▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『巡り続くは永久なる今日に。 』
藤村 蓮jb2813

 藤村 蓮(jb2813)が母の経営する喫茶店を兼ねた我が家に戻ったのは、けっこう久し振りの事だった。
 何しろ、普段は久遠ヶ原学園内にある、部室も兼ねた喫茶店もどきの家で暮らしている蓮である。夏休みだろうと何だろうと、撃退士としての任務もなくはない学園だから、帰省といっても数日――という事も珍しくはなくて。
 だからこそ本当なら、久々の我が家でのんびりと羽を伸ばしたり、やはり久々に会う母に学園の話を聞かせたりしてゆっくり過ごす、穏やかな休暇になるはずだった。――その男がふらり、姿を見せるまでは。

「――何してんの?」

 母から頼まれた買い物から帰宅してその男、藤村 瑠亥(ga3862)の姿を見た蓮の、一番最初のセリフがそれだった。声色がいつもの彼よりも遥かに低くなってしまい、知らず知らずのうちに顔を思い切り顰めていたが、別に構わないだろう。
 そう思って取り繕う必要すら感じない、その男は戸籍上の話で言えば、蓮の父親である。否、血縁上も立派に父ではあるのだが、どちらかと言えば蓮はそれを認めたくない、と思って居たりした。
 何しろ、蓮と同じくアウルの力に目覚めて撃退士をしている父はと言えば、良くは知らないが――知りたくないが、世界レベルでも屈指の実力を持っている撃退士、らしい。おまけに、それを理由に蓮の記憶のある限り、瑠亥はいつだって世界中をひっきりなしに飛び回っては殆ど家に寄り付かず、蓮はもちろん家のことも全部母に任せっぱなしのほったらかしで、しかもそれに反省している素振りすら見せないのである。
 そんな相手に一体どうして、愛想良く振舞ってやることが出来ると言うのか。否、蓮だってさすがに物の道理もまったく解らない子供ではなくなったのだから、瑠亥にだって幾ばくかの事情はあったのかもしれないと、ちらりとぐらいは思いはするけれども、感情の部分が全部それを否定していくのである。
 幾ら必要とされているとはいえ、限度ってものがあるだろう、とか。そのせいで母さんがどんなに苦労したと思っているんだとか、いつだって胸の中にある不満は時折、瑠亥の取り澄ましたような無表情を見るたびに、わかってんのかこのクソ親父、と爆発するわけで。

「………ッ」

 せっかくの楽しい休暇だったのにと、本気の怒りを覚えながら瑠亥から、ぶんッ! と勢い良く目を逸らす。たとえどんな理由があろうとも、母がそれを許していようとも、大切な母に苦労をさせている時点で瑠亥への評価は、例え血の繋がった父であろうとも――否、もしかしたら血が繋がっているからこそ、どん底だ。
 そんな自分が多少、いや、かなりマザコンである自覚は一応、蓮にもなくはない。とはいえ、どんなに物分りの良い『息子』であったとしても、母が病気で倒れて寝込んでいると言うのに見舞いにすら戻って来なかったり、蓮の誕生日だからと母が用意してくれた3人分の料理の前で2人きりで祝ったり、といった幼少期を過ごしていれば、誰だってそうなると言うものだろう。
 思い返すとますます腹立たしくなって、ますます頑なにそっぽを向く。それでも血の繋がっている親だろうと説教したり、言い諭したりしてくる相手もたまに居るけれども、だったら実際に瑠亥の子供になってみれば良い。
 そんな風に苛立ちを胸に抱えて、ぎすぎすした空気を発している蓮を見て、どうしたものかな、と瑠亥は無表情の下で静かに思考をめぐらせた。まずは蓮の『何してんの?』という言葉に答えるべきなのだろうが、何しろ瑠亥の仕事は家族にすら守秘義務で話せないものが多く、そうでないものでも迂闊に話すと愛する妻子を危険に晒してしまうかもしれない、という想いが常にある。
 こういう時、妻ならこんな性格である瑠亥の事を良く知っているから、仕方ありませんね、と笑ってそれ以上は何も言わないでくれるのだが、蓮に同じ事を求めるのは無茶だという事も解っていた。何より、それを求めるのは自分自身の甘えのような物でもあるから、それを許してくれている妻は本当に得がたく、ありがたい。
 ――と、いつしか思考がずれていっている瑠亥に、ふん、と蓮は大きく鼻を鳴らして、あからさまに顔を背けた。俺には返事もしたくないってわけ、と自分の態度の悪さは完全に棚に上げて胸の中のイライラを持て余しながら、瑠亥を務めて無視して横を通り過ぎようとする。
 別に近付きたいわけではないが、手にはまだ母に頼まれた買い物の袋を提げていた。恐らく奥に居るだろう母に渡すには、どうしたって瑠亥の横を通らなければならないのだ。
 そう、どこか自分に言い聞かせるように考えながら、足早に奥へ向かおうとした蓮の耳に、そういえば、とようやく紡いだ瑠亥の言葉が届いた。何さ、と不機嫌も露に振り返れば、淡々とした無表情の、けれども内心ではやっと見つけた『無難な』話題にほっとしている瑠亥の顔。

