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『魔法少女ナギリン特典〜騒動劇の舞台裏〜 』
月居 愁也ja6837)&暮居 凪ja0503)&御手洗 紘人ja2549)&桐生 凪ja3398)&アスハ・A・Rja8432

●Food

 ここは、どこかの街角の屋台。
 屋台にしては、異様にサイズは大きく。結構な人数が座れる仕組みとなっている。その分、店主は自身の屋台を引く体力と、その数の客に対応できる反応能力の自信があるのだろう。

「へいらっしゃい!何にすんだ?」
 そして今。赤い逆立てた髪が特徴的な店主の前に。六人の男女が座っていた。
 『魔法少女ナギリン』という番組の打ち上げらしい。
「あ、監督、先に頼んでいいですよ」
 ショート髪の少女が、『監督』と呼ばれた男を先に座らせる。『御手洗 桜』と名乗る、おしゃれな服を着たこの少女。どうやらアシスタントらしいのだが――

「ああ、悪かったですね。ではお先に」
 座り込んだ『監督』。顔は何故か謎の影に隠されて見えない。
 それに続いて、ほかの四人も座る。
「げふっ!?」
 一口、出された料理を口にした男の一人、月居愁也が、思いっきり咳き込む。
「相変わらず餅巾着にゃハバネロしか入ってねえ‥‥!」
「そうか。おいしいと思うんだが」
 黙々と大根を食べているのは、アスハ・ロットハール。
 同じ激辛スープから取り出した具である以上。これの辛さもかなりの物の筈なのだが。何故か彼にはまったくダメージが入る様子がない。

「それでは、無事に作品がマスターアップされた事と、アスハくんの『HAKKE』スタジオへの就職を祝って、かんぱーい」
 監督の音頭で、チン、と6人はグラスをぶつけ合う。
「ごく‥‥ごく‥‥ふぅ。こんな作品が、3作も続くとは思わなかったわ」
 ビールで辛さをを流し込みながら呟くのは、この作品の主役である『魔法少女ナギリン』こと、暮居 凪である。
「その割には、一回目以降、毎度出演を断っていないようですが」
 びく、と凪の肩が跳ねる。
「学費、ピンチなのよ‥‥‥」
 何か深い事情があるようだ。まぁ、彼女にとっては、無論体を売るよりはマシな仕事なのかも知れない。そっとしておこう。

「所ふぇ監ふぉく」
 がつがつと、いろいろな物を口に含みながら、もう一人の女性が声を上げた。
「むぐ‥‥むぐ‥‥ごくん。いろんなシーン取ったけど、使われていない物も多いんじゃない?」
 それに対して、監督はにっこり微笑んだかと思うと、プロジェクターを取り出す。
「実はですね。それはすべて保管して、ここに持ってきているんですよ」
「「何ぃ!?」」
「ちょうどいい機会です。ちょっと撮影記録を皆様で振り返って見ましょうか」
●Description

「あ、あの技は!?」
「何、知ってるのかチェリー!?」
「ナギリン・ライトランナー!!光を弾く魔力と、光速よりも速い足さばきで、レーザーの上を駆け抜ける技だよ!」
「そんなばかな!?!?」

「――と、まぁ、こんな風に、いつものチェリーチェリーの解説も一杯撮ったのですが、尺の問題が酷くてですね‥‥」
「所で、チェリーチェリーの中の人って、誰なんですか?」
 愁也の何気ない一言に、びく、と桜の肩が震える。
「秘密、でございます」
「ええ、いいじゃないですか監督!教えてくださいよ!」
「秘密です」
 この世には、明かせない秘密もあるのだ。そう、たとえ、この場にチェリーチェリーの中の人がいたとしても。

 だが、そんな騒ぎの中でも、没になったシーンのビデオ放送は続けられている。
 以下に、その一端を列挙しよう。

「あ、あの技(ry」
「何、知ってるのか(ry」
「逆流・六角返し――ラバーカップの吸引力を極限まで高め、すべてを吸い寄せてから、太極にも通じる円の動きでそのまま相手にお返しする技なんだよ」
「何でもありだなラバーカップ‥‥」

