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『お気に召すまま 』
ジャミール・ライル(ic0451)&メイプル(ic0783)


 女たちのおしゃべりに笑い声。部屋を満たすのは白粉や香水の甘ったるい香りに混ざった煙草の匂い。とある酒場の踊り子達の控え室。
「ねー、これなーに?」
 ジャミール・ライル(ic0451)が壁に貼られているチラシを指差した。咲き乱れる花に踊り子の絵、なにやら楽しげな雰囲気なのは伝わってくるが、文字を読めないジャミールに分かったのは日付くらい。
「花祭りよ。今年は南の新区画で行われるんだって」
「新区画といえば新しい甘味処行った?」
 髪をまとめていた女が話題に入ってくる。女たちの会話は何時もそうだ。違う話題へ、違う話題へと転がっていく。
「行ったわ! パンケーキがすっごい美味しかった。ふっわふわで」
「美味しいパンケーキかー。いーね、それ。女の子喜びそう」
 ジャミールの脳裏に浮かぶ、紅葉の髪飾りが揺れる三角耳にふわふわの尻尾を持つ女の子。
(そういえばパンケーキが好きだって言っていたよねー)
 甘味デートも悪くない、ジャミールは彼女を誘うことを心に決めた。


 待ち合わせの目印は時計台。
 石畳の通りが交差する広場の真ん中に建つ真新しい時計台。ジルベリアのからくり時計は毎日決まった時間になると人形たちが出てきて踊りを披露する。そんなところがうけて最近人気の待ち合わせ場所だ。
 露天も並ぶ広場は活気に溢れていた。
 時計台の傍、手鏡片手にメイプル(ic0783)はケープについた猫耳フードを被ったり外したり。待ち合わせ時間までまだ少しある。
 今日はジャミールと一緒に評判の甘味屋へ。
 美味しいパンケーキ――想像するだけでワクワクしてくる。ちょっと油断すると尻尾が楽しげにリズムを刻んでしまうほどに。もちろんジャミールと一緒に遊びにいけることも嬉しい。彼はメイプルにとって開拓者としても踊り子としても先輩で、優しいお兄さんのような存在なのだから。
 先程から手鏡を覗き込んでいるのも、一緒に出かけるならば少しでも可愛くみられたいという乙女心である。フードを被った方が可愛いか、外した方が可愛いか、鏡に様々に角度を変えて映しては確認する。だが繰り返しているうちにどっちがいいのか分からなくなってきた。
 甘味デート――誘ってくれる際にジャミールが口にした言葉を思い出す。
「私とジャミールでもデートになるのかしら?」
 感覚的には男と女より兄と妹のおでかけである。ただジャミールは女の子と二人で遊びに行く事を総じて『デート』と言うから、デートでも間違ってはいないのだろう。
 言葉に深い意味がないのはわかっているのだが、不意にとある人物が脳裏に浮かんだ。
「……やきもちやいてくれたり、とか?」
 なんてね、と笑みが漏れた。
「お待たせー」
 人波の向こうからジャミールが手を振ってやって来る。
「ケープにも耳があるんだねー」
 メイプルが羽織っているケープに気付くとフードの猫耳をちょんと摘み上げた。
「おかしくない? 似合っている?」
「メイプルちゃんの耳とお揃いでかわいーよ」
 尋ねるメイプルの緩く癖のついた髪から覗く耳を指差して微笑む。
「ありがとうなの」
 さらっと可愛いと言えてしまう、こういうところが女の子にモテるのだろうな、とメイプルは思った。
「さてと甘味デート行こうか」
 こっちだよ、とジャミールが歩き出す。

