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『淑女たちの内緒の夜会 』
アティーヤ・ミランダja8923)&フィオナ・アルマイヤーja9370)&ジェラルディン・オブライエンjb1653)&グリーンアイスjb3053)&ブルームーンjb7506


●不思議な衣装店

 その店を最初に見つけたのはアティーヤ・ミランダだった。
「凄く面白いんだってば! ね、一緒に行こうよフィオりん!」
 大きく見張った猫のような金の瞳が、悪戯っぽく光る。
 瞳だけではない。黒い艶やかな髪も、しなやかな身体も、そして気紛れなところも、何処か猫を思わせる。
「貸衣装屋、ですか……?」
 フィオナ・アルマイヤーがあまり気乗りのしない風でちらりとアティーヤを見た。
 いつも通りのあっさりした服に、化粧っ気のない顔。だが青い瞳には、見る者をはっとさせるような静かな知性が感じられる。
「そう! 今の時期はね、ウェディングドレスがいっぱい飾ってあって。見てるだけでもすっごく綺麗で!」
 元々着道楽で、綺麗な服が大好きなアティーヤだ。彼女が絶賛するのだから、余程の品揃えなのだろう。
「……ウェディングドレスなんて、相手がいないのに着るものでもないのでは?」
 フィオナがそっけなく答える。
「そんなこと言わないでさ。そのお店、お茶会もできるんだ。ねえ、付き合ってよ」
「……そ、そこまで言うのなら……」
「やったあ!」
 アティーヤがフィオナに抱きついた。フィオナは内心の動揺を悟られまいと、敢えて憮然とした表情を作る。

 アティーヤ、内心はしてやったりである。
 フィオナが『ウェディングドレス』という単語に反応したのは明らかだ。
 長い付き合いで、フィオナの性格はよくわかっている。なんだかんだで連れて行けば、喜んでドレスを着るに違いない。
(他に誘うのは、っと……)
 アティーヤは指を折りながら、同行させるメンバーを思い浮かべる。
 但し、これは当日まで内緒。折角捕獲したフィオナが逃げ出しかねないからである。


 隣室のアティーヤの訪問を受け、ジェラルディン・オブライエンは少し困ったような顔になる。
「ドレスの試着、ですか……?」
 奔放そうで華やかな容姿のアティーヤと、隠しきれない育ちの良さがにじみでている、穏やかなお嬢様風のジェラルディン。
 ふたりは髪や肌の色や雰囲気こそ対象的だが、背格好やスタイルはそっくりである。
 自分が着飾ることと同じぐらい誰かを綺麗にするのが大好きなアティーヤにとって、ジェラルディンは格好の着せ替え人形なのだ。
 普段から自分の部屋に引き込んでは、コレクションの民族衣装や自作のドレスを着せて遊んでいる。
 だが、お店に行って試着となると、ジェラルディンはちょっと尻込みしてしまう。
「大丈夫、お金の心配はしないでよ! ちゃんとお得意様招待券もあるから」
 アティーヤ、どうやら既に店の常連である。
 名門出身でありながら苦労性で、アルバイトに一生懸命なジェラルディン。そんな彼女にも偶には思いきり楽しんでほしい。そういう気持ちもあった。
「後でお茶会もできるし。ね?」
「うっ……」
 お茶会という言葉から連想される、スイーツの並んだ夢の光景。
 ジェラルディンにはまた別の懸念事項もあったのだが、敢えなく陥落してしまった。


 そして当日。
「聞いてないんですけど……」
 グリーンアイスとブルームーンにがっちり両脇を固められ、フィオナが怨みがましい目でアティーヤを見た。
「あれ? 言ってなかったっけ?」
 素知らぬ顔のアティーヤ。どう見てもわざとである。
「あたしと一緒じゃ嫌だっていうの?」
 グリーンアイスがフィオナの腕を引っ張り口を尖らせる。
 金色の瞳が、じっとフィオナを見つめている。
「え、嫌という訳では……」
「フィオナがどうしても嫌だとおっしゃるなら、今日は諦めましてよ」
 ブルームーンが憂いを含んだ声で言い、長い睫毛を伏せた。
 一見あどけない少女のような、それでいて妖艶な大人の女性のような、何とも掴み所のない仕草である。
 だがこの口調の間は、まだまだ大丈夫……な、はず。
「いや、あの……そういう訳じゃないんですけど」
「じゃあ一緒に行くわよね?」
 ぱっと輝く笑顔を向ける小悪魔なブルームーン。というか本物の元悪魔なんだが。
 ともあれ被っていた標準装備の猫は、何処かへ放り投げた。
「じゃあ急ごうよ。後のお茶会の時間がたりなくなっちゃう!」
 グリーンアイスが嬉しそうにそう言って、ブルームーンと目くばせを交わした。
(ふふふ、ちょろいもんよ)
 実はこの堕天使とはぐれ悪魔、生真面目なフィオナをからかうのが大好きという点では絶妙のコンビネーションを発揮する仲間である。
「私はまだ、行くと言っている訳では……!!」
 ふたりに腕を引っ張られながら、一応は粘って見せるフィオナ。
 からかわれているのだと薄々わかっていても、最後には玩具の役割に甘んじてしまうのがフィオナなのだ。

