▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『これもまた、温泉教団における日常風景 』
野村 小鳥(ea0547)

●温泉教団
 温泉教団という名の教団がある。
 教団というからには教義があり、教団設立に至るまで様々な経緯などがあったに違いないのだが、ここではそれについて触れはしない。が、簡潔に確実に言えることがある。
 それは、日々の生活の中心には温泉がある、ということだ。
 では実際その通りであるか否か、温泉教団に所属するとある女性の1日の様子をこれから見てみよう――。

●朝の準備
「おはようございますぅ♪」
 朝早く、そう言って温泉教団――当然ながら温泉のある場所にある――に顔を出したのは、小柄で細身な女性――野村小鳥である。そしてそのまま奥の部屋へと消えていく小鳥。少しして、小鳥は着替えを終えて奥の部屋から戻ってきた。
 その姿は、現代で言う所のいわゆるタンキニと呼ばれるもので、薄手の生地の丈もなかなかに短め。すなわち、肌の露出度も少なくないということである。しかしながら小柄で凹凸控えめな体型の小鳥が着ているからか、セクシーさという点では下がってしまう……現時点では。
 何故小鳥がこんな姿になったのかというと、これが温泉教団での制服であるからだ。つまり、これから小鳥には温泉教団での仕事が待っている訳だ。
「あ、それじゃあ、今日も頑張って行ってきますね〜」
 と他の者たちに言い、小鳥は笑顔で出て行った――仕事の場でもある温泉へと。

●温泉での仕事
「あの〜。初めてでしょうか〜?」
 露天の温泉を前にきょろきょろと、どうすればいいのか困っているらしい様子の少年たちに優しく声をかける小鳥。小鳥の仕事とは、温泉に来た客に入り方を教えることだった。
 温泉に入り方とかどうとかあるのか、と疑問に思う者も居るだろう。ただ入ってしまえばいいだけのことじゃないか、と。いやいや、そこはそれ、何といっても教団だ。皆の幸せに繋がるための入り方があるということだ。
「まずですねぇ、桶にこうお湯をすくい……」
 小鳥は少年たちにも桶を渡すと、同じようにやるよう促した。
「静かに自分の身体にかけて、汚れを落として清めるんですぅ」
 片膝立てて座り込んだ小鳥は、桶にすくった湯をゆっくりと自らの肩口から身体にかけてみせた。
「反対側からもですよ〜」
 もう1度桶に湯をすくい、今度は反対側の肩口から同じようにして身体にかける小鳥。少年たちも慣れない様子ながらも、小鳥と同じように順次湯をかけ終えた。
 これはいわゆるかけ湯というものだが、理屈としてはこういうことだ。汚れを落とさずに温泉に入れば、それだけ温泉が汚れてしまう。湯の入れ替わりがあるとはいっても、その速度よりも汚れる速度の方が上回ってしまうと、温泉はどんどんと汚れていってしまう。だが温泉に入り込む汚れがぐっと減るのであれば、温泉の汚れは最小限となり、綺麗な状態が極力保たれるという訳だ。これはやはり、皆の幸せに繋がるための入り方ではないだろうか。
「はい〜、そうしたら足先からゆっくりと入ってください〜。ドボンと飛び込んだりはしないでくださいね〜」
 小鳥に言われる通りにして温泉に浸かる少年たち。そして、無事に肩までその身体を温泉に沈めたのだった。

