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『暴走者たち 』
青霧・ノゾミ8553)&道元・ガンジ(8756)&(登場しない)


 ノゾミは優秀だけど、他人と連携して戦う、という事をそろそろ覚えた方がいいな。
 先生がそう言ったので、青霧ノゾミは渋々ながら、この2名と行動を共にしている。
「みちを、おまちがえ、では、ありませんか」
 たどたどしい発音を、呪文のようにぶつぶつと繰り返しながら歩いているのは、大男である。岩山のような筋肉を、ガードマンの制服に押し込んでいる。
 頭蓋骨の形がよくわかるスキンヘッド、岩に目鼻口を彫り込んだかのような厳つい顔つき。これで角があれば、鬼である。
 ノゾミと同じくホムンクルスだが、開発者が、人間に似せる努力を最初から放棄していたとした思えない。
「みちを、おまち、まちがえ、ちがちがちがえ」
「うるせえぞ、脳ミソ未完成の出来損ないがあ!」
 もう1人が、大男の頑強な脚に蹴りを入れた。
 金髪の、若い男。こちらは、かなり人間に近い出来ではある。
「B8研のド底辺野郎がよぉ、A1研のエリートである俺をムカつかせて何のメリットがあるってんだ!? てめえらザコども、研究室ごと焼き払ってやってもいいんだぜ? わかってんのかゴミが!」
「で、でも……だれかきたら、こうゆうふうに、いえって……めいれい、されてる……れんしゅう、しないと、うまくいえない」
「ゴリラがよぉ、人間の言葉ぁ練習したって喋れるワケねーだろおがあああああ!」
 金髪男が、もう1発、蹴りを入れた。大男はしかし、痛みを感じていないようである。
「ったくエリートの俺がよぉ、こんな失敗作どもと共同作戦たぁな……おいゴミども、戦いは俺がメインでやってやるけどよぉ、最低限のフォローくれえは出来んだろうな!?」
「不安なら帰ればいい。誰も、止めはしないよ」
 ノゾミは、ようやく言葉を発した。
「こんな仕事は、ボク1人で充分……少なくとも、あなたは要らない」
 金髪男がギロリと、殺意そのものの眼光を向けてくる。
「何か、聞こえたなぁ……お人形ちゃんが、何か喋った?」
「あなたの方がずっと、うるさい。そう言ったんだけど」
 むきになって睨むほどの相手ではない。ノゾミは、ただ見つめ返した。
 青い瞳が冷ややかに、金髪男の怒りの形相を映し出す。
「研究室の序列は、一応の目安でしかない。Aナンバーの研究室よりも、Bナンバーの研究室の方が、少なくとも即戦力の生体兵器を造る能力は上かも知れない……先生が、そう言ってた」
「A7研の……変態童貞オヤジの玩具人形がよぉ、エリートの俺に偉そうなクチきこーってのかぁあああ!?」
 金髪男が、逆上している。
 その激昂をしかし上回る炎が今、ノゾミの中で燃え盛った。
「今……先生の悪口、言った? よね……」
 青い両眼が、燃え上がる。赤い炎よりも高熱の、青い炎。瞳に映る金髪男の顔を、灼き尽くさんばかりに激しく燃える。
 A1研究室のエリート、と自分で言っているだけではない。ノゾミの能力とまるで対を成すかのような、発火能力を持つ男である。戦って、容易く勝てる相手ではない。
 そもそも戦う相手ではない。この男とは、連携して事に当たらなければならないのだ。
 頭ではわかっているはずの事が、しかしノゾミの頭から消え失せかけていた、その時。
「……そこまで」
 大男が、割って入って来た。
「ここ……おでの、たんとうえりあ。かってなこと、させない」
 担当エリア。
 研究施設の正門近辺に広がる、山林である。ガードマンである彼にとっては、確かに担当エリアではある。
 先日、彼の仲間のガードマンたちが、隻眼の少女によって斬殺された。
 死を悼むような感情が、この大男にあるのかどうかは、わからない。
 それはともかく施設から、またしても脱走者が出たのだ。
 A3研究室の新型ホムンクルスが、3体。
 彼らを捕縛あるいは殺処分するためにA1・A7・B8各研究室から1人ずつが選定され、こうして即席の戦闘チームが組まれたわけであるが。
