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『朝の蝉時雨 』
ニーナ・サヴィン(ib0168)


「ん……」
 もぞり、と寝返りしたところでクジュト・ラブア(iz0230)は目を覚ました。
 醒ましたといっても目蓋は閉じたまま。
 何かいい夢でも見ているようだ。
 遠くで蝉の鳴き声が聞こえる。いつもと同じ夏の朝。
 ここは神楽の都の、ミラーシ座控室奥の間。たまに寝起きする場所。
 昨晩は確か、と思ったところで夏の薄い掛け布団の様子がいつもと違うことに気付く。
「……あ」
 思い出した。
 目を開ける。
「すー…すー…」
 横に、豊かにウェイブする金髪を乱した女性の寝顔があった。うん、むにゃ、とか艶のある唇をうごめかして、また寝息。うにうに、としばらく枕に顔を押し付けるとようやく枕の形が落ち着いたのか、幸せそうな寝顔に戻る。
「昨晩はニーナと……」
 クジュト、間近に佇むニーナ・サヴィン(ib0168)を見詰めた。
 くす、と微笑したのは、二人で浴衣を着て繰り出した昨日の祭での出来事を思い出したから。

「クゥ……クジュトさん、こっちよ」
 橙の瞳を輝かせて腕を引っ張る。屋台に突っ込んで戻ったときには、「男なんだからしっかり食べないと」とニーナが焼き鳥串を持ってクジュトにあーんさせてたり。
「次はこっち」
 口の周りを拭いてひと心地ついたら、また腕を引っ張る。次に屋台から戻ったときには一つのかき氷を二人で一緒に食べてたり。
「ニーナ?」
「あそこ? いいわよ。腕前拝見ね」
 今度は二人一緒に金魚掬い。
「どうしたの、クジュトさん。代わってあげようか?」
「待って。ニーナのように、一番輝いててキレイな……」
「わ、私はそんな……あっ!」
 うまいこと元気がよくて色みの強い金魚を掬った。
「それじゃ今度は私。一番素敵……じゃなくって、群れから外れて世渡りが下手そうなのを……」
 うまく掬った。

「世渡り下手かぁ……」
 しみじみと思い返していた、その時。



「おはよ、クゥ」
 横のニーナが目を覚ましていた。小さな鼻を上げ、大きな橙の瞳を開けて見返している。
「おはよう、ニーナ。よく眠れた?」
「うーん……腕貸して」
 ニーナ、難しそうな顔をするとクジュトの腕を取って枕にして、また瞳を閉じた。
「眠れなかったんだ?」
「だって、いつまた襲われるか分からなくて」
 目を閉じたまま、うにうにとクジュトの腕に顔を擦り付ける。枕と同じように、寝心地のいい角度や位置を探しているのだ。
「いや、襲ってないでしょう」
 ぱち。
 クジュトの声を聞いたニーナ、目を開けてまじまじとクジュトを見た。う、とうろたえるクジュト。ニーナは真っ直ぐな瞳で、じいいっ。無言の眼差しに負け視線を逸らすと胸元の白い肌が眩しかった。ニーナの肌襦袢は乱れるだけ乱れている。隠すべきところは隠れているが。
 眩しさと……いや、と息をつき視線を上げる。
 ニーナの視線はそのままだ。
「いろいろ堪能したでしょう?」
 胸のうちを見透かして言う。
「う……」
「私の寝顔、とか」
 悪戯っぽく笑い、昨晩の話じゃなくて今よと言わんばかり。ふう、とクジュト。女性の方が「襲った」と言うのだから潔癖と言えなくもないところまでだとしても諦めるしかないという溜息。
「じゃ、もう一度襲うね」
 半身になって上体を起したクジュト。素直に「襲った」呼ばわりを受け入れることにしたらしい。
 頷いたニーナは腕枕状態からころんと仰向けに。波打つ金色の海のようにニーナの髪が広がった。そこにのしかかるクジュト。着ている就寝用の浴衣は、こちらもすでに乱れまくっている。
「おはよう、ニーナ」
「……ぅん、おはよ……んん…」
 頬に残っていた髪を撫でるように払って朝の挨拶。優しく、軽い口づけ。
「クゥ?」
 再び並んで添い寝する形になって、ニーナが体を小さくして上目遣いで聞いた。
「なに、ニーナ?」
「今日はお休み? 浪志組のお仕事?」
 いじ、と両手を胸の前で組んだりほぐしたりしながら聞いてみる。
「今日かぁ……」
 どうしようかな、という響き。
「クゥ?」
「なに、ニーナ?」
 もう一度聞くニーナ。
「その……クゥは前に私を鳥や太陽に喩えて自分は大地だと言っていたけれど、私にとってはずぅっと…クゥは青空だった。だって……」
「だって?」
「空が荒れれば鳥は飛べないし、空が曇ってしまったら太陽は輝けない。クゥが悲しかったり辛かったりする時に私だけキラキラなんてできない」
「あ」
 いつか言った言葉。そして、いま気付いた愚かさ。
「私を身勝手に生きる鳥や手の届かない太陽だと思うのは止めて? 私は貴方とこうして触れ合っていたいし、たくさんのものを共有したいの」
 きゅっとクジュトの手を取るニーナ。クジュトは無言で愛おしそうに見詰めている。
「だって多分世界で一番貴方を……」
 そのまま今度はニーナがクジュトに身を重ね、首を捻って口づけ。最後の言葉はクジュトだけに聞こえたかもしれない。
「ね。お休みなら一緒に海に行こう? 短くても少しだけ、二人だけの時間を……」
 終ってから、最初の話題に戻した。すっきりした笑顔。
 そしてクジュトが何か言おうとした瞬間!



