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『星の彼方より幸せを願う 』
フィオナ・アルマイヤーja9370

1.
「‥‥金環日食は神話にもたくさん登場する。日本では天照大神の天岩戸伝説、北欧では狼が月と太陽を食べるなど各地方によってさまざまな形で残っている」
 昼下がりの天文学の授業は、思わぬ脇道にそれた。フィオナ・アルマイヤーはその夜、昼間の授業についてうつらうつらと考える。
 物理的には太陽と月が重なって見える影、そう考えるよりも月と太陽の結婚と考える方が素敵だと思った。女の子的に憧れや夢があっていいと思う。
 太陽は火の星。月は太陽の光の反射で輝く。夜空に光る星は何光年も前の光。それよりも、アポロンやセレネといった神々が夜空を舞台にたくさんの星たちと共に暮らしていると考える方がずっと楽しい。
 もちろん、そんなことは思っても口には出さない。
 撃退士、真面目な理工系の学生としては甘いことを言っていられない。しかし、乙女ゆえ夢を見ることもある。
「‥‥そういえば、あの人はなんだったのかしら?」
 ふと、脳裏をよぎったのはいつかのバレンタインに現れた天馬の引く馬車に乗った御者の姿。
 あれから何度夜空を見上げても彼が舞い降りてくるようなことはなく、その目で見た筈なのに時が経てば経つほどその姿は色褪せて、あれはやっぱり夢だったのかとフィオナは思ってしまうのだ。
 窓を開け、夜空を見上げる。あいにくの曇り空に朧月が霞む。入ってくる6月の風はぬるく、湿り気を帯びている。明日は雨が降りそうだ。
 窓を閉めようとした瞬間、突風が部屋の中に入り込む。机に置いてあったプリントが部屋中に舞う。
「あぁ、もう!」
 急いで窓を閉めて、舞い落ちたプリントを拾いあげる。すると、見覚えのない『招待状』と書かれたエンボス加工の白い封筒が紛れていた。
「こんな手紙あったかしら?」
 拾い上げ、読んでみる。

『フィオナ・アルマイヤー様
 青い星の代表として太陽と月の結婚式の立会人となっていただきたく思います
 つきましては、今宵迎えの者を派遣いたしますので是非ご出席ください』

 ‥‥?
 もう一度封筒を見る。差出人はない。
「今宵? ‥‥今日!?」
 そう気づいた時、窓の外に人の気配を感じた。
「お迎えに参りました、フィオナ様」
 忘れかけていたにこやかな微笑みが、いつかと同じように天馬の引く大きな白い馬車とともに窓の外に佇んでいた。


2.
「あなた‥‥!?」
 窓を開けて身を乗り出したフィオナの体を、御者は羽のように軽々と抱き上げて馬車へと招き入れた。
「またお会いできて光栄です、フィオナ様。さぁ、皆様がお待ちかねです。まいりましょう」
 優しいその笑顔にフィオナは言葉を失っていたが、言葉の意味を理解して慌てた。
「ま、待ってください! 私、パジャマです‥‥!」
 口にしてからフィオナは自分がパジャマ姿であること自覚し、顔から火が出るように恥ずかしくなった。
 どうしよう、こ、こんな姿を見られてしまうなんて‥‥!
 穴があったら入りたい、そんなフィオナの気持ちを御者は笑顔でまるっと包み込む。
「フィオナ様はどんなお召し物でも大変魅力的でございます」
 ‥‥そういう問題ではないけれど、嬉しい気もする。
 困ったような、恥ずかしそうなそんなフィオナの様子に、御者はいたずらっぽく笑った。
「フィオナ様がお望みであれば、ドレスのご用意も致しております」
「‥‥ドレスでお願いします」

