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『●HS部〜招かざる客人とおら〜 』
神楽塚・夜見8740)&(登場しない)
 バラエティ豊かな多くな人材が通うマンモス学園の片隅に1つの部屋がある。
 ソファーや書棚。小さくも整えられた応接室風の部室。
 唯一似つかわしくないのはドアに設けられた小さなポストと依頼で使う様々な道具が置かれている事だろう。
 神楽塚・夜見(8740)も含め元中等部生徒会役員6名で作られた『学園手伝い部』通称HS部。
 仕事が入れば突撃する『何でも屋』な部活の部室だった。


●一番乗りと害ある何か
「ただいま」
 教員の代わりにウサギ小屋の修理をしてきた夜見。
「……って、誰もいないがか」

 行きに持っていた大工道具より持って帰ってきた荷物の方が多い。
 巨漢と目つきが悪いので初等部の子供達には泣かれてしまう事が多い夜見だが、
 学年が上に上がるほど女子に隠れた人気がある。
 今日も調理実習後の女子に捕まり、大量のクッキーを渡された為に甘い香りと一緒の帰還であった。

 道具の汚れを落として油を刺し、工具入れを棚に仕舞い込みどっかりとソファに座る夜見。
「………」
 ──コチコチ。
「…………」
 ──コチコチコチ。
「……………」
 依頼に手間取っているのか部員達は中々帰って来ず、時計の針だけが進んでいく。

「………………はあ」
 大きな溜息を吐き、ソファから立ち上がる夜見。
「お茶でも飲むか……」
 電気ポットに水を入れ、マグカップに緑茶のティーパックを放り込む。
 シュンシュンと湯気を上げる電気ポットをぼやっと見つめる夜見だったが、何か視界の隅で動いたように見えた。
「なんだ、ごぜか?」

 気配を感じた下を見る。
 丁度、ポットが置いてあるカウンターと夜見の腕の間にバレーボールサイズの黒い何かが浮いていた。
「なんだ? こりゃあー……黒玉(化け物)か?」
 バチっ!──よく見ようと体を屈めた夜見の目と何かの目が合った。

「わ! たまげた。おんしは、誰だ」
 黒い靄が固まったような球体に血走った目が2つ浮かんでいた。
 只ならぬ妖気と悪意。生への憎しみを感じる視線に夜目の表情が険しくなる。
 人に害なす存在、悪霊がHS部に来てしまっていた。
「学校は依りやすい場所やけど、なんちゃーじゃこがな悪霊を誰が連れてきたちや……」
 おしゃれな部室を台無しにすると反対されて、清め塩を入り口に盛らなかったのが失敗だったのだろうか?
「……あいつらに見られんうちにやっておくか」

 神社の養子である程度の霊は祓えるが、目の前の霊が強ければ真の姿を出さねば祓えぬだろう。
 だがその姿を万が一見られたならば大事な仲間と別れなくてはいけないだろうし、
 強い弱いに関わらず霊がいたとなれば(大切な人達は、決して”普通”の基準に入らないの人達ではないが)
 普通の人には、この場所は気持ち悪く感じるだろう。
 彼らと作り上げた居心地の良いこの場所を、夜見は汚したくなかった。
「しゃんしゃんくるめちゃる」



●これっちゃあお仕事ながやか
「禊は省略するとしたち……あ〜神様に捧げるとさぴかや酒ってどうしようかぇ?」
 外見のみならず高校生である夜見が酒を買いに行けばかなり目立つし、色々尋ねられるだろう。
「この際、とさぴかはインスタントのおかいで代用するとして、どこかに調理酒があった気がするけどな……」
 夜見がウロウロと部室内を歩けば、少し離れた所をフヨフヨと後を着いてくる。
 そんな姿だけを見ればゲームの仲間のように見えなくもない。
「おらが気に入られたのか? おらながか?!」
 ダラダラと嫌な汗を掻く夜見。


