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『一緒がすてき 』
如月 統真ja7484)&エフェルメルツ・メーベルナッハja7941


 白いクロスのかかったテーブルの上で、コップに刺したマーガレットが揺れている。
「昨日……咲いてたの」
 イヴ・クロノフィルが水を替えながらそう言った。
「とっても可愛い花だよね」
 白い可憐な花はイヴの部屋にぴったりだな、と如月 統真は思う。

 次の休日には一緒にランチを食べよう。
 そう提案するとイヴはこくんと頷き、自分の部屋に誘った。
「えっお邪魔していいの?」
「外で、食べるより……統真の、料理が、食べたい」
 そう言われて、大きな瞳でじっと見つめられては、張り切るしかない。
「判ったよ! イヴちゃんの好きな物、頑張って作るからね!」
 ぐぐっと拳を握り、統真は心の中で炎を燃やすのだった。

 前日に仕込んで持ってきた材料を冷蔵庫に移し、エプロン姿の統真は腕まくり。
「さて、と」
 テーブルの上に他の食材を並べて行く。
 視線を感じてふと顔を上げると、少し離れたところでイヴがじっと統真の手元を見つめていた。
「イヴちゃんは……」
 座って待ってて。そう言いかけて、統真は改めて目を見開いた。
 イヴはフリルのついた可愛いピンク色のエプロンを身につけていたのだ。
 汚すのがもったいない程に良く似合っているが、イヴの思っていることは分かる。
「もしかして……手伝ってくれるの?」
 こくりと頷くイヴ。
「統真ほど……は、上手じゃない、けど」
「じゃあいっしょに作ろうか! その方がきっと美味しいと思うんだ」
 統真は顔をほころばせる。



 湯気を立てるじゃがいもの皮を、慣れた手つきで統真が剥いて行く。
「皮ごと茹でると、ほっくりしてて美味しいんだよ」
 にこにこ笑いながら、じゃがいもの入ったボウルをイヴに渡した。
「じゃあイヴちゃんにお願い。これを潰してもらってもいいかな? 熱いから気をつけてね」
「ん……わかった」
 イヴは感情をあまり表に出すことはないタイプだ。
 年相応のあどけなさを残す整った小顔、細い肩に流れる銀糸の髪。口数も少なめで、それら全てがイヴをお人形のように思わせた。
 だが勿論、心までお人形という訳ではない。
「うん、そんな感じで大丈夫だよ! ちょっと塩コショウも振っておいて貰える?」
 こんな感じで、統真はいつもイヴにきちんと向かい合い、優しく世話を焼いてくれる。
 ややもすれば伝わりにくいイヴの感情を読み取り、望みを叶えてくれようとする。
 一語で言えば、誠実。
 だからイヴは統真のことをまるで本当の兄のように慕っている。

 じゃがいもは潰しすぎないところで手を止めて。塩コショウも熱いうちに。
 イヴはボウルを統真に見せに行く。
「……できた」
「有難うね。じゃあ次は、っと」
 たぶん統真は、ひとりでちゃんと昼食を用意できる。
 それでもお手伝いしたいというイヴの気持ちを大事にして、作業を手伝わせてくれるのだ。
 イヴにはそれがちゃんとわかっている。
 邪魔していないかと思う気持ちと、統真と一緒に何かを作りたいという気持ち。
 それを受け入れてくれる統真だから、一緒にいると嬉しいのだ。
「ここの野菜を綺麗に洗って貰えるかな?」
「ん……綺麗に、洗う」
 お手伝いできることは、しっかりやるんだという決意。
 ブラウスの袖をきりりと巻き上げ、イヴは真剣な表情でシンクに向かう。



 統真はエビの下ごしらえをしながら、そっとイヴの様子を窺った。
 生真面目な表情のまま、一生懸命野菜を洗っている。
 一見いつもと変わらないように見えるイヴの瞳。だが内面に秘めた感情に、きらきら輝いているのが統真には分かった。
(イヴちゃん、何だか楽しそう)
 いつだって統真はイヴの事を見守っている。
 だからちょっとした表情の変化も、よくわかるのだ。
 統真は一人っ子なので『きょうだい』という物を本当には知らないが、妹がいるとしたらイヴのような子がいいな、と思う。
 いや、本音を言うと妹では困るのだけど。

 初めはとても綺麗な子だな、というぐらいの存在だった。
 いつの間にか時折伝わる彼女の感情を知るうちに、どんどん気になる存在になっていった。
 もっといろんな表情を見てみたい。
 本当に大事なことだけを無駄なく語る声を、もっと聞いていたい。
 つまりは、いつかは自分だけの特別な女の子になってほしい、そしてイヴにとって自分が特別な存在になれればいいという気持ち。
(あはは……ちょっと先走り過ぎ、かな?)
 自分がもう少し大人になって。
 イヴももう少しおねえさんになって。
 その時はきちんと伝えよう。
『僕とお付き合いして下さい』、と。
 それまでは、一番近くて一番安心できる存在でありたい。
 心に秘めた思いは、大事に温めながら。



