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『仁義なき、鉄板 』
七種 戒ja1267)&若杉 英斗ja4230)&小野友真ja6901


 暮れる夕日を背景に、のんびりと学園のチャイムが鳴り響く。
 それは、試合終了を告げるゴング。
 告白すると、再試験。
「終わった…… 終わったんや……」
「やだー 戒さん、待ったー?」
「あらー、友真ちゃーん。アタシも今来たとこー」
「……二人とも、追試だったんだ。お疲れ様」
「「涼しい顔して!!!」」
 それぞれの教室から、死んだような顔で出て来る七種 戒と小野友真が、残る気力を振り絞って掛け合いをしているところへ、若杉 英斗が通りかかる。
「涼やかなスタイルの男性が今年のトレンドだって聞いて。ガムでも食べる?」
「「もらう」」
 死者二名が、英斗の差し出すガムへ手を伸ばし―― 片方がハッと顔を上げる。

「あそこにいるは!!」
「のわ!?」

 どーんとタックル、友真が突撃する相手は卒業生の筧 鷹政。
「真正面からとは勇気があるな!」
「ちょ、筧さんwww」
 ガッシリ受け止めてからの、肩から持ち上げての―― 容赦なきスイング。




 自販機のあるホール、休憩コーナーのベンチに四人は腰かけて、しばし休息を。
 缶ジュースを奢りつつ、追試上がりだという二人の話を聞いては鷹政が笑った。
「いつになく、力が弱いと思ったら」
 普段の咽こむような衝撃が無く、ついつい技を返してしまう程の。
「忘れてた試験で、苦手分野出てん……」
 コーラを半分ほどまで一気に飲んで、ようやく友真が口を開く。
 振り回されてクラクラする頭がすっきりしてきた。
「常識的に考えて、試験の範囲って分割しないものよな……」
「あ。もしかして戒、前半しか」
「前半は、完璧だった」
 同学年の英斗が察し、虚ろな眼差しで戒が頷いた。
 嗚呼、甘すぎる缶コーヒーが頭に響いて気持ちいいな。
 進級試験さえクリアすればいいかといえばそうでもない、だって僕たち私たち、現役の学生だもの。
「うあーーー。頑張ったからお腹すいたー……」
「思いっきり、味の濃いモノ食べたいなー……」
「ほんと、お疲れ様」
 お祭り大好きムードメーカーズの消耗振りたるや。
 努力のほどが垣間見える。
「……思いついた。筧先輩、さっき、高校生を虐待してましたね?」
「思いついたってどういうことなの」
 悪い目をして、戒が鷹政へとにじり寄る。
「動画も写メも撮り忘れましたけど、これ教師へ訴えたら出禁になりません?」
「証拠なしで?」
 鬼気迫る目であるが、言葉の内容自体には説得力が低い。
「かわいーい後輩たちに会えなくなるなんて寂しくないですか!! それが嫌なら奢りませんか!!!」
「予想外の角度からの強請……!」
「冷静さを失ってるから……」
 英斗は首を振って鷹政の肩を叩き、
「自分は、お好み焼きが食べたいなって思います」
 さりげなくリクエストを滑り込ませた。
 



 放課後、からの夕飯時。
 カラカラと昔懐かしい木製の引き戸を開けた途端に、独特の熱気、食欲をそそるソースの匂いが噴き出してくる。
「四名、禁煙席でー」
「店の人が焼いてくれへんねやなー??」
 鷹政が店員へ対応する間に、友真がキョロキョロと店内チェック。
 鉄板の温められたテーブル席を囲み、客たちがそれぞれにお好み焼きを焼いている。
 関西では、店員さんが焼いてくれたものだけど。
「頼めば焼いてもらえるみたいだけど、せっかく小野君も居ることだし、腕前見せてもらおうかなって」
「フッ…… 西のおこのみ四天王の一角を担った俺の技、安くないですよ……?」
「俺は豚玉にしようかなー」
「飲み物はウーロン茶でいい? ここはアッサリしときたいよね。ライスつける人、手ぇ挙げてーー」
 壁に貼り出されているメニューを眺め、鷹政が手早く進める向かいの席で―― 戒は、俯いたままであった。
 長い黒髪が表情を隠しているが、その肩は小さく震えている。

「……何故、こんなに良い人なのにモテないのかよよよ…………」
「七種さんも美人なのに、どうして告白してくれる男子が居ないんだろうねー あ、オーダーお願いしまーす」

