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『 一年で一番長い昼と――…… 』
郷田 英雄ja0378)&愛須・ヴィルヘルミーナja0506

「――海、行くか?」
 文章だけを見れば、酷くぶっきらぼうで、そっけない。そんな誘いの言葉で。
「……ん」
 対する反応も、肯定ではあったものの抑揚のない淡々とした声音だった。
 だけど。
「そうか。じゃあ行くか」
 誘いをかけた郷田 英雄(ja0378)の口元に、その剣呑さからは想像できない、柔らかな笑みが浮かぶ。
 俯き加減の愛須・ヴィルヘルミーナ(ja0506)の、その表情に乏しいクールな態度、言葉。そこにほんの少し含まれる、普段とは違う何か。
 その微かな差異を郷田ははっきりと認識して、確信を持って予定を確定させ。
 確信が覆されることはなく。再びの誘いの言葉に、愛須は今度ははっきりと頷いて応えた。

 6月。
 昼間がもっとも長くなる夏至の一日。
 郷田が愛須を海に誘ったその日は、雲ひとつない快晴の真夏日だった。

 郷田 英雄。
 可愛いは正義と宣う上限下限無しのバイセクシャル。
 ストライクゾーンが広いというよりアウトコースを探すほうが難しい様な男であるのだが。
 それにしたって192cmという長身の彼と114cmの小柄な愛須が並んで歩くのは、かなり内角低めぎりぎりの、当たるところに当たったら一発退場の危険球だと思うだろう。だが彼は今日この日のこの予定を堂々と『海デート』と称して憚らない。
 ……幸いというか、今日の海水浴場に彼らの姿をとがめようとするものはいなかった。郷田の風采に恐れを為したか、適当に兄弟か親戚だろうと脳内補完をしたのか。基本的には大事でなさそうならば関わらない、という住民の気質が、こういうときはありがたい。
 水着に着替えるために一旦別れた二人。早々と流行柄のトランクスに着替えた郷田が待つことしばし。
 愛須は、物陰から様子を伺うようにして顔を出すと、落ち着かない様子で姿を現した。
 愛須の水着は郷田が用意した白のスクール水着。ご丁寧に胸のところにはしっかりとゼッケンで「あいす」と書かれ、その文字は水着のその場所が内包するものの容積により引っ張られ歪に広がっていた。
 フィンランドの血が成せる業だろうか。愛須の胸は小学生の身体にはアンバランスなほどのボリュームを誇っていた。……それがまた、えもいわれぬ背徳感と、それによる魅力をかもし出している。一部の人間にはさぞかしたまらないことだろう。
「お。やっぱりよく似合ッてるな」
「……」
 郷田の、明らかにいつもよりテンションが高いと分る褒め言葉。
 しかし愛須の反応は鈍い。というか、どこか上の空だ。しきりに、何かを確かめるように腕や上半身を動かしている。
「あァ、ちゃんと収まってるぞ。心配するようなことにはならねェはずだ」
「……。……でも、郷ちん、きつい……」
 不安の内容を見透かすような郷田の言葉に、愛須は正直に不安な気持ちを吐き出した。要するに、その小学生というにはアンバランスな部分が、それゆえに収まりが悪い、と。
「んなはずァない。特注だからな。水着がジャストフィットしてたらそう感じるんだろ」
 本当だろうか? 自信満々に言われると愛須は自分の感覚の方に自信がなくなる。確かに己の身体にぴったりのサイズ、という経験は彼女にはあまりなかった。胸のサイズに合わせると、どうしても全体的に余裕を持たせざるを得なかったから。
 実際のところ、着替えてここまで歩いてみた感じでは、ずれるような気配はなかったが……。
 まあいい。多少の不安はあれど、あからさまに自分の姿に喜んでいる態度が目の前にあると、不平はついてでても無碍にするつもりにはなれない。
 ――それに何より、早く泳ぎたい。
「……わかった。行こ」
「ああ。穴場がある。こっちだ」
 愛須の言葉に郷田は満足げに頷くと、ごく自然に愛須の手を取って歩き始めた。



