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『感謝のキモチ 〜小悪魔の悪戯〜 』
宗方 露姫jb3641

 ああ、俺んとこにもあの夜の事、聞きに来たのか?
 じゃあさ、好きなキャラ選びな。俺に勝てたら教えてやるよ。手加減しねーぜ?

 そう言や、あの時も、こんな事してたっけなあ――


●ハロウィンパーティー
 ――そう、あれは晩秋。
 自室で往年のビデオゲームに興じていた宗方 露姫(jb3641)の元に共犯者の彼女――シェリア・ロウ・ド・ロンド(jb3671)が訪れたのは、ハロウィンシーズンの事だった。
「まあ、それは何ですの?」
 パソコンディスプレイならぬブラウン管テレビに繋がれた、見慣れぬ機器とボタンだらけのコントローラーを目にして、シェリアは小首を傾げて問うた。
「ああ、これ? シェリアが生まれる前に流行ってたゲーム機」
 シェリアと然して年の違わなさそうな露姫は事も無げにそう言って、機体の電源を入れた。がちゃこんとオモチャのような重い音がしてパワーランプが点灯したのと同時に、ぶぉんとテレビ画面にレトロなドット絵が映し出される。
「結構新鮮だろ? わりと面白いんだぜ」
 そう言って、露姫はちゃちな作りのコントローラーをかちゃかちゃ弄り始めた。
 カクカクした画面の中、四角い形の人物が画面の右を目指し障害を越えてゆく。奈落の穴、炎噴出す池、規則正しく上下運動を繰り返すギロチン――それらを次々と越え、非常識な高度で飛翔したキャラクターがゴールすると、花火が上がり何千何万という高得点のスコアが表示された。
 次々と調子良くステージを進めながら露姫が尋ねた。
「それで。古代に御礼参りしたいんだって?」
「ええ、露姫さんと二人で、おじ様にお菓子作りを教えていただきましたでしょう? 日頃お世話になっている皆様に差し上げましたら、とても喜んでいただけましたの。おじ様にお菓子を差し上げる訳には参りませんから‥‥ぜひ別の形で御礼して差し上げたいと思いまして」
 一週間前、二人はハロウィン用の菓子を一緒に作った事があった。そのとき菓子作りを指南したのが矢野 古代(jb1679)である。
 大学部に所属する彼は、彼女たちの倍ほども年嵩な大人の男性だ。知識や人生経験のみならず、一般男性には縁遠いであろう料理や菓子作りまでも玄人裸足の腕前なのだ。
 ふぅん、と相槌を打った露姫、セレクトボタンを押してゲームを一時中断するとシェリアに向き直った。
「別の形で‥‥か」
 にやり。
 露姫の瞳が輝いている。シェリアは瞬きをひとつして、確かめた。
「何か良い案がおありですのね?」
「ああ、たっぷりと『お返し』してやろうぜ」
 マッピングに使っていたらしい方眼ノートの真新しいページを開きながら、露姫は何やら大層楽しげだ。

 露姫の提案は、平たく言えばパーティーだ。
 久遠ヶ原学園・高等部キャンパス特別棟の屋上を借り切って、一夜限りのアトラクションを作る。それは古代だけに誂えたアミューズメントパーク。多少大掛かり過ぎるかもしれないが、それは此方の感謝の気持ちの表れというもので――きっと喜んでもらえるに違いない。
「風雲ロンド城作ろうぜ」
「まあ、素敵! ツユキ罠仕掛、ですのね?」
 双方、シャープペンシルを握って顔を見合わせる。二人とも、さっきまでブラウン管に映し出されていた往年のゲームを思い浮かべていた。
 ここをこうして、この先はあれで――
 ノートの見開き一杯に一夜の夢の地図が描かれてゆく。少女たちの行動には淀みというものがなかった。
「あとは学園に借用申請を出して‥‥」
「おじ様へのご招待は、わたくしがメールしておきますわね」
 見事な連携。
 特別棟屋上を借り切った二人は、ロンド家の財力をフルに活かして、大迫力の一大アミューズメントパークを作り上げてしまったのだ。