 キッチンはあちこちで賑やかな音を立て始めた。
「イヴちゃん、そこのお皿を借りてもいいかな?」
「ん……。ちょっと、待って」
 イヴは忙しく手を動かし続ける統真の傍に、お皿を何枚か運ぶ。
「有難うね」
「統真は、お料理が上手、よね」
「えっ、そうかな?」
 実は自分でも、ちょっと得意かなとは思っている。
 勿論プロ並という訳にはいかないが、一般的な家庭料理ならちゃんと作る自信はある。
 そこをダイレクトに褒められて、嬉しくないはずがない。
「うん、大体できたかな?」
 心なしか弾むような手つきで、出来上がった料理を盛り付けて行く。
 山盛りのポテトサラダに、できたてエビのフリッター。
 昨夜仕込んでおいた桃のコンポートは、ガラスの器に綺麗に盛り付けて。
 イヴは豪華なメニューに目を丸くする。
 それも自分が好きな、柔らかい物、甘い物がちゃんと用意されているのだ。

「後はオムライスだね」
「あ、オムライス、は……このお皿に」
 可愛い花模様が縁どる大皿を二枚、イヴが大事そうに食器棚から取り出した。
「わあ、可愛いお皿だね」
「オムライスの為……用意して、おいたの」
 そう呟くイヴは少し照れているようにも見える。
 統真はと言えば、お揃いの新しいお皿の存在に、頬が熱くなるのを感じていた。
「えっと……じゃあ、すぐに用意するね!」
 顔が赤くなったのがばれていないだろうか。気にはなるが、卵をかきまぜる手は休めない。
「此れ位の味付けで良いかな?」
 隠し味程度に入れた砂糖で、ほんのり甘味も。卵もふんわり仕上がるはずだ。
 バターが程良く焦げるいい匂いと、じゅうじゅう鳴るフライパン。統真が手を動かすと、くるんと魔法のようにオムライスが出来上がった。
 お皿に乗った黄金色のふわふわオムライスに、赤いケチャップをかけて完成。
 満足できる仕上がりに、統真が笑顔になる。
「さ、できたよ! イヴちゃん、あったかいうちに先に食べてて。僕の分もすぐにできるからね」
 ほんの少し首を傾げてイヴはお皿を受け取り、キッチンを出て行った。



 統真は自分の分を急いで作り終えて、お皿を手にテーブルに向かう。
「あれ……」
 そこにはさっきのオムライスが載ったお皿を前に、ちょこんと座っているイヴがいたのだ。
 オムライスはまだ手つかずである。
「もしかして、ま、待っていてくれたんだ!?」
 イヴはこくりと頷いた。
「統真と、一緒に食べたい、から……待ってた」
 統真はびっくりしてしまった。と同時に、感動してしまったのだ。
 なんて健気なんだろう。なんて可愛いんだろう。
「じゃあこっちをあげるね」
 統真が自分が持っているお皿と取り換えようとすると、イヴはふるふると首を横に振って、自分の目の前のお皿を確保した。
「統真が、イヴの為に、作ってくれた分、だから……」
 美味しくなあれという気持ちが籠っている。だから、これは自分の分。
 そういうことらしい。
 統真はまた感動してしまった。言葉が上手く出てこない。
 だから月並みな言葉で、急いで席について。
「じゃあ食べようか」
 一緒にいただきます。
 スプーンを取り上げ、イヴは早速オムライスを口に運ぶ。
 程良い固さのふわふわの卵が、ケチャップライスに程良く絡む。
 イヴの様子をほんの少しの間見守り、統真はそっと確認する様に聞いてみた。
「イヴちゃん、美味しいかい?」
「ん……丁度いい、味」
「本当? よかった!」
 統真も自分のオムライスにスプーンを入れる。
 なんだか今日のオムライスは、いつもよりずっと上手にできている気がした。
 もちろんそれは、ひとりじゃないから。
 誰かの為に作る料理は、きっと自分も幸せにしてくれる。

 テーブルの上で白い花が揺れている。
 ふたりで囲む幸せな食卓に、優しい時間が流れて行くのだった。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja7484 / 如月 統真 / 男 / 11 】
【ja7941 / イヴ・クロノフィル / 女 / 12 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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この度のご依頼、誠に有難うございます!
お互いが相手を思う気持ちがとても暖かく、素敵だなあと思いつつ執筆いたしました。
マーガレットの花言葉は「心に秘めた愛」「誠実」だそうです。
これからもゆっくりと関係を育まれて行くだろうおふたりにぴったりだと思い、選ばせて頂きました。
楽しんでいただけましたら幸いです!
■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
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エリュシオン
2014年07月03日

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