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『ももとモモのおうちデート 』
矢野 胡桃ja2617)&百々 清世ja3082

 少女は、読んでいた雑誌を閉じた。3度くらい読み直した雑誌は殆ど内容も覚えてしまった。
 リモコンでテレビをつけて、眺めてみた。脳天気な出演者達が『今噂の』などと言いながら、東京のデパ地下探索をしていた。それに対しての右下に小さく切り取られた枠の中にいるアナウンサーのコメントはわりとありきたり。退屈だ。
(ぶっちゃけて言ってしまうと、モモはとっても暇です)
 平日の昼間という時間帯のテレビは中学生の少女の為には作られていない。
 何度かザッピングを繰り返してみるが、特に興味をそそられるものがなかったので、ぶちんとテレビの電源を切った。
 かといって外に出る気分にもなれず、とりあえず胡桃は自室に戻る。
「うー」
 矢野 胡桃はまくらを抱いてごろんとベッドに寝っ転がった。
「暇ー」
 大好きなお父さんは今日はお出かけ。家に胡桃ひとり。凄く、退屈だ。
 ころんと胡桃が右向きになると枕元に置きっぱなしだった携帯電話の存在に気が付いた。
 手に取り、待ち受け画面を暫し眺める。その時にふと思い立ち、友人にメールでも出してみようと、まくらを傍らに置いて携帯電話を手に取った。
 丁度、その時タイミングよくメールの着信があった。発信者は百々 清世。胡桃はメールを開いてみる。
『胡桃ちゃん、矢野の奴しんねー? 電話でねぇんだけど』
「あれ? ももきよおにーさん。父さん、今日は帰ってこないですよ? 父さんにご用?」
 返信をすぐ打ち込んで送信。また、直ぐにメールの返信があり開いてみる。
『じゃ、遊ばね?』
「モモ知ってる! えぇと確か……おうちデート! っていうですよね?」
『おうちデート? いいねー』
「楽しみにしてます!」
 返信をすぐに打ち込んで送信。ちなみに、胡桃には彼氏が居る。だからか、また直ぐに返ってきたメールは少し疑問系だった。
 けれど、清世も遊びたかったのか。あっさりとおうちデート案を了承。胡桃はまた直ぐに返信を送信。
 今度は少し間を置いて、再び着信があった。
『そういや、胡桃ちゃんお昼ご飯食べたー?』
「ううん、まだですよー?」
『よし、じゃあお兄さんと一緒におうちで食べようかーイタ飯ー』
 清世からのメールに更に返信を打って、胡桃は身を起こす。鏡を見ながら、少し乱れた髪を結い直した。



「いらっしゃーい。ももきよおにーさん」
「お邪魔しまーす」
 矢野家のチャイムが鳴ったのは清世の最後のメールがあってから、少し経った頃だった。
 清世が持参した手提げ袋からは微かにスパゲッティの長細い袋が見えた。
「じゃ、早速作りますかー」
「あ、モモもお手伝いします!」
 少し賑やかに清世と胡桃はキッチンへ向かう。
「じゃ、台所借りるねー」
「何が必要ですか!」
「んじゃー、お鍋と塩、あとザル持ってきてくれるー?」
 清世を見上げる胡桃。指示を待つ忠犬のようにも見えた。そして、清世に言われるとクルミはサッとそれらのものを取りそろえる。
 余りの速さに、清世も少し驚いて。
「お、早いねー」
「今のモモはももきよおにーさんの優秀なアシスタントですから!」
 きりっ。張り切る胡桃の頭を清世は一撫でする。
 沸騰したお湯に塩を投入する清世。適当にスプーンで掬い投入している、勿論目分量。
 曰く。
『おにーさん、レシピとか見ない系。Let's 男の手料理ー』
 とのことらしい。しかし、作っているのはパスタだから、レシピなんてものもないのだけれど。
「ほわぁ……。ももきよおにーさん、上手」
 鍋の中、花が咲くように綺麗に広げられたパスタの乾麺。歓声をあげる胡桃。
 清世はパスタを茹でているだけなのだが、壊滅的に料理が苦手な胡桃にはまるで神様か何かの奇跡のようにも見えた。
 時計を見ると、パスタを茹で始めからもうすぐ7分。
(んー、パスタソースじゃなくて手作りするかなー)
 褒められて、ちょっと気を良くしたおにーさん。
「ん、そーだ。胡桃ちゃん、ケチャップはある?」
「ん? 何使うですー?」
 戸棚から真っ白なお皿を取り出していた胡桃。そんな時に掛けられた清世の問いに、きょとんと胡桃はお皿を持ったまま首を傾げてみる。
「男の手料理ー」
「なるほどです」
 お皿を机において、言われた通りに胡桃はケチャップを取り出す。
 受け取った清世はありがとうなどとは言うけれど。
「あ、てかふつーにおにーさんも冷蔵庫開ける予定あったんだった。胡桃ちゃんに撮って貰わなくてもよかったかもー」
 一旦火を止めて、ザルにパスタをあけた。もくもくと、白い蒸気が立ち上っている。
「材料、何かあるかなー」
 清世は遠慮せずに冷蔵庫を開けて中身を確かめてみた。
 タマネギ、ある。ピーマンも、ある。ソーセージもあった。ついでにぶなしめじも見付けたから一緒に取り出した。
 野菜やソーセージ達を適当な大きさに刻んだら、胡桃に用意して貰ったフライパンに纏めて入れて炒める。
 程良く焦げ目が付いたところに、目分量でソースとケチャップを投入。其処に茹でたパスタも投入。
「よっ……と」
「おお、ひっくり返った!」
 具やソースにパスタを絡めていくだけなのだが、大サービス。炒飯の要領で引っ繰り返した。胡桃の歓声が巻き起こる。
 ちなみにレシピは見ないから、男の勘勝負。
「おにーさん特製なぽりたーん」
「おお、ナポリタンですね!」
 ぱちんと両手を合わせ。すると清世はちっちっちと指を振る。
「なぽりたーんの、たーん。これ、大切。テストに出るよー?」
「なるほど! なぽりたぁん?」
 少し発音は違ったけれど、とりあえず清世は合格点を出した。

