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『『仕組まれた運命?』 』
リューリャ・ドラッケン(ia8037)

 竜哉(ia8037)はふと思う。
「人妖である鶴祇は何が目的で、どんな陰陽師の手によって作られたんだろうな」
 彼の視線の先には、人妖から天妖になった今でも空中を飛びながら家事をしている鶴祇の姿がある。楽しそうに歌いながら動いている鶴祇は、美しい見た目からは想像しづらいほど戦いに通じているところもあった。
 開拓者の相棒としては理想的な存在であるものの、竜哉は鶴祇の創造者と会ったことがない。
 ただ創造者と思しき人物とは、竜哉は十年ほど前に会っている。
「……しかし未だにあの人が『そう』なのかは、分からずじまいか」
 ため息を吐きながら、竜哉は鶴祇を見つつ十年前の記憶をよみがえらせた。


「ふむ……。やっぱりここが気になるな」
 まだ十代の竜哉は当時、騎士として修行をはじめたばかりだった。
 自分よりも上の立場の者の言葉にはよく従っていたものの、若さゆえの好奇心が強くもあった。
 そんな中、修行の地として訪れた場所の地図を購入したのだが、一部分が真っ白であることに気付く。地図を売っていた店の店主に尋ねたところ、どうもそこら辺に調査をしに行くと、迷って元いた場所にどうあっても戻って来てしまうという不思議な現象が起こっているらしいことを教えられた。
 もしかしたら何かしらの術がかかっているかもしれないので、誰も近づかないらしい。
「もしやアヤカシが関わっているかもしれない。だとしたら放っておくわけにはいかないな」
 口ではそう言うものの、その眼は好奇心に満ちてキラキラと輝いている。
 周囲の人達に相談したら反対されそうなことを想像し、竜哉はたった一人でその場へと向かった。
 山の奥深い場所が、例の空白部分になっている。しかし街からそう遠くなく、たどり着いた場所には洞窟があったのを見て、竜哉は少し残念そうな表情を浮かべる。
「……まさか洞窟の中を歩いて行ったら、元いた場所に戻って来た――なんてオチじゃないだろうな」
 険しい顔つきをしながらも、洞窟の入口に手のひらを当てた。

パシンッ!

「ん? 何だ、今の感じ」
 竜哉は何もない空に手のひらを当てたはずなのに、何故か静電気のような刺激が走ったのを感じた。慌てて手のひらを見たが、何ともなっていない。
 洞窟も、何の変化も起きていないように見える。
「……中の様子を見ておくか」
 そして竜哉は洞窟に足を踏み入れた。


「はあはあ……。結構歩いたな。でも不思議と明るいのが、助かっている」
 洞窟の中は何故か明るさがあり、土道もでこぼこしていない為に歩きやすい。しかしどれだけ歩いても、出口や行き止まりにもたどり着かない。
「この感覚が、人を怖がらせるのかもな」
 そう言っている竜哉自身、顔色が悪くなってきている。暑くもないのに流れる汗を手で拭うと、ふと歩く先にうっすらと白い光がこぼれているのを発見した。
「もしかして出口か?」
 早足で行ってみると、たどり着いたのはどうやら最奥の場所だ。奥行と広さがあり、また竜哉が天井を見上げるほどの高さもある。
 そこに一人の女性が立っていた。まるで竜哉を待っていたかのように、静かな笑みを浮かべたまま。二人は向かい合う。
「何者だ?」
 真剣な顔付きになった竜哉は、女性を見据えたまま武器に触れる。
 こんな洞窟の中に女一人でいることがおかしい上に、女性からは普通の人間からは感じない空気が出ているのが分かった。
 しかし女性は竜哉の問いに答えず、微笑みながら両手をまるで水をすくうような形にした。すると女性の手のひらから白く丸い光が生まれる。光はみるみるうちに大きくなった後、再び形を変え、女性と似た小さな存在になった。
「……まさか人妖、か? あなたは陰陽師とやらなのか?」
 この世界には陰陽師という存在があり、彼らは人妖を作る能力があることは聞いている。
 眼を丸くする竜哉の前で、女性はふと表情を曇らせ、天を仰ぎ見た。
「何だ? どうかしたか?」
 竜哉が声をかけると女性は視線を戻し、地上から浮いている人妖の肩を掴んで差し出す。
「えっ? ……もしかして持って帰れと、言っているのか?」
 女性は優しくも儚げな笑みを浮かべながら、そうだと言うように頷いて見せる。
「まあ人妖を相棒にできるのなら、かなり心強いが……」
 驚きながらも竜哉は武器から手を離し、人妖を横に抱き上げた。
 腕の中の人妖は安らかな寝顔を浮かべており、ぬくもりが伝わってくる。――生きている、確かな証だ。
 不思議な感覚に竜哉が戸惑っていると、女性はスっと腕を上げて元来た道を指差す。
「今度は出て行けと言っているのか……。まあとりあえずこの辺りが普通でないことは分かったから、引き上げることにしよう」
 それでも納得はしていないといった表情で、竜哉は女性に背を向ける。
 女性は竜哉が洞窟を出て行く時まで、穏やかな表情を浮かべていた。