●これもまた、仕事です
「よければ、マッサージを受けてみますぅ?」
 温泉に浸かっている少年たちに笑顔で問いかける小鳥。しかし少年たちは少し顔が赤く、多くの者はどこか上の空な様子。
 温泉にのぼせた? いやいや、中にはそういう者も居たのかもしれないが、この場合の原因は温泉ではなく小鳥だった。
 先程小鳥はかけ湯の見本を見せたのだが、湯をかけたということは現在制服は濡れてしまっている訳だ。で、小鳥の着ている制服の生地は薄手なのだから、制服は小鳥の身体にぴたっと張り付いた上に、場所によっては見事に透けてしまっているという状況に。つまり少年たちのこの様子は、今の小鳥の姿に照れてしまっているということだ。
 それでも、おずおずと手を挙げた少年は1人くらい居るもので。小鳥はそれをめざとく見付けると、温泉から上がって敷かれた木の長い板の上に横になるよう、手を挙げた少年に促した。
「身体には気の流れがあってですね〜。その流れに沿うようにぃ……」
 などと少年たちに向けて分かりやすくなるよう説明を入れながら、横になった少年にマッサージを施す小鳥。右へ左へ適宜動き回り、時には身体を密着するようにしながらも、小鳥は熱心にマッサージを続ける。それはもう、全身に汗の玉を浮かばせるほど熱心に。
 凹凸控えめとはいえ、こんな小鳥の姿は格好が格好だけに刺激的だったか、温泉に浸かってマッサージの説明を聞いている少年たちの顔はさらに赤くなる。マッサージの様子もじっと見てはいるが、ちゃんと内容が頭に入っているのかどうか、ちょっと疑わしい。
 と、そんな少年たちの視線の動きに、小鳥が気付いたらしく――。
「はぅ!? 見るのはいいですが、凝視されると恥ずかしいですよぉ」
 驚き、若干照れたように言い放つ小鳥。それを聞いて、温泉に浸かっていた少年たちは一斉に視線を外したのだった……。

●知ってもらうことは大切です
 昼になると、小鳥は温泉を離れて街へと出て行った。手には温泉や教団についてのあれこれが書かれた看板を持ち、そして格好は制服姿のままで。俗に言う布教活動、宣伝活動というやつだ。これもまた、仕事の1つである。
 看板を掲げ、街をゆっくりと練り歩く小鳥。途中声をかけられれば足を止め言葉を交わし、何か問われればそれに対して真摯に答える。時にはマッサージの実演までも行っていた。
「そうですぅ、先程言ったことはこういうことでぇ……」
 マッサージは言葉による説明だけでは分かりにくい。こうして実演を交えることで、ぐんと分かりやすくなる訳だ。が、朝の温泉でもあった通り、制服姿でのそれは刺激的だった。というのも、制服自体の形態もさることながら、丈の短さとあれこれ動き回ることもあって、色々と見えてしまうことがあって……。
「ええと、こういう風なマッサージをするのですぅ」
 ふぅと、やり遂げた感のある溜息とともに顔を上げ、額の汗を手の甲で拭った小鳥は、反応を見るべく周囲をゆっくりと見回した。しかし、顔を赤らめている者やら、何やらニヤニヤしている者やら、はたまた困惑顔の者やらと様々な反応を示しながらも、誰も何とも言ってこない。
「ふぇ、何かおかしいですぅ?」
 いやいや、マッサージ自体は何もおかしくはない。周囲の者たちがこんな反応なのは、色々見えていることに小鳥がまるで気付いていないようだから、どうしたものかと困っていただけのことで――。

●仕事を終えた後
 街から小鳥が温泉に戻ってきたのは夕方だった。そしてまた、温泉で仕事の続きをする。全ての仕事を終えたのは夜になってのことであった。
「うう〜ん…………はふぅ」
 温泉に浸かり、組んだ両手を頭上にうんと伸ばしてから、がくんと肩の力を抜く小鳥。住処に帰る前、1日の仕事を無事終えて入る温泉は至福の一時である。
「えへへ、今日も頑張りましたぁ……♪」
 空を見上げ、笑顔で静かに小鳥はつぶやいた。頭上には綺麗な月が輝いている。
 かくして、小鳥の1日は終わるのであった。

【おしまい】
WTアナザーストーリーノベル -
高原恵 クリエイターズルームへ
Asura Fantasy Online
2014年04月21日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.