 うららかな陽気の昼下がり、という理由では片付かないほどに通りに人が多い。空を見上げれば様々な絵が描かれた旗が建物と建物の間に渡され、通りに面した二階の出窓には花満開の植木鉢が飾られている。通りにも花壇が並び、街灯では花篭が揺れていた。なにやらとても賑やかである。
 メイプルが爪先立ちしてもジャミールのほうが視線が高い、それくらい二人の身長差はあった。当然歩幅にも差がある。だがジャミールはメイプルに合わせてゆっくり歩いていくれる。
「なぁんか今日は人が多いねー」
「お店混んでないといいわね」
 間もなく蜂蜜たっぷりのパンケーキが描かれた看板が揺れる煉瓦造りの建物が見えてきた。風に乗ってやってくる甘い香りが鼻を擽る。
 二人は中庭の席へと案内された。シロツメクサが絨毯のように広がり、花壇では都忘れが小さな紫の花を揺らす。庇のように覆い茂った木々の合間から降り注ぐ木漏れ日。
 足を揺らすと青い石で飾られた革のサンダルから覗く素肌に触れる草がくすぐったくメイプルは小さく笑みを零す。
「んー、どしたー?」
「素敵なところだなと思ったの」
 連れて来てくれてありがとうなの、と言うと「それはパンケーキを食べてからね」と返された。
「パンケーキ好きの可愛い妹ちゃんを連れて来た手前、本当に美味しいか確かめないと」
 わざとらしく眉間に皺を寄せて厳しい表情を作るジャミールにメイプルが肩を揺らして噴出した。
「大丈夫、此処絶対美味しいわ」
「どうしてわかるの?」
「乙女の勘?」
 軽く眉尻を上げるメイプルに「乙女の勘なら仕方ない」とジャミールが真面目な顔で頷く。そして二人耐え切れずに顔を見合わせ笑う。

「お待たせしました」
 ウェイトレスの声に背筋を伸ばすメイプル。だがトレイの上が気になるのだろうちらちらと視線が伺っている。揺れる尻尾も楽しそうだ。
 まずはメイプルにホットミルク、ジャミールに紅茶が置かれ、いよいよメインのパンケーキ。
「わぁ……」
 目の前に置かれたパンケーキに思わずメイプルは感嘆の声を漏らす。
 真っ白い皿の上、たっぷりのクリームとともにクローバーのように重ねられたパンケーキ。粉砂糖が雪化粧を施し、ストロベリー、ブルーベリー、ラズベリーにカラント、色とりどりのベリーが花のように散りばめられている。
 ジャミールの前にはカスタードにキャラメル色の焼き林檎のパンケーキ。
 メイプルは添えられたピッチャーを手にし、そっと傾けた。メイプルシロップのとろりとした琥珀色がゆっくりと広がっていく。思わずごくりと鳴りそうになる喉。口元をそっと手で隠して誤魔化した。
「いただきます」
 メイプルが弾む声と共にパンケーキにナイフを立てる。じんわりと染み出すシロップ。一口、口へと運ぶ。もちもちっとした食感なのにふんわりと柔らかい。
「………っ!」
 言葉にならない声。
 今度は贅沢に二枚重ねでクリームたっぷり。ベリーの甘酸っぱさが口の中に広がった。頬に手を当ててほぅ、と息を吐く。頬が落ちそうなほどに美味しいとはよくもいったものだ。
 ホットミルクも一口。パンケーキに合わせているのか、甘さ控え目の優しい味。両手を軽くお腹の上に置く。お腹の中からほわほわと温かさが広がってくる。

(誘ってよかったなー)
 パンケーキが目の前に置かれたときのメイプルの表情を見てジャミールはそう思った。
「美味し?」
 テーブルに頬杖ついて尋ねるジャミールにメイプルがパンケーキを頬張ったままコクリと頷く。尤も尋ねなくてもわかる。パンケーキが運ばれてきた時からメイプルの尻尾はパタパタと嬉しそうに揺れているのだから。時々椅子を叩く音が聞こえるほどに。
「一口ちょーだい」
 あーんと口を開くとベリーとクリームを乗せたパンケーキが差し出される。
「美味しいねー。俺のも食べる?」
 満面の笑みを浮かべて頷くメイプル。美味しそうに食べる子は可愛いものだ。こんな風に素敵な笑顔がみれるならパンケーキくらい安いものである。尤も女の子限定だが……。

 店の外でメイプルは軽やかにターンしてジャミールの前に立った。
「とても美味しかったの。ごちそうさま」
「そんなに喜んでくれるなら誘ったかいがあったよー」
 散歩しながら帰ろうか、と歩き出す。
 二人の横を花冠を頭に乗せた子供達が走り抜けていく。少し先から人の喧騒と賑やかな音楽が近づいてきた。