 マーメイドラインのロングドレス。ノースリーブの肩をふんわりとした一枚布が覆う。白から青のグラデーションが青い星のように夜空に映える。
「リボンにも似合っております。大変お美しゅうございます、フィオナ様」
 微笑みながら真っ直ぐにフィオナを見つめる御者に、フィオナは赤くなって俯いた。
「ありがとう、ございます‥‥」
 どういう顔をしたらいいのか、わからなかった。
 ただの社交辞令なのかもしれない。だとしたら、1人で舞い上がっている私はあまりに滑稽だ。
 そう思うと、2人っきりで夜空を駆けるこの時間でさえ少し憂鬱だった。
 雨雲を抜けると、星が380度視界に広がる。息をするのも忘れそうなほど圧倒的な光の数。その光の強さがひときわ強い場所へと馬車は向かっていく。その間、御者はフィオナを気遣うようにずっと話しかけてくれていた。
「フィオナ様、会場に着きました」
 白い大きな教会をイメージしていたが、目の前にはただ小さな扉がポツンと立っていた。
「ここですか?」
「はい、間違いなく」
 御者は先に降りて、フィオナの手を取りエスコートする。小さな扉が開き、その先へと御者と共にフィオナは足を踏み入れた。
 そこは青い夜空の真ん中を切り抜いて広がる緑の芝生と、ギリシャにあるアテネ神殿のような白い柱が等間隔に建っている。
 たくさんの人たち。御者の言う通り、そこが結婚式の会場なのだとわかった。
 普通の結婚式ではない。天体の結婚式。
 クマが親子でタキシードを着て歩けば、赤い大地の衣をまとった男性が深々とお辞儀をする。
「たくさんのお客様がおいでになっております。どうか手をお放しになさいませんよう」
 御者の手はしっかりとフィオナの手を握って、人の合間を縫って一組の男女の前に躍り出る。
 誰よりも輝く2人の男女。
「お招きにあずかり、光栄です」
 フィオナはごく自然に、今日の主役である太陽と月にお辞儀をした。


3.
 派手な結婚式ではなかった。ガーデンパーティーのようなそんな穏やかな式だった。
 けれど、古代風の上品な花嫁衣裳はまるで神話の中からそのまま出てきたように美しく、その花嫁をエスコートする花婿も見惚れるほど美しく優雅に歩く。
 時折、2人はお互いの耳に内緒話をしてはクスクスと笑いあう。見ているだけでも羨ましい。
「素敵ですね」
 幸せそうな雰囲気に、フィオナは目を細めてため息をつく。
 純白のドレスを着てヴァージンロードを歩く結婚式に憧れがあったが、形式ばらずゆっくりとした時の中で執り行われる結婚式というのもとても素敵だと思った。
 また夢の選択肢が増えてしまった。私の結婚式でも、こんな風に祝ってもらえたらどれだけ嬉しいだろう。
 そして愛しい人とずっとずっと一緒にいられるようになるのは、どれだけ幸せな事だろう。
「長い時を過ごす星たちの結婚式は、とても長い時間行われます。‥‥そうですね、人間の時間に置き換えますと、千年、二千年というのは当たり前な話でございます」
 御者の言葉に、フィオナは「え?」とビックリした。
 ‥‥では、今出席している式は一体いつ終わるというのか?
「フィオナ様、お顔の色がよくありませんね。少々風に当たりにまいりましょうか」
 御者が心配そうに、フィオナの手を引いて人ごみの少ない場所へと連れて行くとフィオナを座らせた。
「私、体調が悪いわけでは‥‥」
 中座してしまったこと、気を遣わせてしまったことに対する申し訳なさがフィオナの表情を暗くした。
 しかし、御者はにっこりと笑うとしれっと言った。
「‥‥申し訳ございません。お顔の色が悪い、と申しましたのは嘘でございます」
「え?」
 本当に今の言葉は御者が言ったのだろうか?
 そんな困惑顔のフィオナに、御者は少しだけ視線を逸らした。
「その‥‥お傍にいられるだけでも良いと思ったのですが、思いというのはよくばりなものでして‥‥」
 歯切れの悪い言葉に、フィオナは期待してしまう自分を抑えながら御者の言葉を待つ。
 御者は観念したように溜息をつくと、まっすぐにフィオナに向き合った。

