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『●ある一日のランデブー 』
アラン・カートライトja8773)&仁科 皓一郎ja8777

 気儘な休日、気楽な休日。
 その暇を潰すなら、愉快である程に興が乗る。

 ――さあ、楽しい休日と洒落込もう。

 金髪赤眼の男アラン・カートライト(ja8773)が行くのは通い慣れた道、馴染みのある窓の下で鳴らすは弦楽器、ヴァイオリン。細く、けれど強かな音色が街中に響く。
 開け放った窓から届くその音に目を覚まし、そこから外を覘き込むのは気怠げな空気を纏った男、仁科 皓一郎(ja8777)。
「御早う、ダーリン。幸せな目覚めだったろ?」
 軽い調子で響き渡らせるは、軽いメロディライン。悪戯に誘うよう、遊ぶよう、そうして招くよう。
 そんなアランの様子に肩を揺らして笑った皓一郎は手近に置いてあったサックスを手に、窓から外へと飛び降りる。手に持つのは財布と、そうしてこの悪友と一曲交える為の楽器さえ在れば良い。
 壁に凭れかかりサックスに口付ける皓一郎と、肩に載せたヴァイオリンを調子良く響かせるアラン。二人のショート・セッションは短くとも互いを盛り上げるには十分、アランはいつもの飄々とした様子で笑いながら乗りつけて来た車を頤で示す。
「惜しいねェ、コレで美女なら完璧だったンだが」
「俺程の紳士に何か御不満でも?」
 交し合うのは軽いジョーク。目配せと共にアランと皓一郎は車に乗り込み、それぞれの楽器も仕舞い込む。手入れは確り――それが音楽を愛する者にとっての使命だ。
「俺の運転は初めてか。エスコートするぜ」
 走らせる車の行き先はアランの思考の中に、皓一郎はそれに従うのみ。
 幾本かの道を抜けてゆき目指すは海岸、道なりに進んだ先に目的地はある。
 アランは機嫌良さげにハンドルを切り、皓一郎は助手席に座す落ち着かなさに若干の戸惑いを覚え。けれどその違和感も開いた窓から髪に触れる潮風に散らされ、車内を流れる軽快なメロディに心踊らされる。
「中々悪くねェ。お前さんの選曲チョイスも、な」
「だろう? 取って置きだ」
 曲が数巡した頃に、建物の数が少なくなり、開けた眼前にはどこまでも続くような砂浜に添う一本道。
 二人を乗せる車は砂浜と並走する。
 眺めるは海、きらきらと輝く水面を窺い見れば気分は最高。
 夏日の朝のビーチは遊泳禁止で在るが故か人影は少なく、海の遠景が良く見えた。
 そうしてナビも無く道筋に添い進むと、やや賑やかな街並みが見えた。
 ――辿り着くのは人の波が溢れる温泉街。
 車から降り適当にと歩き回れば、目につくのは数々の露店や土産物屋。
 どこからともなく漂う食べ物の香りに二人は目を合わせ、小腹を満たすべく軽く辺りを散策した。
 その後、目星をつけて訪れた旅館は小さく、けれど清潔感のある古い場所。
 着いた頃には既に昼過ぎだった。女将から鍵を預かり、部屋に入るとその場に漂う和の空気に二人は満足する。
 落ち着いた雰囲気を保つ広い空間、ローテーブルに二人分の座椅子、掛け軸に生け花。綺麗に整えられた室内はほんのりと畳の匂いがする。
 朝から始まる旅の終着地点は温泉宿、実に最上のプランニングである。
「布団は一組で良いんだっけ?」
 女将に話し掛ける直前にアランが笑って言うと、皓一郎は肩を竦めて「ご自由に」とだけ返す。それが二人の気楽な関係性。
 大の男二人が共に部屋を借り宿泊する様はどう周りから見られるだろう。仲良き友として恐らく窺われることだろう。実際に、彼らは――アランと皓一郎は仲が良かった。
 それは何もずっとというわけではない。初めて共に依頼を受け、それ以降自然と形作られていった信頼関係。言葉に何かを出さずとも伝わる空気は心地好く、他者を易々と踏み込ませないアランの性質にしては、珍しいことに随分と気に入っている。
 お互いに飄々とし、お互いにどこか気を抜いて接し。自由気まま、その場の気分次第で行動は幾らでも変化する。それはまるで猫のよう、発言に深い意味も無く、愉快で在れば良しといった性分で二人は冗句を今日も交わす。
「背中でも流してやろうか?」
「いいねェ。流し合いでもして互いを労うか」
 檜の湯船に肩まで浸かりながら、二人は声を上げて笑う。
 どうやら他の宿泊客はほぼほぼいないようだった。雰囲気もすべて悪くない旅館で、ほぼ貸切の状態。正に至福。
 徐々に夕暮れに染まっていく空を露天風呂から眺めながら、二人は肺からゆっくりと息を圧し出す。心地好い。満ちる空気のみならず、辺りを染める茜色のヴェール、それらすべてが気分を高揚させる。
 湯上り、部屋に戻ったアランと皓一郎を待っていたのは勿論手の込んだ旅館の料理。
 机の上には所狭しと言わんばかりに海産物をメインとした料理が並び、その傍らには味が良いと評判の日本酒、一升瓶が一本。この時点で追加オーダーは確定だろう。
「こりゃあ豪華だ」
「あァ、旨そうだ。酒も一緒とくりゃあ進むだろうな。お前さん、酔い過ぎるんじゃねェぞ?」
「悪酔いはしねえよ、大丈夫だ」