 刹那。
 一瞬にして、場の空気が凍り付いた。
 店員がセッティングした、点火したばかりの鉄板さえ冷え冷えとしていたと、後に英斗が語る。

「いっておくけど、別に俺、モテないわけじゃないよ? 本業の仕事は外だし、学園内だってバレンタインは――」
「――そういえば、去年も今年のバレンタインも同じ順位でしたね……」
「…………」
「…………」

 凍り付いた空気は、そして瞬時にして烈火のごとく燃え上がる。
「コレは……避けられない宿命の戦い…………」
 ゆらり。黒髪の女が立ち上がり。
「……深き業より抜け出したくば、正面に対峙する者を乗り越えるべし……か」
 拳を鳴らし、赤毛の男がそれに続く。
「えっ どうゆう流れなん!? 筧さん、そこ闘気解放する場面!!?」
「演出効果です」
「戒、緑火眼も違うやんな!?」
「演出効果です」
「やめろ! 二人が争う必要なんてないんだ! ……でも、面白そうだから見守ろう」
「若様! 『キリッ』やないですぅうううう!!」

 圧倒的ツッコミ不足。
 かくして、仁義なき料理対決は火蓋を切って落とされた。




 タネに、キャベツ―― ではなく、どこから出たのだろう大量の大根の『ツマ』を投入するのは戒。
 彩りよくプチトマト、トマトが入っているのに丁寧にトマトケチャップも隠し味として加えている。
 色の関係でまったく隠れていないのはご愛嬌。
「大根を最後に入れるのはよくない、それは覚えた。みかんは、加熱してもそれなりに」
「初手から、覚えたことの応用を試みる戒選手。攻めてますねぇ。おっと対する筧選手は無難だ。非常に無難だ!!」
「広島風って名乗って焼きそば入れればいいじゃんって店も多いけどさー。それはそれで広島に失礼だよね。という前置きをして。俺は関西風のが食べたいの……キャベツいっぱいなやつ」
 対する鷹政は、オーソドックスにベーシックに『お好み焼き』である。
 大量のキャベツを中心に、天かす・紅ショウガ、そこへタネを加えて全体をよく混ぜる。
「本音しかない。この人、対決どうのではなく本音のままに作ってはる……。解説の若杉さん、このカードどう思います?」
「筧さんは……意外に上手ですね。まぁ独りが長いs ごほっごほん。戒も技術はあるよね、素材の選び方が……個性的なだけでさ」
 戒が、水分が足りないなと呟き栄養ドリンクを加えたところで、英斗は己の豚玉をひっくり返した。
 うん、良い色。いい匂い。
「ふ、我が芸術に酔いしれるがいい……」
 英斗の解説をプラスに受け取り、戒は双銃を操る手つきで複数の調味料を雨のように降らせる。
(気付いてへんだけで、モテんのにな両方……)
 友真は一足早く、焼きあがった帆立バター焼きを口へ運んだ。
 バターの風味と帆立の弾力が、噛むごとに幸せな熱をもたらす。
「この店、知らんかった……。ええ材料使っててこのお値段!」
 さすが学生街。人が多いのもうなずける。
「寄り道に、良さそうだね」
「テスト明けの、お約束コース候補しとく?」
 実況と解説者がそんな会話を交わす隙に――

「火が通れば、全てはヨロシ!! せぇい!!!」

「待って戒、最後なに入れたん……!!?」 
 友真が悲鳴に近い声を上げ、それをかき消すがごとく赤くドロリとした種が鉄板へと落とされた!!
 焼き広がる音は、何かの断末魔のよう。
「待って戒、なんか動いとる。なんかはみ出とる……!!」
「ふっ……。この私を手こずらせてくれた白き悪魔よ……。他愛もない、直ぐに鎮まる」
「ど、どう思いますか、解説の若杉さん」
「……イカげそ? 鮮度抜群……みたい、だな」
「……ええ材料使ってて、このお値段……」


「思うに、空腹時のお好み焼き屋って、危険だよね」
 『焼き上がりまで、じっと待つべしタイム』に突入し、オアズケを喰らった犬の如き眼差しで鷹政が鉄板を見つめる。
「やっぱ無理。すみませーん、追加で焼きそばお願いしまーす、あとホルモンとジャガバター」
「大人ってずるい……!」
 やりたくても、やれないことをやってのける、おとなげなさ!
 きゃー、と友真が黄色い声を上げ、
「皆、育ち盛りだから食べられるだろ……!」
「欲望に任せたままの追加ですか……」
「待ってるものがあると思えば、今をしのげる…… 若杉君なら、わかってくれると思う!」
「……うっ」
 英斗が言葉に詰まった。