 霊にも色々ある。
 己の罪を示す為に恐ろしい姿をしていても人に怪我の警告などを与える良い霊と、
 姿は清らかだが人に害なす霊もある。
 姿は普通だが、(死んでいるのに)人に助けを求めて憑く霊とか、
 他の霊気を取り込み強くなろうとする強欲な霊など様々である。
 この霊が一番最後の強欲な霊ならば、
 夜見の人とは違う霊気に釣られてきた事になり、責任重大である。


 悪霊を無視し、さくさくと準備をする夜見。
 誰も入って来れないようドアに鍵を掛け、部屋の四方に清め塩を盛っていく。
「げっ!」
 チラリと様子を伺えば、さっきまでなかった髪が長く生え、大きく裂けた口までが出来ていた。
 このまま放って置けば更に進化しそうな勢いだ。
 だが、そんなものは進化される前にさっさと片付けるに限る。

「男子たるもの最終的にゃ気合だ。やっちゃるぜ!」
 パン!──両手を打ち合わせ。祓詞をあげる夜見。
「かけまくも かしこきいなりのおおがみのおおまえに かしこみ、かしこみ、もまをさく──」

 だが、悪霊に変化は見られない。

「ふ……流石に簡単にゃ退治こたわんな。流石、おらが見込んだ敵だ」
 続けて大祓詞をあげる夜見。

 悪霊に──変化なし。

「これならどうだ!」

 半分涙目で続けるのは、稲荷五社大神祓である。
「たかまがはらにかみづまりますすめむつかみろぎかみろみのみことをもちて──」
 チラリと悪霊を見る盗み見る夜見。
「おお、効いちゅう。効いちゅうね♪」
 悪霊はフヨフヨと飛ぶのを止め、地面に落ちてバタバタと苦しんでいた。


 実際、陰陽道とは違い神道は、神を讃える神職である。
 穢れを祓う祓詞は少なく、現存するのは祝詞ばかりで後がない。
 それ故、夜見も稲荷五社大神祓で聞かなければ拳で戦うしかないのか?
 と若干不安になりかけていたところだった。
「このまま一気に決めちゃる!」
 再び稲荷五社大神祓をあげる夜見。


 見る間に力を失っていく悪霊は段々と小さくなり、
 バレーボールサイズが、ピンポン玉のサイズまで小さくなっていた。
 コロコロと転がり逃げ出していく悪霊に焦る夜見。
 ここで逃がしたら他の誰かに迷惑が掛かる。思わず──

 ──ダン!

「あ、しもうた。おもいっきり踏んだ!………あ、でもごぜやから汚くないがか?」
 恐る恐る足をどけると悪霊はぺちゃんこに潰れていた。
 だがピクピクと痙攣するその姿は、逆に潰れたゴキブリのようにも見えて気色悪い。
 止めとばかりに清めの塩を盛って埋めていく夜見。
「ふ……これでこぎっちり一貫の終わりだ」
 いい汗掻いたと額を拭う夜見だった。






 祓いの儀の片づけ、皆がいつ帰ってきても良いように鍵を外してソファに座る夜見。
「あ〜滅茶苦茶ことうたちや」
 気が緩んだのかうっつらうっつら船を漕ぎ始める。
「皆がはよぅいきこないかぇ……」

 ***

「ただいま〜」
「遅くなってごめん」
「皆も今、帰り?」
 部室の前で他の部員達が鉢合わせる。
 情報屋がメンバーを見渡しこう言った。
「夜見さんだけが、早かったのかな? 一人で先に帰っちゃったかな」
「ないない。頼まれた仕事は一番最初に終わっても頼まれていない仕事をしているとか」
 金髪の美少女と見間違おう少年が言う。
「「「ありえる!」」」
 顔を見合わせてきゃははと皆で笑い、ドアを開けて部室の中に入る部員達。
「あ!」
「何々?」
 中に入った部員達が見たのは、ソファで幸せそうに寝落ちている夜見の姿だった──。






<了>



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【8740 /  神楽塚・夜見 / 男 / 16歳 / 高校生】
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東京怪談
2014年05月07日

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