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『男なら焼肉、だろ? 』
百々 清世ja3082)&ランベルセjb3553




 けたたましく鳴り響くチャイムに、ジュリアン・白川は重い腰を上げた。
 玄関ドアを細く開けてみる。
 そこには満面の笑みを浮かべた百々 清世が立っていた。
「やっほーじゅりりん。どーせヒマしてんだろ? 外で焼肉食おーよ」
 暇人、外食、内容は焼肉と、決め打ちの三連打である。
 白川はこの扱いにかなり慣れてきたと思っていたが、それでも頭を抱えた。
「いや待ちたまえ。こちらの都合というのも多少はだね……」
「えーだって、前にメシ奢ってくれるって言ったじゃん?」
 そこで白川は言葉に詰まる。確かに以前、少なからぬ恩義があり、いずれ食事でも奢るとは言ったのだ。

 まあ結局いつもの通り、ペースに乗せられた訳だが。
 諦めてドアを開いた白川は、今まで見えなかった人影に気がついた。
 如何にも渋々という表情で立っているのはランベルセだった。
「あれ、二人初対面だっけ……? まあいいや。じゅりりん、これべるせー、俺の友達。べるせー、これじゅりりん、俺の先生」
「先生? 何を教わった先生だ? 授業なんか受けてたのか百々」
 ランベルセが僅かに眉を顰め、疑わしそうな眼で清世と白川の顔を交互に見比べる。
「ハハハ、偶には授業に出たまえ。……ランベルセ君、君もだ」
 ちなみに清世もランベルセも、白川がしばしば授業を担当する大学部の学生である。
「こまけーこといーじゃん。それよりじゅりりん、早くー。どーせまた色々お着替えとか、時間かかることすんだろ?」
 清世が口を尖らせて言うと、ランベルセがまじまじと白川を見つめる。
「お着替え……? 先生はこう見えて、実は女性なのか?」
 ずるずるり。白川が壁に縋りついた。




 事の発端は、ランベルセの偏食だった。
 元々天使は食事を必要としないが、堕天したからにはエネルギーを食物から得るしかない。しかしランベルセにとって食事は大いに苦痛なのだ。
 特に肉は苦手である。飲み込むまでに何度も噛む必要があり、しかも大抵の場合香辛料だのソースだの、やたら刺激の強い味がついている。
 そういう話をしていると、清世が断言した。
「えー、べるせー肉食わねえの? そんなんじゃダメだよ男なら肉食えよ!」
 ぐぐっと顔を近づけて、更に止め。
「女の子だってさー、だいたいは肉がっつり食う男が好きだよ?」
 ランベルセは理解した。がっつり肉を食う男になって、憧れの君に認められなければならないと。
 ……この辺りの真偽のほどはともかくとして。
「やったー、焼肉デートだ! あ、でも今、財布ねえわ。じゅりりん連れてこ!」
 という軽いノリで、白川は連行された訳である。

 一同は清世お勧めの焼肉屋に腰を落ち着ける。
「別に俺が肉食いたいとかじゃねぇから! 今日はべるせーがメインな?」
「わかったわかった」
 うきうきとメニューを開く清世に、白川は思わず噴き出しそうになった。
「取り敢えず飲み物ね。俺、生でー。じゅりりんも生でいい?」
「あ、うむ」
 その反応に、清世がほんの少し鼻白んだ様な顔をする。
「え、何。女の子いねぇんだから別にビールがっつりでもいいでしょ……」
「いやいや違うんだ。珍しいな、と思っただけだ」
 白川が笑いながら手を振る。
 普段の清世は缶チューハイなど甘いものを好むことが多いので、生ビールといういかにもな(ある意味ではちょっとおじさんぽい)注文がどこか珍しく思えたのだ。勿論、良い意味で。
「んじゃ、べるせーも生でいい?」
「飲み物なら水がいい」
 ランベルセが強く主張する。
「えー、ウーロン茶とかじゃなくて?」
「水がいい」
 頑なに首を振るランベルセだった。




 テーブルコンロに火が入り、熱気が押し寄せる。
 次々と運ばれて来る肉や野菜の乗った大皿、そしてビールのジョッキ。
「これは何だった?」
 ランベルセは白い泡の盛り上がった大きなジョッキを、疑わしそうにちらりと見た。
「肉っつったら当然生ビールじゃん? べるせーもやっぱり飲みたい?」
 清世がジョッキを持ちあげて見せる。
「生とはビールのことだったのか。酒は飲まない。飲まされた事はあるがろくでもなかった」
 ランベルセが何やら嫌な事を思い出したとばかりに、僅かに顔を歪めた。
「いやいや、焼肉とセットの場合には、ビールは水だ」
 白川はニヤリと笑いながらジョッキを傾ける。普段にあるまじき暴論が炸裂。
「水……?」
 ランベルセは乾杯のグラスを合わせつつ、二人のジョッキを満たす黄金色の液体を見つめる。

 やがていい具合になった網を見て、清世が箸を取り上げた。
「もういいよな、焼肉ー!」
「待て!」
 タレの滴る骨付きカルビをつまんだ清世の箸を、白川の箸が鋭く遮る。
 ……行儀悪いな、しかし。
「最初はタン塩からだ。味が混ざるし、網が焦げる」
 異様に真剣な白川の顔と声音である。
「えー、どうでもいいじゃん。同じ肉なんだし……」
「どうでも良くない。牛に失礼だ」
 もう意味がわからない。
 早い話が、白川は網奉行だったのだ。
 それからも、やれ生肉を扱う箸と口に持って行く箸は分けろだの。やれ大量に網に乗せるなだの。やれ焼き過ぎて肉を台無しにするなだの。やれバランス良く野菜も食えだの。
 白川はそのお奉行振りを存分に発揮した。

