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『雨降り☆ぱにっく 』
幸臼・小鳥(ga0067)

●警備は天候を問わず
 その日、頭上に広がる空はどんよりとした雲に覆われていた。だいぶ黒みがかった灰色の雲、いつ降り出してきてもおかしくない空模様であることは一目瞭然。こんな日は、出来れば屋内に居るに限るのだが――そうもいかない者も居る訳で。
「困ったお天気ですねぇ……」
 足を止め、空に目を向けた幸臼・小鳥は、溜息とともにそんなつぶやきを吐き出した。背丈がとても低く、外見は幼い女の子のように見える小鳥。傍から見れば、単にワンピース姿の女の子が曇り空であることを残念がっている絵面であろう。
 だがしかし、このシチュエーションを正しく説明するのであれば、町の警備中である実年齢20代女性がこの日の天気を嘆いている、というのが本当の所だ。例え外見でそう見えなくとも、だ。
 では何の警備中なのか? それは野良キメラに対する警備だ。小鳥が今来ている町で、野良キメラの目撃情報が出てきたのだ。幸いまだ被害報告はないのだが、放置しておいてはどうなるか分かったものではない。そこで小鳥がやってきて、こうして警備を行っているのである。警備に天候など関係なかった。
「今日は……」
 小鳥はぐるりと周囲を見渡してみた。見えるのは町の風景と、相変わらずのどんよりとした雲。キメラのキの字も見えやしない。
「……キメラ出て……きませんねぇ……」
 警備していることをキメラに勘付かれないように、わざわざワンピース姿で町民に紛れて町を警備していたのだが、この分では今日は空振りに終わってしまいそうだ。
 と――突然、小鳥の眉間の辺りに1滴の水が落ちてきた。感覚からして、そこそこ大きめの粒。そう、いよいよ雨が降り出したのだ。
「はわわ!? いきなり……雨ですぅ!?」
 慌てて両手で頭を覆う小鳥に、容赦なく降り注ぐ雨粒。地面の濡れ方は点から瞬く間に面に、さらに水たまりへと変わっていく。まさしく土砂降りというやつである。
「うぅ……びしょ濡れですよぉ……」
 当然、雨具を持っていなかった小鳥は、頭の先から爪先までずぶ濡れになってしまった。濡れて中のキャミソールがはっきり分かるほどに透けてしまったワンピースは、肌へとぺっとりくっついてしまい、気持ち悪い感覚を小鳥に与えていた。
 こうなってしまっては、とにかく雨宿り出来そうな所へ駆け込むしかない。小鳥は頭の中に周辺の地図を思い浮かべると、近くにあった小屋を目指して土砂降りの中を駆け出していった。

●雨宿り
 駆け込んだ小屋は幸い鍵が開いており、小鳥は軒先で立ち往生することなく中へ入ることが出来た。小屋の中には木の箱がいくつか積まれて散乱しているだけで、人の姿はなかった。鍵が開いていたことからすると何かの作業途中であったのかもしれないが、現在中に小鳥以外誰も居ない以上はそれを知る術はない。
「はぅ……とにかく、濡れたのを……乾かさないとですぅ」
 そう言うが早いか、濡れた衣服を脱ぎ始める小鳥。このまま濡れた物を身につけていては体温が奪われてしまう。そして何より、衣服が濡れたままでは動きにくい。この状態で野良キメラと出くわしてしまったなら、満足に動けない可能性も高い。だったら少しでも早く、衣服の状態を回復させねばなるまい。
「……誰も居なくてぇ……よかったですよぉ……」
 小鳥は脱ぎ終えた濡れたワンピースやキャミソールを、積んである木の箱に順次引っ掛けていった。誰か居たならこんなことも出来やしない。小鳥は小屋が無人であったことに強く感謝をした。
「早く……乾かないですかねぇ……」
 近くの木の箱に腰を降ろし、小鳥は窓から外の様子を眺める。バケツを引っくり返したかのような雨は、衰える様子を見せない。この分では雨が上がるまでしばらくかかりそうだ。ともかく、今はただ待つしかなかった。

