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『観戦でどっきどき? 』
猫野・宮子ja0024)&ALjb4583

 どんどん、だんだん♪
 ざわめきに混ざって響く楽器の音。それにキョロキョロしながら、AL(jb4583)は自分の前を歩く猫野・宮子(ja0024)を見やった。
「宮子様、すごい人ですね」
「え、何?」
 何か言っているのは聞こえたが、周りの音がうるさくて聞き取れない。
 宮子は足を止めると、ALの顔を覗き込むようにして顔を寄せた。これに一瞬だけALの目が見開かれるのだが、その辺を気にする宮子ではない。
「ごめなんだよー。、もう1度言ってもらっていいかなぁ?」
 上目遣いに見詰めて手を合わせる。
 その仕草に小さく笑うと、ALは改めて今居る場所を見回した。
 ここは久遠ヶ原からさほど遠くない野球スタジアムだ。これからこの場所で野球の試合が行われるのだが、そもそも何故2人がここに居るのか。
 全ての始まりは、宮子が部室でALを観戦に誘ったことに始まる。
『そういうわけで一緒に野球見にいく?』
 そう言った彼女に、ALは笑顔でこの誘いを受けたのだ。
 そして今に到るのだが、それにしてもすごい人だ。
「学園にも多くの人がいますが、ここもすごいですね」
「あ、うん。ここはパンダーズのホームグラウンドでもあるから、通常のスタジアムより大きいんだよ♪」
 パンダーズとは宮子が応援する球団の名前だ。
 そこかしこにパンダの風船なども売っている通り、パンダがモチーフになった球団なのだ。
 その見た目やパンダのイメージから、予備知識なしでファンになれるという球団でもあり、実質現在のプロ野球で一番の人気を誇っているのではないだろうか。
「パンダーズの人気は僕も知ってます。宮子様のユニフォーム姿でも記憶しましたし」
 言って彼女の姿を見詰める。
 宮子は現在、パンダーズのユニフォームにパンダのカチューシャと言う、ファンならではの応援スタイルになっている。
 少しばかりスカートが短すぎる気もするが、ニーハイソックスの影響で露出は少ないから目を瞑っておこう。
 絶対領域と言うおいしい場所もあるし問題ない。
「??? ALくん、大丈夫?」
 いきなり黙り込んでしまった彼に不安を覚えたのだろう。
 首を傾げながら眉を寄せる姿に「大丈夫です」と答えて微笑み返す。その上で手にしていたチケットに目を落とすと、キョロリと辺りを見回した。
「記憶したスタジアムの地図から考えると、この辺が座席のようですね」
 言って歩き出すALの後ろを宮子が慌てて付いて行く。そうして目的の座席に辿り着くと、宮子が感嘆の声を零した。
「はじめて来たのに僕より詳しいかもだね。すごいー」
 目をキラキラさせて見詰められると困ってしまう。
 軽く咳払いをしながら視線を逸らし、ふと既に腰を据えている観客に目を留めた。
「……なるほど。ああした物も売っているのですね」
 彼が見付けたのは、パンダーズの公式マスコットが描かれたカップだ。どうやらカップは何種類かあるらしい。
「宮子様、少しこちらでお待ち下さい」
「え、どうしたの?」
「御飲物等を御用意致します」
「あ、飲み物とか……」
 そう言えば座席を探すのに夢中でそう云った物を買ってこなかった。
「ごめんだよ……」
 思わず零した謝罪にALの手が伸びると、彼は宮子の口元に人差し指を立てて微笑んだ。
「こうした場合の言葉は『ありがとう』でお願いします。僕は宮子様が野球観戦に誘って下さったことをとても嬉しく思っているんですよ。ですからそのお礼も含めてお礼をさせて下さい」
 お願いします。そう言葉を添えて小首を傾げる。それにコクコクと頷くと、宮子は思い出したように持っていた鞄をあさり出した。
「宮子様? お金でしたら僕が――」
「そうじゃなくて、これだよ♪」
「これは……」
 宮子が取り出したのは、彼女が着ているのと同じユニフォームだ。
 見たところ彼女の物のようだが……。
「ALくんはこれを着てね♪ 僕が着てたやつだしサイズ合うといいんだけど」
 やっぱり。
 そんな言葉を呑み込んで手を伸ばす。
 そうしてユニフォームを羽織ると、宮子の輝き放つ目が彼の姿を捉えた。
「すごく良く似合うよっ! これでALくんもパンダーズのサポーターだね!」
 はじめて着るユニフォームはどこかむず痒い。
 着慣れない、と言うのもあるが、単純に宮子とお揃いだからと言う部分もあるかも知れない。
「えっと……それでは買いに行ってきます。くれぐれも宮子様は動きませんように」
 良いですね! そう念押しすると、ALは観客席の奥へと消えて行った。
「なんだか僕が仕切るって言うよりも、ALくんが仕切ってる気が……」
 野球観戦をしたことがない彼を誘ったのは自分で、ここは1つ良い所を見せようと思っていたのだが、どうしてこうなった。
 思わず項垂れそうになるが、ここは部活の先輩としても部長としても負けるわけにはいかないだろう!
「よしっ! ALくんが戻ってきたら、今度こそ僕がリードするんだよ!」
 そう言うと、宮子は持って来た応援グッズと双眼鏡を取り出し、ALが戻って来るのを待つことにした。