「あ、あの(ry」
「何、知ってる(ry」
「激洗・五行水流陣! 五本のラバーカップで囲んで『トイレ空間』を作り出し、その中に大量の水と洗剤を流す技!元は巨人族のトイレを流すための技らしいよ!」
「汚い技だな‥‥てか、そうすると、山のような排泄物が空高く舞い上がるのか‥‥」

「あ(ry」
「何(ry」
「ナギリン・バレットストーム!逆立ちのように空中に飛び上がり、回転しながら地上を爆撃する技だよ!空中に絶対領域を向けているから、反撃もされにくい攻防一体の技!」
「空中にあるカメラに向けてるって事だよね?寧ろ観客サービス技じゃ――」
 ドグシャッ。カメラが揺れて、声が途絶えた。

「(ry」
「(ry」
「ナギリン・バーンレイ! 一千度以上の高熱の光線を放ち、相手を完全に焼却する技なんだよ!」
「黒歴史の焼却にもよさそうだなそれ」

「(ry」
「(ry」
「ナギリン・ゼロバスター! ――要は至近距離での全魔力を込めた一撃だよ」
「手抜き過ぎるだろうその解説」

「(ry」
「(ry」
「ナギリン・シザーブレイカー――ナギリンの技の数々でも、もっとも痛みに特化した残虐技!少しずつ、少しずつ、相手の足を折っていき、回復不能のダメージを与える禁じ手!!」
「そんな技をこの番組で使っていいのか!?」


●StartUps

「――とまぁ、いろいろあったんですけどね」
「チェリーチェリーもノリノリで撮ってたじゃないですか」
「まぁそれはさておき、皆、それなりにいい経験になっただろ?」
「ああ、これが縁で就職できたしな」
 先ほど祝われた張本人、アスハ・ロットハールが答える。
「くっそぉー!俺もマスクしておけばよかったなぁ」
 悔しがり、カウンターをドンドンする愁也に、監督が不思議な顔を浮かべる。
「何故です?子供たちに人気でいつも追い回されてるじゃないですか」
「子供たちは手加減知らないんっすよ!!」
 ひときわ強いドン。彼は今や「街で一番人気のあるトイレ掃除員」となっているのだが、どうやらそれもまたある程度苦労を伴うらしい。弊なき利はなし、と言う物である。

 思い出すだけでも嫌なのか、何とか話題を変えようと、愁也は一口、激辛料理を口に含む。
「ぶふっ‥‥そう言えば、監督。台本、途中で変わりませんでした?いろいろと」
「‥‥ああ、やはり尺の問題ですね。2時間以内に収めるってのは、意外とつらいものです」
「例えば?」
「オープニングでナギリンが変身するまでの流れ、ですよねー監督」
 監督が口を開く前に、桜が代わりに答える。

「――あ、ああ。その分のビデオも、実はここにあるんですよ」
 テープを、切り替える。
 写り出されるのは、テンマの戦闘員たちと対峙する凪の姿が。
「何度見ても、恥ずかしいわね‥‥」
 目頭を押さえる凪。

「――こんな時に、襲ってくるなんて。何か、武器は――」
 苦々しい顔を浮かべる、画面の中の凪。
「っ!!」
 飛び掛る戦闘員に、咄嗟に横に跳ぶ凪。咄嗟に手元にあった物を掴み、反撃を――
「あ」
 掴んだ物は、ナギリンへの変身アイテム。『ディバイン☆ブレイド』なのであった。

「――と、こんな筈だったのですけれどもね。構成の問題で、変更になってしまいました」
「あれなら蹴られなくてすんだかもしれないのになぁ」
 小さく呟く桜の声は幸い誰にも聞かれていない。

「他にも、お蔵入りになったシーンがあるなら、見せてもらえない?」
 あむあむと辛い物をまるで流し込むように食べていた少女――もう一人のナギリンこと、『ナギニン』、澤口 凪が顔を上げる。
「ああ、いいですよ。せっかくですから、一気に大放送といきましょうか。皆様も食べながら、ごゆっくりと――」


