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『Afterglow 』
クレイグ・ジョンソン8746)&フェイト・−(8636)&(登場しない)


「クレイ、次はあれ行こう!」
 ぐいぐいとクレイグの腕を引っ張りながらそう言うのは、フェイトだった。
 まるで子供に帰ったかのような笑顔だ。
 クレイグはそんなフェイトの勢いに完全に飲まれる形になりながら、彼の後を追った。
 童話の世界の城と、色とりどりの風船と、様々なキャラクターに扮したスタッフと客である『ゲスト』が行き交う場所。
 アナハイムに存在する世界的に有名なテーマパークは、とても賑やかであった。
 『そんなに子供じゃない』と前日に言っていたフェイトであったが、今はとても楽しそうだ。
 絶叫系のアトラクションが面白いのか、次から次へと試したがるフェイトにクレイグは半ば連れ回されている状態であったが、それでも彼は彼なりに楽しんでいるようでもあった。
「はい、風船どうぞ〜」
「お、さんきゅ」
 妖精の姿に扮した女性スタッフから、風船を二つ手渡された。
 先にフェイトが進んでいるはずだったが、何故かクレイグが受け取ってしまい表情は苦笑いである。
「ユウタ」
 引かれるままの手を、一度強く握り返して名前を呼ぶ。彼が足を止めるのを確認してから、クレイグは風船ごとフェイトを自分の腕の中に招き寄せる。
「ク、クレイ、ちょっと」
「――風船貰ったんだよ。後、少し補充させろ」
「補充って……」
 風船が口実になっているのかは分からないが、クレイグはフェイトを抱き込んだままでそう言った。
 腕の中のフェイトはもちろん照れていて、何とか抜けだそうともがいている。
 そんなフェイトをよそに、クレイグは彼の黒髪に頬を寄せて満足そうに表情を緩めていた。
「……はぁ、ユウタって気持ちいいなぁ」
「それ、変態っぽく聞こえるよ……」
 ぽそり、と独り言に近い言葉を耳元で受け止めて、フェイトがそう返す。
 だがクレイグは訂正などもせずに、ひたすらそのままであった。
 遠くで子供たちのはしゃぐ声が聴こえる。
「楽しそうだなぁ……」
 風船を手にしながら駆けていく小さな子供を見やりながら、クレイグが感慨深そうにそう言った。
「クレイは楽しくないの?」
「俺はユウタが楽しけりゃそれでいい」
 フェイトが思わずの質問を投げかければ、彼は小さく笑ってそんな返事をくれる。もちろん、彼自身も楽しんでいないわけではない。だが今は、フェイトを腕の中に収めて彼のぬくもりをじっくり味わっている方が幸せそうであった。
「――さて、次はどっちだっけ?」
「あ、えっと、あれ行きたい」
「ん、了解。ほら、風船はお前が持て」
 くしゃりとフェイトの髪の毛を一度指で掻き集めて、それから静かに梳くという行動をしてから、クレイグは自ら体を離してそう言った。フェイトの指をさす方向へと目をやり返事をして自分の片手に収まっていた風船を二つ共フェイトに手渡して歩みを再開させる。
「これ、一つはクレイのなんじゃないの?」
「俺が持ってるより、お前が持ってるほうが絵になっていいだろ」
 黄色と青の風船がゆらりと宙を揺れる。
 二つとも手渡されたフェイトは若干不満そうな色合いの言葉を発したが、クレイグはさらりと流すだけであった。
「…………」
 何となく、子供扱いされたかのような気分になった。
 だがそれでも、風船は嫌いではない。だったらいっそ、今日だけは本能のままに楽しんでしまってもいいのかもしれない。
「あっ結構並んでる。クレイ、早く!」
「お、おい。待てって」
 フェイトはそう言って、再びクレイグの腕を掴んで走りだした。
 それを予想していなかったクレイグは若干慌てた表情で地を蹴る。
 そして二人はさらに各アトラクションを満喫するために人混みの中に紛れ込んでいくのだった。



