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『 』
三島 奏jb5830)&九 四郎jb4076

 6月の花嫁は幸せになれるとか、そんな絵本で読んだようなお話。
 ちょこっとだけ、憧れてる。憧れていたなんて、今は誰にも言えない内緒話。



 ※※


 人に誇れる特技が、少しでもあるとちょこっとだけいい。
 三島 奏は、そんなことを内心呟いて微笑んだ。
 母に教わった生け花と、教室に行って何とか覚えたフラワーアレンジメント。少しだけ付け焼き刃のような技術だったが、今日は充分なまでに役に立っているようだ。
「よしッと……」
 ウェルカムボードに添える花飾り。今日の主役をイメージして白と蒼の清楚な雰囲気に仕立て上げた。けれど、それだけでは寂しくなってしまうから差し色に柔らかなオレンジの花も加えた。
 これなら、文句なしの合格点。得意げに微笑む
「ありがとね、奏ちゃん」
 後ろから掛けられた声に三島 奏は振り向く。
 主役の片割れの女性だった。まだ着替え前で、淡いピンク色のワンピースを身に纏いほわりと笑っている。
「いやいや、こっちこそ呼んで貰って嬉しかった。今日は凄く綺麗、きっとドレス姿はもっとキレイなンだろうなァ」
「……ありがと。でも、奏ちゃんが生けてくれているお花も凄く綺麗だよ」
 そう言ってくれた友人の花嫁に奏は少しだけ照れた笑みを返した。

「よ……ッと」
 花を抱えて、奏は会場内の飾り付けに入る。
 会場内の雰囲気は少しだけ浮ついていた。でも、不思議と心地良くて、ホッとするような空気が流れていた。
 友人夫婦の結婚式。6月。都内の高層ビルの上層階フロアを借りた人前式。
 ふと窓から外を眺めてみれば、暮れかけた空が茜と藍色に溶けて柔らかなグラデーションを作っていた。
(……結婚、かァ)
 心から祝福する気持ちと、変わることへの少しだけの寂しさ。今までその意味も考えたことはなかったけれど、それでも彼らが幸せで過ごせますようにと願う気持ちは本物だ。
 再び視線を部屋の中に戻すと見えたのはスキンヘッド姿。周囲の人達より頭一つ分どころではなく、圧倒的に飛び出していた。
 奏も背が高い方ではあるが、彼ほどではない。
 彼の周囲には軽い人集りが出来ており、それで余計に目立っているようにも見えたがまぁ直ぐに見付けられることはいいことだ。
「あ、シロー!」
「先輩!」
 彼横横九 四郎は奏の呼びかけにすぐ気付き、周囲を取り囲んでいた人々に律儀に断りを入れてから奏の方へと駆け寄ってきた。
「シローは、何やってたのサ?」
「高いところの作業、頼まれていたっす」
「ああ、シロー。背高いしねェ」
 不思議と納得する奏。穏やかな性格も合わせて、頼られていたことを想像するには容易かった。
「先輩は表の飾り付け終わったっすか?」
「あァ。あたしの最高傑作だと思う出来。けど、これから会場の中も飾り付けも頑張っていかンとね」
 手に持っていた花が奏の頷きに合わせて揺れた。
 数種類の花達。その中でも四郎が気になったのは青い小さな花だった。
「それは、何ていう花っすか?」
「あァ、これ? ブルースターってンだけど」
 奏は花束から一輪抜いて手渡した。受け取った彼はじっと眺めてみる。
 名の通り淡い青色の星型がいくつも群がるように咲いている。主張しすぎることもない小さな花の星々は清楚で優しい印象があった。
「青い花だから、サムシングブルーにも使われるンだ。花言葉は幸福の愛とか信じ合う心」
「なんか、結婚式にぴったりっすね……青い花ってのも不思議っす。青い花、そういえば4人で見にいったことあるっすよね。青いチューリップ」
 四郎の言葉に奏は思い返す。確か雨が降っていた、春先の少し肌寒い日のことだった。
 友人に誘われて予定をあけたはいいが、当日は生憎の雨模様。
 折角集まったのに雨で中止なんて寂しすぎる。屋内で遊ぼうかなんて案も出たが、首を振ったのは新郎だった。

 ――雨の日の公園なんてのもいいんじゃない?

