▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『ワケアリMEN'sアイドル☆トキメカKnight 』
リンド=エル・ベルンフォーヘンjb4728)&百々 清世ja3082)&カーディス=キャットフィールドja7927)&花見月 レギja9841)&上杉・浩一jb1888)&ユグ=ルーインズjb4265


「君、カッコイイね! アイドルにならない?」
 きっかけは、街中でのスカウト。


「あい……どる……? ……たい焼きは報酬に含まれるのか?」
 一般人への警戒心を解ききれないリンド=エル・ベルンフォーヘンは、鋭い眼光と裏腹な質問を返し、

「そこさわっちゃらめぇぇぇえええ!」
 ふんわり黒猫着ぐるみ姿のカーディス=キャットフィールドは、スカウトマンの慧眼に悲鳴を上げた。具体的にいうと背中のファスナーを発見され絶叫した。

「あら。アタシ?」
 振り返ると同時にスカウトマンが硬直するのを見て、ユグ=ルーインズが悪戯っぽくウィンクを飛ばす。

「へー、いーよいーよ。ヒモ生活ばっかも、女の子に悪いしねー。あ、美味しいモノ食べに連れてってくれる?」
「ヒ、モ……?」
「硬いアタマじゃやってけないっしょ? だいじょーぶ、おにーさんこうみえてなんでもできる系!」
 10年来の友人のように気安く肩を叩いて応じる百々 清世の纏う空気は、安心感というよりデンジャラス。

「え? あ、バイトなら……ちょうど、探していたんで。事務所? ……ええと、俺は……」
 声を掛けられた理由も内容も全く分からず狼狽えるのは花見月 レギ。
 新学期の諸々や武装、生活用品を揃える為に街へ出て、頭の中はそれで占められていたから。
「背に腹は、変えられない……か?」
 ヘヴィな返答に、スカウトマンの方が引いたなど。

「三十路超えですが何か」
 上杉・浩一が、疲れた表情で振り返る。
 いいねいいね、そのアンニュイな空気。若い子には出せない―― スカウトマンが煽てようとしたその言葉こそが地雷だった。
「若 い 子 に 負 け る か よ」
 一時のテンションだったと、浩一は後に語る。




 かくして、小規模アイドルプロダクションにスカウトされた六名の男性陣。
 コンビニ弁当とペットボトルのお茶を間に挟み、初顔合わせとなる。
 此処へ来た経緯から一通りの自己紹介を済ませ、少しだけ張りつめた空気が和らいだ。
「スカウトマンだと思ったら、プロデューサーだったのか」
 あとは若い者同士で、などと言って雑務に追われ部屋を辞した男の姿を思い出し、浩一がポソリ呟く。
 どこか疲れたような風貌の男は、唯一の三十路越え。
 気を抜けば無精ひげなんてこともあるので、とりあえず来たからには気を付けないといけないんだろうかと若い面々を前に内心では落ちつかずにいた。
「ぷろ……? なんだそれ、たい焼きより美味いのか?」
「たい焼きより離れろ。なんで君だけ弁当じゃなく、たい焼きなんだ……」
 キョトンとするリンドへ、浩一が項垂れる。
 見るからに人ならざる者の姿――龍人のリンドだが、そこにこそ誇りを持つが故、振舞いは堂々としたものだ。
 堂々と構えていればいいのだが、嗜好は庶民に寄っている模様。
「えー。たい焼き美味しいじゃーん? それ、何味ー?」
「小倉だ。やらんぞ」
 順応性ピカイチの清世は、十年来の友人が如くリンドの肩へ腕を回して覗き込むが、言外の要望はぴしゃりと断られた。
 なるほど納得のスカウト受けの良い容姿とノリと、言うべきだろうか。
「まぁまぁ。せっかく集まったことですし、流れは全く分かりませんけどコンビニお茶より温かいものでも飲みましょうよ〜」
「あ、ありがとう、……黒猫、さん? 良い香りの、紅茶だね……」
 カーディスが、場の空気を和らげるように紅茶をふるまう。身長192cmながら、愛くるしさと紳士的ふるまいを発揮。
 レギはカップを鼻先へ近づけ、幸せそうに表情を緩める。
 異国での生活が長かった青年には、どっか懐かしさもあるようだ。
「紅茶も良いけど…… カーディスちゃん? 一度でいいの、ちょっとモフッとさせてもらえないかしら」
「か、かまいませんがユグさん、目の輝きが尋常じゃ ……ッアー!!!」
「零れると火傷するな」
 モフモフに目が無く、虎視眈々と機会を狙っていたユグが耐え切れずカーディスへ抱きつく。抱き付いて押し倒し、その柔らかな胸元に顔を埋めて満喫。
 反動で宙を舞ったティーポットをリンドが跳躍とともにキャッチ、自身のカップへ注いでたい焼きの供に。

