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『感謝のキモチ 〜ある紳士の述懐〜 』
矢野 古代jb1679

 君か? 俺に聞きたい話があると言うのは。
 ふむ、まあ俺は構わないが。

 あれは、そうだな、ハロウィン当日の夜だった――


●ハロウィンパーティー
 その日の夜、久遠ヶ原学園・高等部キャンパス敷地内を三十半ばの男が歩いていた。
 学生の親保護者だろうか。否、保護者とて夜中のキャンパスを徘徊するような事はあるまい。
 警備員に見つかれば即拘束されかねないシチュエーションだと苦笑して、矢野 古代(jb1679)はラフに着崩したコートのポケットから携帯端末を無造作に取り出した。ほのかに光る画面を繰って、メール内容を確認する。

   * * * * * * * * * *

  矢野 古代 様

 やわらかな秋の日差しに柿の実が鮮やかに映える今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。
 秋気が心地よく身にしみる季節のこと、ますますご清祥のこととお喜び申し上げます。

 先日はハロウィンの準備に先立ち、お菓子作りをご指導くださいまして、大変ありがとうございました。
 料理上手のおじ様にご教授いただいて完成させたお菓子、常日頃お世話になっております皆様も大変喜んでくださいました。
 わたくしの感謝の気持ち、しっかりと先様に伝わり嬉しゅうございました。

 さて、本題でございます。
 先日の御礼ならびにおじ様への日頃の感謝を込めまして、ハロウィンパーティーにご招待したく存じます。
 パーティー会場にと学園をワンフロアお借りしましたの。
 心を込めて御持て成しさせていただきますので、是非お越しくださいませ。お待ちいたしております。

                                     シェリア・ロウ・ド・ロンド

   * * * * * * * * * *


 即ち、彼が夜中の学園に足を運んだ理由は、義理堅い少女の招きに拠るものらしい。
「まったく‥‥そんなに気を使わなくても良いのに‥‥」
 場所は間違ってない。もし警備員に呼び止められたら事情を説明すれば何とかなるはずだ――と思いたい。
 決して怪しい人間じゃあないですよ、と端末を握り締めたまま。黒いロングコートを闇に靡かせて古代は高等部の特別棟に足を踏み入れた。

 こつ、こつ――――人気のない校舎に靴音がやけに大きく響く。
 階段を上るのは古代ただ一人、おまけにメールに添付された地図が示しているのは、普段立ち入れない場所である。
「さすが、貸切だな」
 警備員はおろか、メールを寄越した少女の気配すらしやしない。
 だが、彼女が嘘の呼び出しをするような娘ではない事を古代はよく知っていたから、彼はただ黙々と目的地を目指す。
 こつ、こつ、こつ――――
 響き渡る足音が誰かに尾けられているかのような奇妙な錯覚を生み出して、非日常へと彼を誘う。
 漸く辿り着いた屋上へと続く分厚い扉の前で、彼は一度立ち止まり端末をポケットへと仕舞った。

 一呼吸置いて手を掛けた、その扉の向こうには――


   【 痛快! ツユキ罠仕掛

       おいでませ 風雲ロンド城 】


「‥‥‥‥」
 ――古代は黙って扉を閉めた。
                < 完 >


●痛快? なりゆきアドベンチャー
『『よくぞ来た! 我が精鋭よ! ‥‥って、『閉めんな!』『閉めないでくださいまし!!』』

 扉の向こうで異口同音に叫ぶ声がする。露姫とシェリアだ。
(まあシェリアは居るとは思っていたがな‥‥何なんだあれは)
 扉にもたれて古代は嘆息した。
 一体どこから持ち込んだのやら、屋上全域が一大アミューズメントパークと化していた。それもかなり危険な――巨大チェーンソーやら分銅、ギロチン台まであったような――大掛かりな罠の数々が遊具の代わりに設置されている。その様子を例えるならば、彼が子供の頃に一世を風靡した視聴者参加型アドベンチャーバラエティー番組のセットのようだった。
(‥‥というか、何故あいつらはあの口上を知っている?)