 他に案が出ることもなく、そのままバスを乗り継いで少し大きな公園へとやってきた。
 しとしとと落ちる雨粒が水面に波紋を広げていた。傘と木々に響く雨音。こんな天気に散歩しようとする人など居らず、実質奏達の貸し切り状態。
『案外、こういうのも良いっすね』と呟いた四郎に、新郎は得意げな笑みを返した。
 春は花の季節。雨粒に揺れる花々の中でも印象に残ったのは、空色のクロッカスだった。
「あァ、あれはチューリップじゃなくてクロッカスってンだ。同じ球根の花だから少し似てるけどサ」
 奏の言葉に四郎はなるほどーと純粋に納得した様子だった。

「クロッカス……ちなみに、花言葉はなんて言うんすか?」
「んーっと……確か、君を待っているだったかなァ」
「なんだか、ロマンチックっすね」
 四郎は頷きながら微笑む。なぜだかその表情に奏の鼓動は跳ねる。
「そういえば、彼女に傘をかける彼の姿、とても自然で格好良かったっす」
「あァ……本当に仲の良い二人。互いを思いやれてた」
 しんみりと呟く奏の声に、同意したように四郎は視線を窓の外のすっかりと藍色に染まってしまった空へ向けた。
「そうっすね……だから、幸せになって欲しいっす」
 四郎の声は、心からそのことを願っているような優しい色彩を含んでいた。


 沢山の人達の中で、式が執り行われた。とても、暖かな雰囲気の式だった。
 笑っている人も居れば、泣いている人も居た。けれど、皆、心から新郎新婦を祝福していた。
 きらきらと輝くような式。眺めながら、四郎はふと思う。
(そういえば、先輩と出会って一年が経とうとしてるっすね)
 春先に芽生えたことを自覚した恋心。気付いてしまってからは、意識しないことはなかったといっても過言ではないかもしれない。
 だから、今はもう胸を張って先輩が好きだって言える。
 粗相をするとか、迷惑をかけるとかそういうのは抜きで隣に居られるようになりたい。四郎の想いは日に日に強くなっていった。
「ありがとう、幸せになるね!」
 奏が作ったブーケを手に微笑む新婦に、奏の姿が少しだけ重なって見えた。


 ブーケトス。
 受け取った女性は、次に幸せな花嫁になれるのだという。
 そんなジンクスを知っている。興味がないわけでもない。花嫁の近くに寄っていく若い女性達を眺めながら奏は思案していた。
(け、けど……あたしは、その……うん、賑やかしで。未婚だし)
 賑やかしのつもり。だなんて、口には出さず心で呟いて奏は人混みの中へと入って行く。
「せーのっ」
 背を向けた新婦がブーケを高く、遠く投げた。高い天井をくるりと回ってゆっくり。女性達はみんなブーケに手を伸ばしていた。
 けれど、ブーケが落ちたのは――。
「え、え……あたしっ?!」
 狙い澄ましたように奏の手の中に落ちてきたブーケ。三秒ほどぽかーんと眺めてみた。まばたきも繰り返してみた。
 しかし、現実は変わらず奏の手の中にブーケはある。再び思考。意味に気付いた奏は軽く慌てる。
「奏ちゃん、よかったじゃないの」「相手はいるのー?」「お幸せにー」
 けれど、周囲はその状況を楽しんでいるようだった。冷やかすような、祝福するような周囲の声に奏は何だか照れくさくて俯いた。
 信じているわけではない。だけれど、興味や憧れがないわけでもない。
 次の幸せな花嫁になれる、なんて。
(あたしは結婚なんて想像したこともないけど、でも、そのブーケのジンクスが叶ったら……)
 そして、例えばその相手は今隣で優しい笑みを浮かべている後輩だとしたら。
(はッ、何を勝手な妄想を、いかんいかん……!)
 奏は慌てて顔をぶんぶんと横に振ってみる。けれど、それでは顔の火照りは取れないようだった。