 約五分後……
 ソースを塗り、鰹節を躍らせ、青のりを散らせば生地の色など解かるまい!!
「マヨはセルフな。ケチャップならば投入済みだが更に掛けるも良いだろう」
「……見た目は、まともやんな」
「ちゃんと、お好み焼きしてるな」
「どういう意味かね、君たち」
 失礼な物言いの友人たちへ、戒が黒い笑みを浮かべる。
「さぁ、遠慮なく食すがいいよ」
 そのままドヤ顔へと転じて。
「俺……筧さんの食べるから」
 ふるふる、友真が首を振る。
 あっちがいい。懐かしい感じの、あのお好み食べたい。
「それじゃあジャッジにならないであろう?」
「……デスヨネー 食材大事に……!」
 調理者が戒とはいえ、店の材料を使っている以上、酷いことにはなるまい。
「案外イケる。七味が効いてて美味しい。ホットみかんが、意外なことにジューシー……」
「案外ってどうゆうことですか、筧先輩……?」
「薄めにしとるから、中まで火は通っとるんな……。これならセーフセーフ」
 切断面を確認してから、友真も恐る恐る。
 切った瞬間にトマトとみかんがドロリと溶けだし、追うように流れ出たチーズが鉄板の表面で香ばしく焼けて堰き止めている。
「……なんや、この悔しさ」
「『お好み焼き』だとさえ、思わなければ。うん」
「どういう意味かね、君たち……?」
 酸味と甘みをチーズが包み、遅れて辛さがやってきて、イカの歯ごたえが楽しい。歯切れがいいのは、店側の下処理として切り込みを入れているからだろう。
「はい、七種さん。あーん」
 鷹政は戒のお好みを頬張りながら、他方のテコで自身のお好みを切り分け、戒へ。
「ふっつーーーーーーに、地味に美味くて腹たつんですけど」
「地味ってどういうことですか、七種さん……」
「筧さんのは…… 大阪帰りたなる味」
 ひねりのない、ミックス玉である。
 たっぷりのキャベツを繋ぐ生地は、あくまでふんわりとしていて、卵の味までよくわかる。
 出汁の加減も程よく、生地がソースに殺されていない。
「で、ジャッジは!?」
 わくわくに目を輝かせ、戒が身を乗り出す。
「……そうだな」
 ふむ、と英斗が考え込み――考え込み――沈黙し――何事か呟きはじめ……
「若様!? ちょ、帰って来て、若様!!?」
 不安になった友真が彼を揺らすと、神の啓示を受けたがごとくカッと目を見開いた。

「二人の料理には大事な物が欠けておる。勝つ事ばかり考えて作ったゆえ、食す人の笑顔がみたいという愛のスパイスが足りぬわ!」

 神による公平な審判を下し、そうして二人のお好み焼きをそれぞれ自分の皿へともう一切れずつ頂戴した。




 ジュウジュウと、鉄板が美味しい音を立てる。
 今日一日の、疲労を落していく。
「焼きそば上がりーー!」
「ホルモンって、そろそろ大丈夫かな」
「あ、若様、これはジックリ焼くやつ。いっちゃん最後に食べるタイミングやな」
「先輩に勝ったら、女装してもらって一日デート狙ってたのに……っ」
「誰得!!?」
 ジャガバタを頬張りながら呟く戒へ、ぎょっとして鷹政が顔を上げる。
「かわいこちゃんは正義でしょう!?」
「筋肉質なかわいこちゃんも守備範囲ですか……」
「若様に降りた神に感謝する流れ……」
「苦しゅうない。ごはん、おかわりおねがいします。……焼きおにぎりが良いかな」


 鉄板の熱気、ソースの匂い。
 四人の身体にしっかり染みる頃、外では星々が瞬きはじめていた。




【仁義なき、鉄板 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja1267/ 七種 戒 / 女 /18歳 / 学園バレンタイン2014女子の部5位】
【ja6901/ 小野友真 / 男 /18歳 / 実況】
【ja4230/ 若杉 英斗 / 男 /19歳 / 解説】
【jz0077/ 筧 鷹政 / 男 /26歳 / 学園バレンタイン2014男性の部5位】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
ご依頼、ありがとうございました。
ほとばしる若さ、お好み焼きノベルお届けいたします。
お楽しみいただけましたら、幸いです。
■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年07月09日

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