 西の空がオレンジ色に染まりつつある。
 気づけばもう夕刻であった。
「……クレイ、大丈夫?」
「ん、ああ。大丈夫だ」
「なんか、ごめん……」
「謝るなって」
 ひと通り遊んだ後、気がつけば珍しくクレイグがダウン気味になっていた。
 そこでフェイトが思い出した事は、彼は養生期間であったということだった。身体の赤みもまだ引いてない状態である。
 広い芝生で腰を下ろした途端、クレイグが先に寝転がってしまった。
 どうしたのかと訊ねれば、「少しだけ酔った」と短い返事があるのみで、冷たいミネラルウオーターのボトルを額に当てて一息ついた所で先ほどの会話が交わされたのだ。
「暗い顔すんなって。逆に悪ぃな、俺もこんなつもりじゃなかったんだけどな」
 ゆらりと伸ばされる腕。指先が心配そうな表情のままのフェイトの頬に触れて、ゆっくりとそれを撫でる。
「ほんと、ごめん。羽目外しすぎたよ……小さい頃、こういう場所で遊んだことなかったから……」
「じゃあ、その分を今日埋めたって思っておけ。それから、羽目外した話なら昨日の俺だってそうだっただろ。だからお相子でいいじゃねぇか」
「……うん……」
 いつもと変わらないクレイグの優しい言葉。
 それを受け入れて、フェイトは彼の隣に自分の体もごろりと寝かせてから返事をした。
「久しぶりにこれでもかってくらい、遊んだなぁ……」
 クレイグが天を見上げながらそう言う。
 静かに広がっていくオレンジ色の中、遠くを飛んで行く一羽の鳥に気がついて、そちらに視線を移してゆっくりと追う。
 ざわ、と風が草木を鳴らした。
「あっという間だったね」
「そうだなぁ」
 互いに空を見上げつつの言葉が繋がった。
 フェイトは昨日のホテルの事を思い出して、ふぅ、と改めてのため息を零す。
「あんな豪華なホテル、初めてだったよ。夕食も凄かったね」
「俺もだよ。まさに豪遊ってやつだったな」
「ゴンドラは、ちょっと恥ずかしかったけど」
「面白かっただろ? あそこだけヴェネツィアって感じでさ」
 昨日は夕食の後にホテル自慢のゴンドラに乗った。広い中庭に作られた水路を巡るコースだったために、各部屋の窓から珍しそうに覗く客も多く、フェイトはそれが恥ずかしかったようだ。
 対してクレイグは楽しかったのか、そのような表情をしている。
「バスルームも広すぎて落ち着かなかったよ。なんか、金箔みたいなのお風呂に浮いてたよね」
「ああ、あれ凄かったよな。女性用には花が浮くんだってさ」
「そうなんだ」
 ぽつぽつ、と昨日のことを思い出しながら会話を続ける。そして一つのベッドに二人で寝たことまでを思い出して、フェイトは一気に頬を染めた。
「ユウタ?」
 思わず両手で顔を覆ってしまったフェイトに対して、クレイグが僅かに身を起こして様子を窺ってくる。
 彼は昨夜『何もしない』と前もって言ってくれた。そしてきちんとそれは守られた。
 ――なのだが。
「……キスが交換条件だなんて、ズルいよクレイ……」
「あー、寝る前のことか。なんだよ、今までだって一緒のベッドで寝てたりしてただろ?」
「だったら、普通に寝るだけで良かったじゃないか……。あんな風にキスされたら、意識するなって言う方が無理だよ」
 フェイトは両手で表情を隠したままだった。クレイグと目を合わせられないのだろう。
 どうやら昨夜は何かしらの条件を交わしてから寝たようだが、 羞恥心が全面に出ているようでフェイトの顔は真っ赤であった。
 クレイグはそれを見て小さく笑いながら、フェイトの傍に寄り身を屈めた。
「――ごめん、あれでも俺にとっては最低限だったんだよ。それに昨日はさ、お前が言葉をくれた日だったしな」
「もう……さらっと言わないでよ」
 耳元にそっと落ちる声。
 楽しそうな声音だと思った。
 それが何故か悔しくなってフェイトが両手を開放すれば、その先にはクレイグの青い瞳がある。