「おじ様、喜んでくださいますかしら‥‥」
「そりゃもう、一生忘れられない思い出にしてやるぜ」

 そんなこんなで。
 かくして、ハロウィンパーティーの扉が一人の男によって重々しい音を立てて開かれたのだ。


●痛快? なりゆきアドベンチャー
『『よくぞ来た! 我が精鋭よ! ‥‥って、『閉めんな!』『閉めないでくださいまし!!』』

 扉の向こうで異口同音に叫ぶ声がする。露姫とシェリアだ。
(まあシェリアは居るとは思っていたがな‥‥何なんだあれは)
 扉にもたれて古代は嘆息した。
 一体どこから持ち込んだのやら、屋上全域が一大アミューズメントパークと化していた。それもかなり危険な――巨大チェーンソーやら分銅、ギロチン台まであったような――大掛かりな罠の数々が遊具の代わりに設置されている。その様子を例えるならば、彼が子供の頃に一世を風靡した視聴者参加型アドベンチャーバラエティー番組のセットのようだった。
(‥‥というか、何故あいつらはあの口上を知っている?)

 古代が胸中でツッコミを入れていた頃、黒い軍服姿の少女たちは扉が再び開くのを待っていた。
「どうしましょう、お気に召しませんでしたでしょうか‥‥?」
 おろおろするシェリアに露姫は気にすんなと自信満々だ。何やかや言って古代は面倒見が良いから自分たちの悪ふざけに付き合うのは間違いない。そのうち入ってくるだろうから配置に就こうぜと、露姫はスチロール樹脂の石垣が詰まれた日本城郭へと姿を消した。
「では、わたくしも‥‥」
 対して、シェリアは西洋の古城を模したブースで待機する。
 そして誰もいなくなった――頃を見計らい、男は再び扉を開けた。

 がちゃこんがちゃこんと罠が動作する音だけが鳴っている屋上に立つ中年男がひとり。
「‥‥和洋折衷だな」
 視界に広がる罠を一瞥し、腕まくりした古代が独りごちた。
 このアトラクションには順路があるらしい。まずは扉の前、先ほど目に飛び込んできた【おいでませ〜】の垂れ幕で飾られたアーチから伸びる長い廊下を進まねばならないようなのだが、かなり長い廊下の途中には、いくつもの西洋甲冑とギロチン台が見える。
「開始早々、端っから危なくないか?」
『殺傷力ゼロですからご安心くださいませ』
 独りごちると、どこからかシェリアの声が聞こえてきた。ええいままよと駆け出すと、ギロチン台が一斉に作動し始めた。

 がちゃん、がちゃ、がちゃ、がちゃん――

『そこで R+↑↑↑、流れるように ↓溜め↑』
「‥‥つか、何だそのコマンドは! うおお行くぞおおおお!!!!!」
 間一髪、咄嗟に前転移動していた。ギロチン台を抜けた先に続く廊下は煙幕が立ち込めている。突っ込みつつも正直に構えて構えて一気に駆け抜けたものの、古代は盛大にすっ転んだ。

 ぎぃ、ぎ、ぎぎ――

 ギロチンの作動音に奇妙な音が混じり始める。
「ローション‥‥何の‥‥」
 顔面から転んだせいでヌルヌルする物質を口に含んでしまった古代の疑問は最後まで紡がれる事はなかった。彼が立ち上がるのもそこそこに、廊下の壁に並んでいた騎士の甲冑が一斉に動き始めたのだ。
 空っぽの鎧から、肩叩きボール付の孫の手を取り出した騎士たちは何故か鼻息が荒い。
『ウホ‥‥』
「今なんか変な声入った!? つか孫の手ってなんだよああああ!!!」
 その疑問は程なく解けた。両手に孫の手を握り締めた騎士たちに混じって、悪魔の仮面で顔を隠したガチムチマッチョの集団が彼に近づいているのだ!
『『イイオトコ‥‥』』
「露姫お前の眷属か!? うわあああガチムチ嫌だああああ!!!」
 どうやら本物の悪魔さんたちらしく低空飛行で追ってくる。漢臭い空気に露姫の哄笑が混じる中、古代は己の貞操を賭けて逃げた。身体中、ぬるってかになったまま――


