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『ドタバタ☆撮影会? 』
彩咲・陽花jb1871

 柔らかな緑が生い茂る季節。
 開け放たれた窓から吹き込む風に目を細めた彩咲・陽花(jb1871)は、頬を伝う汗をタオルで拭い息を吸い込んだ。
「風は冷たいけど、だいぶ湿気が出て来たかも」
 前は今くらいの運動量で汗をかくことはなかった。でも今はしっかりかいているし、肌にまとわりつく空気も心なしか湿っぽい。
「もうすぐ梅雨か……やだなぁ」
 はふっと溜息を零し、陽花は反対の頬を伝う汗を拭った。
 ここは陽花が普段女優としてお世話になっている劇団の練習室だ。
 撃退士としての仕事の合間を見ては足を運んでいるのだが、ここ数日の気温の変化には少しだけ憂鬱なものを感じてしまう。
「やあ、陽花君。お疲れさま」
「あ、団長。お疲れさまです♪」
 アイドル顔負けの笑顔で応え、汗を拭っていたタオルを外して頭を下げる。
 その仕草を片手で制すると、団長は「うんうん」と満足げな様子で彼女を見詰めた。
「陽花君は今日も可愛いね」
「あはは、ありがとうございます」
 女優であるもの顔や体――この場合は体調管理ね。その辺には気を配る物だ。
 故にこうして褒められる事も仕事と思って受け入れなければいけない。どれだけ恥ずかしくても、だ。
「そんな可愛い陽花君に、仕事を持って来たんだが……引き受けてくれるかね?」
「お仕事、ですか?」
 それはまた願ってもない話だ。
「いただけるお仕事でしたら何でも。えっと、エキストラとかでしょうか?」
「いやいや、劇団からの個人的なお願いなんだがね」
「劇団からの?」
 それこそ珍しいような、珍しくないような。
 目を瞬く陽花に、団長は仕事の詳細が書かれた書面を差出した。そこに書かれているのは「劇団広報ポスター作製について」と言う文字。
「……もしかして……」
「そう、ポスターのモデルをして欲しいんだ」
 ああ、それなら納得出来る。
 団長が言うには、近々劇団員募集のポスターを新しくするらしい。そのポスターのモデルに陽花が抜擢されたと言うのだ。
「陽花君は我が劇団のトップスター。是非とも君の友達である葛城君と一緒に撮影に臨んでほしいんだ」
「え……縁も、ですか?」
 葛城 縁(jb1826)とは――抜群のスタイルでモデル業界でも引っ張りだこな新生、それに加えて陽花の友人である女性だ。
「確かに縁が一緒なら目は惹くと思いますけど……」
 縁は別にモデルが本業ではない。
 彼女の本業は保育士で、それと並行して撃退士の仕事もしている……陽花と似たような境遇なのだ。
 その彼女が何故モデル業界に居るかと言うと、その理由は彼女の食欲にある。
「無理を言っているのは承知しているんだが、そこを如何にか出来ないかね?」
「ちょっ!? そんな風に拝まないで下さい!」
 両手を合わせて頭を下げだした団長を慌てて止める。
(ここの所劇団員も減って来てるし、団長も必死なのかな……うーん……)
 劇団が閑古鳥で無くなってしまうのは嫌だ。
 そもそもここに居る事が出来るおかげで女優として活動で来ている面も大きい。となれば陽花の取るべき道は1つだった。
「わかりました。縁には私からお願いしておきます」
 陽花はそう言うと「仕方ないなぁ」と零して団長に笑顔を向けたのだった。

