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『湯上りのふたりは危険な香り 』
ハルシオンjb2740


 微かな風が吹き抜け、そぞろ歩く人々の頬を撫でる。
 巨大な温泉施設は浴衣姿で溢れていた。
 温泉は水着で入る混浴形式がメインなので、男女カップルや家族連れの姿も多い。 

 湯冷ましの足を少し伸ばして、ハルシオンとアムル・アムリタ・アールマティは葦の葉の揺れる川べりまでやってきた。
 火照った身体を、夕暮れの川風が心地よく冷まして行く。
「はふぅ〜、温泉気持ち良かったねぇ、ハルちゃん♪」
 アムルは上機嫌で、うーんと伸びをする。
「うむ。矢張り温泉は良いものじゃな♪」
 幼女のような見た目にそぐわない重々しい調子で、ハルシオンも頷いた。

 水着で思い切り温泉を堪能した後は、浴衣に着替えて温泉地の風情を楽しむのもいいものだ。
 ハルシオンは艶やかな黒い肌に、青色スペード柄の浴衣をきちんと着つけている。
 デザインこそ現代的だが、裾さばき、帯の角度とも完璧だ。
 実はかなりグラマラス体形のハルシオンだが、浴衣が似合うよう豊満な胸元も綺麗に収めていた。
 地球の娯楽や文化を愛し、その為に自分の世界を捨ててはぐれ悪魔となったほどのハルシオン。当然浴衣も、本来の美しさを大事にした着付けに拘る。 

 なのに。
「……ところでアムル。其の格好はなんじゃ……?」
 一応笑顔のまま、ハルシオンがアムルの方に顔を向けた。が、口元がぴくぴくとひきつっているのは明らかだ。
「えー? 何か変かな?」
 可愛く小首を傾げるアムル。桃色ハート柄の浴衣は、イメージにぴったりだ。
 だが身につけた姿は『浴衣を着ている』とは言い難かった。
 ハルシオンを遥かに凌ぐ堂々たるバストが、有無を言わせぬ迫力でせり出している。
 浴衣はかろうじて大事なところを覆っているが、逆に言えばそれが精一杯だ。

 ハルシオンの美意識はそれを許すことができない。
「ええい、浴衣はちゃんと着ぬか……!」
 襟を両手で掴み、ぐいとアムルを引き寄せる。
「えー、だって浴衣におっぱい入らないんだもぉん、しょぉがないよぉ〜」
 ぷくーと頬を膨らませ、アムルは可愛い唇を尖らせた。
 確かに、どう見ても布が足りない。
 帯がどうにかこうにかウエストに引っかかって、浴衣をアムルの身体に巻きつけているという有様だ。裾は上方に手繰り寄せられて、ミニスカート丈になっている。
「それでもちゃんと乳はしまうのじゃ! それが浴衣という物なのじゃ……!」
 ハルシオンは力いっぱい襟元を引っ張る。アムルはそれを暫く面白そうに見下ろしていたが、次第に顔をしかめる。
「あーん、やっぱりムリだよぉ〜! いたくなっちゃうよぉ」
「我慢するのじゃ!」
 だがハルシオンの努力もむなしく、弾力のある物体はからかうようにぷるんぷるんと左右に振れた。
 結局観念したのはハルシオンの方である。

「ゆ、浴衣、は、特注の物を、持参すべきであったか……!!」
 前屈みになって肩で息をするハルシオンを、アムルの緑の目が覗き込む。
「ハルちゃん、だいじょうぶ〜? つかれちゃったぁ? ボクのうでにつかまる?」
 誰のせいで疲れたと思っているのか。
 だがアムルの素直なで真っ直ぐな目に、ハルシオンは何だかんだで弱いのだ。
「む……仕方がないの。今度浴衣を着るときは、わしがきちんと着つけてやるのじゃ」
 精いっぱい威厳を保ち、ハルシオンはアムルの腕に掴まった。
「うん♪ そのときは着せてねぇ〜」
 甘露を意味するその名の通り、見る者の心をとろかすような堕天使の笑顔。
 ただ純粋に快楽を求めよ。それが自然な姿なのだと言っているようだ。
 ひとつ屋根の下に暮らして毎日それを見ているはずのハルシオンですら、見る度にどぎまぎしてしまう。