●それを俺に言えというのか
 謎のローションがコートの裾から糸を引いている。何とか漢集団から逃げ切った古代の姿を、シェリアが隠し部屋から眺めていた。
「おじ様、さすがですの」
 どろどろくたくたな古代な姿へ向けた感嘆の声は何処か世間離れして聞こえる。続けた言葉が更に拍車を掛けた。
「まあ大変。クリーニングしませんと」
 そーれ、ぽちっとな。ですわ。
 いきなり降って来た水入り金盥が直撃した古代の悲鳴が屋上に木霊した――

 ぬるぬる、のち、びしょ濡れ。しかし彼は尚も前進を続けている。
 パネルで区切られた屋上はさながら迷路だ。少女たちは迷う事を想定してトラップを仕掛けているから当然行き止まりに行き着く事もある。
『こういう時は片手を壁に触れて‥‥目印も付けておくか』
「そっちは行き止まりだぜぇ?」
 一歩また一歩と天守閣へと近づいている古代の様子を隠し撮りカメラのモニタ越しに眺めていた露姫は、彼が向かっている先に気づいた。
 迷路に行き止まりは付き物、そして彼が向かっている行き止まりのトラップは――
「言えるもんなら言ってみな」
 くっくっ。露姫は人の悪い笑みを浮かべた。

   * * * * * * * * * *

 一方、古代は着実に迷路を攻略しつつあった。
 謎のローションを浴びたけれど。水が入った金盥が脳天を直撃したけれど。
「‥‥生き抜くと決めた男の根性、舐めるなよ」
 突貫アトラクションなのだからパネルを抜けば突破可能だなどと考えもしない、彼は実に誠実で――冷静な、大人の男であった。
 だから移動した果てが行き止まりでも、そこに謎の箱があっても、冷静に周囲を観察する余裕があった。
「何‥‥『答えは大きな声で叫ぼう!』?」
 箱が置かれた行き止まりの壁に書かれた文字を復唱し、彼は箱を見下ろした。左右の側面に丸い穴が開いている。あれだ、穴に両腕を突っ込んで触れた中身を当てるゲームだ。
 台座も箱の一部だとすれば、人ひとりくらいは入れそうな結構大きな箱だ。
(まさかここに、二人のどちらかが入ってはいないだろうな?)
 一瞬そんな事を考えて、いやいや猛獣やガチムチマッチョさんかもしれないと慄いたりもする。ともあれ、噛み付かれたり手を握られたりしたら即座に箱から手を抜こうと覚悟を決めて、古代は箱に両手を突っ込んだ。

 ――――ふに。

(何だ、柔らかいぞ‥‥それにほんのり暖かい)
 しっとりと吸い付くような手触り、微かに指先を刺激する弾力――それを例えるならば、赤ん坊の頬のような――いや待て?
 暫く触れている内に、古代は頬らしからぬ凹凸がある事に気がついた。
(これは‥‥)
 あれによく似ていた。彼は持ち得ない、もっと言えば女性に備わっている――あれ。

   * * * * * * * * * *

「気づいたな。さあ言え!」
 仕掛け人はにやにや。モニタ越しに挑発する露姫とは逆に、箱の中身を知らないシェリアは黙り込んだまま動かない古代の様子が心配でたまらない。
「おじ様、どうなさったのかしら‥‥」
 ゴールした古代に渡す大きな大きな包みを抱えて、おろおろと見守っている――

   * * * * * * * * * *

 全く人が悪い。俺が恥ずかしがるとでも思ったか。三十路半ばの、この俺が。
(ま、ちょっとは焦ったがな‥‥)
 だが俺は考えた。
 これを仕掛けたのは女だ。シェリアか露姫、おそらくは露姫だろうが――いずれにせよ、彼女らの実物では、ない。
「言うぞ? 聞いているんだろう?」
 古代は箱の穴に両手を突っ込んだまま、どこかから視ているだろう少女たちへ挑むように言った。
 俺はいい年した男だ。言葉に興奮する小学生や触感にうろたえる初心な青少年と一緒にされるのは心外だ。
 さあ、言うぞ。正解は――

「正解は‥‥おっぱい抱き枕だっ!!」

 古代の雄叫びに正解のファンファーレが重なって――行き止まりだったパネルに出口が現れた!