――翌日。
 撮影スタジオとして案内されたのは、劇団の事務所から然程遠くないビルだった。
「ごめんね、縁。いきなりで時間調整難しかったんじゃない?」
「大丈夫だよ♪ 陽花さんのお願いならなんだって聞いてあげる♪」
 料理を食べてって意外は。と密かに付け加えて笑う縁に、陽花も笑みを浮かべる。
「えっと、まずは試着室で着替えるんだったよね。そこに衣装もあるって言われたけど……」
 教えられた道順を辿りながらある部屋の前で足を止める。そこにはバッチリと「試着室」の文字が。
 これが手書きなのは敢えてスルーしよう。
 時間がなくてきちんと用意できなかったのかもしれないし、それになにより団長がくれた仕事だ。間違いなどある筈もない。
「どんな衣装なんだろう。楽しみ♪」
 縁はそう言って扉を開けた。
 直後、2人の表情が――いや、動きも止まった。
「は、陽花さん? あの、これって……」
 部屋に入った瞬間、2人の目にはあるマネキンが飛び込んで来た。
 それはグラマラスボディが眩しい、白と赤の水着を着たマネキンだ。
「……名前が、書いてある、ね」
 白のマイクロビキニには「陽花君」の紙。そして隣にある赤のトライアングルビキニには「葛城君」の紙が。
「こ、これはちょっと、話が違うんじゃないかな!?」
 どう見ても面積比率の可笑しい水着は劇団広報のポスターとかけ離れている気がする。
 けれど動揺する縁とは裏腹に、陽花はなんとか冷静を務めて水着に歩み寄った。
「撮影には変わらないんだし問題ないよ、うん」
 ハッキリ言って自分に言い聞かせているようにしか聞こえない。
 だが彼女の言うように撮影には変わらないだろう。それにモデルと言う仕事柄、こうした場面に遭遇したことがない訳ではない。
「……し、仕方ないなぁ……」
 陽花が着るのに自分が着ない訳にもいかない。
「ここまで来たんだし、覚悟を決めよう!」
 パンッと自分の頬を叩き、縁もまた水着に手を伸ばした。
 そして数分後。
 水着に着替えた2人は、撮影現場へ足を運んだのだが、その表情は何と言うか固い。
「……流石にこれは恥ずかしい」
 撮影現場にいる人の殆どが男性と言う状況に戸惑いを覚える。しかも今はガウンを着ているから問題ないが、これからこれを脱ぐと言うのがもっと厳しい。
「はい、それでは撮影を始めますので、ガウンを脱いでカメラに向き直って下さい」
 来た! そんな思いが2人の中に浮かぶ。
(こ、ここまで来たら、脱ぐしかないよね! これは仕事、仕事……ええいっ!)
 バサッ!
 勢い良く脱ぎ去った陽花に現場から「おお!」と言う歓声が上がった。
(は、恥ずかしい……っ!)
 その場にしゃがみ込みたい衝動に駆られながらグッと堪える。すると隣で同じようにガウンを脱ぎ捨てた縁がポツリと呟いた。
「流石に、陽花さんの胸でその水着は……って、わぅっ!?」
 ムニッと掴んだのは、真っ赤なビキニに隠れる紫の胸だ。それを両手で掴みながら、顔を覗き込む。
 そんな陽花の米神には青筋が浮かんでる気もするが、流石にそれは……
「そんなこというのはこの口かな?胸かな?」
 あったようだ。
 ムニムニと揉みながら「むぅっ」と頬を膨らます彼女に、現場からは「おおおおお!!」とどよめきが走る。
 しかもシャッター音も響いているのだが、当の本人たちはそれどころではないようだ。
「む、胸は関係ないよ!?」
 離してーっ! と身を捩る彼女を執拗に追いかける陽花。
 こうして撮影は思わぬ方向で開始され進むのだが、どう考えてもこの撮影、劇団の広報ポスターなどではない。
「はい、縁ちゃんと陽花ちゃん、四つん這いの状態でこっち向いて〜♪」
 わんこのような格好で目線を求めるカメラマンに、内心では狼狽しまくり。
 それでも女優とモデルと言う経歴を持つ彼女等は強かった。
 今まで培ったスキル全てを使って笑顔をキープすると、カメラマンの無茶な要望にも応えて撮影を乗り切ったのだった。

――夕方。
「うぅぅっ、恥ずかしかったよ」
 私服に着替えた縁が、水着の余韻を隠すようにその場にしゃがみ込む。
 それに目線を合わせるようにしゃがみ込むと、陽花は困ったように笑って彼女の頭を撫でた。
「ごめんね、でも、ありがとう」
 嫌だったろうに、全力で仕事をこしてくれた彼女には感謝の気持ちしかない。
 それにしても団長には困ったものだ。
(この埋め合わせは絶対にさせないと……!)
 親友に対してこの仕打ちはあんまりである。
 でもまあ、楽しかったのも事実だが、それはそれ、これはこれだ。
「陽花さん、此の埋め合わせに当然……奢ってくれるよね?」
 上目遣いに見上げてくる縁にピンッと来た。
 次第に陽花の唇に笑みが乗り、次の瞬間には彼女は満面の笑顔で頷いたのだ。
「もちろん夕食は奢るよ♪」
「本当?」
 パアッと顔を輝かせる縁の胃袋はブラックホール並。そして陽花もお腹がすき始めている。
(いいこと思い付いたよ。もう絶対にこれしかないでしょ♪)
「陽花さん?」
「さあ、行こうか♪」
「ど、どこへ?」
 笑顔で手を取った彼女に縁の目が瞬かれる。
「団長の所だよ♪ 奢ってもらわないとね♪」
 ああ、なるほど!
 そう目を輝かせた縁に遠慮の文字はない。
 この後、2人を騙した団長の財布が悲鳴を上げる事になるのはまた別のお話。
 ところで2人が行った撮影だが、実はこの後団長はめげることなく、ある雑誌と交渉を続けていた。
 その結果――
「やだっ! 何でグラビア!?」
「うそー! 載ってるーー!!」
 グラビア雑誌を前に、顔を赤面させる陽花と縁の姿が後日目撃されたとか。

―――END...


登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 jb1871 / 彩咲・陽花 / 女 / 20 / バハムートテイマー 】
【 jb1826 / 葛城 縁 / 女 / 20 / インフィルトレイター 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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エリュシオン
2014年06月12日

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