 次第に夜の気配が辺りを包みこんでいく。
 静かな川べりには、腕を組んで歩く二人の他に人影は見えなかった。
「日が暮れちゃったねぇ〜。でも風がきもちいい♪」
「そうじゃな……って、胸元を開くでない!」
 空いた方の手で襟を広げてパタパタさせるアムルに、ハルシオンがまた注意を飛ばす。
「えー、誰もいないからいいよね♪ 汗かいちゃってぇ、なんかべたべたするんだもぉん」
 そこでふと思いついたように、アムルの目がほんの僅か細められた。
「ハルちゃんは暑くないのぉ?」
「心頭滅却すれば火もまた涼し、じゃ」
 ふいとつれなく顔をそむけ、ハルシオンは淡々と言ってのける。
「じゃあねぇ〜、もっとくっついちゃうよぉ♪」
 アムルがぐっと脇をしめると、ハルシオンの腕は引き寄せられ、手に柔らかな膨らみが押しつけられた。
「歩きにくいのじゃ! す、すこし離れて……!!」
「えーあるきにくいの? だったらぁ、ボクにもっとくっついてぇ、寄りかかってもいいんだよぉ♪」
「なっ……!」
 アムルにはお見通しなのだ。離れて欲しいと言うハルシオンだが、本当はそんな理由じゃないということが。
 可愛い顔にはっきりと困惑と動揺が現れている。
 その顔が見たくて、アムルはハルシオンを色んな言葉で惑わせるのだ。

 精いっぱい取り繕ったハルシオンの平常心は、アムルの蠱惑的な甘い声の前に簡単に揺らいでしまう。
 いつもこうなのだ。
(本当は汝の方が小悪魔でなはないのか……!)
 ハルシオンは自分の心を惑わす無邪気な笑顔が、なんだか小憎らしくなってくる。
 だがアムルは、クスッと小さな笑いを漏らすだけ。
「ふふっ、でもハルちゃんの浴衣姿、すっごくかわいいよぉ〜。これが見られただけでも、きてよかったって思っちゃうんだ♪」
 あくまでも優しく囁く声は、耳に心地よく響く。
「えっ……そ、そうじゃろう? 浴衣はちゃんと着た方が良いのじゃ!」
 ハルシオンは得意そうにしゃんと背を伸ばす。そして内心で、紅に染まる頬を隠してくれる暗がりに感謝した。
 まるで気まぐれなつむじ風のように、ハルシオンの気持ちを弄び、舞い上がらせたり落としたり。
 アムルは何か不思議な魔法を使うみたいだ。けれどそれは決して不快ではない。
 不快ではない、の、だが……

「こ、これ、アムル……そのなんだ、そんなに、押し付けるでない!」
 ハルシオンは居心地悪そうに、アムルに絡めた腕を引きぬこうとした。
 だが弾力のある膨らみに押しつけられた腕はびくともしない。
「あはぁ♪ そんなに急に動いちゃダメだよぉ……!」
 突然吐息混じりの声が漏れた。
 まずい。ハルシオンは本能的にそう思った。
「わ、わかった。す、少し暑い……そう、やっぱり暑いのじゃ! 今少し、離れてもらえると……」
 たじたじになりながらもこれ以上アムルを刺激してはいけないと、ハルシオンは腕を動かせずにいた。
 だが時すでに遅し。アムルは花のような唇をほころばせる。
「わかるよぉ……だってぇ、ハルちゃんの手がすごぉく熱いんだもん……♪」
 やけに艶っぽい声が耳をくすぐった。
「え、いや、えぇっと、そ、其れは意味がじゃな……って、えぇッ!?」
「あはぁ♪ なんかボクも興奮してきちゃった……ハルちゃぁ〜んっ♪」
「なぁぁぁぁーっ!?」
 ガサガサガサッ。
 葦や草がなぎ倒され、驚いて飛び出した鳥の羽音が辺りに響く。
「落ちつけ! 落ちつくのじゃ、アムルゥーーーーッ!!!」
 静かな川面に、ハルシオンの絶叫が響き渡っていった。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb2740 / ハルシオン / 女 / 11 / 】
【jb2503 / アムル・アムリタ・アールマティ / 女 / 14 / 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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湯上りでほんのり薄紅色。そんなお二人をイメージして執筆致しました。
お楽しみいただけましたら嬉しいです。
この度のご依頼、誠に有難うございました!
■イベントシチュエーションノベル■ -
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エリュシオン
2014年06月12日

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