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『―― 兄貴的★納涼 ―― 』
相川・勝一(ia0675)

「……泳いで川上り」
 手書きの広告を見ながら、相川・勝一がポツリと呟く。
 最近は茹だるような暑さのため、このようなイベントが行われる事になったのだろう。
「暑いですし、涼しくなるために泳ぐんですよー!」
 意気揚々としてイベントに参加する事を決めた彼だが、これから数分後、その決意を後悔する事になる。

※※※

「……な、何ですか、これは」
 イベント会場には褌姿の男性達が多く集まっている。
 いや、別に褌姿だからおかしいのではない。
相川自身も泳ぐ時は褌姿になって泳ごうと考えていたのだから。
異様なのは会場を包む雰囲気、そして係員がすべてマッチョな兄貴達であるという事だ。
(す、すごーく身の危険を感じるのですよ……これは参加をやめた方がいいのでは……!)
 きらん、と輝く白い歯の兄貴達を見て、相川は背筋が粟立つのを感じていた。
(ぼ、僕は何も見なかった、このイベントも知らなかった……!)
 くるり、と踵を返してイベント会場から去ろうとしたのだが……。
「はぁい、ボク! ここまで来たんだからイベント参加者って事だろ、BOY!」
 ボクなのかBOYなのか、とりあえずどちらかに定めて欲しいと相川は心の中で冷静なツッコミを入れる。
「この川上りイベントは、たくましーいボディを観たいという欲望……げふん、暑さに負けず頑張ろう! という意味を込めて開催した素晴らしいイベントですよ!」
(本音が透けて見えてます! 単に男の身体が観たいだけのイベントだった!?)
「さぁ、キミも脱ぎなさーい!」
「きゃー! やーめーてぇぇぇっ!」
 すぽーん、と服を脱がされ強制的に褌姿にされ、相川は涙混じりの表情を見せる。
「……ぐはっ! ショタっ子が恥ずかしがりながらもじもじ……萌える!」
 今にも鼻血を出しそうなほど「はぁはぁ」と怪しげな吐息を漏らし、ガン見してくる係員(マッチョ兄貴)に相川は言い尽くしがたい恐怖に駆られる。
(ぼ、僕……無事にこのイベントから抜け出す事が出来るんでしょーかっ!?)
 服ははぎとられ、しかも係員(マッチョ兄貴)に没収されており、嫌でもこの川上りに参加するしかない。
(こうなったら、一気に駆け上ってさっさとここから出るのですよー!)
 ぐ、と拳を強く握り締めながら相川は決意を固めた。

※※※

「これより! 納涼川上り大会をはじめまーす!」
 周りの参加者を見ると、相川と同じように強制参加させられたであろう人物が多いらしく、どの人も顔色が悪いような気がするのは気のせいだろうか。
 中には「さっさと終わらせるんだ、さっさと終わらせるんだ」と不気味に呟いている人もいて、一体何があったのかと問い掛けたくなるほどだ。
 川上り開催のベルが鳴り、大勢が川の中に入っていく。
(くっ、川の流れが早い……これって、流されたら大怪我しちゃいそうなのですー……!)
 踏みとどまるのがやっとなくらい、川の流れは早く、中には「あー……ぁー……」と流れさて行く人もいた。
(けど、上りきれないほどじゃないので頑張るですよ……!)
 もはや最初の『暑いから』という理由ではなく『あの危険な香りのするマッチョから逃げるため』に目的が変わってしまっていた。
「……ん?」
 突然、足が動かなくなり、相川は怪訝そうな表情で足元を見ると……。
「ゴボゴボ…… ヴォーイ!(はぁい、BOY!)」
 ぶくぶくと泡を吐き出しながら、良い笑顔で挨拶をしてくるマッチョ兄貴が相川の足を掴んでいた。
「ふぇっ!? 何か想像してる川上りと違うのですけどー!?」
 そんな所に潜っていて苦しくないのか、というツッコミはこの際置いておこう。
「何で水中にマッチョ兄貴が!? 涼しいのに何か暑苦しい! ひぃっ! しかもナニを狙っているのですかー!」
 相川の褌をはぎ取ろうと、マッチョ兄貴が手を伸ばしてきて、相川は必死に抵抗をする。
「ヴォ―――――ッ……えへっ★」
 抵抗の途中でマッチョ兄貴の腹部を蹴ってしまい、そのままマッチョ兄貴は激流に飲まれて退場していった――……。
(お、恐ろしい……確かに暑さは消えました、けど! 冷や汗が! 早く逃げなくては!)
 これ以上ここにいたら恐ろしい目に遭ってしまう。
 その想いが相川に普段以上の力を与え、滝をロッククライミングするなど小さな身体に似つかわしくない能力を発揮させていた。

※※※

 そして川上りが始まって2時間後、ようやくゴールが見えてきた。
「ぎゃああっ、まだいる! マッチョがあんなに……!?」
 川を埋め尽くさんばかりのマッチョ兄貴に鳥肌を立たせながら、相川が叫ぶ。
 ちなみに彼以外の参加者は自然(マッチョ兄貴)に襲われ、半数以下が脱落している。
 その中、驚異的な気合いを見せた相川のみがゴール付近までたどり着いたのだが……。
(僕は、あれを抜け出せるのでしょうかっ! あのマッチョの川を超える事が!)
 正直に言えば気持ち悪い、正直に言わなくても気持ち悪い。
 まさにそんな光景が相川の前に広がっている。
「よ、よーし! 僕、男の子! 行っちゃうですよー!」
 覚悟を決め、相川はマッチョの川へと向かって泳ぎ始める。
(ひぃっ! どこを触っているのですかー! ぎゃああっ、そこは僕の威厳ー!)
 次々に差し伸べられてくるマッチョの手を振り切りながら、相川はゴールを目指す。
 そして――……!
「ゴォォォォル! 1等はちびっこ相川くんでしたー!」
「おめでとうー!」
 ゴールで待っていた歓迎ガール達が相川に向けて祝福の言葉を投げかける。
 しかし、川から上がった時、その言葉は黄色い悲鳴に変わってしまった。
「……へ?」
 歓迎ガールの視線を追うと、そこには褌で隠されていたはずのものがペカッと……まぁ、つまりすっぽんぽんだ。
「きゃあああああっ、何故! 何故! 何故こんな事にー! ……はっ、あなた達が僕の褌を取ったんですねー!」
 ゴール付近のマッチョ兄貴達に駆け寄ると「ノンノン、BOY、最初から『ピー』だったよ」と答えてくる。
「はっはっは、まだまだ修行が足りんな! BOYの褌を取ったのは……俺だ!」
 最初に相川の足を掴んでいたマッチョ兄貴が歯を輝かせながら叫ぶ。
(はっ、そういえばあの人……最後に『えへっ★』って……!)
 あの時からすっぽんぽんだった事を思い知らされ、みな底に沈んでしまいたい気持ちに駆られる。
 結局、相川は一等のマッチョ兄貴ブロンズ像を貰う事が出来たが、何故か褌だけは返してもらえなかったのだとか……。


―― 登場人物 ――

ia0675/相川・勝一/12歳/男性/サムライ

――――――――――
相川・勝一 様

こちらでは初めまして(笑)
今回はご発注頂き、ありがとうございました!
兄貴、褌、楽しませて書かせて頂きましたが、
いかがだったでしょうか?
気に入っていただけるものに仕上がっていれば良いのですが……!

また、ご機会がありましたら宜しくお願い致します。
それでは、今回は書かせて下さり、ありがとうございました。

2014/8/3
アクアPCパーティノベル -
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2014年08月04日

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