   ***

「僕にとっては初観戦ですので、一寸ドキドキします」
 ゲームが始まる前の緊張感は、はじめて観戦する人も、そうでない人も等しく訪れる様だ。
 宮子の隣でユニフォームを羽織ったALも、ゲーム開始前の緊張感に表情を硬くする1人である。
「なんだかテレビで見るよりも小さいのに、人の歓声が大きいせいか気持ちの昂揚具合が違うように感じます。宮子様も同じ……宮子様?」
 初めて訪れたスタジアムの感想と自身の感情を説明していたALは、隣で「うふふ」とほくそ笑む宮子を見て言葉を止めた。
「ALくんのはじめて観戦っ! ふふー、それじゃあ僕が応援の仕方を教えてあげる♪ 一緒に目一杯応援するよー♪」
 はいどうぞ。そう差し出されたメガホンにALの目が瞬かれる。
「応援する時はこれを使って叫ぶんだよっ」
「これを使って何を――」
「ああ! 選手が出て来たんだよっ! パンダーズ、キャーーーーッ!」
 試合も始まっていないのに大歓声が耳を打つ。
 よもやここまでの人気とは思わなかった。と言うか、宮子の歓声が誰よりも大きい。
 だが今のでメガホンの使い方はわかった。
「つまり、ここに口を付けて叫べば良いんですね」
 まだ歓声は続いており、本日のメンバーの紹介が始まろうとしている。そして1人ずつ名前と背番号、守備が読み上げられるのだが、その時にもファンらしき人の叫び声が響いている。
「ALくんは誰か知ってる選手の人いるかな?」
「知ってる選手ですか?」
 言われて球場を見回す。そうして目に留めたのは、パンダーズのマスコット・班田クン(ぱんだくんと読みましょう)だ。
「彼なら存じ上げています」
「班田くんかぁ……流石に班田くんにエールを送る人は――って、ALくん!?」
「きゃーーーー! 班田くーーーん!」
「!?」
 宮子絶句。
 驚いてALを見詰めるが、彼はやりきった顔をしている。勿論、周囲の観客も驚いてみているのだが、やはり彼は良い顔をしていた。
 そして良い顔のまま宮子を見ると、少し興奮した状態で言う。
「こう、でしょうか? しかし、応援と言うのは気持ちが良いものなのですね。これなら僕も楽しめそうです」
「あ、あはは……楽しめそうなら、良かったんだよー」
 そう言って宮子が笑うと、ALは極上の笑顔を見せてメガホンを握り締めた。

   ***

 試合が終わったあとのスタジアムと言うのは、一気にざわめきが引いてゆく、まるで波のような物だと思う。
 宮子はALのエスコートを受けて電車に乗り込むと、流れる景色を見ながら隣に立つALに話しかけた。
「今日はいつも以上に楽しかったんだよ♪」
「僕もとても楽しかったです。これも宮子様のおかげですね」
 普段とは違うお互いの姿が見れたこと。
 それが何よりも収穫だった。
「でも、ちょっとはしゃぎすぎちゃったかな……」
 ALと一緒に出掛けると言うことで、今日はオシャレにも気合を入れたし、夜もなかなか寝付けなかった。
 だからだろうか、少しだけ瞼が重い。
「ん、ちょっと眠たく……ふぁ……」
「み、宮子様?」
 慌てて手を伸ばして宮子を支える。
「立ったまま寝られるとは……」
 ALは彼女が崩れ落ちないように手を伸ばすと、彼女の肩を抱き寄せるようにして目を細めた。
「……宮子様、完全燃焼ですね」
 思い返せば観戦の最中、宮子は一生懸命ALに応援の仕方を教えようとしてくれていた。
 その姿は少し無理をしていたのかもしれない。でもそれが自分と一緒だからと言う理由だとしたら……。
「……こ、困りましたね。何故か先程とは違うドキドキがします」
 思わず赤面して言葉を詰まらせる。
 自分勝手な妄想だとは分かっていても嬉しい物は嬉しい。
 ALは寝息を立てる宮子の顔を見詰めると、自身の中に芽生え始めているモノに耳を寄せ、笑みを零したのだった。

―――END...


登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ja0024 / 猫野・宮子 / 女 / 14 / アカシックレコーダー:タイプB 】
【 jb4583 / AL / 男 / 13 / ダアト 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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このたびはご発注、有難うございました。
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エリュシオン
2014年06月19日

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