 青空に色とりどりの花弁と紙吹雪が舞う。
 楽器を手に進む楽団に先導され花で飾られた台車が姿を現した。ゆっくりと進む行列が目指す先は時計台がある広場。
 数台に渡って続く台車は、一台目は薔薇、二台目はアネモネ、三台目はアイリスとそれぞれ花のアーチで飾られた舞台となっている。舞台では煌びやかな衣装を纏った踊り子達が踊る。彼女たちが弾むたびに鈴がシャンシャンと陽気な音を立てた。
「あ……花祭りか」
 ジャミールは控え室でのやり取りを思い出す。そういえば今年はこの辺りで開催されるとか言っていたな、と。だから今日は人通りが多かったのだ。
「花祭り? とても綺麗ね」
 台車の周りで子供達が飛び跳ね、籠の花を空に向かって蒔く。
「どうぞ」
 すみれ色のドレスを着た娘が二人の頭に花冠を乗せた。
 楽しげな音楽に釣られ、行列に加わり踊り始める人々もいる。
「ジャミール!」
 台車の上から顔見知りの踊り子がおいで、おいでと手招き。
「踊っちゃう?」
 返事を聞く前に彼女の手を引っ張り舞台へと。メイプルの身体は楽団が奏でる音楽に合わせて揺れているのだ。踊りたいに決まっている。

 舞布を靡かせてジャミールが舞台の中央に立つ。広げる手から伸びた舞布が一人の踊り子を絡めとり引き寄せる。見詰め合う二人。その間にコミカルな動きで割って入りメイプルが登場した。ジャミールと踊り子が左右に別れる。
 両腕につけた鈴を頭上で鳴らしメイプルが宵闇色の衣装を翻しステップを踏む。紅葉の髪飾りが跳ねた。光の具合で色合いが変化する衣装はメイプルの動きに合わせて様々な表情を見せる。
 メイプルの手を取るジャミール。身を交わすようにその手から逃げるメイプル。
 装飾が陽光を反射して揺れた。反射した光は宝石のようにメイプルの肌の上にキラキラと踊る。
 メイプルが弓のように体を反らすと繊細なレースのような透かし彫りを施した装飾がまるで身体に刻まれた模様のようにその曲線を美しく演出する。
 反らした背にジャミールが添える腕を視点にくるりと一回転。爪先が綺麗な円を描いた。舞台の右と左に立つ二人。
 ジャミールとメイプルは互いの舞布の片端をそれぞれに投げて渡す。メイプルが高く手を掲げ、ジャミールが腰を屈める。二人の間で舞布は波を描く。
「一度一緒に踊ってみたかったのよね」
 二枚の舞布を絡め取るメイプル。
「言ってくれれば何時でも一緒に踊るのに」
 ジャミールが舞布を引っ張る。羽衣のように舞布を纏わせくるくるとメイプルが回った。

 観客の歓声と拍手。それに応えるように二人は踊る。

 広場に並んだ台車にランタンが灯された。そろそろ日が沈む時間帯だ。
「沢山踊ったわね」
 メイプルはまだ足元で軽くリズムを刻んでいる。
「今日は本当に楽しかったわ。ジャミール、誘ってくれてありがとうなの」
「いっぱい楽しんだねー」
 下げた頭にぽんと手が乗せられた。
「ええ、とっても」
 顔を上げて晴れやかな笑みで頷く。
 帰ろうか、と繋がれる手。
「ん? 人混みではぐれたら大変でしょー?」
 最後までエスコートするのが男の役目、とジャミール。

 ドォオンッ!

 大気を震わせる轟音。まだ夕焼けが残る空に光の花が咲く。
「花火だわ」
 メイプルは空を見上げる。
 次から次へと打ちあがる花火を二人はしばし見つめていた。
「ジャミール」
「なーに」
 光の粉が瞬く星の欠片のように空を飾る。
「また遊んでちょうだい…な?」
 イイ、と視線だけ上げてジャミールの顔を見た。そして人差し指を唇の前に立てる。
「でも彼には内緒ね?」
 悪戯っ子めいた表情でウィンク。
「もちろん。またデートしよーね」
 ジャミールもウィンクを返した。
 空に大輪の花が咲く。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名       / 性別 / 年齢 / 職業】
【ic0451  / ジャミール・ライル / 男  / 24  / ジプシー】
【ic0783  / メイプル      / 女  / 18  / ジプシー】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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この度は発注頂きまして本当にありがとうございます。桐崎ふみおです。

甘味デートいかがだったでしょうか?
ほのぼのと可愛らしいイメージを目指してみました。
メイプルさんのキュートさ、ジャミールさんの余裕のあるお兄さんっぽさが出ていれば幸いです。
イメージ、話し方、内容等気になる点がございましたらお気軽にリテイクを申し付け下さい。

それでは失礼させて頂きます(礼)。
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桐崎ふみお クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2014年06月09日

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