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『●大神楽温泉 〜魚と金。青がついても缶ではありません。猫です。〜 』
ミスティア・フォレスト(ha0038)
「おかしい。いつもならこの辺りにいるはずなのに……」
 その日、ミスティア・フォレスト(ha0038)は、世の中の理不尽さを感じていた。

 ミスティアは、別に汚いのが好きな訳ではなかった。
 ただ単に人より怠けるのが好きであり、怠ける為の努力を惜しまないだけであった。
 その為の必然と言うべき結果、
 部屋は物が溜まりまくる倉庫系汚部屋。
 己の体を洗うのも面倒で、偶に入る風呂もカラスの行水になっているだけである。

 そんなミスティアが本日、頑張ってるのには理由があった。
 ギルドの謝恩会で『大神楽温泉』へ皆で行くのであった。

 大神楽温泉といえば、ペット飼い憧れのペット同伴可能な温泉施設である。
 普段サバをコキ使っている事もあり、偶には癒してやろうとミスティアは部屋の中を探していた。
「いい加減に出て来なさい。我は汝の主だろうが」
 乾き餌と水以外は、汚部屋のアクセサリー的生物や酒場の生ゴミ、下水道の爬虫類がオヤツと自己調達をするサバであるが、
 さっきまで着替えをカバンに詰めていたミスティアの側にいたので、部屋の中にいるのは間違いなかった。

 ──カサっ。
 何かが動く小さな音をミスティアは聞き逃さなかった。
 汚部屋につきものの付属品な黒いあん畜生か、はたまた猫か。
 頭で考えるより素早くミスティアは、行動した。
 目にも留まらぬスピードで大きなゴミ袋を持ち上げると──そこにはドヤ顔でネズミを銜えたサバがいた。
「シャフーッ!!」
 朝ご飯を取られまいと威嚇するサバからネズミを取り上げ、バスケットに放り込と集合場所まで走っていくミスティアだった。

 ***

「ミスティア・フォレストさんと猫のサバちゃん、一匹ですね?」
「は、はい……」
 ぜぇぜぇと息を切らし、あっちこっち引っかき傷だらけになっているミスティアとサバに、
 眉を顰めながら引率のギルド職員がミスティアの名前と猫の特徴を受付ノートに書き込んでいく。

 面倒でも解散時間に一度、集合して欲しいという職員。
「お酒の飲みすぎとか間違って人のペットを持ってきてしまう人もいますからね」
「そうなんですか」
 集合場所と時間を確認し、入場券を受け取ったミスティアは入泉受付を済ませ大神楽温泉へと入っていく。



●ペット風呂
「おお、噂どおり凄い」
 広い風呂場に感心するミスティア。
 中は混んでおらず、これならサバとゆっくりと出来そうである。

 ジタジタと暴れるサバと共にかけ湯をした後、湯船に足を浸けた瞬間──ぶわっと怪しい何かが、湯船に広がった。
 他の客の視線が、一斉にミスティアに集まる。
「うえええっ、誤解です」
 必死に弁解するミスティアだったが、汚水大量生産はやめろと洗い場に放り出されてしまった。

 だが、本当の事を言えば若干心当たりがある。
「そういえば丸々ひと冬、サバ洗ってませんね……」
 何のことでしょう?──と可愛らしく鳴く錆柄のサバを見るミスティア。

 サバは、元々薄い鯖柄猫である。だが今は汚れて、錆柄猫と化している。
 気がつかなかったが、サバは恐らくエカリス一の汚さを誇る汚猫になっているのだろう。
 サバを洗うのも面倒で仕方がないが、癒す為に連れてきた温泉で温泉に入れないのは余りにも残念すぎる。

 ジタジタと暴れるサバを洗い桶の湯に浸けるミスティア。
「わっ!」
 思わず声を声を上げてしまったミスティアだったが、声を聞かれなかったかとキョロキョロとあたりを見渡す。
 透明な湯がサバを浸けた途端、ドス黒くなり、分析するのも恐ろしい謎の物体が次々に浮かんでいた。
(見なかった。私は何も見なかった。……そう、こんなの洗えば綺麗になる)
 癒しの場、風呂場だというのに嫌な汗を掻くミスティア。

