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『脱出者たち(1) 』
工藤・勇太1122)&ルージュ・紅蓮(8700)&(登場しない)


 教会。いや、大聖堂とも呼ぶべき荘厳さである。
 高い天井を支える無数の石柱には、天使や聖人の像が彫り込まれている。
 そんな聖堂の広い回廊を、工藤勇太は1人とぼとぼと歩いていた。
「え……っと、ここって夢の中?」
 自分の頬を、思いきり摘んで引っ張ってみる。
 布団の中で目を覚ます、というような事もなく勇太は今、石造りの天使たち聖人たちに見下ろされながら歩いている。
「俺……何で、こんな所に……」
 気が付いたらこんな所にいた、としか言いようがない。
 いろいろあったが、普通の高校生になった。
 勇太自身はそのつもりだったが、おかしな目に遭い続けるのは相変わらずである。
 頭を掻くしかなかった。
「誰かに、さらわれて来た……って事?」
 虚無の境界の関係者に付け狙われた事なら、何度もある。
 今回は違うだろう。特に根拠はないが、あの組織の気配は感じない。
 虚無の境界よりも得体の知れぬ、何者かだ。
「そいつらが俺を……誘拐?」
 勇太は見回し、大声を出した。
「言っとくけど、俺んちは貧乏なんだ。身代金なんて払えないぞー」
 まるで、その言葉に反応したかの如く。
 天使の像が、聖人の像が、動き出した。
「…………え?」
 呆然としている勇太の視界内で、石造りの聖人たちが柱から分離し、重々しく着地してゆく。そして杖を振り立て、殴りかかって来る。
 天使像たちが、翼をはためかせて飛び回る。そして牙を剥き、空中から食らい付いて来る。
 聖人たちも天使たちも、石像ではなくなっていた。おぞましい生身の怪物と化し、様々な方向から勇太を襲う。
「なっ何だ、怒ったって駄目だぞ! 払えないものは払えないんだよっ!」
 悲鳴のような怒声のような叫びに合わせ、勇太の両眼が激しく輝いた。エメラルドグリーンの眼光が、迸った。
「俺の叔父さん、そんな稼いでるわけじゃないんだから!」
 眼光と共に、見えざる力が迸っていた。破壊をもたらす、念動力の嵐。
 怪物たちが、砕け散った。
 石か有機物か判然としない、その残骸を踏み越えて、ゆっくりと歩み寄って来る巨大なものがいる。
 いや。巨大に見えるのは、大きな十字架を担いでいるからだ。
 骸骨であった。
 一揃いの人骨が、巨大な十字架を肩に担ぎ、歩いてるのだ。頭蓋骨には、茨の冠が巻き付けられている。
 そんなものが、足取りも重々しく、勇太に歩み寄って来る。
 通り過ぎようとしているのではなく明らかに、勇太へと向かって来ていた。勇太を、狙っている。
「身代金目当てじゃないって事か……何が目当てなのか訊いてみたいとこだけど、話なんか通じそうにないなっ!」
 攻撃の念を、勇太は言葉に込めた。
 両眼が緑色に燃え上がり、念動力の嵐が発生して吹き荒れる。そして骸骨を直撃する。
 何も、起こらなかった。
 無傷の骸骨が、十字架を担ぎながら、変わらぬ足取りで勇太に迫る。
「効かない……? そんな!?」
 もう1度、勇太は念動力の嵐を吹かせた。これで、複数の人間の命を奪った事もある。
 だが、迫り来る骸骨を粉砕する事は出来なかった。亀裂骨折の1つも、負わせる事は出来なかった。
「嘘だろ……」
 などと呻いている場合でもなく、勇太は背を向け、走り出していた。
 走れば、逃げられる。重い十字架を担いで歩いている骸骨が、追い付いて来られるはずがない。
 そう思いつつ勇太は走り、ちらりと顔だけを振り向かせた。
 肩に十字架を担ぎ、頭に茨を巻き、世界的に有名な聖人の真似をしながら、骸骨は相変わらず歩いている。ゆっくりと、重々しい足取りで。
 なのに、走る勇太との間の距離が、一向に開かない。むしろ少しずつ縮まりつつある。
「な、何だよ……どうなってるんだよ……!」
 ゆっくりと追い付きつつある骸骨から、勇太はひたすら逃げ続けた。
 日頃は忌み嫌っている、それでも有事には頼らざるを得ない力が、通用しない。こんな敵もいる。
(この力……万能、ってわけじゃあないんだな……)
 走りながら勇太は、安堵に近いものを感じていたが無論、そんな場合ではなかった。