「……あはっ」

 一連を見守っていたレギが、距離を探り合うような空気を打破するような、笑いを零す。
「なんだかよくわからないまま連れてこられたけど…… 楽しそう、だね。改めて、みんな、よろしくお願いします」
 個性豊かすぎるメンバーで、逸早く『良心』ポジション誕生の瞬間でもあった。




 四方八方から浴びるフラッシュ。
 うら若き乙女たちの黄色い声。
 BGMは、実は自分たちのデビュー曲らしい。ちなみに歌詞を完璧に覚えているメンバーは誰もいない。
「キミのHeartが今夜☆ターゲット」
「トキメかせてShow Time!」
「上等下剋上、酸いも甘いも噛み分けて」
「人類亜人類非人類、境界なんてゆるふわOK♪」
「護りぬこうか、騎士らしく」
「姫君らしい、君らしく」
「「ワケなんて聞かないで、今トキメカないでいられない」」
 ――ワケアリMEN'sアイドル☆トキメカKnight!



 ……どうだろう(色んな意味で)。
「あ、ユグちゃん凄いイケメンー」
「ありがと。アタシ、写真映りだけは自信あるわ。写真だけでどうにかなんないかしら〜……。キャラ作り、30分で限界よ」
 ファンの前では上品な貴族青年よろしく振舞うユグも、楽屋に戻れば素に返る。
 プロデューサーも声を掛けた時にギャップに驚いたというが、いわゆる『オネェ』口調。
 本来は乙女系を愛するため、叶うなら客席側に居たいくらいだ。
 隣に着ぐるみカーディスちゃんがいるから頑張れる、その反面、モフモフとの誘惑と戦い続ける辛さもある。
「俺はもう仕事やだよー、ヒモ生活に戻りたいよー」
 ユグのブロマイドをテーブルに置き、清世が泣きながら突っ伏す。
 自由時間が無い。なにこの拘束時間。プライベートで女の子と遊んじゃダメとか地獄でしかないし。
「まぁまぁ、泣かないでください。はい、お茶です。今日はシーズンの物を手に入れたんですよ」
「ヒモ……生活? ひもじい生活とは無縁だとは思うが」
 たい焼き補給をしながら、リンドがペシッと青年の頭を叩いてみる。
「あー、うんー。プロデューサーに連れてってもらうご飯は美味しいよねー。今日はどこだろ」 
 少しだけ、清世の気持ちも浮上したらしい。たい焼きを分けてもらい、カーディスのお茶でホッコリする。
「リンドさんは…… たい焼き縛り……ですか?」
 ずっと、気になっていたのだけど。
 レギが、おずおず訊ねる。
「運動さえすれば好きな物を食べて良いって言われたのでな……。レギ殿こそ、毎日コンビニ弁当の様だが」
「あっ、これは…… コンビニじゃなくって……事務所の近くに、手作り弁当屋さんを見つけて……。安くて美味しいんだ」