「あ、ほら。あの店!」
 アティーヤが指さす先に、夜の闇に浮かびあがるショウウィンドウがあった。
 近付いて改めてよく観察すると、何とも不思議な店だった。
 少し古びた二階建ての建物で、煉瓦造りらしき壁はずっと上まで蔦に覆われている。
 欧州の古いお店のように、凝った意匠の金属製の飾り看板が軒に突き出ていた。
 ショウウィンドウは明るいが、光源がどこかは全く分からない。間接照明なのだろうか。
 玄関扉は分厚くて重そうな木製だ。
「こんな所に貸衣装屋さんなんて、ありました……?」
 ありとあらゆる種類のバイトを経験し、配達だのお使いだので街のことは隅々まで知っているジェラルディンが首を傾げた。
 ジェラルディンは欧州出身である。こんな店なら、一度見かければ興味を持ちそうな物なのだが……。
「あたしも前に昼間に場所を確認しにきてみたんだけど。なんでか、どうしてもお昼には見つからないのよね」
 アティーヤはさらっと言いながら、全く気にすることなく店の扉に手を掛ける。
 ショウウィンドウに飾られているのは、うっとりするほど贅沢なドレープを寄せた薄紅色のウェディングドレス。
「綺麗ですね……」
 フィオナが溜息を漏らす。魅入られたような顔が店の照明を受けて白く浮かび上がった。
 辺りは暗いのに、この店だけが煌々と明かりを灯している。ショウウィンドウの中では、ドレスと一緒に飾られたティアラやネックレスが光を受けてキラキラと輝いていた。
 まるでこの店の扉が、別の次元に通じているようだ。
「さあ、急いで急いで! ドレス選んでるだけで時間なくなっちゃう!」
 アティーヤが扉から顔を覗かせ、忙しく皆を促した。


 ――この店は魔法の貸衣装屋だった。
 辿りつくには条件がある。
 まず、綺麗なドレスが大好きな女の子であること。
 それから、綺麗になること、そして誰かを綺麗にすることを心から楽しめること。
 そんなゲストが訪れたときにだけ明かりは灯り、秘密の扉が開くのだ――。


●衣の海

 穏やかに会釈するスタッフに導かれ、一同は静かに廊下を進む。
 だが奥のドアがさっと開いた瞬間、思わず息を飲んだ。
「すごい……!」
 フィオナが溜息まじりの声を漏らす。
 まず目に飛び込んでくるのは、トルソーの纏うドレスの繊細なレースを施したトレーン。
 それからゆっくりと室内を見渡すと、カーテンに覆われた一部を除き、色とりどりのドレスが壁をびっしりと覆い尽くしていたのだ。
 床はL字型に区切った段差があり、靴を脱いで上がるようになっている。カーテンの向こうが着替えスペースのようだった。

「どれにしようかな〜」
 アティーヤは鼻歌まじりの上機嫌で、もうドレスを選びはじめている。
「やっぱりウェディングドレスだったら、正統派の純白だよね!」
 ドレスは色毎に分けて並べられていた。アティーヤはカラードレスには目もくれず、真っ直ぐに希望の純白が眩しい一画へ。
「うん、せっかくだしね。思いっきりお姫様っていうのがいいな」
 取り出したのは裾の広がったプリンセスラインのドレス。スクエアの襟元に、フレンチスリーブというまさしくお姫様という一着だ。手袋は肘よりも長い上品な物が似合うだろう。
 アティーヤはドレスを身体に当てると、鏡の前で裾をつまんでくるりと回って見る。
「ね? こうやって裾が広がるのって何だか素敵だよね」
 自分の分を素早く決めると、アティーヤはさっとカーテンの向こうに姿を消した。