 竜哉が宿に人妖を連れ帰った後、すぐに天気が悪くなり、強い雨風が起こる。
「これではしばらく外には出られないな」
 まるで嵐のような天気は数日続き、竜哉はその間、宿にこもるしかなかった。
 そして数日後、ようやく晴れて、竜哉は再びあの洞窟へ行くことができた――が。
「……そんなっ、まさか! 何で洞窟がないんだ?」
 それどころか、洞窟があった山すら綺麗さっぱり消えていた。
 慌てて地図を広げて見ると、空白だった部分は山道が描かれている。
「そんなバカなっ! 俺は確かにここの洞窟に入ったのにっ……!」
 しかし周囲を捜索してみても、どこにも洞窟はなかった。
 そして街に戻り、地図を買った店の店主に話を聞くと、昔からあそこには山道しかないと教えられる。
「一体どうなっているんだ? ……アレは夢だったのか? いや、俺は人妖を受け取ったんだ」
 宿に急いで戻ると、確かに人妖は残っていた。
「……アレはあの女性が見せた幻だったのか? しかし何の為にこの人妖を、俺に渡した?」
 竜哉の疑問には誰も答えられない。


 何故なら数日前、女性と洞窟は同時に消え去ってしまったからだ。
 竜哉が人妖を持ち帰った後、洞窟は音もなく静かに消失し始める。女性はその光景を静かに見続けた。
 女性が竜哉に人妖を渡したのは、彼がこの洞窟の結界を破って入ってきたからだ。ただならぬ力を秘めている彼に、自身を模した人妖を渡したくなった。
 そしてすぐに引き返すようにしたのは、この洞窟を維持する力がすでに残っていないことを察したからだ。
 予想通り竜哉が出て行った直後から、消失ははじまった。

 ――その後、女性は洞窟から別の場所へ移動する。

 そして一人っきりの部屋の中で、竜哉と渡した人妖のことを思い浮かべながら意地の悪い笑みを浮かべた。
「空に至る片鱗、人間とハザマビト、何になっても面白いわね」



 ――十年後、竜哉は女性と再会することはなく、代わりに鶴祇と共に過ごす時間を重ねている。
 鶴祇とはこの十年、様々な経験を積み重ねて、お互いに良い相棒だと言えるようになった。
 それでも竜哉はふと、あの女性のことを思い出す時があった。
「もしかしたら彼女には、こうなる運命が見えたのだろうか?」
 自分と鶴祇が共に生きることが仕組まれた運命であっても、今は幸せなのでそれも良いかとすら思っている。
「我ながら随分と平和的になったものだ」
 好奇心が強かった頃を思い出すとちょっと苦いものがあるが、それでも成長できたのだと思うことにしている。
 ふと鶴祇に呼ばれ、竜哉は行った。


【終わり】
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舵天照 -DTS-
2014年06月30日

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