「アイドルの会話かよ」

 居たたまれなくなって、浩一がツッコミを入れた。
 正式デビューまで一ヶ月を切り、告知イベントや各種取材が増えてきて。
 その合間を縫って歌にダンスと分刻みのスケジュール。
 泣き言がこぼれる気持ちもわかる。
 たぶん、この中では清世の感想が真っ当のように思う。
(……若いって、タフだよな)
 口にしたら負けだと思い、浩一は一番の泣き言は胸の中に。それをできるのが大人の男ってやつだ。知ってる。
 外見年齢は20歳前後がメインのグループ……とまとめるには、着ぐるみが居たり悪魔が居たり天使が居たりでまとまらない。
 レギはユグとも違った色合いでの『王子枠』を欲しいままにしている。
 本人に自覚が無いだけにドナドナ感ハンパなく、既に固定ファンからは『ドナドナ王子』と呼ばれている。
「レギが『ドナドナ王子』、ユグは『光の貴公子様』だっけ。他になんか、ニックネームついたヤツいたか?」
「はいはーい! おにーさん、セクシーアイドル!!」
「セクシーっていうかスキャンダルだよな? デビュー前にファンに手を出したって週刊誌に載ったのびっくりしたわ」
「あ、でも…… 余裕のピースサインだったから、週刊誌のヤラセじゃないかって鎮火早かったよね……。さすがだと思った」
 パァンと件の週刊誌を丸めてたたきつける浩一へ、レギがフォローを。
「あと、こーちゃんは『若作りイケメン』って呼ばれてたよー」
「なん……だt 腰が」
「ごめん浩一ちゃん、アタシもそれはフォローできないわ……」
 ハンカチで涙を拭うそぶりを見せ、ユグが顔を逸らす。
「マッサージして差し上げますよ、はいゴローンしてくださーい?」
「カーディス、一緒に行動してからお前の素顔、一度も見たことないんだが…… あ、そこ。いや、も少し下」
「余計なことは、忘れちゃいましょうね〜」
「うーわー、極楽ー」
「……そんなに良いものなのか? 次、俺も頼んでいいか?」
 カーディスにマッサージを受け、悦に浸る浩一の表情を見てリンドが興味をそそられたようだ。
「リンドちゃんは……ほんと、黙ってれば……ってやつよねぇ。『ギャップの悪魔様』でどうかしら」
 戦士らしく引き締まった体躯も、凛々しい顔立ちも、申し分ないのだけれど。
 微妙にズレている部分が、時として非常に残念に映る。
「母性本能がくすぐられちゃうってところ?」
「俺は…… ユグ殿の何かをくすぐっているのか……?」
「うふっ、そうね?」
「…………」
「なんで青ざめるのよ」




 地鳴りのような、低いビートが腹の奥まで響いてくる。
 リハーサルでの手ごたえは十分。
 歌詞? 振付? アドリブで乗り越えるスキルは万全だ。
 舞台袖から覗くと、ダウンした照明の向こうにギッシリと観客が。
(マジか)
(マジね)
(マジですね〜)
 腰を押さえ、浩一が顔に青筋を立てている。
 リハーサルで張り切って、腰の爆弾テンカウントスタートしてしまった。
 カーディスとユグが様子を見て、非情なる診断を下す。
(いざとなれば、浩一殿ひとりくらい俺が抱き上げて踊るぞ?)
(リンド君…… それ、カッコイイね)
(安心しなってー、女の子の視線は俺が集めるしぃー)
 場を和ませようと清世が笑い、そこでハタと空気が凍った。

「「センター、決まってないよなそういえば」」

 デビューのステージまで、テンカウントスタート!




 照明が完全に落されたステージに、レギとユグの伸びやかなハーモニーが響く。
 アカペラの肉声に、観客席は息を呑む。
 清世と浩一のボイスパーカッションが重なり――
 ライトアップと同時に色鮮やかな花火スプラッシュ、アクロバティックに天井からカーディスとリンドが舞い降りる。

「On your mark!」
「Get set!」
「Go!」

 駆けあがれスターダム、君の手を取って
 ほとばしるスキャンダル、君は護るよ僕の背中で

「♪この瞳の奥は 決して探らないで」
「♪全て委ねてしまえよ 泳ぐたい焼きのように」
「♪めくるめく 生活苦 乗り越えてゆく――――WOOOOOO!」

 カーディスのソロから、リンド、レギのアドリブでしかない繋ぎが続く。

「♪Kingt,Night 今夜は離さない 君は僕の大切な」
「♪Kingt,Night 若さの秘訣 恋するHeartは永久(とわ)の魔法」
「♪韻のステップ、それだけで アドリブ成功と思うなYO―――― SAY!」