●Scenes

「いや、ゲームをやっていたら、画面に吸い込まれたのでな。ついに二次元の世界に入り込めた!と思ったら、到達した場所がここだったのだ」
 ちなみにその時、ドン・アスハがやっていたゲームは‥‥ちょっとよい子には見せられない、あれ系の物だったのである。
 ドンッ。
「何をする」
 脳天にめり込んだナギリンの踵を受けながら、まるで何も無いかのように、ドン・アスハは振り向いた。
「これ子供向け番組なのよ!?そんな画面映し出しちゃいけないでしょうが!!」
「ちなみにタイトルは、『悪の幹部が大頭領を――』」
「やめなさい!!!」
 ドコン。
 『スポンサーにつけられるかな、と思ったんですけどねぇ』とは、監督の言である。
 大人の映画出演にならなくてよかったですね、ナギリン。

―――
「‥‥間違いはない――」
 尻が便座に吸い付けられ、抜けないトイレ掃除役の彼。
 そのまま吸引力はどんどん強くなり、ついに異界の門が開き、彼は異界への螺旋へと吸い込まれてしまう。
 だが、ここで考えて欲しい。
 彼は異界にたどり着き、すぐに飛び出した。
 ――ズボンとパンツは?
 このままでは発禁となりかねない。故に、『魔法の力』によって、全ては解決されたのである。

―――
 自らの技を返され、氷像と化したルドレッド。
 ここでそのシーンをスローモーションで見てみましょう。
 ――矢が目の前に迫る中。既にその身が氷結するのは確定事項。
 その中。ルドレッドが考えていたのは、足掻くことではなく、寧ろ――
(「どうせなら、かっこよく――」)
 最後の力を振り絞り、ルドレッドが行った行動は、防御ではなく、ポーズを取る事であった。
 これが、『ナルシストな氷像』の、真相だったのである。


●Questions
「所で監督」
「うん、何でしょう?」
「ちょっと裏設定、聞きたいんですが」
 問いかけたのは、凪(暮)。
「あ、どうぞ」
「――不憫王って、結局なんだったの?」
 ストーリーへの質問だった。

「ああ、あれはですね。あの世界を維持している楔のような物です。なので、死んだ瞬間にあの世界は崩壊します」
「そんな重要人物だったの!?」
「ええ。だから『ナギニン』たちがああ必死になって探していたのですよ」
「そんな裏設定が‥‥」

「ナギニンといえば、あの世界の『テンマ』は三年前に壊滅したらしいんだが、どういうことだ?」
 今度はアスハの質問。
「ふむ‥‥そうですね。実はそこも、回想として撮ってあるんです」

〜回想〜
「お逃げください、大首領クラーリン!」
「ドン・アスハ!あなたを置いては‥‥‥!」
「今はその様な事を言っている場合ではございません、ナギリンがもう――」

「呼んだ?」
 ガン。壁を極大のビームが貫通し、ドン・アスハの肩を掠める。
 その穴を通り、魔法少女ナギリンが、双銃を構えて、ゆっくりと歩み寄る。
「早く、クラーリン様、私が足止めしているうちに!!」
「そうはさせないわ。ルドレッド!」
 どこからとも無く氷の矢が飛来し、クラーリンの足を貫き、凍結させる。

「しまったっ――」
「二人まとめて、葬り去る! ナギリン・バレットストーム!!」
〜回想終了〜

「とまぁ、こうなる予定でした」
「あの世界のドン・アスハはクラーリンとラブラブだったんだねぇ」
「で、実際どうなの?アスハくんは恋人、いるのー?」
「え‥‥」
「まぁ、秘密にしておいた方が良い事もあります。さぁさぁ、まだ質問のある方はおりますか?」
 監督の出した助け舟に、自身も秘密を抱える桜は黙り込む。

