
【ib5920 /  扶桑 鈴 / 女 / 17歳  / 巫女 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
ご依頼、ありがとうございました。
大切なお友達同士の、クッキー作り&ティータイムお届けいたします。
冒頭で、それぞれの視点で分岐を付けております。
お楽しみいただけましたら幸いです。
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2014年04月14日

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