●そして、悲鳴は響き渡る
 さて、どのくらい待っただろうか。窓の外、空に広がる雲の色味に白い物が混じり始め、土砂降りだった雨は次第に弱まってきた。今なら雨具なしに外へ出ても、雨に打たれはするものの、即座にずぶ濡れになるようなことはなさそうに見えた。
「あ。雨……少し弱くなって……」
 木の箱から立ち上がり、窓に顔をくっつけるようにして外の様子を眺める小鳥。その表情に少し笑みが浮かんだ――その時である。眺めていた外から、悲鳴が聞こえてきたのは。
「ひゃ!? ひ、悲鳴……ですぅ!?」
 すぐさま窓を開け、小鳥は身を乗り出して外の様子を窺うが、あいにくここから見える範囲では何かが起こっているような様子は見られない。が、またしても悲鳴は聞こえてきた。今度は、助けを求める叫びとともに。
「ま、まさか……キメラですかぁ!」
 その可能性は非常に高かった。小鳥は拳銃を引っつかむと、小屋の中からまだ雨降る外へと飛び出していった。
「……聞こえたのはぁ……!」
 どちらの方角から悲鳴が聞こえてきたのかを思い返し、そちらへと駆けて行く小鳥。それが正しいことを裏付けるように、次に聞こえてきた悲鳴は先程よりも明らかに近く大きくなっていた。
「発見……ですぅ!」
 そして小鳥の視界に飛び込んできたのは、野良キメラに追い立てられ襲われそうになっている町民たちの姿。それまで差していたであろう傘は、逃げるのに邪魔だからか道端に放り出されていたり、持っていたとしても逃げるのに精一杯で強風の時みたく布の部分がひっくり返って壊れていたりと、散々な状態になってしまっていた。
 拳銃を構え、野良キメラへと撃ち放つ小鳥。まずは野良キメラのターゲットを逃げ惑う町民から引き離し、自分へと引きつけなければならない。その目論見は上手くいき、野良キメラは小鳥の方へと進路を変えた。こうなればしめたもの、追ってくる野良キメラから距離を取りつつ、繰り返し拳銃での攻撃を行うだけである。
 結局の所、強力な個体ではなかったようで、何度か攻撃を繰り返すうちに無事撃破することに成功した。野良キメラの撃破を確認すると、小鳥はふぅ……と大きく息を吐き出した。
「やれやれ……ですねぇ……」
 安堵の表情を浮かべる小鳥の所へ、町民たちがやってきて感謝の言葉を述べようとした。いや……したのだが、言葉を発する前に、何故か一様に表情が硬直してしまっている。そして、その視線は全て小鳥へと注がれていた。
「ふぇ?」
 町民たちの妙な様子に小鳥も気付かぬはずがない。もしや先程まで使っていた拳銃に、何か異状でも発生してしまっているのだろうか?
「何か変で……」
 小鳥は拳銃に視線を向けかけ――そこで、はたと気付いた。現在の自分の身体は、非常に肌の露出が多くなってしまっているということに。
「……はわ!?」
 そういえば小屋で濡れたワンピースやキャミソールを乾かしていたが、それを着ることなく拳銃だけ持って飛び出してきていた。つまり、あられもない姿だということだ。下こそ1枚履いていたものの、雨降る中を走り回っていたのだから、それも濡れて張り付き透けてしまっている訳で……。
「はわわわわっ!? みっ、み、みっ……見ないでっ……くださぁぃ!? ひゃぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
 パニックになった小鳥は顔を真っ赤にし、悲鳴とともに頭を抱えてその場にしゃがみ込んでしまった――。

【おしまい】
■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
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CATCH THE SKY 地球SOS
2014年07月10日

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