 ジェラルディンはそっと遠慮がちに、滑らかな布地に手を添える。
「綺麗ですわ……」
 すこし厚手でハリのある生地は、明かりを受けて艶やかに輝いていた。
 名残惜しそうにそのドレスを棚に戻し、少し離れたところにかけられている別の一着に視線を移す。
 それは先程のドレスとは対照的に、繊細なドレープを作るシフォン地が、何とも幻想的な陰影を見せている。
「どうしましょう……」
 困り果てて、ジェラルディンは茫然と立ちつくしてしまった。
 決められないのである。
 元々ドレス自体は着慣れている。なので、せっかくならば余り着たことのないデザイン、それも思い切り現実離れしたドレスにしようと思うのだ。
 と簡単に言っても、余りの衣の氾濫に、飲みこまれそうになってしまう。
「どうしたのジェラルディン、まだ決めてないの?」
「え、アティーヤさん早い! ……素敵……!」
 振り向いたジェラルディンは思わず溜息をついた。
 小麦色の肌に、白いドレスがとても良く映える。
「似合う? これからヘアアレンジをお願いするんだよ」
 にっこり笑うアティーヤは、今のままでも充分素敵に見えた。
 そこでジェラルディンはまた迷ってしまう。
「私もプリンセスラインにしようかしら……」
 ほぼ同じ体形のアティーヤが良く似合うのだから、自分にも似合うかもしれない。
 ジェラルディンはじっと睨むようにアティーヤの姿を見る。
「もっとエレガントなドレスもジェラルディンには似合うんじゃないかな? ほら、そこのとか」
 指差したのは、長いトレーンを引いたドレスを纏っているトルソー。
「ほら、外してもらおうよ! 着て見てイマイチだったら、替えてもらればいいんだから」
「え、ええ……」
 もう少し大人っぽい物が……などと少し思ったが、気に入らなければ替えればいいと考えなおし、ジェラルディンはひやり心地よい感触のドレスにそっと手を触れてみた。

 アティーヤとジェラルディンが何やらひそひそと話しあうのを横目に、フィオナはそーっとドレスに手を伸ばした。
(すごい……これ、本当に着てみてもいいのでしょうか……?)
 アティーヤには気のない振りをして見せたが、内心はさっきからドキドキが止まらないのだ。
 突然、衣ずれの音と共に、明るい声がぶつかって来る。
「フィオナってば、まだドレス決まってないの?」
「えっ、私は別にドレスなんて……えっと、グリーンアイスは早いんですね」
 腕に掴まりながら、覗き込むようにこちらを見るグリーンアイスが身につけたのは、胸元から薄衣の柔らかな襞が優しく広がるエンパイアスタイル。
 金の髪を結いあげれば、ギリシア神話の女神のようになるだろう。
「どう? 似合う?」
 グリーンアイスは少しおどけたように裾を少し持ち上げてみせた。
「とても綺麗ですよ」
 お世辞ではない。フィオナはいつも何かにつけめんどくさそうな素振りを見せるグリーンアイスの、生き生きとした表情も含めてそう思ったのだ。
 綺麗なドレスは、心を浮き立たせる。それを誤魔化す必要もない。
「じゃあ、私はこれにします」
 フィオナは思い切ったように、一着を取り出した。


●とっておきの一枚を

 ドレスが決まったところで、まだ終わりではない。
 ウェディングドレスという特別な衣装を着こなすには、やはり髪もアクセサリーもそれなりに整えなければ様にならないからだ。
 髪型、ドレスに合ったヴェール、手袋、靴、ネックレスにイヤリング、ブーケ。決めることは山のようにある。
 だがドレスを決めたときと同じように、グリーンアイスの決断は早い。
「ヴェールはこれ。髪飾りは当然、花冠だよね」
 選んだのは自分の名前と同じ、薄緑色の薔薇を編み上げた生花の花冠を手にする。
 自由にうねる豊かな金の髪は、まるでそれ自体がヴェールのよう。けれどそのままでは、繊細なドレスにはやや野性的すぎる。
「少し纏めておきましょう」
 そう言われて、グリーンアイスは大人しく鏡の前に座った。
 丁寧に梳かした髪をサイドで幾筋か編み込み、その先を隠すように、カールさせた後ろ髪をふわりとかぶせて。
 薄いヴェールの上から花冠を頂いたグリーンアイスは、普段より随分大人びて見えた。
「ふふ、どう?」
 鏡の前で満足そうに微笑むのは、無邪気な女神だ。