 古代が胸中でツッコミを入れていた頃、黒い軍服姿の少女たちは扉が再び開くのを待っていた。
「どうしましょう、お気に召しませんでしたでしょうか‥‥?」
 おろおろするシェリアに露姫は気にすんなと自信満々だ。何やかや言って古代は面倒見が良いから自分たちの悪ふざけに付き合うのは間違いない。そのうち入ってくるだろうから配置に就こうぜと、露姫はスチロール樹脂の石垣が詰まれた日本城郭へと姿を消した。
「では、わたくしも‥‥」
 対して、シェリアは西洋の古城を模したブースで待機する。
 そして誰もいなくなった――頃を見計らい、男は再び扉を開けた。

 がちゃこんがちゃこんと罠が動作する音だけが鳴っている屋上に立つ中年男がひとり。
「‥‥和洋折衷だな」
 視界に広がる罠を一瞥し、腕まくりした古代が独りごちた。
 このアトラクションには順路があるらしい。まずは扉の前、先ほど目に飛び込んできた【おいでませ〜】の垂れ幕で飾られたアーチから伸びる長い廊下を進まねばならないようなのだが、かなり長い廊下の途中には、いくつもの西洋甲冑とギロチン台が見える。
「開始早々、端っから危なくないか?」
『殺傷力ゼロですからご安心くださいませ』
 独りごちると、どこからかシェリアの声が聞こえてきた。ええいままよと駆け出すと、ギロチン台が一斉に作動し始めた。

 がちゃん、がちゃ、がちゃ、がちゃん――

『そこで R+↑↑↑、流れるように ↓溜め↑』
「‥‥つか、何だそのコマンドは! うおお行くぞおおおお!!!!!」
 間一髪、咄嗟に前転移動していた。ギロチン台を抜けた先に続く廊下は煙幕が立ち込めている。突っ込みつつも正直に構えて構えて一気に駆け抜けたものの、古代は盛大にすっ転んだ。

 ぎぃ、ぎ、ぎぎ――

 ギロチンの作動音に奇妙な音が混じり始める。
「ローション‥‥何の‥‥」
 顔面から転んだせいでヌルヌルする物質を口に含んでしまった古代の疑問は最後まで紡がれる事はなかった。彼が立ち上がるのもそこそこに、廊下の壁に並んでいた騎士の甲冑が一斉に動き始めたのだ。
 空っぽの鎧から、肩叩きボール付の孫の手を取り出した騎士たちは何故か鼻息が荒い。
『ウホ‥‥』
「今なんか変な声入った!? つか孫の手ってなんだよああああ!!!」
 その疑問は程なく解けた。両手に孫の手を握り締めた騎士たちに混じって、悪魔の仮面で顔を隠したガチムチマッチョの集団が彼に近づいているのだ!
『『イイオトコ‥‥』』
「露姫お前の眷属か!? うわあああガチムチ嫌だああああ!!!」
 どうやら本物の悪魔さんたちらしく低空飛行で追ってくる。漢臭い空気に露姫の哄笑が混じる中、古代は己の貞操を賭けて逃げた。身体中、ぬるってかになったまま――


●それを俺に言えというのか
 謎のローションがコートの裾から糸を引いている。何とか漢集団から逃げ切った古代の姿を、シェリアが隠し部屋から眺めていた。
「おじ様、さすがですの」
 どろどろくたくたな古代な姿へ向けた感嘆の声は何処か世間離れして聞こえる。続けた言葉が更に拍車を掛けた。
「まあ大変。クリーニングしませんと」
 そーれ、ぽちっとな。ですわ。
 いきなり降って来た水入り金盥が直撃した古代の悲鳴が屋上に木霊した――

 ぬるぬる、のち、びしょ濡れ。しかし彼は尚も前進を続けている。
 パネルで区切られた屋上はさながら迷路だ。少女たちは迷う事を想定してトラップを仕掛けているから当然行き止まりに行き着く事もある。
『こういう時は片手を壁に触れて‥‥目印も付けておくか』
「そっちは行き止まりだぜぇ?」
 一歩また一歩と天守閣へと近づいている古代の様子を隠し撮りカメラのモニタ越しに眺めていた露姫は、彼が向かっている先に気づいた。
 迷路に行き止まりは付き物、そして彼が向かっている行き止まりのトラップは――
「言えるもんなら言ってみな」
 くっくっ。露姫は人の悪い笑みを浮かべた。

   * * * * * * * * * *

 一方、古代は着実に迷路を攻略しつつあった。
 謎のローションを浴びたけれど。水が入った金盥が脳天を直撃したけれど。
「‥‥生き抜くと決めた男の根性、舐めるなよ」
 突貫アトラクションなのだからパネルを抜けば突破可能だなどと考えもしない、彼は実に誠実で――冷静な、大人の男であった。
 だから移動した果てが行き止まりでも、そこに謎の箱があっても、冷静に周囲を観察する余裕があった。
「何‥‥『答えは大きな声で叫ぼう!』?」
 箱が置かれた行き止まりの壁に書かれた文字を復唱し、彼は箱を見下ろした。左右の側面に丸い穴が開いている。あれだ、穴に両腕を突っ込んで触れた中身を当てるゲームだ。
 台座も箱の一部だとすれば、人ひとりくらいは入れそうな結構大きな箱だ。
(まさかここに、二人のどちらかが入ってはいないだろうな?)
 一瞬そんな事を考えて、いやいや猛獣やガチムチマッチョさんかもしれないと慄いたりもする。ともあれ、噛み付かれたり手を握られたりしたら即座に箱から手を抜こうと覚悟を決めて、古代は箱に両手を突っ込んだ。

