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『手を繋いで翼広げて 』
天河 ふしぎ(ia1037)


 碧空の先に、岩石だらけの浮遊島が見えてくる。
「古い遺跡を持つ島、かぁ……」
「……生きる者の気配はないようですね、ふしぎ様」
 空賊団『夢の翼』団長・天河 ふしぎに寄り添いながら、リズレットは周辺へ警戒する。
「時空を超える超古代文明が眠ってるらしいからね、……眠っているだけで、目を覚ますかもしれないよ?」
「こ、怖くなんてありませんよ。そんな脅かしで退くようでしたら、リゼはこうしてお傍におりません」
 おっとり温和な令嬢然としているリズレットだが、たまにこうして気の強さを覗かせる。
 むむ、と銀色の瞳で見上げられ、ふしぎはクスクス笑いで応じた。
「脅かしじゃないさ。でも、覚悟を聞けて良かった。ごらん、あの丘に在るのが祭壇だ。『何かが目覚めるかもしれない』可能性が否定できないのは、本当だよ」
 枯れた蔦の絡まる、石造りの神殿が遠くに見えた。
 物言わぬ神殿は、まるで二人の訪れを待っていたかのように、そこに佇んでいた。




 踏み込むと、空気が一転してヒヤリとしたものになる。
 薄暗い通路を進み―― 果てに、仄かな光を見た。
「お宝!?」
「落ち着いて、ふしぎ様……っ」
 駆け出す少年を、少女が慌てて追いかける。
 時空を超える超古代文明。
 それは、異世界への扉と文献にはあった。
 何が仕掛で、どうやって扉が開くかわからないのだ――

「チケット」
「……ちけっと、ですね」

 ほの白く浮かび上がる球体の、その上に紙切れが2枚。
 恐る恐る、ふしぎは紙片へ手を伸ばす。
 旅行券、と書いてあるように見える。

『行先ヲ 選択シテクダサイ』

「しゃべりました!?」
「行先…… 選択、ってことは、ええと、ここからどれかを押せっていうことかな。フクオカ、オオサカ、ナゴヤ、トウキョウ、サッポロ…… 何処の世界だ?」

『行先ヲ 選択シテクダサイ』
 球体は、なおも音声を繰り返す。
「選ばないと、進めないようですね……」
「リズは、何処がいいと思う?」
「そうですね……」
 うんうん唸り、最初と最後は何が潜んでいるかわからない、などの消去法から『トウキョウ』を選択。
『宿泊先ヲ 選択シテクダサイ』
「泊りの旅行なの!!?」

 二人で文字通り手さぐりで、古代文明の遺物と格闘し、全てを終えた後――

『アマカワ フシギ様 リズレット様 二名様・東京一泊二日 確認 カクニン』
 球体が、なにやら封書を吐き出す。反射的に、ふしぎは手を伸ばした。
 開ける暇もなく……
『良イ ゴ旅行ヲ!!』
 球体が明滅し――世界が暗転する。
 下から強い風が吹き上げ、引き離されないようにとリズレットの小さな体を、ふしぎがギュッと抱き留めた。


 ――世界が、変わる。




 ゴウ、と突風が通り過ぎた。
 硬く瞑っていた目を、ゆっくりと開ける――

 人の波、波、波

「わわ!? 何処かのお祭り!?」
「それにしては…… 皆様の表情が淡々としてらっしゃいますね」
 グレーを基調とした装束に身を包んだ老若男女が、忙しなく歩き回る。
 かと思えば、華美な服装で花束を抱える女性もいた。楽器を背負う若者もいる。
 これが全て屋内であり、先ほどの突風は金属の長い箱――恐らくは乗り物が通過した際のものであると理解するのに、やや掛かった。
「これが、異世界」
「トウキョウ……なのですね」
 まばたきを繰り返し、それから二人は手を繋いで外の世界へと飛び出した。


 建物の中では、人々は揃って他人行儀だったというのに、外ではどうか。
 音と熱気が溢れる世界。高い建物が林立し、風を巻き起こす。
 行き交う人々は陽気そのもの。
「わ〜〜、可愛いお姉ちゃんだ。耳や尻尾の完成度すごいなぁ。写真撮らせてもらっていい?」
「え? え?」
 リズレット自慢の、ふわもこの耳や尻尾が道行く青年の好奇心を煽ったようだ。
 それは決して悪い方向ではないようだが――
「こらっ。リズの手を握るな!!」
「おっと、こっちはセーラー服美少女! アレンジが良いね。そのゴーグルって何処の店入手? かっけぇ」
「これは空賊の正装なんだからなっ。……それに、僕は男だっ! リズ、こっち」
「あっ、ふしぎ様……」
 絡まれるリズレットを颯爽と助け出し、二人は強い日差しの下を走り始める。
「うーんと。この封書の中に、ヒントがあるのかな」
「宿泊……とも、言ってましたものね」
「シンジュク発…… シンジュクって、そもそもどこ?」

 無表情で歩く男性へ勇気を出して話しかけると、案外と丁寧に教えてくれた。
 自分たちの服装が奇抜に映るということは先の若者とのやりとりで感じていたが、彼にとって気になる問題ではないらしい。
 これだけ多くの人間が居れば、様々な価値観があるのかもしれない。
 最後に、
「最近の若者は」
 と、どこか楽しげにこぼして去って行った。

