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『久遠ヶ原幼稚園の日常 』
秋野=桜蓮・紫苑jb8416)&カーディス=キャットフィールドja7927)&櫟 千尋ja8564)&百目鬼 揺籠jb8361)&ファウストjb8866


 まだ五月とは思えないほど気温の上がった、よく晴れたある日。
「はーい、みんなー!! 今日は新しいお友達を紹介するよー!!」
 真っ赤なエプロンの千尋先生(藤咲千尋・ja8564)が、園庭に散った子供達を呼び集める。
「ちひろせんせい、なんかようですかぃ?」
 くま組の紫苑(jb8416)は片方の手を腰に当て、斜に構えたスタイルで千尋先生を見上げる。もう片方の手は百目鬼 揺籠(jb8361)の手をしっかりと握っていた。
「いま、どーめきとだいじなしょーぶのさいちゅーなんでさ。ようがあるなら、はやいとこすましておくんなせぃ」
 紫苑は幼稚園の年長さん、言葉遣いは大人ぶって背伸びしているが、舌足らずな喋り方は年相応だ。
「む、大事な勝負とは何だ?」
 筋肉もりもりの大きな熊の様な、その名もくま先生(ダルドフ・jz0264)が腰を屈めて紫苑の顔を覗き込む。
 その威圧感は相当なものだが、くま先生を怖がる園児は一人もいない。だって優しくてお茶目だし、何と言っても紫苑のパパだし。
「パ……じゃねぇでさ、くませんせー!」
 いけない、幼稚園では先生と呼びなさいって言われてるんだっけ。
 慌てて訂正しながら、紫苑は砂場を指差した。崩れかかった砂山の天辺にアイスのハズレ棒が挿してある。
「ぼーたおしのしんけんしょうぶでさ! これには、ひるのべんとうがかかってるんですぜ!」
「かったほうが、おかずをひとつ……もらうことになってるんでさ」
 揺籠がこくりと頷いた。
 紫苑が賭けたのは、ママお得意の鶏の唐揚げ。冷めても美味しいと評判の絶品だ。
 揺籠はデザートのキルシュトルテを一切れ。
「どーめきは、わがしのほうがすきなんで。べつに、まけてもかまわないんですがね」
「もー、そんなこと言っちゃいけませーん!!」
 ちょっと投げやりな揺籠の言葉に、千尋先生のカミナリが落ちた。
「どっちもおうちの人が心を込めて一生懸命作ってくれたものでしょ?」
 それを賭けの材料にするなんて。
 って言うか幼稚園児が賭け事とかダメでしょ!
「めっ!!」
 二人の頭をゲンコツで軽くコツン。
 揺籠は素直に「ごめんなさい」と頭を下げた。
 いつもは割と素直じゃないと言うか、へそ曲がりな所がある揺籠も、千尋先生にはちょっと弱いのだ。
 しかし、紫苑は千尋先生には見えない様に横を向いて、ぺろっと舌を出している。
 反省の色は全く見えないが――
「紫苑。ぬしは今、何をした?」
 くま先生にはしっかり見られてました!
 そして紫苑ちゃん、くま先生には滅法弱い。
「はいっ、もうしわけございやせんっ!」
 掌を返した様に素直になった。
「二人とも素直な良い子で、先生は嬉しいよおぉっ!」
 千尋先生はそんな二人をいっぺんにはぎゅして、はすはすくんかくんかぺろぺろ……は、心の中だけで! で!
「じゃあ、お弁当は二人で仲良く分けよう、ね? あ、二人じゃなくて三人かな!!」
 そう、今日から新しいお友達が増えるのだ。
「紹介するね!! ナーシュきゅんでーっす!!」
 じゃーんというセルフ効果音と共に、千尋先生は後ろに隠れていた転入生を紹介した。
 皆の視線が、緑色の髪をした少年に集まる。
「あ、あの」
 少年は被っていたネコ耳ニット帽を取ると、胸の前で両手に持って、にっこりと笑った。
「みんなにご挨拶と、自己紹介できるかな?」
「はい、なのです」
 こくんと頷き、すうっと息を吸って――
「ナーシュは、えるにゃ……」
 噛んだ。気を取り直してもう一回。
「えりゅな、えるなはしゅ・かどけ、かりょ……しゅ」
 言えない。自分の名前なのに上手く言えない。
 しかし千尋先生はそんな彼をぎゅーっと抱き締めて、はぐはぐすりすり、そしてぺろぺろ……は、心の中だけだってばさ!
「うんうん、大丈夫だよナーシュきゅん!! まだ年少さんだもんね、上手く言えなくても仕方ないよね!!」
 ぺろぺろは我慢するけど、タッチオッケーは先生の特権!
 ぎゅーっと抱き締めて、ぽよぽよほっぺの感触とか楽しんじゃうのは職権乱用とは言わないのです。
「その舌足らずなところも、もうもう、可愛いぃぃぃっ!!」
 ぷっしゃあぁぁぁ!
 噴き出す鼻血が赤いエプロンをますます赤く染め上げる。
 だって仕方ないよね、つるつるぴかぴかの膝小僧は絶対の正義なんだから!
「はっ!」
 いけない、つい取り乱してしまいました。
「みんな、落ち着こうね!!」
 まず自分が落ち着こうよ先生、はい深呼吸〜。
「じゃあ改めて紹介するね、エルナハシュ・カドゥケウスきゅんです!!」
 よかった、噛まずに言えた!
「ナーシュきゅんって呼んであげてね!!」
 そして年長さんの紫苑と揺籠を紹介する。
「えっと、しおちゃんと、ゆりちゃん、なのですね」
 ナーシュはこくりと頷き、にこっと笑った。
 しかし。
「ゆりちゃん!?」
 目を丸くした揺籠は、怒った様な照れた様な複雑な表情で首をぶんぶん振った。
「ど、どーめきは、どーめきでさ。そんな、おんなっぽいナヨナヨしたなまえで、よばねーでくだせえ」
 ぷいっと横を向く。
「ゆりちゃんは、だめなのですか? とてもかわいくて、いいなまえだとおもうのです」
「おとこがカワイイとかいわれて、よろこぶとでもおもうんですかい?」
「え……、おとこの、こ……なのですか?」
 揺籠の顔立ちは、確かに線が細くて女の子の様にも見える。
 が、れっきとした男の子だ。
 男の娘でもない。
「ごめんなさい、なのです」
 かく言うナーシュもわりと性別不明だが、とりあえずそれは置いといて。
「じゃあ、これで仲直りだよ!」
 千尋先生は二人纏めてぎゅううっと、でも仲間はずれを出しちゃいけないから紫苑も一緒にぎゅううっと!
 神様これが天職というのでしょうか、噴き出す鼻血でクラクラしちゃうけど、それがまた天にも昇る心地で……!(危険
 こうしてナーシュ(門木章治・jz0029)は、久遠ヶ原幼稚園の年少、千尋先生が担当する、なでしこ組の一員となったのです。