●特大の感謝を込めて
 迷路を抜けると、そこはカフェスペースになっていた。古代を迎えたのはクラシックスタイルのメイドたち。
「「ハッピーハロウィーン☆」」
 黒い軍服姿だった露姫とシェリアは、古代がへとへとになっている間に着替えを済ませていた。だからと言って古代用の着替えが用意されている訳ではないので、ぬるべちゃのコート姿のまま彼はテーブルへと案内される。
 難関突破しゴールへと辿り着いた勇士を労い、星空の下ささやかなお茶会の始まりだ。

 甘い香りが疲弊した古代の鼻腔をくすぐった。
「おじ様、いつもありがとうございますの。どうか受け取ってくださいな」
 シェリアが運んできた銀盆に載っているのは、一人では食べきれなさそうな特大パンプキンパイだ。
 片方を後手に、露姫が茶器を並べてゆく。
「いつもありがとな。まあ食え」
 ほんのちょっぴり照れた様子に見えるのは後手にしたポーズによるものか。実は背後に隠し撮りしたビデオカメラを持っているからなのだが、シンプルなメイド服と相まって何だかもじもじして見える。露姫の挙動が怪しまれない内に、シェリアがカップへ紅茶を注ぎ始めた。
「楽しんでいただけましたかしら? どうかこれからもよろしくお願いいたしますわね?」
 小首を傾げて言うシェリアに感謝以外の他意はない。えげつないアトラクションを仕掛けたとは思えない無垢な姿なのであった。

 和やかなときは小一時間ほど続いた。
「お招きありがとう。じゃ、明日までに片付け頑張ってな」
 やがて古代は立ち上がり、ぐちゃぐちゃになったコートのポケットに手を入れた。
 取り出した飴玉を二人の手に落とし、男は湿気った煙草を咥えて背を向ける。
「待てよ、俺ら二人に片付けさせる気かよ?」
「そりゃあ二人で準備したんだ、片付けも二人で頑張れるさ」
 黒光りするコートの片袖を上げ、古代は事も無げに言った。因果応報、そう言葉を残して男は悠々と立ち去ったのであった。

   * * * * * * * * * *

 ――ってのが事の一部始終だ。
 後片付け? 昼まで掛かった。普段人が来ない場所で助かったぜ。

 でもな、結構楽しかったなあ。
 また面白いもん仕込んでみっかな‥‥そん時は、お前も一緒にやってみるか?



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 jb3641 / 宗方 露姫 / 女 / 15 / お茶目な仕掛け人 】
【 jb1679 / 矢野 古代 / 男 / 35 / 招かれた紳士 】
【 jb3671 / シェリア・ロウ・ド・ロンド / 女 / 16 / 天然もののお嬢様 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 周利でございます。
 この度はご用命ありがとうございます。にも関わらず、ご依頼時にお手数をお掛けしてしまいました上に大幅にお待たせしてしまう結果となりまして、大変申し訳ありませんでした。

 とても楽しいプレイングで、あれこれ想像しつつ自由に書かせていただきました。どうか少しでも‥‥楽しんでいただけましたら、幸いでございます。
 垂れ幕の文言から往年のバラエティ番組を連想した流れで、露姫さんがレトロゲームをなさっている場面とか本当に好き勝手に書いてしまいまして‥‥イメージと違っていないか少々心配ではあるのですが、件の番組に倣って『参加してくれたすべての人々に、ありがとう』と結ばせていただきますね。
 重ねて、遅延お詫び申し上げると共に、最後まで書かせていただきありがとうございました。
魔法のハッピーノベル -
周利 芽乃香 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年07月10日

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