 突風を巻き起こす金属の長い箱が『デンシャ』。
 地上を走る、巨大な箱は『バス』。
「まずは、シンジュクでデンシャに乗って――」

 ぴこーん

「あれ?」

 ぴこーん

 力強く踏み出した少年の前途を、自動改札機が封じる。
「お客様、乗車券は―― ああ、カードをお持ちじゃないですか。こちらへ通して、はい。通れますよ」
「……魔法のカード!!」
「すごいです、ふしぎ様」
 バスもデンシャも、このカードで大丈夫なのだそうだ。
 こんな便利なものもセットされていたとは…… 遺跡、恐るべし。




 電車に揺られ、窓の向こうの景色を眺め。
 高い建物だらけだった風景が、だんだんと民家が増えていく……ように、思える。
「この世界にも、色々な地域があるんだなぁ」
 シンジュクは、商業の町だったのだろうか。
「ええと、ふしぎ様。次で『乗り換え』のようですよ。今度はバスみたいです」
「わわっ。あんまりのんびりもしてられないなっ」


「……リズ?」
「……ご、ごめんなさい」
「怒ってないさ。寒くない?」
 バスが来るはずという場所へバスが来ない不具合発生。
 一生懸命、文字盤を読み解くと―― 下車する場所を、間違えた。
「行程確認を怠った僕のミスだ。一刻も待てば、繋ぎのバスが来るらしいよ。……ほら、陽も落ちて来たし。異世界で風邪を引いたら大変だっ」
「ふしぎ様……」
 ふるぼけた木製の長椅子に並んで腰掛け、ふしぎがリズレットの細い肩を抱き寄せる。
 ふしぎがいれば、
 リズレットがいれば、
 互いの体温が、かけがえのない絆。異世界の心細さなんて軽く吹き飛ばしてしまう。




「うわぁ、うわぁ、見て! リズ! 星だ!!」
 バスに揺られながら、ふしぎが窓へ張りつく。
「この世界にも…… 星はあるんだ」
「並びは、違うようですね……」
 デンシャと違って、ガタゴトガタゴト振動が激しい乗り物だが、これはこれで味がある。
 聞いたところ、旅券に記載されている場所まで当初の予定より時間こそかかるが、このバスも辿りつくのだそうだ。
 終点まで、二人はしばし、羽を伸ばした。




 一瞬、天儀へ戻ったかと錯覚した。
 二人を待っていたのは、古めかしい木造の温泉旅館。
「お待ちしておりました」
 恭しく、女将が二人をもてなす。
「ごゆっくりどうぞ。お食事は、お部屋へお持ちいたしますので」

 板張りの床を歩き、『予約』されていたという部屋へ通される――
「え」
「え?」
 同時に、二人が言葉を失った。
「えっ、えっと、……一緒の部屋でふとん一つなんだけど」
「はい、そのように承っておりましたが」
 和室:ダブル そう書かれた紙を手に、女将が返す。
(だぶる、とはどういう意味なのでしょう、ふしぎ様)
(僕にもわからない……。ふたりで、一つ……? そういえば、ふとんは大きめ?)
(でしたら、ふしぎ様へ窮屈な思いをさせずに済みますね)
 ヒソヒソ話の果てに、リズレットが笑顔で両手を合わせた。
 ――そこに利点を見出して…… いいのだろうか??

 女将が去ってから、室内の探検開始。
 部屋着らしい浴衣へ着替え、卓の上に用意されていた茶を淹れ、温泉まんじゅうを食べる。なかなかに美味。
「温泉まんじゅう…… あっ、温泉があるんだ」
「そのようにおっしゃってましたね。ええと、館内の地図が……。ふふ。異世界ですのに、どことなく近い部分もありますね」
「露天かな。この世界の星空を、目に焼き付けておきたいな」
「えぇ」
 瞳を輝かせるふしぎへ、尻尾を揺らしてリズレットが頷いた。




「え」
「え?」

 脱衣を済ませ、浴場へ―― 扉を開けたら、混浴でした。

「ごっ、ごめん、リズ!!」
「ま、待ってください、ふしぎ様!!」
 わたわたと撤退しようとするふしぎの黒髪を、咄嗟にリズレットが摘まんだ。
「ほ、ほかにお客様は居ないようですし…… 星も、綺麗です。一緒に…… 見たい、です」
 白い肌を真っ赤に染めて、リズレットが『お願い』する。
 釣られるように、ふしぎも赤面して。
「……そう、だね」
 自分が去って、何も知らぬ男性客が来るとも限らない。
(リズは、僕が守る)
 とても優しい気持ちになって、ふしぎは恋人の白い指を握った。




 温泉で疲れを落とし、料理に舌鼓を打ち…… ふかふかの布団へダイブする。
「なんだか、すごい一日だったね」
 まだ少し濡れている銀髪に指を通し、ふしぎはリズレットと視線を合わせた。
「とても楽しい『冒険』でした」
 リズレットがフワリと笑い、それから眠そうな眼差しを向ける。
「……お疲れ様」
 行動派の自分へ、全力でついてきて……時には気丈に支えてくれた。
 きっときっと、彼女にとっても大きな冒険だったに違いない。
 愛しさが溢れ出て、少年は少女をぎゅっと抱きしめる。甘い香りが、鼻先をくすぐった。

 その存在を確かめるように。
 自分の存在を伝えるように。

 世界が変わったって、二人の絆は変わることなく。より一層、深いものへ。



 翌日の帰り道、更なる冒険が待っているだろう。




【手を繋いで翼広げて 了】


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ia1037/ 天河 ふしぎ / 男 / 17歳 / サムライ】
【ic0804/ リズレット / 女 / 16歳 / 砲術士】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼、ありがとうございました。
恋人同士の異世界旅行、お届けいたします。
楽しんでいただけましたら幸いです。
■イベントシチュエーションノベル■ -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2014年06月27日

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