 じゃあ、まずは園庭で皆と仲良く遊ぼうか。
 皆って言っても、他に生徒は紫苑と揺籠しかいないけどね!
「ようちえんのせんぱいとして、おれらがここのじんぎってやつを、しっかりおしえてやらなきゃいけねぇでさ」
 すっかりお姉さん気分の紫苑がナーシュに話しかけた。
「まずは、せんせーのしょうかいからですねぃ」
 えっへん、咳払いの真似事をして、紫苑はまず大きなくま先生を紹介する。
「くませんせーは、ついこないだまで、てんかいのけーびいんをしてたんでさ」
 ゴツくてデカくて強いダルドフは、主に要人警護の任に当たっていた。
 しかしそれは危険な仕事。怪我をして帰る度に、泣きそうになるのを堪えて笑顔で出迎えてくれる娘に、これ以上心配をかけたくないと転職を決意したのだ。
 そして子供好きである事をアピールしまくった結果この仕事を得て、家族ともどもこの久遠ヶ原に移り住んだのが数ヶ月前。
 今ではすっかり幼稚園のくま先生としてお馴染みになっていた。
「もこもこのでっかいくろねこにんじゃが、ねこせんせーでさ」
 そう言えば、ねこ先生こと黒猫忍者先生のカーディス=キャットフィールド(ja7927)が赴任して来たのも、くま先生と同じ頃だったか。
 その頃はまだ寒く、もこもこ暖かいねこ先生は子供達に大人気だったが……気温の上がった今では暑苦しいから近寄らないで、などと冷たい言葉を浴びせられる始末。
 だが、言葉では心は冷えても、身体の方はもこもこ着ぐるみの断熱効果でますます暑くなるばかり。こう暑くなると中の人の体力が心配だが――
 しかし、中の人などいないのだ。
 幼稚園にいる間は、この着ぐるみを脱がないと決めた。
 もっと暑くなって、子供達がもこもこの姿を見ただけで逃げるくらいの暑苦しさMAXに達するまでは、絶対に。
(子供達の夢を壊してはいけないのですよ……!)
 がんばれ、ねこ先生。
「で、きょうしつからじーっとこっちみてんのが、ファウせんせーでさ」
 ファウ先生(ファウスト・jb8866)は滅多に教室から出て来ない、インドア派の先生だ。
 しかし、たまには自分から出て来る事もある――こんな風に、ぬぅっと。
「きゃぁっ!」
 ナーシュが思わず声を上げ、千尋先生の後ろに素早く隠れた。
 だが、それは新入生なら誰でも一度は通る道、言わばこの幼稚園の一員となる為の通過儀礼の様なもの。
「大丈夫だよナーシュきゅん、ファウ先生は怖くないから!!」
 赤いエプロンをぎゅっと握り締めたその背をそっと押し、千尋先生はナーシュに笑いかけた。
 ファウ先生は三白眼で目つきも悪いし無愛想だし、やたら偉そうで威圧感たっぷり、その鋭い視線に射すくめられた園児の為に、幼稚園には替えのパンツが常備されているとかいないとか。
 でも本当はすごく優しくて、子供に泣かれると密かに涙しちゃうんだよ!
 だから怖がらないであげてね!
「ふむ、貴様が新入生か」
 そんな言い方をするから余計に怖がられるのだが、本人曰く「我輩の辞書に幼児語はない」らしい。
「貴様は泣かないだけマシだな」
 魅惑の低音ボイスで言い放った、多分それは褒め言葉だ。
 若く見えるが、ファウ先生が積み重ねた歳月は大樹の年輪の如くに長く重い。
 その豊富な知識と経験から子供達の指導は勿論、他の先生の指導まで一手に引き受けているスーパーじいちゃんだった。
 そればかりではなく、絵本の読み聞かせにかけてはファウ先生の右に出る者はいない。
 普段の話し方はアレだが、読み聞かせの時には七色の声を自在に使い分けながら情感たっぷりに台詞を読み上げ、子供達を物語の世界に引きずり込んでしまうのだ。
 子供達の間では、おはなしの時間は絶対にファウ先生じゃなきゃダメ、というくらいの人気者だった。
「だが、今はまだ外で遊ぶ時間だ」
 じろりと見下ろすその目つきは、慣れてもやっぱり怖いけど。
「わかったでさ、ファウのじーちゃんせんせー!」
 これで先生の紹介も終わったし、後は思いっきり遊ぶ!