「2人きりになりたくて、嘘を申しました。申し訳ございません」

 クラッと一瞬視界が揺れた気がして次の瞬間、顔が燃えるように熱くなった。
「あ、謝らないでください」
 手を口で押えてフィオナは次の相応しい言葉を探した。けれど、予想外の展開に頭がうまく回らない。
 そして、ポロリと口をついて出たのは‥‥
「謝られると‥‥嬉しいって思ってしまった私は‥‥」
 そこまで言って、我に返る。
「今のはなしです! 聞かなかったことにしてください!」
 慌てふためくフィオナは御者に背を向け(落ち着け、落ち着くのよ! フィオナ!)と心で唱える。
 遠くで、結婚式の余興のワルツが聞こえる。
「フィオナ様」
 御者の声にそろりと後ろを振り向くと、御者は片膝をついて深く首を垂れていた。
「僭越ながら、申し上げます」
 そうして、御者は真剣な眼差しをフィオナに向けた。

「ずっとフィオナ様に恋しておりました」


4.
 日本の諺に『盆と正月がいっぺんに来る』という表現があったと思う。
 フィオナの思考回路は今まさにそんな感じで大混乱を極めていた。
 どう答えたらいいのだろう? また嘘? でもでも、なんでこんなに嬉しいんだろう‥‥?
「フィオナ様」
 返事もできないフィオナに、御者は手を差し出す。
「もしよろしければ、ダンスのお相手をさせていただいてもいいでしょうか?」
 遠くでクルクルと踊るたくさんの出席者たち。御者はそこにフィオナを誘ったのだ。
「‥‥はい」
 ぎこちない笑顔でフィオナはそう答えるのが精いっぱいだった。
 御者に手を引かれて、踊りに加わる。
 やっぱり夢なんだろうか? 私、こんなに踊れないもの。
「星と人は、相容れない世界に住むものです。けれど‥‥」
 踊りながら、御者はフィオナに優しく語る。フィオナはそれを黙って聞いた。
「慕う気持ちを抑えられるほど、高い障害ではございません」
 そう言って笑う御者の顔はどこか吹っ切れたような、晴れやかな表情だった。
「なんで私なんですか?」
 素朴な疑問を訊いてみる。しかし、その問いに御者は笑う。
「恋をするのは理屈ではございません。あえていうのならば『フィオナ様だから』でしょうか」
 フィオナは恥ずかしげもなくそう言われて、赤くなって顔を伏せる。
 本気なのかしら‥‥?
「ところで、フィオナ様のお気持ちをまだお聞きしておりませんが」
 顔を覗き込まれてフィオナは少し困った顔をした後、背伸びして御者の頬に軽くキスをした。
「‥‥これで察してください」
 真っ赤になって俯いたフィオナに、御者は少しだけ意地悪そうに笑った。
『誓いのキスを』
 誰かが声高に今宵の主役である月と太陽にキスを促す。月と太陽が重なり合うと、空は暗い影に包まれる。
「できましたら、このぐらいしていただけると‥‥」
 フィオナの唇に柔らかな唇が触れた。
 月と太陽のキスに拍手が起こる中、フィオナはゆっくりと目を閉じた。

 目覚めれば朝。学校に行く支度をしていつものようにリボンで髪を縛るとフィオナはいつものように家を出た。
 雨上がりの空は眩しくて目がくらみそうだったが、太陽の機嫌がよいのはいいことだと思った。
 いくつかの煌めく石が散りばめられたブローチがフィオナの胸に輝く。
 そのブローチの裏にはこう彫られている。

『Star escort Fiona』

 いつでも会えるわけではないけれど、星はフィオナの幸せを祈っている‥‥。 


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 ja9370 / フィオナ・アルマイヤー / 女性 / 23 / 阿修羅


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 フィオナ・アルマイヤー 様

 こんにちは、三咲都李です。
 この度はFlowerPCパーティノベルのご依頼ありがとうございました。
 またご依頼して頂けて、大変嬉しく大変緊張です。
 ご要望にうまくお応えできているか不安ですが、お気に召していただけると嬉しいです。
FlowerPCパーティノベル -
三咲 都李 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年06月30日

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