「久遠ヶ原学園に入学したらしいな」
「……そだけど。それが? なんかあんたに関係あるわけ?」

 そうして出てきた言葉に、一体いつの話をしてるんだと、刺々しい気持ちで思ったのが言葉にも態度にも出たのは仕方のないことだった。何しろ、蓮が久遠ヶ原に入学したのはもう1年以上も前の事で、今さらわざわざ話題にするようなことでもないだろう。
 もっとも、そのくらいこの男とは顔を合わせていない、のだけれども。蓮が久遠ヶ原学園へと入学したのはきっと、母あたりから聞いたのだろうけれど、良く考えればそれゆえに、あまり帰って来ない蓮と滅多に家に寄り付かない瑠亥が、こうして顔を合わせたのがそもそもありえない位の偶然だ。
 だったらもっと違う偶然にしてくれれば良いのにと、本気で嫌そうな顔になった蓮を見て、いや、と瑠亥は律儀に首を振る。それにまた嫌な気分になって、今度こそ母の元へと向かう蓮を見送って、仕方ないな、と心の中だけで瑠亥はため息を吐いた。
 一応、自分と同じ道を歩もうとしてくれる事が嬉しかったり、心配で止めたかったり、でもその道を選んだ理由にもし自分が一欠けらでもあるのなら、と思っていたりはするのだが、やはり全部言葉には出来ないままで。だから愛息子に誤解されるのは仕方のない事で――それでもやはり、人並みに胸が痛むことに自分でも驚いていたりするのだけれども。
 ――いつも、殆ど家に居られなくて申し訳ないと思っては居るけれども、瑠亥のところにやって来る案件というのは概ね、自分が動かなければどうにもなりそうにない、という状況が多い。となれば赴かざるを得ず、一度行けばしばらく行ったきりになってしまうから結局、なかなか家には居られなくて。
 せいぜい、仕事の合間を縫って瑠亥が戻ってこられるのは、真夜中の僅かな時間ぐらいの物だった。それだって、いつぞやは妻が病気で寝込んでいるからと無理を言って――むしろ周りが気を使ってくれたところもある――見舞いに帰って来れたのであって、毎年の蓮の誕生日はさすがに戻ってこれないまま、依頼先でなんとか見繕えたプレゼントも渡せず山になっている。
 そんな自分を瑠亥らしいと、妻は苦笑して、時には可愛らしいわがままを口にしながらも、蓮を始め家の事のほとんどを1人でこなしてくれていた。それにいつも心から感謝しているし、だからこそ愛する家族を守るためにも戦わねばと、日々を飛び回っている。
 ――という事を、息子が納得できるほど饒舌に説明できるような男ならばそもそも、こうして嫌われてはいないに違いなかった。何よりそもそも、説明した所で現に自分は居ないのだから何の意味があるだろうと思ってしまって、説明を試みた事もない。
 なので、時には寂しさも感じながら、仕方ないな、と思うだけで終わらせていて。だからますます蓮が頑なになって行っているのだろうことにも、一応、気付いては居るけれども。
 それでも、仕方ない、と思う。自分はこの生き方を変えられないし、変えようとも思わない。
 それを、妻は解ってくれているはずだから。自分が何を守るために戦い続けているのか――そうして、戦う姿を誰に見せたいと思っているのかを、理解してくれているはずだから。
 自分のように戦いに明け暮れて生きてきた、決して綺麗でもなんでもない撃退士としてのいき方しか知らない男が、我が子に胸を張ってこれが自分の生き方だと見せてやれるのは、やはり、戦う姿しかない。誇らしいわけでもない、高潔なわけでもない、けれどもそれが瑠亥という男なのだから。
 今回の休暇は久々にまとまって取れたし、幸いにして蓮もまた学園の休暇だか何かで――実は理由を良く聞いていない――しばらく家に居るようだ。ならばその辺りの話をする事も出来るだろう。
 そう、考えたまさにその瞬間、呼び出しのコールが鳴って瑠亥は厳しい表情になった。