 気を取り直してミスティアは、湯桶のお湯を何度か変えていく。
 サバの毛がしっとり濡れた事を確認し、別の桶で泡立てた愛用のミント石鹸の泡をサバに付けていく。
 体中に泡が行き渡った所でサバの体で更に泡立てるはずが──何時までたっても泡立たない。
 というか、いつの間にか泡が汚れで消えている。
(かくなるは……)
 サバの体にミント石鹸の原液を直噴射するミスティア。
「おお♪ 漸く泡が♪ 鯖柄が♪」
 激しく抵抗していたはずのサバが大人しくなり、ふるふる震え始めていた。
「む?」
 何事かとサバを覗き込むミスティア。
「……フギャアアアア!」
「くっ! 熱暴走か?」
 猫にとってミントと柑橘の匂いは、苦手なものである。
 ミスティアのミント石鹸は臭い隠しの意味もある為、香料が強く、直撃はサバにとっては地獄同然。
 我慢の限界を超えたサバは、ミスティアに爪を立て、必死の抵抗をする。
「今、泡を流してあげるから、もうちょっと待って」
 飼い主と飼い猫。
 普段、何気ない言葉が通じたりするものだが、パニック状況の猫には通じない。
「逃げるな! 痛っ……」
 引っかかれた痛みに手を離してしまったミスティア。
 あちこちの壁に激突しながら逃げていくサバの向かった先に牛乳風呂があった。
「ああぁあっ……」

 どぼーん!──絵に描いた様な水柱を上げて湯船に落っこちるサバ。

 サバが溺れると焦って駆け寄ってくるミスティア。
 だが──
「あ? あれ?」
 猫掻きで湯船の反対側にたどり着くとサバは何事もなかったように淵に上がり、
 ぶるぶると湯を振り落とすと、牛乳風呂の残り湯を舐め幸せそうに毛繕いをしていた。
(我の立場って?!)

 がっくり膝を落とし、思わず涙が出そうになるミスティアの後ろで、ピチャピチャとサバがお湯を飲んでいた。
「飲むな!」
 何、これって飲んじゃ駄目なの? じゃあ、あっちのはいいよね?──とばかりに隣のフルーツ風呂に向かうサバ。
 湯船に浮かんだフルーツを狙う。
「浮いた果物を食うな!」

 ***

 何はともあれ、ふっくらほっくり。温泉でしっかり綺麗になったサバを抱えて、集合場所にやってくるミスティア。
「ミスティア・フォレストさんと猫一匹……って朝と猫違っていますよね?」
「え? いえ、あってます。あれは我のサバで……」
 汚れて錆柄だったと必死に説明するミスティア。
「柄が変わる程、汚れていたって言われても」
「本当にそうなんです」
 そんな人間同士のやり取りを暇そうに見ていたサバであったが、
 子供が落とした焼き鳥をゴミ箱に放り込んだのを目にするとミスティアを踏み台にし、一目散でゴミ箱へとダッシュする。

 綺麗な飛込みでずっぽりとゴミ箱へ飛び込むサバ。
 あっけに取られるギルド職員とミスティアを前で、ゴトゴトガサガサとゴミ箱が揺れる。
 暫くして、
「ニャア〜♪」
 餌、ゲット!──とばかりに満足そうな鳴き声と共にひょこり顔を出すサバ。
 全身、焼き鳥のタレやらゴミ屑やらに塗れ、謎物体が出来上がっていた。
「……どうやらミスティアさんのおっしゃるように、サバちゃんで間違いようですね」

(初対面の人に哀れがられてしまいました……)
 擦り傷を増やし、頑張って風呂に入れた苦労は何処へ行ったのか?
 ちょっと泣きたいミスティアだった。






<了>



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ha0038 / ミスティア・フォレスト  / 女 / 21歳 / ソーサラー】
■イベントシチュエーションノベル■ -
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The Soul Partner 〜next asura fantasy online〜
2014年05月23日

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