 改めてその色を見て、フェイトはドキリと心臓を跳ねさせた。
 直後、前髪が触れたかと思った矢先に唇が一瞬だけ触れ合って、すぐに離れていく。
「クレイ……っ」
「お前が可愛い顔するからだろ」
 片手でまた顔を覆って、今度は空いている左手でクレイグの肩を軽く叩く。
 その仕草がまた可愛くて、クレイグは堪えるようにして笑っていた。
 ざざ、と風が吹き抜ける。
 それは二人の近い距離にも入り込んで、するりと頬を撫でて上空へと登っていく。
 フェイトもクレイグも、それに釣られるようにして天を見上げた。
「……帰ったらまた、任務詰めだね」
「そうだな」
 少しの間を置いて、そんな言葉が交わされた。
 旅行を終えて帰れば、現実が戻ってくる。いつも通りにスーツを着て武器を持ち、任務をこなす。張り詰めた緊張感の向こうにあるのものは――。
「……っ」
 ビクリ、とフェイトの肩が震えた。
 クレイグがそれに気づいて視線を動かす。
「どうした?」
「……ごめん。ちょっと、こないだの任務のこと思い出しちゃって」
 虚無の施設への潜入捜査と、対峙と、力の暴走。
 どうしようもない感情と記憶が、ふつふつと湧き上がってくる。
 いつかまた――あの時にように暴走してしまったら……。
「ユウタ」
 フェイトの思考を遮るかのように、クレイグの腕が伸びてきた。
 そして横たわったままであるが彼はフェイトを抱き込んで、名前を呼ぶ。
「ユウタ、大丈夫だ。俺がいるだろ?」
「……クレイ……」
 じわりと彼の声が沁み渡る。
 それを受け止めて、顔を上げた。
「何があっても、俺が受け止めてやる。絶対に、だ。だから大丈夫だよ」
 クレイグの言葉は、力強かった。それでいていつものように優しく響くそれに、フェイトの表情も和らいでいく。
 そして彼の腕の中で、ゆっくりと深呼吸をした。
「クレイは何かと、ズルいなぁ……」
「そうか? 自分に正直なだけだけどな」
 フェイトのその言葉は、半分以上は照れ隠しであった。クレイグはそれに気づいているようであったが、それでも彼らしい返事をする。
「俺にとって、ユウタは何よりの存在だ。だからこれからも同じようにお前を守らせてくれ」
「うん。……俺も、守られてばかりじゃいられないけどね。でも、前にも言ったけど、クレイはクレイの思うように、やりたいようにしてくれたらそれでいいから」
 ――自分の、傍で。
 フェイトはゆっくりと静かに言葉を繋げた。最後の言葉は自分の心の中でだけになったが、それでもクレイグには伝わっているだろう。
 想い合っているからこそ。

 一泊置いた後、わぁ、と周囲で歓声が上がった。
 それに釣られて同時に身体を起こした二人は、次の瞬間に頭上で光ったものを見上げてそれぞれに驚きの声を漏らす。
 いつの間にかオレンジの空は藍色に染まり、テーマパークでは一日の終わりを飾るための花火が上がっていた。
 夜空に開く花は、鮮やかで綺麗だった。日本のように大きな花火ではないが、その分数が多いような気がする。
 それに見とれていると、とん、とクレイグの肩に当たるものがあった。横目で確認すれば視界にフェイトの黒髪が飛び込んでくる。彼が自分の頭を預けてきたのだ。表情を見やれば視線は明後日の方向にあり、頬はまた赤くなっていた。
 まいった、と心で零しながら、クレイグはフェイトの体を抱き寄せる。
「……ユウタ」
「ちょっと、クレイ」
「お前が悪い」
 名を呼んで、直後。
 フェイトは少しだけの不満の言葉を漏らしたが、クレイグはそれを無視する形で彼にキスをしたのだった。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
涼月青 クリエイターズルームへ
東京怪談
2014年07月22日

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