「おおい。クジュトの旦那、ここかい?」
 控え室の前から声がした!
「回雷だ、まずい」
 ばっ、と起き上がったクジュト。ニーナの手を取り押入れの襖を開けて隠れた。そのまま二人で息を潜める。クジュトの所属する浪志組は表向き、恋愛禁止。
「回雷さんならいいんじゃない?」
「ニーナのこんな姿を見られたくない」
「ちょいと失礼、上がるぜ?」
 二人の会話と同時に、襖の開く音。さらに奥の間の襖も開いた。いるなら奥の間に寝ていることを知っている動きだ。
「……昨晩はお楽しみだったようで」
 回雷の、乱れた布団の前に立ちすくんで頭をかいている気配が伝わってきた。
「まずい……布団が出てるなら押入れを連想する人物だ」
「いいじゃない。バレたらバレたで♪」
「ニーナ、ちょ……耳に息が……抱きつかないで」
「あら。こんな狭いトコに引き込んで抱き寄せたのは誰よ。それならいいわ。うーんと伸びを」
「待って待って」
「くす……こんなに抱きしめちゃって。また襲いたいの?」
 暗く狭い押入れの中で、ひそひそ声でそんなやり取り。
「やれやれ、浮気じゃないならまあいいか。……浮気だったら言い付けるぜ?」
 外の回雷はそれだけ言って部屋を出た。
「行った……」
「待って、ニーナ」
「おおっと、そうだ」
 最後にまた襖が開いた。
「旦那がいないんなら、今日の仕事はどうしようもないな。市場と適当に巡邏しとくぜ?」
 襖が閉まると今度こそ静かになった。



「ふぅ……」
 押入れの襖を開けて息をつくクジュト。ニーナはクジュトの首に手を回して抱きついている。
「ざぁんねん。バレてクビになればよかったのに♪」
「おそらく回雷にはここにいたこと、バレてたよ」
「あとから根掘り葉掘り聞かれるわね〜」
 もぞもぞと二人して押入れから出てからも、なおニーナは意地悪そうに言う。
「そうだ。ここにいなかったっていう証明を作ろう。……えーと、海だったよね?」
「そんな理由ならイヤよ?」
「あ、いや。もちろんニーナと一緒にいたいから……」
 慌てたクジュトを見て飛び切りの笑顔を見せる。
「秘密の恋って盛り上がるわよね♪」
 困り顔に軽くキスすると立ち上がるニーナ。
「お出掛けなら……着付けお願いね?」
 背中を向けて両の袂をつまんでひょいとポーズ。腰から脚のラインのシルエットが透ける。
「そうそう。二匹の金魚に餌もやらないと」
 足元では金魚鉢に赤と黒の金魚が仲良く泳いでいる。
 外では蝉時雨が一段と大きい。
 青空と太陽は、夏らしいに違いない。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ib0168/ニーナ・サヴィン/女/19/吟遊詩人
iz0230/クジュト・ラブア/男/24/吟遊詩人

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ニーナ・サヴィン 様

 いつもお世話様になっております。
 いつもの二人より大人でしっとり静かな雰囲気……のはずがー。髪の毛なでたり鼻の頭つんつんしたりしつつの会話のつもりがー。
 と、とにかくこうなりました。
 ちなみに部屋は奥まっているので採光の窓だけ。ついでに回雷はニーナの髪の毛を発見して持ち帰ったようです(ぁ。

 この度は大切なメッセージを込めた依頼、ありがとうございました♪
アクアPCパーティノベル -
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舵天照 -DTS-
2014年08月04日

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