 郷田に案内された岩場は確かに穴場だった。
 人がいなければ人にぶつかる心配も、人目を恐れる必要もない。
 シュノーケルに水中ゴーグル、浮き輪と一通り用意してきた愛須はまさに水を得た魚のように、生き生きと海を堪能する。
 ……そうして郷田も、愛須の白の水着にうっすらと浮かび上がる肌色を、誰に惜しむこともなく全力で堪能することが出来た。
 郷田が見守る(?)中、愛須は海中を自在に動く。小柄な身体が波を掻き分けていく。かと思うと次の瞬間、鮮やかにターン。
「……上手いもんだな」
 ぷは、と、愛須が水面から顔を出した瞬間。郷田は、彼女の技術に惜しみなく賛辞を送っていた。気になる相手にはいくらでも世辞を惜しまない彼ではあるが、このときばかりは半ば以上、正直な気持ちだろう。
「ありがとう。これだけは得意だから」
 愛須のほうも自覚はあるらしい。いつも怯えがちな彼女からは珍しく、否定ではなく礼の言葉が先に出る。
 運動全般が苦手な彼女が、唯一得意なスポーツ。プールの授業だけは毎年楽しみだったから。
「そうか。それは結構だが……しかし、ここらでちょいと休憩だな」
 そう言って郷田は笑顔のまま愛須の手を引いて陸上へと導いた。レジャーシートまでエスコートして座らせる。「少し待ってろ」の言葉のあと、本当にさほど待たせることなく飲み物と軽食が愛須に差し出された。
「程よく休憩しないと持たないからな。……今日はまだまだ、長い」
「あ……うん。気をつける」
 夢中になって泳ぎすぎていたことを少し反省して、愛須が俯く。と、彼女の頭にぽんと、優しく手のひらが置かれた。
「俺が見ててやるから、お前さんは好きに遊べってことだよ」
 普段から愛須に対しては柔らかな声音で話す郷田だが、このときの声は飛び切り優しく聞こえた気がして。
 ――……好きにしていい。
 その言葉を反芻して、愛須は一度ぎゅっと己の身体を抱きしめる。
 いいんだろうか。大丈夫だろうか。
 無表情で、クールに見える彼女はしかし、本性は人見知りで怖がりだ。淡々とした話し方は、慌てないようにしゃべろうとしてそうなっている、というのがその真相。
 恥ずかしがりやで遠慮がちな彼女に、己の思うままに行動していい、というのは、嬉しい反面、戸惑いも大きい。
「でもその。郷ちんは、楽しんでる……?」
 親しい人にだけ見せるたどたどしい口調で、愛須は問う。遠慮から出た言葉だが、そう言えば郷田は先ほどから、愛須に随伴するのみのゆったりとした泳ぎしか見せていない。
「俺は焼ければいいんだ」
 おどけて答えながらしかし郷田はその実、どうみても焼けることよりも愛須の水着姿を凝視することに注力していた。
「……」
 遠慮のない視線に気が付いて、愛須はふい、と体ごと視線を背けて。逃げるついでというようにまた泳ぎ始めた。……結局彼に言われたとおり、思うままに、あるがままに。
 その様子に、郷田もふっと一つ、微笑を零してから、再び寄り添う様にゆっくりと泳ぎだす。
 ……時折、左の義手の様子を確かめながら。
 アウルを介して動かしているそれは、激しく泳ぐと外れる危険性がある。が、どうにか愛須にそのことに気を使わせずに遊ばせることには、成功しているようだ。

 小さな身体がしなやかに進む白い影が、揺らめく水面の下鮮やかに踊る。




 そうして、日が傾くまで存分に海を堪能した二人は、今度は温泉施設にいた。
 貸切の内風呂に、二人で一緒に入る。
「――ッ……」
 愛須に背中を流してもらっている郷田が、小さな呻きを漏らした。しっかり洗い落とせるように、と目いっぱい力を込めていた愛須の手が、一度止まる。
「……痛かった?」
「ああ。優しくな……」
 苦笑とともに返ってきた答えに、愛須がむう、と考え込む。
「そりゃ、多少の強さは必要だがな……力任せにやりゃいいってもんじャない」
 そう言って、今度は郷田が愛須を己の前に座らせる。そうして、丁寧にその背中をすすいでやる。
「特に今日は日焼けと潮もあるからな。力を入れてもあまりこすらない様に、だ。分るか?」
「……やってみる」
 答える愛須の声は心地よさに少しまどろんでいた。それでもふらりと立ち上がり、また郷田の背後へと回る。
「……こう?」
「ああ……いい……気持ちだ」
 そうして、再び郷田の身体を洗い始めると、今度は本当に、気持ち良さそうな声が返ってきた。
 互いにしっかりと汚れと潮の香りを洗い落とすと、ともに湯船に身体を沈める。
 ふぅ〜、と。二人同時に、長い息が自然と漏れた。余力を残したつもりでも、およそ半日を水中で過ごしたのだ。自覚以上の疲れが浮き上がってきて、だけどその疲労感がまた、とろん、とした感覚を生む。
「っと。まだ寝るなよ。このあと、もう少しだけ付き合ってくれ」
 そのまま湯船に沈みかねない愛須の様子に、郷田が引き上げるように彼女の腕を引いた。
 このままあとは布団に入るだけなら、もう少し浸かっていてもいいのだが。
 ……もう一つ郷田には、まだ愛須には明かしていない計画があるのだ。