 都会の夜は眠らない。
 分厚い窓硝子越しに見る夜景は、まるで星空のように見えた。不規則に点滅を繰り返す街並みは、まるで会話をしているようにも見えた。
「綺麗だったっすね」
「……うん」
 夜景がよく見える広間。時間は既に零時を過ぎている。
 カフェもレストランも閉まっているから、四郎は自動販売機で買ったコーヒーを手に夜景を眺めていた。
 けれど、開けられないままただ握られているスチール缶は、手のひらでもうすっかり温くなってしまっている。
 其程に時間は過ぎているはず。なのに、先程の喧噪は鎮まらない火照りのように残響し続け、奏の頬を紅く染め続けている。
「6月っすけど……先輩は、結婚とか意識するんすかね?」
「結婚なんて、想像もしたことないなァ……」
 四郎の問いに、奏はぼんやりと答えた。奏の手にはブーケトスで受け取ったブーケ。なんとなく離せなくて結局ずっと抱えていた。
 まるで、一つの夢の世界のようだった。花嫁も、花婿も、人々も会場を包む暖かな空気も全てが合わさって織り成された旋律のようで。
 まだ、そのメロディに酔っている。だから、隣で話し掛けてきてくれる四郎への返答も、何処か浮ついている。心此処にあらず。
「自分は、ちょっと考えてみたっす。新郎新婦、綺麗だったっすから……」
 四郎は、考える。思い出すのは綺麗に笑っていた今日の花嫁のこと。
(きっと、先輩のドレス姿も綺麗なんだろうな……)
 もし、自分が結婚するとしたら。自分はきっと、先輩とならいいと思う。
「うん、確かに……格好良かった」
 奏も考える。きっと彼の燕尾服姿は格好いいんだろうな。隣で微笑めれば、どれほどに幸せな気分になれるのだろう?
(もし、もしあたしがその隣に並べるとしたら、それに見合うような花嫁さんに……)
 ぼんやりと遠くを眺め、浮かんできた妄想に耽る。だから、隣で話す四郎の言葉も何となく上の空。
 だから。不意打ちだった。
「えっと、好きっす」
「え……今なんて?」
 思わず、四郎の顔を眺める奏。視線が絡み合う。彼は、真面目な表情を浮かべていた。
 言葉を失う。夜の静まり返ったホテルには、互いの鼓動の音しか聞こえない。
 都会の夜は眠らずに、忙しく灯りは点滅を繰り返していた。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb4076 / 九 四郎 / 男 / 陰陽師 /ライラック(紫)】
【jb5830 / 三島 奏 / 女 / 阿修羅 /サザンカ(白)】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 大変お待たせしてしまい申し訳御座いません。 水綺ゆらです。
 打診頂いた時はすごいテンションで。ノベル執筆中は凄く緊張して執筆させて頂きました。
 少しでもご期待に添える作品になっていたらいいのですが……。

 さて、フラワーアレンジメントということで今回は遠慮無く花言葉を随所に散りばめました。
 私が好きな花言葉は彼岸花こと曼珠沙華。
 花言葉は『あきらめ』や『かなしい思い出』など、ネガティブなものもありますが対して『想うのはあなた一人』『また会う日を楽しみに』なんて綺麗な意味も持っています。
 また、花と葉がともにつかないことから「花は葉を想い、葉は花を想う。離れていても相手を想い合う」ということから『相思華』という別名もあったりして、調べれば調べる程面白い花だなぁと思います
 しかし、ちょこっとだけ怖くて近寄れない花でもあるんですが……それが、また不思議な魅力なのかもしれません。
 花言葉そのものだけではなく面白い由来を持っていたりします。例えば、青薔薇は不可能とされていたのに現代の技術で咲かせることが出来るようになってからは奇跡なんて言葉を持つようになりました。
 紫苑は今昔物語に因む花言葉を持っていたりします。よければ調べて見て下さいね。
FlowerPCパーティノベル -
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エリュシオン
2014年07月29日

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