「こぉの……クソ失敗作どもがああああああああッッ!」
 金髪男が、怒りの絶叫を張り上げた。その両眼が、赤く激しく発光した。
 二の腕の辺りに、ノゾミは熱さを感じた。袖に、火が点いている。
 大男の全身でも、ガードマンの制服があちこち燃えている。
 山林の山道の、落ち葉や枯れ枝も、めらめらと燃え始めている。
 発火能力。燃え易いものから、燃やされていた。
 このままでは生木や、ノゾミたちの肉体に火が点くのも、時間の問題である。
 そうなる前に、しかしノゾミではなく、大男の方が動いていた。
「かってなこと、させない……そういった」
 太い腕が、分厚い平手が、ブンッ! と重々しい唸りを発する。
 金髪男の身体が、吹っ飛んで大木に激突し、ずり落ちて動かなくなった。
 動かなくなった金髪男を、大男が引きずり起こし、揺さぶっている。
「おでたち、かってなことしないで、ちから、あわせんど。おい、おい」
「……死んでるよ、もう」
 溜め息混じりに、ノゾミは声をかけた。
 白く冷たい霧が発生し、濃厚に漂い、火を消してゆく。
 発火能力が、完全に消失している。能力者の生命活動が停止した、という事だ。
 大男が、毛髪のない頭を掻いている。
「おで……また、やっちゃった。せんせいに、おこられる」
「正当防衛、でいいんじゃないかな。ボクが証言するから……」
 言いつつ、ノゾミは見回した。
 火は消えた。冷気の霧も、消えている。
 ノゾミが霧の発生を止めた、わけではない。消えたと言うより、消されている。
「その通り……青霧ノゾミ、お前の力は我々が封じた」
 木陰で、何者かが言葉を発し、そして両眼を輝かせている。
 2人。ノゾミと年格好の変わらぬ、少年たちだ。髪が、片方は青く、片方は赤い。だが瞳から発生している白色の光は、2人とも同じだ。
 その白色の眼光が計4本、まるで矢のように、ノゾミの細い身体を射貫いている。
 身体だけではなく、精神にまで突き刺さって来る。それを、ノゾミは感じた。
「くっ……これは……?」
 念じても、冷気の霧が出て来ない。
「無駄だ。我らの力は、敵の超常能力を封じるためにのみ開発されたもの」
 赤い髪と青い髪の少年2人が、交互に言った。
「いかなる超能力者も魔法使いも、我らの前では無力」
「お前たちの仲間割れのおかげで、追手の人数が勝手に1人、減ってくれた」
「あとは、無力となった貴様を始末するのみ」
 A3研究室から脱走したホムンクルス。だとしたら、もう1体いるはずだ。
 ノゾミがそう思った時には、3体目は、すでに木陰から姿を現していた。
 でっぷりと肥えた、力士のような体格の男。すでに人間の姿は保てなくなりかけている。
 その肥満体が、メキメキと変異して角や触手を生やしながら、地響きを立てて突進して来る。まっすぐ、ノゾミに向かってだ。
 咆哮が、響き渡った。
 ノゾミを轢き殺す寸前だった異形の肥満体が、グシャアッと歪みながら吹っ飛んでいた。
 そして大木の幹に激突する。その幹が、折れた。肥満体の怪物が、折れた大木もろとも倒れた。
 人間の姿を保てなくなりかけている者が、もう1人いる。
 大男。その全身で、焼け焦げたガードマンの制服が剥がれ落ち、隆々たる筋肉が痙攣しながら露わになっている。体内で、何かしら異変が起こりつつあるようだ。
 変異・痙攣しながらの、体当たり。
 その一撃が、肥満体の怪物を吹っ飛ばす様を、ノゾミの動体視力で捉える事は出来なかった。
 咆哮が再び、山林に響き渡った。
 大男が、吼えている。
 頬が裂けてしまいそうなほどに口が開き、何本もの白く鋭い牙が剥き出しになっている。
 獣の、牙だった。
 牙を剥き、咆哮を響かせながら、大男が大地を蹴る。跳躍か、疾駆か。
 とにかく獣になりかけた巨体が、赤い髪と青い髪の少年2人に襲いかかる。
 悲鳴が上がった。それを、獣の咆哮が掻き消した。
 白色の眼光も、消え失せた。
 ノゾミは、ちらりと視線を動かした。
 肥満体の怪物が、大木を押しのけ、起き上がったところである。凶暴に角を振り立て、何本もの触手を怒りに震えうねらせながら。