 遊具入れからボールを取り出した紫苑は、ナーシュの手を引いて園庭に駆け出して行った。
「どーめきいっしょにサッカーしやしょうぜー!」
 返事も聞かずに、紫苑は思いきりボールを蹴る。
 紫苑と揺籠がパスを繋いでねこ先生と千尋先生のディフェンスを抜き、くま先生が守るゴールにシュートを決めるのが、いつものサッカーだ。
 黙っていても、揺籠は紫苑が出したパスをちゃんと受けてくれる。
 しかし今日は。
「どーめき?」
 ボールは転々と、誰もいない方へ転がって行った。
 振り向くと、揺籠はまだ教室の前。ファウ先生の後ろに半分隠れる様にして、紫苑をじっと見つめている。
「どーめき、どうかしたんですかぃ?」
 引っ込み思案な揺籠は、紫苑と仲良くなる前は一人遊びをしている事が多かった。
 今では紫苑となら何も気にする事なく遊べるけれど、知らない子はちょっと苦手だ。
 それに紫苑がお姉さん風を吹かせてナーシュの面倒を見ているのも、自分から離れてしまう様で寂しかった。
「どーめきは、おにのこですので。みんなとはちがうでさ」
 左手の袖を伸ばして、その下に見える文様をそっと隠す。
 だが、紫苑はその仕草を見逃さなかった。
「ちがってんのが、いけねーんですかぃ?」
 少し怒った様に、腰に手を当てて言う。
「ちがうのは、あたりめーでさ。そっくりだったらきもちわりーですぜ」
「そりゃそう、ですけど」
 ちらり、揺籠はナーシュを見た。
 本当は一緒に遊びたい。仲良くしたい、けれど。
「どーめきくん、いっしょにあそびましょ、なのです」
 にこにこしながら手を差し伸べられて、揺籠はぷいっと横を向く。
 そこに感じる無言の圧力。
 顔を上げると、紫苑がじーっと見つめていた。
 仲良くしないと絶交だと言わんばかりの勢いで睨み付けている。
「そこまでいうならあそんでやっても、…いいですよ」
 紫苑に嫌われるのは困る、と言うより嫌だ。
 だが何となく素直に手を握るのも恥ずかしくて、揺籠はナーシュを無視して歩き出した。
 でもつい気になって、ちらりと振り返ってみる。
(ちょいと、いじわるがすぎやしたかね)
 その瞬間――
「ああっ!」
 ナーシュが大声を上げた。
「そうでした! おしっこのあとで、てをあらうのをわすれていたのです!」
「げっ!?」
 叫んだのは紫苑だ。
 さっき手繋いじゃった! ばっちぃ! えんがちょ!
 しかし実は――
「どーめきも、わすれてやしたね」
 揺籠が自分の手をじっと見つめる。
「ふたりとも、こっちくんじゃねーですぜ!」
 男の子ってこれだから!
 しっしっと手を振る紫苑を前に、変な所で共通点を見出してしまった二人は顔を見合わせ、にまっと笑った。
「しおんにも、ばいきんつけてあげやしょう」
 それ、追いかけろ!
 サッカーが、いつの間にか鬼ごっこになっていた。
 先生達も巻き込んで、しまいには誰が鬼だかわからなくなって、ひたすら元気に駆け回る。
 子供って、どうしてこう……やたらと走りたがるんだろうね?
 それに付き合わされる大人は大変だ。
 特に、着ぐるみなんかを着込んでいた場合には。