 何者かに拉致された、としか思えない状況である。
 気が付いたら、こんな所にいた。
 ルージュ・紅蓮は、きょろきょろと周囲を見回した。
 大聖堂、らしき建物の中。天使あるいは聖人の石像が、あちこちで威圧的に佇んでいる。
 石像に擬態した怪物たちである事は、ルージュにしてみれば一目瞭然だ。
「ルージュってば、誘拐されちゃったのかなあ?」
 姿を見せぬ誘拐犯に、問いかけてみる。
「ルージュ、パパもママもいないから身代金なんて取れないよー? それとも、ようじょをゆうかいしてかんきんしてアレしてコレして、すなっふむーびーでも撮るつもりかなあ? まあ高く売れるとは思うけどぉ」
 当然、答えなど帰っては来ない。
 その代わり、なのであろうか。怪物たちが擬態を止め、ぞろぞろと動き始めていた。
 杖で撲殺の構えを取る、聖人たち。凶暴に牙を剥く天使たち。
 そんな光景には目もくれずルージュは、奇妙なものを発見していた。
 壁に、セフィロトの樹が描かれている。10個の円形を果実のように生らせた、神秘の樹木。
 それら円形が、ボタンの如く押し込めるようになっていた。
「わあ、思わせぶり……こういうのって下手にいじると、床に穴空いたり天井落っこちて来たり、どっかで何か爆発したりするのよねえ」
 円形の1つを、ルージュは押してみた。何も起こらなかった。
 他の円形をいくつか、続けて押してみる。やはり何事も起こらない。
「何にもないじゃないのよぉ……ルージュ、つまんなーい」
 柔らかな頬をぷーっと膨らませながらルージュは、全ての円形を、苛立ちにまかせて片っ端から押し込んだ。
 何も起こらない、代わりのように怪物たちが襲いかかって来る。
 ルージュは振り返り、彼らを睨み据えた。真紅の瞳が、激しく燃え上がった。
「つまんない、上にウッザい!」
 可憐な唇から、怒声が迸る。
 炎が生じ、轟音を立てて渦巻いた。
 紅蓮の嵐が、怪物たちを灼き砕く。天使も聖人も一緒くたに焦げ崩れて灰と化し、さらさらと散った。
「いけない、いけない……ルージュってば、1人でゲームやってても割とすぐキレちゃったりするのよねえ」
 可愛らしい舌を出しながらルージュは、自分の頭をコツンと叩いてみせた。
「もっとクソゲースレの人たちみたいな広い心を持たなきゃね……あら」
 足元に、柔らかなものが当たって来た。
 1匹の、黒猫だった。
 周辺の調査のために放っておいた、使い魔の1体である。
 青く煌めく小さなものを、黒猫は口にくわえていた。
 宝石、のようである。聖堂の、どこで拾って来たものか。
「また思わせぶりなアイテムねえ……出来の悪いロープレみたい」
 ルージュの小さな手が、猫の口から宝石を受け取った、その時。
 壁が砕け散り、爆風が吹き込んできた。