 風呂上り。
 しっかりと用意されていた浴衣に、愛須は水着のときと同じように胸周りが足りない、と不平を零して。郷田もやはり、同じようにそんなことはない、と自信満々に返す。
「……どうして、そんなにはっきり言えるの」
「だからお前さんに合わせた特注だって。B92W53H61」
「……!!?? なんっ……でっ……!」
 はっきりと告げられたジャストのスリーサイズ。何故知っているのか。舌が回らないほどの混乱は、驚愕なのか怒りなのか照れなのか。言葉にならず立ち尽くす愛須を、にやにやと笑いながら手を引いて、郷田は有無を言わさず歩き出す。
 何処へ向かうのだろう。再び海岸の方向だろうか?
 そう言えばちらほらと、同じ方向へ向かう人たちの姿が見える。何か、集まりがある……?
「ああ、そうだ」
 ふと、郷田が立ち止まって愛須へと向き直る。
 何、と思う間もなくすっと、彼の無骨な指が愛須の前髪に触れる。
 彼女の、長く伸ばされた前髪。それが、さらりと掻き分けられて。
 ぱちんと、小さな音がした。
 視界が、急に明るくなる。
「こっちの方が似合ってるぞ」
 郷田の声に、はっと我に返って。慌てて音がしたあたり――己の、額の少し上あたりに触れる。
 髪留めの感触と――それにより、前髪が纏め上げられているのを理解する。
 ……他人の視線を避けるように。隠すよう伸ばしてきた、前髪が。
「――嫌か?」
 気が付けば、郷田の顔がすぐ前にあった。
 酷く。この場においては本当に、酷いという言葉がそのままの意味で的確なほどに優しい笑みを湛えた、郷田の顔が。
「……あんっ……まり、見ない……で」
 真っ直ぐ見つめてくる視線に、愛須はそう返すのが精一杯で。
「そいつァ酷な相談だ。そんだけ可愛い顔、見るなってのは無茶がある」
 郷田はといえば、いつもの軽い調子に戻ってそう言ってくるだけで。
 このまま何処に行くんだろう。人ごみに向かうのだろうか。思い出し、不安に俯き始めた愛須に。
 こっちだ。そう言って、郷田は突如、人の流れとは少し違う方向へと行き先を変えた。

 たどり着いたのは港のトラック置き場だった。
 梯子からルーフに登ると、郷田は海岸沿いの空を指し示す。
 風切り音と、炸裂。
 ……色とりどりの炎の花が、夜空に描かれる。
「わぁ……――」
 何も知らされていなかった愛須が驚きの声を上げる間にも、二度、三度。
 幾度となく、幾つもの花火が、夜空に次々と打ち上がる。
 呆然と見上げていたら、ふいに身体を引かれた。
「立って見るのは疲れるだろ」
 そのまま、胡坐をかいた郷田の上に座らせられる体勢になる。
 反射的に小さく身を震わせた彼女に。
「寒いなら抱いてやろうか」
 茶化すように彼は声をかけて。それなのに、何も答えられない彼女に、実際にはマントを羽織らせるだけで終わらせて。
 そんな風にじゃれあい続けながら、夏の夜に燃える花を二人、見上げ続けて――

「――……終わっちゃう」
 花火にも、ある程度の演目のパターンがある。
 打ち上げられる内容に、もうすぐ終わりが近いことを察して、ポツリと愛須が声を漏らした。
 終わる。
 花火大会が。
 今日という一日が。
 ずっと続くような錯覚があったのに、終わりを迎えるとどうしてこんなに早く感じるのか。

 ――……だって仕方がない。一年で一番長い昼のあとには、一年で一番短い夜が来るのだ。

「……楽しかったか?」
「……うん」
 問いに返した答えは。
 紛れもない、本当の気持ち。
 だからこそ……ああ、なんて、儚い時間なのだろう。
 だけど。
「そうか。じゃあ、また来ような」
 だけど彼はただ優しく、包み込むようにそんなことを言ってくるのだ。
 ……約束に、保障はない。だけど。
「…………うん」
 祈りのように。愛須はそう言葉を返した。


 夏至。暦は夏。
 だけどまだ、梅雨の合間のほんの気まぐれの晴れ間と夏日。

 本格的な夏が訪れるのは、まだこれから――


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja0378 / 郷田 英雄 / 男 / 20 / ナイトウォーカー】
【ja0506 / 愛須・ヴィルヘルミーナ / 女 / 6 / ディバインナイト】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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夏至ノベル、お待たせいたしました……!
お二人の幸せな一日を上手く書けていればいいのですが。
このたびはご発注ありがとうございました。

(リテイク追記)
このたびは設定をきちんと確認せず、お手数おかけして申し訳ありません。
また、お気遣いのある文大変ありがとうございます。
その他不満な点がございましたらなんでもお申し付けください。
FlowerPCパーティノベル -
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エリュシオン
2014年07月10日

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