 嫣然と微笑みながら、ブルームーンが褒めた。
「悪くないんじゃない?」
 いつもは何処かのらりくらりと見えるグリーンアイスが、随分な変身ぶりだ。
 けれど、ブルームーンだって負ける訳にはいかない。
 いずれは綺麗な衣装を着て、人間界のアイドルのようにみんなにちやほやされるという野望があるのだ。
(ここでのドレス勝負など、その第一歩に過ぎないのよ)
 鏡の中の自分に挑戦するように微笑みかける。
 青い髪のサイドを柔らかく自然に落とし、残りの部分は綺麗にアップに。
 頭上には豪華なティアラが煌めく。
「こんな冠こそ私に相応しいというものよね」
 すっくと立ち上がるブルームーン。
 たっぷり取ったギャザーがロマンティックな、甘いベルラインのドレスを選んだ。ウェストから裾にかけて、軽く柔らかなオーガンジーが幾重にも取り巻いている。さながら、薔薇の花びらのようだ。
 青い薔薇のブーケを胸元に抱くと、甘やかな高揚と不思議な落ち着きを与えてくれる。
「こういう場合の人間のセンスは本当、侮れないわね」
 好みに煩いブルームーンも納得の出来栄えである。

 ジェラルディンがしずしずと長いトレーンを引いて進み出た。
 それを見て、アティーヤが満足そうに頷く。
「やっぱりあたしの目に狂いはないよね」
「ええ、アティーヤさん、有難うございます」
 鏡の中の自分が自分ではないようだ。ジェラルディンはマリアヴェール越しに、エレガントなAラインのドレスを纏った自分をうっとりと眺める。
 贅沢なフリルがともすれば重たくなってしまいそうだが、ドレスに慣れたジェラルディンの立ち姿は美しかった。裕福でなくとも、きちんとした家で育ってきた証拠だろう。
 アティーヤは自分の目の確かさに改めて自信を持つ。
 そうだろう、そうだろう。ジェラルディンにはこれ位着こなせるはずなのだ。
 そこでふと室内を見渡した。
「あれ……フィオりんはまだなんだ?」

 その声を聞き、カーテンの向こうでフィオナはびくっと身体を震わせた。
(ちょ、ちょっと待ってくださいね……!!)
 声に出さずに呟く。
「さあどうぞ、この中へ」
 着付けを手伝ってくれる女性が笑顔で指さすのは、綺麗な布の真ん中に空いた穴。
(ドレスって……こうやって着るのですね……!)
 下着姿のフィオナはおっかなびっくり、足を踏み入れる。
 そう、美しいウェディングドレスの支度の真実。布の量が半端でなく、デザインも複雑なウェディングドレスを着るには、床に広げて落とし、その真ん中に人間の方が入るのだ。
 慣れた様子ですっと引き上げ、あちこちをフィオナに合わせて調整してくれる。
「さあ、如何ですか?」
「わ……」
 フィオナは青い瞳を大きく見張る。
 支度室の大きな鏡に映る自分が、別人に見えた。
 まるで魔法使いの助けで一瞬で変身した、シンデレラのようにすら思える。


 カーテンを開けて外に出ると、皆も魔法にかかったようだった。
「皆、すっごく綺麗……」
「フィオナさんもとても良くお似合いですわ。髪を整えたら、きっともっと素敵ですわ!」
 ジェラルディンが明るい声を上げる。
「フィオナの支度が済んだら、記念写真を撮るみたいよ。一緒に撮ってくれるわね?」
 ブルームーンが何やら意味ありげに目を細めた。


●淑女たちのお楽しみ

 着替え室の隣には、洋館の居間と言ったしつらえの部屋が用意されていた。
 程良く古びた重厚なソファやマホガニーのテーブル、しっかりとしたつくりの暖炉。銀の燭台にろうそくが揺れ、天井から下がったシャンデリアが宝石のように煌めく。
 部屋の隅には観葉植物がみずみずしい葉を広げている。
「ここで写真を撮ってもらえるんだよ!」
 アティーヤは早速、ジェラルディンを見事な彫刻の衝立の前に引っ張っていく。
「綺麗だよ、ジェラルディン」
 わざと意味ありげに囁くと、ほんのりとジェラルディンの頬に赤みが差す。
「アティーヤさんも、とっても綺麗です」
 明るい部屋でもドレスは充分美しかったが、この部屋に来ると一層白さが映えるのが分かった。抑え目の明かりを、ドレスの白が反射するのだ。
 少し緊張の面持ちのジェラルディンに、突然アティーヤが抱きつく。
「もう、やっぱり似合うよ! すっごく綺麗!!」
「や、あの、ちょっと……!?」
 びっくりして緊張がほぐれ、ジェラルディンも思わず噴き出した。
「やっと笑った。さ、カメラににっこりしよ!」
 頬を寄せて、特別な笑顔。贅沢で、綺麗で、近寄りがたい程なのに、柔らかくて。
 女の子だけの気安さが、こんな笑顔を作るのだろう。