「はいはーい!何でルドレッドは、絶対領域を貫通されたのに魔法の力を失わなかったのですか?」
 トイレ星人こと愁也が手を上げる。
「いい質問ですねウォッシュレッツ」
「ぶふぉっ」
 そう呼ばれるとは思っていなかった愁也が飲み込みかけた口の内容物を吹き出す。
「あーあ、きったねぇな。ほらよ」
 ボン。一瞬空中に火が点り、跡形も無くそれを焼き尽くす。
 ――何が起きたのかは、聞かないほうがいいのだろう。うん、身の危険を感じるから。
「ま、まぁ気を取り直して――ルドレッドが魔法の力を失わなかったのは、魔法少女ではなかったからなんです。そもそも『少女』ではありませんので」
「「えええ!?」」
 驚愕の事実であった。
「気づきませんでしたか?演じていた役者さんは男性でしたよ?」
「女の子だと思ってた‥‥」
 驚愕を隠せない凪(澤)。相手役の彼女ですら気づかなかったと言う事は、その女装、相当の物だったのだろう。

「魔法少女ではないので、当然その法則には縛られる事はありません。ですから、絶対領域を貫通されてもダメージはありません」
「でも、ならどうやって魔法を‥‥?」
「あれはとある秘密の儀式を通じて、ナギニンの方の魔力を借り受けているのです」
「なるほど‥‥‥」
 納得する凪(暮)を他所に、声を潜め、愁也が監督の耳に口を近づける
「――、実際、どういう儀式だったんっすか?」 
「恐らくは、ご想像の通りです」
 つまりは、子供には見せられないよ!的な事なのである。

「あ、後もうもう一つ」
「はいなんでしょう」
「何でウォッシュレッツの攻撃は胸に集中するんすか?平面だと吸い付かない、って‥‥」
「それを説明するには、図が必要でしょう」
 どこから取り出されたのか。屋台の隣にホワイトボードが設置される。
「ラバーカップのこの形。‥‥そう、お分かりの通り、胸の丸みと同じ感じですね。なのでジャストフィットするのは丸みのある胸にのみぐほぁっ!?」
 ナギリンを彷彿させる飛び蹴りが、監督の側頭部を直撃する。
「食事中にそんな話をするんじゃないわよ!」

 〜しばらくお待ちください〜
「ふう。酷い目にあいました」
「監督すごいな!?」
 何事もないように席に戻る監督に思わず凪(暮)は口に入れた卵を吐き出しそうになる。

「そう言えば、最強にして最後の魔法少女、ってナギニンは言ってましたけど」
 パクパク食いながら器用にも喋っている。本当にすごいのはこの人、凪(澤)ではなかろうか。
「他の魔法少女はどうなりました?」
 押し黙る監督。
「‥‥あまりにも子供向けではないので、シーンにすら取っていないのですが。設定だけはございます」
 真剣な口調に、役者の表情もまた変わる。
「あの世界では、前回に不憫王の失踪があった際に。ナギニンを除く全ての魔法少女の力が暴走し‥‥結果、ナギニンが自身の手で、一人一人、殺害して回る必要が御座いました。彼女があんな性格なのも、恐らくこの一件の影響なのでしょうね‥‥」

「結局あの不憫王も、ドン・アスハが吸い込まれた時の影響で融合してたみたいだし。‥‥アレ?ってことは、最初にドン・アスハは何で吸い込まれたの?」
「さぁ、何ででしょうね‥‥?」
 にやにや笑う監督。さて、この事件の本当の『原因』は、誰だったのか。

「非常に不本意ではあるけれど、差し入れです」
 プレゼントとして、凪(暮)から監督に手渡される何か。どうやら食料であるそれを、満面の笑みで受け取る監督。これが後につながる惨劇の元であるとも知らずに――

●The Next Day

 打ち上げは、いつかは終わらねばならない。そしてその後には、いつもと変わらぬ日常――そして、問題が待っているのである。

「おいまだか!早くしろ!」
「はい、ただいま――ぐぁぁ!」
 トイレで唸っているのは、何を隠そう、愁也である。
 トイレ星人を演じる彼が本当にトイレに引きこもっているという皮肉な状況を作り出したのは、何を隠そう、昨夜の屋台である。
「やっぱり、辛い物は尻にダメージが――ごぁぁぁ!?」
 しばらく、彼の受難は続きそうである。
■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
剣崎宗二 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年07月07日

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