「む………」

 一瞬のうちに様々な考えを巡らせるものの、速やかに動かなければ事態が悪くなることが多いのが、瑠亥が身を置く戦いの常である。ならばすぐさま向かわなければと、嘆息を零しながら慣れた手つきで手早く準備を整えた。
 そんな瑠亥の気配に気付いたのだろう、戻ってきた蓮が咎めるような眼差しを向けた。思いつく限り、蓮にはいつだってこんな、また母さんを置いていくのか、と真っ直ぐに瑠亥を批難する眼差ししか、向けられた記憶がない。
 そんな、愛しい息子にあるかなしかの僅かな笑みを浮かべて、瑠亥は小さく呟いた。

「あとは頼んだ」
「……ッ、言われなくても! 母さんは俺が守る!」

 返って来るのはいつも通りの、噛み付くように吼える言葉。そうだな、とそれに頷いて瑠亥は、ちらりと一瞬だけ奥に眼差しを向け、顔を覗かせた妻に目顔ですまないと謝ってから、自分を待つ戦いへと飛び出していく。
 ――そうして、瑠亥が居なくなった家の中で残された蓮が「結局すぐに出て行くのかよ!」と大荒れに荒れ、母に苦笑して宥められるところまでが実のところ、藤村家が長らく過ごしてきた日常、なのだった。





━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【整理番号 /  PC名  / 性別 / 年齢 /   職 業   】
 ga3862  / 藤村 瑠亥 / 男  / 22  / ペネトレーター
 jb2813  / 藤村 蓮  / 男  / 17  /  鬼道忍軍

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

いつもお世話になっております、蓮華・水無月でございます。
この度はご発注頂きましてありがとうございました。

親子(仮)での当たり前の会話を目指す物語、如何でしたでしょうか?
いや、目指していたのは蓮華だけのような気がしなくもないですが、一応は目指してみた結果やはり、こういう感じに落ち着いてしまいました(ぁ
きっとこのあと、お母様にお店でコーヒーを淹れてもらったり、お菓子を作ってもらったりして気を逸らされつつ、ますますお母様大好きになっていかれるのだろうな、とか思ったりはしていません。
会話……一応してますよ、ね? ね?(←
何か、少しでもイメージの違う所がございましたら、いつでもどこでもお気軽にリテイク下さいませ(土下座

お2人のイメージ通りの、懐かしいながらもどこかいたむ様なノベルであれば良いのですけれども。

それでは、これにて失礼致します(深々と
■イベントシチュエーションノベル■ -
蓮華・水無月 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年06月26日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.