 ※※※

「なぽりたぁん、おいしかったですよー」
「よかったよかったー」
 食事を終えた頃には、だいぶ時計が進んでいた。
 其程長くは感じなかったのだが、他愛のないことを喋りながら居たからだろうか。時計を見た時は一瞬驚いてしまった程だ。
 ふたりで協力しながら食器を洗い、テーブルを拭いて後片付けも終えた。
「さて、次何しますかー?」
「あ、借りてきたDVDがあるよ。それ見ない?」
 清世は鞄を漁る。こんなこともあろうかと、此処へ来る前にレンタルDVD屋に寄っていたのだ。
 同じ犬種のわんちゃんが多数出てくる、どちらかというと子ども向けのアニメDVD。
 世界的に有名な制作会社が作っており、大抵の子どもは見たことがあるのではないかと思われる程。
「つい、懐かしくて借りたんだー。これ、わりと好きだからさー」
 清世も当然のように子どもの頃に見たことがある。居間に向かい、DVDデッキにセットして始まる画面を眺めた。
 ソファーに腰かけ、ジュースを啜りながら映画鑑賞。当然のように胡桃の特等席は清世のお膝だった。
「胡桃ちゃんは、わんこだったらどんな犬種が好きー?」
「そうですねー、モモはドーベルマンとか、格好良くて結構好きかもしれません。この前、テレビで警察犬特集やってて格好いいなーって。ももきよおにいさんはー?」
「んー?」
 きょとんと首を傾げ、一瞬考える清世。
 そして、すぐに口を開いた。
「可愛いものは何でも好きだよー。ドーベルマンもハスキーもチワワもみんな可愛いけど、やっぱり好きなのは胡桃ちゃんかなー?」
「む、モモは犬じゃないですよ?」
 胡桃はオレンジジュースを吸って、モニターを眺める。

 中盤に差し掛かり、物語のドキドキ感が一気に加速してきた。
 引き込まれるように映画を見ていた清世はふと、気付く。
「そういや……今日、あいつ帰ってくんだっけ?」
 時計はもう既に5時過ぎ。メールで返ってこないと教えられていたのだが、すっかりと忘れていた。
「帰ってくるなら怒られるから、帰るけど……帰ってこねぇなら泊まっちゃおうかなー……いい?」
 かくりと、胡桃の方に目を向けると彼女は清世に寄りかかり居眠りをしてしまっていた。
「うぉ……寝てら。まぁ、とりあえず起きたら聞いてみるかなー」
 清世は胡桃を起こさないように近くに置いてあった上着を被せてあげる。
 すぅ、すぅと静かな寝息を立てている彼女の寝顔を眺め、清世はふと呟いた。
「うん……やっぱ、胡桃ちゃんは可愛いから可愛いカウントでいいやー」
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エリュシオン
2014年06月16日

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