「連携……って、これでいいのかな? 先生」
 ノゾミの呟きに合わせて、白く冷たい霧が発生する。
 その霧の粒子が凝集し、何本もの氷の矢となって、怪物の肥満体を様々な方向から刺し貫いた。
 凍り付き、砕け散ってゆく怪物の屍を一瞥もせず、ノゾミは大男の方を見た。
 赤い髪の少年も、青い髪の少年も、もはやどちらがどちらかわからぬ状態で潰れ、ぶちまけられ、飛び散っている。死体と言うより、肉の残骸だ。
 それらに埋もれて、大男は倒れていた。弱々しく、言葉を発しながら。
「……はら……へった……」
「……助かったよ。ボク1人でやれると思ったけど、駄目だったね」
 ノゾミは屈み込み、声をかけた。
「あなたに借りが出来た。借りっぱなしは気分が良くないから、さっさと返してしまいたい」
「……じゃ、ごはん……おごって……」
「いいよ」
「…………」
 倒れたまま、大男は泣いていた。


 道元ガンジ。大男は、そう名乗った。
「ほら、もっとゆっくり食べなよガンジ。誰も盗りはしないから」
 研究施設の、食堂である。
 5膳目の大盛り焼肉定食を、凄まじい勢いで平らげてゆく大男の食事風景を、ノゾミは苦笑混じりに観察していた。
 もちろん、食べ方の品性においては雲泥の差である。が、どこか似ている、とノゾミは思った。
 先生が、ブラックコーヒーとチョコレートワッフルを合わせて憩いの一時を過ごしている、あの幸せそうな様子とだ。
 ものを口に入れるというのはね、単なる栄養補給じゃあないんだよ。こんなに美味しいコーヒーを淹れられるノゾミに、それがわからないはずはないさ。
 そんな事を、先生は言っていた。
「……おかわり、いくらでもしていいから」
「のぞみ……おかね、なくなる」
 肉と米飯を口に詰め込み、もぐもぐと頬を動かしながら、ガンジがおかしな心配をしている。
「いいんだよ、お金なんて……別に、使うあてもないし」
 ノゾミもガンジも、形としてはこの研究施設の職員である。製薬会社から、給料が出ている。
「あそびに、いったら、いいのに」
 全てを味噌汁で流し込み、一息ついてから、ガンジは言った。
「はらじゅくとか、しぶやとか、あきばとか」
「そんな知識どこで仕入れているのか知らないけど、余計な心配はしなくていいよ……まあ、暇があったら一緒に行ってみる?」
 ガンジは、にっこりと微笑んだ。
 鬼のような厳つい顔の中で、しかし瞳が意外につぶらで可愛らしい事に、ノゾミは気付いた。
 この無害な笑顔の下に、凶猛な獣が潜んでいる。
 その獣が暴れ出したら、自分でも止めるのは難しい、とノゾミは思う。
「最近、バカな暴れ方をするホムンクルスが本当に多いけど……ガンジには、そうなって欲しくないな。あなたを止めるとなれば本当に、命懸けの戦いになる」
「おで、だいじょうぶ。だから、けいびのしごと、やらしてもらえる」
 ガンジは言った。
「わるいやつ、ぼうはんかめらで、みはってる」
「防犯カメラ……か」
 頻発するホムンクルスの暴走に、研究所の職員が関わっているとしたら。
 ノゾミの先生である男も最近、それを気にかけているようだ。
「防犯カメラに映る証拠を残すような、間抜けな相手かどうかはわからないけど……調べるだけ、調べてみようかな。ガンジ、映像記録は見せてもらえる?」
「けいびしつへ、おいで。いぬごや、っていうひともいるけど」
「ありがとう。犬小屋なんて言う奴がいたら、ボクが凍らせて砕いてあげるよ」
 暴走したホムンクルスなど、いくら凍結粉砕しても問題にはならない。
 が、その暴走に、施設の研究員が関わっているとしたら。
「先生方が相手じゃ、見つけてもすぐ凍らせるってわけにはいかないね。まず証拠を集めないと……証拠さえあれば、その場でキラキラ砕いてダイヤモンドダストにしてもいいよね? 先生」
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東京怪談
2014年07月28日

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