 煌めくウィンク、清世と浩一が熱く歌い上げたところへ高い歌唱力の無駄遣いでユグがツッコんだ。
 同時に白煙。スタッフさんも解ってる。

 サビの部分は大丈夫、キャッチーなフレーズを口ずさみながら各自得意のダンスとステップ。
 正統派アイドル系から社交ダンス系まで、ジャンルは雑多だがそれもまた持ち味。
「FOOOOOOO!」
 テンション上がってきたリンドが、白銀の槍を取り出して演武を見せる。
 振るわれるたびに滴る赤い血は客席へ届く前に消えてゆく。
 忘れられがち、実は俺たち撃退士!
 勇猛な姿に、黄色い声が一際高まる。
「あ! リンドちゃんずるい」
 女の子とられたー!
 しかし、すぐに取り出せるアイテムがあるでなし、清世はダンスをしながら閃き一つ。
「キヨセ! 脱ぎまぁーっす!」
 無茶したブレイクダンスで、浩一がその足を払った。




「今日は、来てくれて本当にありがとう。こんなに素敵な姫君たちに会えて……幸せな夜でした」
 マイク越しに、貴公子然としたユグの声が響く。
 ユグ担女子たちがフラリと倒れる。

「あの、……えっと。すごく、素敵なメンバーに恵まれて……とても楽しく公演が出来ました。また、来てくださいね」
 \レギちゃーーーん!!/
 告知イベントと打って変わっての純粋な姿、ソウルフルな歌声に、ファンたちの間で印象がガラリと変わったのはレギだろう。

「正直、アイドルってのはわからんが……。どんな姿でも好意を寄せてもらえるというのは、むず痒いものがあるな」
 本邦初公開、はにかみリンド。
 翌日、芸能欄の一面を飾ることとなる。

「中の人なんていません、見たままの私を愛してください」
 巷では『中の人はイケメン説』が巻き起こっているが、カーディスは黒猫姿を貫いて。

「街中で見かけたら、いつでも声かけてねー♪ 遊んでくれる女の子、募集中ー!」
 イケメンなのに、フレンドリー。
 清世のピースサインにキャアキャアと歓声が上がり、ユグがマイクスタンドでその背を叩いた。

「最後まで、この場に立てたことを誇りに思う。……お嬢さんたち、良い夢を」


 浩一の渋い声とともに、会場は静かに暗くなる。
 夢の夜は、こうして幕を下ろした。




「こーちゃん、大丈夫ー?」
「だ、だいじょうぶじゃない、応急手当たのめるか」
「え? おにーさん取得してないよ? 戦場とか行かないし」
「インフィルトレイタァアアアアア」
「みんながみんな、持ってると思うなよー 偏見はんたーい」
「そうねぇ、アタシも偏見は良くないと思うわァ?」
「ユグさん…… がんばりましたね……」
「もーっ、辛かった! ありがと、レギちゃん。カーディスちゃん! 癒して〜〜!」
「こ、浩一殿、待ってろ救急車へ連れてってやる!」
「痛い痛い、下手に動かすなリンド! 救急車へ連れていくよりそのまま病院へ頼むわ……」


 盛大な拍手とコールにもかかわらず、アンコールが行われなかったことにはこんな理由があった。




 お騒がせアイドル☆トキメカKnight、滑るか転ぶか落ちるか、あるいはこのままスターダムへのし上がるか――……?
 その先は、神様だけが知っている。


 これは流れ星のようにきらめく、一瞬の夢の夜のお話。




【ワケ有MEN'sアイドル☆トキメカKnight 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【jb4728/リンド=エル・ベルンフォーヘン/ 男 /21歳/ ギャップの悪魔様★】
【ja7927/カーディス=キャットフィールド/ 男 /19歳/ 着ぐるみアイドル☆中の人などいない】
【jb4265/ ユグ=ルーインズ / 男 /20歳/ 〜光の貴公子様〜】
【ja3082/ 百々 清世   / 男 /21歳/ お騒がせアイドル(ゝω・´)】
【ja9841/ 花見月 レギ / 男 /28歳/ ドナドナ王子♪】
【jb1888/ 上杉・浩一  / 男 /31歳/ 三十路超えアイドル!】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
ご依頼、ありがとうございました。
ノリと勢い、男性アイドルノベルお届けいたします。
色んな意味で、これでいいのか。
お楽しみいただけましたら、幸いです。
■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年05月29日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.