「こ、子供は元気なのです……!」
 炎天下で走り回ったねこ先生の中身は、沸騰していた。
 中の熱が着ぐるみの毛穴を通って外に噴き出し、湯気がねこ先生の身体を包む。
 それはまるで、蒸し器から出したばかりの巨大なふかふか饅頭(多分イカスミ味?)の様だった。
「まったく、世話の焼ける」
 ファウ先生がゆらりと立ち上がる。
「諦めるのだな、隠し通す事など無理な話だ」
 何か知っている様子のファウ先生は、ねこ先生に向けてクリスタルダストの煌めく氷錐を叩き付けた!
 じゅわぁぁぁっ!
 急激に冷やされたねこ先生の身体から、水蒸気が更に勢いよく噴き上がる。
 それは濃い霧の様に皆の視界を真っ白に包み込み、やがて晴れたその後には――
 黒い塊が、ずだ袋の様に横たわっていた。
 よく見れば、それは二つに分かれている様な?
「ぎゃあぁぁねこせんせぇーーーっ!!」
「くびが、くびがとれてますぜ!」
 紫苑と揺籠が、抱き合って指差しながら叫んだ。
 その声を聞いて、首なしねこ先生がむくりと起き上がる。
「「おばけえぇぇっ!!」」
 しかし、ナーシュは動じなかった。
「なかにひとがいたのですね!」
 言われて、紫苑と揺籠は恐る恐る目を開ける。
 なるほど確かに、中に人がいた。くびちょんぱに見えたのは、頭が脱げて転がっていただけだったのだ。
 しかし、次の瞬間。
「えええぇぇぇーーーっ!!?」
 紫苑は先程よりも更に大きな声を上げた。
「――マ、ママっ!?」
 しょうげきのじじつ。
 何と、ねこ先生の中の人は、紫苑のママだったのだ!
 もう色んな意味で衝撃的すぎて、どこからツッコミを入れて良いのかわからない。
「知られてしまいましたか」
 残念そうに溜息を吐くと、ねこ先生は毛並みがぺしょんとなった着ぐるみを脱いだ。
「すみません、騙すつもりはなかったのですが」
 だって娘の事が心配で、パパだけに任せておけなかったんですもの!
「なーんだ、そうだったんですかぃ。びっくりしやしたけど……うれしーでさ!」
 紫苑もまた、わりと動じない子だった。
「そういうの、かほごのおやばかっていうんでさ」
 ぽつり、揺籠が呟く。
「でも、うちもひとのことはいえませんや……ね、じーちゃん?」
 揺籠は、ちらりとファウ先生を見上げた。
 大事な孫を自分の勤める幼稚園に入れた彼も、親馬鹿……いやジジ馬鹿っぷりは負けていない。
「みんなかぞくなのですね」
 ナーシュが言う。
 でも、ちょっと待って。皆っていう事はもしかして。
「はい、ナーシュはちひろせんせいの、おとうとになったのです」
 何という関係者だらけ。
 これで良いのか久遠ヶ原幼稚園。