 フィオナは生真面目な表情で、精いっぱい背筋を伸ばす。
 選んだのは少し大人っぽい、マーメイドライン。すらりとした長身によく似合う。
 前髪は横分けにまとめて、サイドの髪は遊ばせる。金髪を綺麗に結い上げ、ブーケと同じ花を流れるように飾りつけた。
「あの、できれば、後ろからも撮ってもらえたら嬉しいのですが……」
 このドレスで特に気に入ったのが、長く優雅なトレーンなのだ。後ろに行くほど裾は広がり、繊細なレースが床に流れる。
「勿論ですよ、少し整えますね」
 スタッフが慣れた手つきで、一番美しく映えるように絨毯の上にトレーンを置いていく。
 言われるがままに少し身を捻り、写真に収まった。

 突然、ブルームーンがフィオナの腕につかまる。
「一緒に撮ってくれる?」
「え、あ……うん」
 ブルームーンの囁きが耳をくすぐり、フィオナは少し困ったような顔になった。
 大きく開いた胸元は、女同士が見てもどぎまぎする。
 そんな心中を悟った様に、ブルームーンは身体をくっつけてくる。
「えー、ずるい。あたしもフィオナと一緒に撮る!」
 反対側から腕にぶつかるように、グリーンアイスが身体を寄せてきた。
「えっと、あの……」
「立ち姿を撮ったら、次はあちらの長椅子にしない? きっと素敵だと思うわよ」
 戸惑うフィオナに立ち直る隙を与えず、ブルームーンが次々と提案して行く。
 両側から天使と悪魔に甘く囁かれて、フィオナは目を白黒させるしかなかった。

 あるいは一人で、あるいは誰かと。
 とびきりのドレス姿をこれでもかと写真に収めた。
「はしゃぎ過ぎて、流石にちょっと疲れちゃったわ」
 ブルームーンがソファに優雅に身体を預け、息を吐く。
「そうだね、じゃあそろそろお茶会にしよっか」
 アティーヤが目くばせすると、スタッフが会釈して退出する。
「お茶会……」
 色んな意味で疲れてしまい、どんよりとしていたフィオナの目が生気を取り戻す。
 やがて近づいて来るワゴンの音、密やかな金属音。
 ドアが開くと、お茶会のセットが運びこまれてきた。


●素敵なお茶会

 部屋はたちまち芳しい紅茶の香りに満たされる。
「いい香り……」
 ジェラルディンがうっとりと目を細めた。
 居並ぶ白いドレスの淑女たちの前に、銀のポット、銀の砂糖壷、華麗なティーカップが次々と置かれて行く。
 テーブルの中央には目にも楽しい焼き菓子やサンドウィッチが乗った、三段重ねのトレースタンドが三つ。
 陶製のトレイには、たっぷりのジャムやクロテッドクリーム。熱々のスコーンは、満を持して運ばれてきた。
「さあ、冷めないうちにどうぞ」
 促されて、銀のフォークを取り上げる。
 ドレスに合わせて、それぞれが手袋をしたままだ。だが何故だろう、レースの手袋で凝った細工の銀のフォークを持つと、とても美しく見えるのだ。
「はい、あーん♪」
 グリーンアイスが満面の笑みで、一口分のケーキを刺したフォークを差し出す。
「え、いや、自分の分は自分で食べますから……ってふゃあ!?」
 ほんの少し身をよじろうとしたフィオナを、背後からアティーヤが抱きすくめた。
「いいじゃない? 絵になると思うけど」
 くすくす笑いが身体を伝わって響き、フィオナは握った拳をふるふると震わせる。
 アティーヤはグリーンアイスに片目をつぶって見せる。
 ――ほら、とっても楽しいでしょ? 誘って良かったでしょ?
 グリーンアイスが金の瞳を細めて返す。
 ――ふふ、まあまあかな。悪くないんじゃない?