 走っている最中、足元の感覚がなくなった。
 回廊に、落とし穴が開いていた。
 悲鳴を引きずりながら、勇太は落下して行く。
 水飛沫が散った。巨大な水柱が、生じていた。
「ぶはっ……!」
 いくらか水を飲んでしまいながらも、勇太は水面に顔を出した。底に、辛うじて足が届く。
 溜め池、であろうか。人工の水場である。
 水の中から、勇太は見上げた。
 天井に開いていた落とし穴が、自動的に閉じてゆく。
 再び開いて、あの十字架を担いだ骸骨が降って来る……様子はない。
「助かった……のかな」
 やけに都合良く、落とし穴が開いてくれたものだった。まるで誰かが、仕掛けを操作したかのように。
 そんな事を思いつつ勇太は、半ば泳ぐようにして水中を歩いた。そう遠くないところに、石の岸辺がある。
 が、そこに辿り着く事は出来なかった。
 水が突然、激しく渦を巻き始めたからだ。まるで巨大な洗濯機のように。
 落とし穴に続いて、何かの仕掛けが発動したようである。
「なっ何だ、何だよ一体うわあああああああああああ!」
 大量の水もろとも、勇太は流されていた。
 その水がどうやら、せき止められたようである。大量の水飛沫と一緒に、勇太の身体は跳ね上がり、打ち上げられていた。
 水浸しになった石の床の上で、勇太はよろよろと身を起こした。
「いてててて……こ、これは一体……」
 全身を強打したが、痛みに呻いている暇はない。
 天井が、落ちて来たからだ。
 またしても、罠の仕掛けである。
 勇太は跳躍し、床にぶつかり、そのまま転がった。
 直前まで勇太の身体があった地点に、吊り天井が落下した。
 床と激突した吊り天井が、そのまま爆発した。火薬か何かが仕掛けられていたようである。
 まるで何者かが、この聖堂に仕掛けられた罠全体を操作しているかのようだ。いや操作していると言うより、めちゃくちゃに動かしている。ボタンやレバーの類を、考え無しに押したり引いたりしている感じだ。
「だ、誰かが……俺を、殺そうとしている……」
 呻きながら勇太は爆風に飛ばされ、石壁に激突した。
 その石壁が、砕け散った。
「あ……勇太お兄ちゃん!」
 嬉しそうな声が聞こえた。聞き覚えのある、女の子の声。
 倒れた勇太の顔を、赤い瞳が覗き込んでいる。
 小さな身体を、巫女装束のような女学生のような衣装に包んだ少女。
「あれ……ええと」
 よろよろと上体を起こしながら、勇太は名を思い出した。
「ルージュ……さん、だっけ?」
「約束!」
 立ち上がれない勇太の身体に、ルージュ・紅蓮が仔犬のように飛びついて来る。
「スイーツ! おごってくれる約束だよお」
「ああ……ここ、出られたらね」
 抱きついて来る少女を、控え目に抱き止めながら、勇太は見回した。
 相も変わらず、謎めいた大聖堂の中である。
 かなり痛い目に遭ったはずだが、このおかしな悪夢が覚めてくれない。
「知ってる人に会えて良かったよ。まずは情報交換……ってほどの情報は、俺にはないんだけど。ここが一体どこなのか、魔法関係の人なら少しはわかるかな」
「えっとねえ、ゲームの中だと思う」
 ルージュが無邪気に、嬉しそうにしている。
「誰かがねえ、ルージュたちを使ってゲームをしてるの! 勇太お兄ちゃんは、主人公の勇者の役だね。ルージュを助けに来てくれたんでしょ?」
「そう、出来ればいいんだけどな……」
「出来るよ」
 言いながらルージュが、何かを手渡して来る。
 小さな、青い宝石だった。
「ダンジョンから脱出するには、中ボスを倒す事。お約束だよ?」
「中ボスって……」
 それが何者であるのかは、すぐ明らかになった。
 何者かが、重々しく足音を響かせ、歩み寄って来る。
 巨大な十字架を担いだ骸骨。勇太の力が一切、通用しない敵。
「特殊なアイテムがないと倒せない敵。これもお約束だよ」
「特殊な、アイテム……」
 手の中にある青い宝石を、勇太は見つめた。
 青い輝きが、増してゆく。己の力を、勇太は宝石に注入していた。
 燃えるように光り輝き、まるで青い火の玉のようになった宝石を、勇太は思いきり投げつけていた。
 光の塊となった青い宝石が、骸骨に命中する。
 十字架が、茨の冠が、骸骨が、砕け散った。
 青い光が激しく拡散し、勇太とルージュを包み込んでいた。


 はっ、と勇太は顔を上げた。
 そこは、学校近くの公園だった。ベンチの上で目を覚まし、身を起こしたところである。
「夢……だった、わけじゃないよな」
「ゲームをしてただけだよ。ルージュと一緒にね」
 ルージュ・紅蓮が、隣のベンチにちょこんと座っている。
「勇太お兄ちゃんと、ルージュ……他にも、いると思う」
「他にも、って……」
 あの聖堂に送り込まれ、自分たちと同じような目に遭っている人々がいる。ルージュは、そう言っているのか。
「助けに、行かなきゃ……!」
「大丈夫、自力で脱出出来るような人たちばっかりだから」
 ルージュの可憐な容貌が、にっこりと歪んだ。可愛らしく、禍々しく。
「面白い事、考える人たちがいるねえ。ルージュたちを、ゲームの駒にしようなんて……身の程知らずのバカどもは、滅べばいいのに……って言うか、ルージュ滅ぼしちゃうもーん」
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
小湊拓也 クリエイターズルームへ
東京怪談
2014年07月14日

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