「では、汗を流してお腹も空いたところですし、そろそろお昼にしましょうか」
 諸々の重大事(多分)をさらっと流して、ねこ先生が皆にお茶を煎れてくれる。
「皆さん手は洗いましたかー?」
「はーい!」
 子供には甘くて飲みやすいものを、大人にはちょっと渋いけど深い味わいのあるお茶を。
 あ、千尋先生にはカフェオレで。
 優しくて物腰も柔らかく、紳士的で面倒見の良いねこ先生は、もこもこじゃなくても子供達に大人気だ。
「では、いただきます!」
 大勢でわいわいしながら食べるごはんは、何故か美味しい。
 皆でおかずを分け合ったり、取り合ったり……
「あぁ、取り合いはいけませんよー」
 唐揚げなら、売るほど作って来ましたからねー?
 ほら、重箱に三段重ねで!

 食事の後は、食休みを兼ねたファウ先生のお話タイム。
 万一の為に幼稚園に常備してある着ぐるみに着替えて、再びもふもふの黒猫忍者になったねこ先生は、子供達を呼び集めた。
 大丈夫、暑くないよ。教室の中はエアコン効いてるからね!
 紫苑はもふもふの膝に座って、揺籠は背中に抱き付いて……ナーシュは千尋先生の隣に座って。
「始めるぞ」
 今日のお話は、お馴染み桃太郎。
 もう何度も聞いたお話だが、ファウ先生の語りには毎回アドリブやツッコミが入ったりするので、同じ内容は二度と聞けないのだ。
 おまけに語りも上手いとあって、子供達は夢中で耳を傾けている。
 本当はここでそのままお昼寝にしたいところなのだが、目が冴えてそれどころではなかった。
 しかし大丈夫。
「続いて今日の授業を始める」
 ほら来た。
「テキストは――」
 君主論が良いだろうか、それとも自省録か、或いは天体論か。
 いずれにしても幼稚園児に理解出来る筈もないが、そこが狙いだ。
 ほら、三行も読まないうちに皆で寝息を立て始めた――