 そんな目くばせなど知る由もなく、ジェラルディンはダークチェリーのタルトを口に運び、その甘さを惜しむように味わう。
「美味しいですわ……」
 素敵な洋館に招かれたみたいな、贅沢な時間。
 焼き菓子もショコラも、そして紅茶も、夢のように心を満たす。
(ドレスも素敵でしたけれど、このお茶会もとっても素敵……)
 そこではたとジェラルディンは我に帰る。
「どうしたの。何か嫌いな物でも食べたの?」
 ブルームーンが気付き、ジェラルディンに向かって小首を傾げた。
「えっと、あの、ですね……」
 少し俯き、自分の指を弄ぶようにして、ジェラルディンが言い淀む。
「何か気になることがあるなら、言えばいいのよ?」
 尚も促されて、ジェラルディンは意を決したように顔を上げた。
「あの……ですね。未婚の女性がウェディングドレスに袖を通すと、婚期が遅れるっていうのは嘘ですよね!!」
 これが『ウェディングドレスの試着会』に誘われたときの、懸念事項だった。
 拳を握り、一息に言い切ったジェラルディンの頬は、興奮のせいか紅潮している。
 一同はその迫力にあっけに取られ、思わず静まり返ってしまった。
 が、それも一瞬のこと。
「……ぷっ」
「ぷくく……」
 我慢しきれなくなった淑女たちは、ついには噴き出してしまう。
「やだもう、そんなこと気にしてたの!?」
 アティーヤは目に涙を浮かべて笑っている。
「え、だって……」
 ジェラルディンの野望は、なるべく早く玉の輿に乗って、お金の心配をしなくて済む生活を送ること。苦労性だからこその野望だ。人は良いが今一つ世事に疎い家人の為にも、自分が家を盛りたてなければならないという、けなげな決心。
「もう、ほんとにジェラルディンてば可愛いんだから……!」
「うう……」
 アティーヤはジェラルディンに抱きついて、思わず頬ずりしてしまった。

 フィオナはすぐに笑いを収め、誤魔化すようにティーカップを口に運んだ。
 ジェラルディンの必死さに思わず笑ってしまったが、内心ではほっとしていたのだ。
(良かった、迷信だった……)
 一見クールで頭の切れるフィオナだが、実は意外と初心なのである。
 育ちの良さのせいもあるだろうが、強気の態度とは裏腹に、世間ずれしていない面があるのだ。
 そこに目をつけたのが……
「ねえ、フィオナも結婚したいのかな?」
 にまにま笑いながら、グリーンアイスが突っ込んだ質問。
「ごほっ……!」
 思わず紅茶にむせそうになり、フィオナが慌ててナフキンで口元を押さえる。
「な、急に何を言い出すんですか……!!」
「私も気になるのよね。そこんとこどうなの?」
 さも楽しそうに、ブルームーンが乗っかる。
「そんなこと考えたことないですよ! まだまだ先の話です!」
「あ、じゃあいずれはってことだよね。ね、どんな人がタイプなの? やっぱり趣味が合うとか?」
「フィオナってば案外年上の人なんかに弱そうよねえ」
 グリーンアイスとブルームーンが大いに盛り上がる。
 ふたりを交互に見ながら、フィオナは慌てたり、赤くなったり忙しい。
「待ってください、勝手に話を盛り上げないで!」


 華やかで賑やかなお茶会は夜更けまで続く。
 明日の夜に同じ場所を通っても、辿りつけないかもしれない不思議な貸衣装屋さん。
 朝になればきっと、昨夜の出来事が本当だったのかと首を傾げてしまうだろう。
 けれど枕元に置かれた金の箔押しの白いアルバムと、そこに添えられた薔薇の花が、素敵な一夜の確かな証拠。
 この日纏ったドレスは、秘密めいたときめきと一緒に、ずっと記憶の中に輝くだろう。
 いつか誰かの為に特別な白いドレスを着る日が来たとしても――。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja8923 / アティーヤ・ミランダ / 女 / 23 】
【ja9370 / フィオナ・アルマイヤー / 女 / 23 】
【jb1653 / ジェラルディン・オブライエン / 女 / 21 】
【jb3053 / グリーンアイス / 女 / 18 】
【jb7506 / ブルームーン / 女 / 18 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
女の子だけが辿りつける不思議な貸衣装屋さん。とても幻想的なお題をいただきました。
ドレスを想像するだけでも楽しくて、髪型なども勝手に色々作らせて頂いてしまいました。イメージと違っていなければいいのですが。
仲良しさん同士の密かなお楽しみ、気に入っていただけましたら幸いです。
この度のご依頼、誠に有難うございました!
FlowerPCパーティノベル -
樹シロカ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年07月09日

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