 ――――ふに。

(何だ、柔らかいぞ‥‥それにほんのり暖かい)
 しっとりと吸い付くような手触り、微かに指先を刺激する弾力――それを例えるならば、赤ん坊の頬のような――いや待て?
 暫く触れている内に、古代は頬らしからぬ凹凸がある事に気がついた。
(これは‥‥)
 あれによく似ていた。彼は持ち得ない、もっと言えば女性に備わっている――あれ。

   * * * * * * * * * *

「気づいたな。さあ言え!」
 仕掛け人はにやにや。モニタ越しに挑発する露姫とは逆に、箱の中身を知らないシェリアは黙り込んだまま動かない古代の様子が心配でたまらない。
「おじ様、どうなさったのかしら‥‥」
 ゴールした古代に渡す大きな大きな包みを抱えて、おろおろと見守っている――

   * * * * * * * * * *

 全く人が悪い。俺が恥ずかしがるとでも思ったか。三十路半ばの、この俺が。
(ま、ちょっとは焦ったがな‥‥)
 だが俺は考えた。
 これを仕掛けたのは女だ。シェリアか露姫、おそらくは露姫だろうが――いずれにせよ、彼女らの実物では、ない。
「言うぞ? 聞いているんだろう?」
 古代は箱の穴に両手を突っ込んだまま、どこかから視ているだろう少女たちへ挑むように言った。
 俺はいい年した男だ。言葉に興奮する小学生や触感にうろたえる初心な青少年と一緒にされるのは心外だ。
 さあ、言うぞ。正解は――

「正解は‥‥おっぱい抱き枕だっ!!」

 古代の雄叫びに正解のファンファーレが重なって――行き止まりだったパネルに出口が現れた!


●特大の感謝を込めて
 迷路を抜けると、そこはカフェスペースになっていた。古代を迎えたのはクラシックスタイルのメイドたち。
「「ハッピーハロウィーン☆」」
 黒い軍服姿だった露姫とシェリアは、古代がへとへとになっている間に着替えを済ませていた。だからと言って古代用の着替えが用意されている訳ではないので、ぬるべちゃのコート姿のまま彼はテーブルへと案内される。
 難関突破しゴールへと辿り着いた勇士を労い、星空の下ささやかなお茶会の始まりだ。

 甘い香りが疲弊した古代の鼻腔をくすぐった。
「おじ様、いつもありがとうございますの。どうか受け取ってくださいな」
 シェリアが運んできた銀盆に載っているのは、一人では食べきれなさそうな特大パンプキンパイだ。
 片方を後手に、露姫が茶器を並べてゆく。
「いつもありがとな。まあ食え」
 ほんのちょっぴり照れた様子に見えるのは後手にしたポーズによるものか。実は背後に隠し撮りしたビデオカメラを持っているからなのだが、シンプルなメイド服と相まって何だかもじもじして見える。露姫の挙動が怪しまれない内に、シェリアがカップへ紅茶を注ぎ始めた。
「楽しんでいただけましたかしら? どうかこれからもよろしくお願いいたしますわね?」
 小首を傾げて言うシェリアに感謝以外の他意はない。えげつないアトラクションを仕掛けたとは思えない無垢な姿なのであった。

   * * * * * * * * * *

 ――それから、どうしたかって?

 二人が作ったパンプキンパイを食って、礼に飴玉をやって――帰ったさ。
 屋上の後片付け? そいつは仕掛けたあいつらの、因果応報ってもんだろう?




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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 jb1679 / 矢野 古代 / 男 / 35 / 招かれた紳士 】
【 jb3641 / 宗方 露姫 / 女 / 15 / お茶目な仕掛け人 】
【 jb3671 / シェリア・ロウ・ド・ロンド / 女 / 16 / 天然もののお嬢様 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 ハロウィンのお話を初夏に‥‥何と長い間お待たせしてしまった事か。
 長期遅延お詫び申し上げます。周利でございます。

 ご発注いただいた事とても嬉しく、また執筆を楽しみにしておりました。最後まで書かせていただけました事に感謝しております。
 重ねて‥‥大変お待たせしてしまい申し訳ありませんでした。
 お待ちいただいた月日に見合うだけの作品になっていれば良いのですが‥‥ほんの少しでも、お楽しみいただけましたら幸いでございます。
魔法のハッピーノベル -
周利 芽乃香 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年07月10日

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