 お昼寝から目覚めた後は、千尋先生のオルガンで歌を歌ったり、お遊戯したり。
 三時のおやつを食べたらまた園庭で元気に遊んで。
 子供達は疲れを知らない。
 けれど先生達には勤務時間というものがあるのです。
 因みに残業しても手当ては出ません。
 だから、帰りの時間はきっちり守るのです。


「今日も一日、元気に楽しく遊びましたー!!」
 千尋先生の声に、子供達は声を揃えて頭を下げる。
「あそびやしたー!」
「明日も元気に楽しく遊びましょー!!」
「あそびやしょー!」

「ダルドフ、帰りがけに一杯――」
 呑みに行かないかと誘いかけたファウストだったが。
「パパはやくかえりやしょー!」
 その言葉は、どーんと飛び付いて来た紫苑の勢いに吹っ飛ばされてしまった。
「……ああ、そうだな」
 平日は無理だ、うん。
「次の休みにでも、また」
「うむ、すまぬな」
 紫苑にぎゅうぎゅう絡み付かれながら、ダルドフは軽く片手を上げる。
「じーちゃんも、さけはほどほどにしてくださいね?」
 いつの間にか隣に立っていた揺籠の声に、ファウストは僅かに頬を緩めた。
「帰るぞ」
 こくんと頷き、揺籠は一人でさっさと歩き出す。
「肩車でも、するか」
「えっ」
 背後からかけられた突然の言葉に返事を躊躇っていると、揺籠の身体はふわりと宙に浮いた。
 高い所から見ると、何だか世界が広くなった気がした。

 紫苑は右手でパパの、左手でママの手を握り、ぶら下がる様にしながら帰って行った。
「ママ! きょうのごはんなんですかぃ!」
「何が良いでしょうねー、お買い物して帰りましょうかー」
「かいもの! おれ、おもちゃほしいでさ!」
「よし、日曜には三人でデパート巡りでも行くかのぅ」
 何でも好きなものを買ってやるぞと、過保護なパパは繋いだ手を大きく振り上げる。
 呑み友との約束が果たされるのは、もう少し先の事になりそうだ。

「ナーシュきゅん、私達も帰ろうか!!」
「はいなのでやす、ちひろおねーさん」
「あれぇ、お友達の言い方がうつっちゃったね!!」
「うつっちゃったのですー」
 二人は仲良く手を繋いで家路を辿る。
 帰ったら一緒にご飯を食べて、一緒にお風呂に入って、一緒にお布団に入って。

 そして、またあした――

 一緒に遊ぼうね!
 


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb8416/紫苑/女性/6歳/ナイトウォーカー】
【ja7927/カーディス=キャットフィールド/男性/19歳/鬼道忍軍】
【ja8564/藤咲千尋/女性/17歳/ディバインナイト】
【jb8361/百目鬼 揺籠/男性/25歳/阿修羅】
【jb8866/ファウスト/男性/28歳/ダアト】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 お世話になっております、STANZAです。
 この度はご依頼ありがとうございました。

 イケメンさんにイケボで「カオスこいよ」と言われましたので、お言葉に甘えさせて頂きました。
 クリスタルダストは自然現象の再現ではありませんので、本来なら物を冷やす効果はありませんが、今回はアナザー補正という事で。

 色々と酷いカオスですが……お楽しみ頂けると幸いです。
■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
STANZA クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年06月02日

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