「もー、じゅりりん、どこかのおばちゃんみたい」
 そう文句を言いつつも、清世は気持ち良い程に旺盛な食欲で肉を平らげて行く。
 要するにお奉行のやりたいように任せれば、ちょうど焼き上がった肉が自動的に皿に乗って来ると気づいたのだ。
「そう言いながらしっかり食べているではないか」
 お陰で白川は、それこそお母さんのように忙しく肉を焼き続ける。
「や……まじ久々の肉ってーか、焼き肉だし?」
 そこで清世はランベルセの皿を窺う。
「べるせー食ってる? さっきから皿、ずっと緑じゃない……?」
 ランベルセの取り皿にあるのは、キャベツ、ピーマン、サンチュの葉っぱ、そんな感じである。
「緑だけじゃない。白、黄色、茶色、紫、ほら」
 あ、サンチュの陰に、タマネギとコーンとシイタケとナスが潜んでいた。
 ランベルセはそこにまたキャベツを追加する。
「焼肉に来てんだからさ、ちゃんと肉も食べよ? ほらこれ、ちょうどいい感じに焼けてるよー」
 清世が程良く焼けたロースを何枚か取り上げ、新しい取り皿に入れてランベルセの前に置いた。
「……余計な事するな」
 だがランベルセはその肉をぶすりと箸で付き刺すと、清世の口にねじ込む。
 実は箸を使うのは余り得意ではないのだ。
「ちょ……べるせー、まってまって」
 もごもごと清世は突っ込まれた肉を噛む。
「それに肉なら食っている」
 いかにも面倒そうに咀嚼するランベルセの口の中には、確かに一切れの肉が入っていた。どこで飲みこんでいいのかわからず、ずっと噛み続けている肉が……。




 白川はランベルセの様子を興味深そうに眺めていた。
 天魔に関する研究を続けている為、やや失礼な話ではあるが、彼ら独特の嗜好を面白いと感じるらしい。
「ランベルセ君、口の中がさっぱりすると思うよ」
 デザートのシャーベットを注文し、ランベルセに勧める。
「有難うございます」
 果実の皮に詰まった氷菓は、口に入れるとほろりと溶けて行った。
「やっぱ偶には焼肉食わねーとねー。じゅりりん、ごちでーす!」
 ほろ酔いの清世はご機嫌である。
「ほら、べるせーもちゃんとお礼言えって!」
「お礼……?」
 スプーンを置き、ランベルセは白川の顔を見つめ暫し考える。
 そして不意に椅子を引くとずいと身を乗り出し、白川の頬に唇を寄せた。
「な……!?」
 椅子を蹴倒しそうな勢いで白川が距離をとる。
「お礼と言えばこれでいいんだよな? それとも先生の授業料はもっと高いか?」
 ランベルセはふざけている訳ではない。それは白川にも充分理解できた。
 ので。
「……ランベルセ君、そういう場合の授業料とかいう言葉は誰から教わったのかな……?」
 頬を押さえる白川の笑顔が強張っている。
 犯人を特定したら、学園に保護した堕天使に妙な事を吹き込まないようにしっかり指導せねばなるまい!

 白川がそう思った時だった。
「あれーべるせー大丈夫? なんかふらふらして……」
 清世が言いかけたところで、ランベルセは据わった目をしたままふらりと仰向けに倒れかけたのだ。
「おい、大丈夫かね!?」
 慌てて白川が席を立ち、ランベルセをひとまず壁際の椅子へ移そうとする。それを手伝いながら、清世がランベルセの顔を覗き込んだ。
「ちょ、べるせー、こんなので酔うとかマジウケるし」
 ランベルセは多少危なっかしい口調で、ぼそぼそと主張した。
「あれは水じゃない。やっぱり酒だ」
「え?」
 指さす先には、黄金色の液体が僅かに残る小さなコップ。
「まさか……」
「べるせーが水だったら味見したいーて言うから、おにーさんちょっとだけわけてあげたのー」
 ほろ酔い清世は無責任にけらけら笑った。
「先生が嘘をつくとは思わなかった。もう眠い」
 かくり。
 首を前に落とし、ランベルセはすやすやと寝息を立て始める。
「あーあマジ寝ちゃった。じゅりりんのせいよ? ちゃんと連れて帰ってやってよー」
「おい、何故だ……!!」

 教訓。
 堕天使の取り扱いには重々注意すべし。

 その後白川の自宅が、二次会会場になったことは言うまでもない。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【ja3082 / 百々 清世 / 男 / 21 】
【jb3553 / ランベルセ / 男 / 25 】


同行NPC
【jz0089 / ジュリアン・白川 / 男 / 28 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
ショッピングデート以来の焼肉デート、ご一緒させていただきNPCも楽しく(?)過ごしたことでしょう。
それにしても堕天使さんも色々と大変そうですが。
良いお友達のお陰で日々人間界について学習されているようで何よりです。
今回のご依頼、誠に有難うございました!
■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
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エリュシオン
2014年05月21日

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