 皓一郎の茶化したような声にアランは肩を竦めて笑ってみせ、着慣れない浴衣の裾をなびかせながら座椅子へと腰を下ろした。
 ――開け放った窓からは月が見える。
 酒を先ずは一杯ずつ酌をし合い、乾杯。口に付けた酒は甘く、そしてほろ辛さが喉の奥へと抜けてゆく良酒。
 料理に手をつけると、その味もまた絶品。海辺に添った街で採れたものだ、流石格が違う。風味が舌先から響き、味覚を絶妙に震わせる品々。
「旨いな」
 舌鼓を打ちながらどちらからともなくぽつりと呟く声は、窓から抜けて空へと融ける。
 外からは程好く冷えた風が部屋へと流れ込み、酒で火照った二人の身体を巧く冷ましてくれる。その為進む酒の量は増えるが、それもまた旅先ではありがちなワンシーン。
「今日はレディを口説かず男二人旅、偶にはこんな日も良いよな」
「あァ、悪くねェな。何せ女将は別嬪だ」
 軽口の応酬はいつも通り。その空気が心地好いと、二人は思う。
 酒瓶が一本カラになった所で再度注文を行い、そこでふとアランが提案する。
「俺たちの記念すべき初デートだろ、写真でも撮っておくか?」
「そりゃあ良い。で、どんな顔すりゃあ良いんだ」
 間。そして、飛び出す笑い。
 酒瓶を届けに来た女将にスマートフォンを渡し、写真をパチリ。
 一枚残された写真は、互いに肩を組んで笑う大の男二人。
 酒好きなだけあってか酔っ た素振りはほぼほぼ見せない二人だが、空気は次第に和やかなものへと変化していく。
 料理も中程まで食べ終えた頃だろうか。
 一本の煙草を咥え火を灯すと、アランは皓一郎にも同様に火を差し出す。
「なあ、仁科」
 燻らせる煙はすうと窓辺へと流れ、声もまた凛と響く。
 皓一郎はゆっくりとアランへと視線を向けると、煙草を咥えたまま目を細めた。
「もし俺が死んだら、色々と宜しくな」
 アランが何気ない様子を装って告げた言葉に、皓一郎はただ黙してからその様子をつぶさに観察した。
 撃退士という立場だ、いつ死ぬか判らないのは当然だろう。
 だが、アランはどこか確信しているような――何かを理解しているような節が見えた。死期を悟っているかのようで、まるで死期を感じ取っているようで。
 その言葉に答えた皓一郎の台詞は、重々しくも何ともない。ただ飄々と――そして、穏やかだった。
「お前さんは死なねェよ、イヴがいる」
 アランが大切に思う妹の名、イヴ。どんな意志でアランが台詞を口にしたかは判らずとも、それが心残りになるだろうと皓一郎は考えた。
 そうして、沈黙し曖昧な笑みを浮かべたままのアランに対し、皓一郎は続ける。
「ついでに、理由の一つになる程度にゃ、自惚れても構わねェだろ?」
 返す言葉は、ひどく優しかった。諭すように、穏やかに尋ねる言葉。
 アランは小さく笑うと「ああ」とだけ答え、煙草を叩いて灰皿に灰を落とした。
「あァ、良い酒は良く回るねェ」
 煙草を片手に酒の入ったグラスを開けると、皓一郎は冗談めかして笑う。
 死とはいつか互いに訪れるもの。けれどそれは今でないと、彼は言った。
 だからきっと、そうでないのだろう。そうでないと、まるでアラン自身に言い聞かせるようだった。
 常に死と隣り合わせである撃退士だが、それを回避することが出来る。逃れることは出来る。そうして欲しいと――皓一郎は願っているのやも知れない。大切な悪友。
 それから暫し二人はぽつぽつと雑談に冗句を織り交ぜながら話をして、窓辺から窺える月を見た。

 ――それは、心地好い空白。心地好い空間。

 咥えた煙草から燻らせる煙は線を描いて窓へと伸びる。
 酒と同等のペースで燃えていく煙草、二人は無類の煙草好きでもあるからだ。
 そうして、二人で撮った写真は、もう一人の悪友へ送信する。
 男二人のツーショットはややぎこちない、けれど楽しさは伝わる一枚の写真。

 夜は更けてゆく。加速してゆく夜の空気に二人は身を委ね、酒を呷りながらその穏やかな時を過ごした。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja8773 /  アラン・カートライト / 男 / 26 】
【ja8777 /  仁科 皓一郎 / 男 / 26 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 いつもお世話になっております、相沢です!
 悪友であるお二方の気儘な休日、楽しく書かせていただきました。”悪友”と呼べる関係は本当に素晴らしいですね。お二方の楽しそうな情景が浮かんで来ました。
 どうぞ楽しんでいただければ幸いです!
 今回はご依頼本当に有難う御座いました、また機会がありましたらどうぞ宜しくお願い致します!
■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
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エリュシオン
2014年07月07日

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