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『夏祭りは楽しくて美味しい!? 』
セレシュ・ウィーラー8538)&(登場しない)

「夏祭り、行かへん?」
 うだるような夏の暑さの昼下がり、セレシュが突飛な提案をしてきた。
 洗濯物を畳んでいた悪魔は目を丸くしながらセレシュを見上げると、なんと彼女はいつの間にやら浴衣姿になっている。
「夏祭りって……どこで?」
「ここや」
 セレシュはどや顔で手にしていたチラシをずいっと悪魔の前に突きつける。
 目前まで迫ったそのチラシを目を瞬かせながらそれを見つめると、そこには浴衣を着込んだ女性と子供、そしてその後ろには屋台と花火のイラストが描かれている。
 それらのイラストの前には大々的に「○○神社 夏祭り! 17時〜」と書かれている。
「○○神社って……近所だね」
「そうや」
「そうやって……神社って言ったら神仏でしょ? 私が行けるわけ……」
「そんなん気にせんでええって。狛犬や神使にはもうすでに話し付けてあるし」
 得意げになって胸を張り、セレシュはニッと笑った。
 もう最初から行くという話しでいたようだ。だからこそ彼女が先に浴衣を着込んでいるのも頷ける。
「そこまで言うなら……」
 仕方がないなという様な素振りを見せて立ち上がる悪魔に、セレシュは意地悪そうに目を細めてほくそえんだ。
「なんやねん。夏祭りなんか行ったことあらへんから、ホントは楽しみなんやろ」
「な!? そんな、悪い!?」
 うろたえる悪魔に、セレシュはケラケラと笑いながら浴衣を差し出した。
「はいこれ。あんたの浴衣。着付けしたるから準備しよ」
 ニコニコと笑うセレシュに、悪魔は渋々と浴衣を受け取った。


 賑やかなお囃子と、行き交う人々の波。
 夜の闇に浮かび上がる屋台の明かりと、あたり一面に漂う美味しい香りに悪魔の目は自然とキラキラ輝いた。
「凄ーい! これがお祭!?」
「そうや〜。しっかり楽しんでたっぷり食べてくで〜!」
 セレシュはぐいっと浴衣を腕まくりし、屋台をぐるりと見回す。
「イカ焼きに焼きもろこしに、カキ氷とわたあめとあんず飴! あ! 見て! 射的だって!」
 神社の入り口から続く屋台を、目に付くそばから嬉しそうにはしゃぎつつ指差す悪魔に、セレシュは満足そうに笑った。
「よっしゃ! ほんなら端から順番に攻めてくで〜!」
 気合十分。セレシュは一番始めにお好み焼きをゲットする。そして向かい側にある焼きそばを買い、更に斜向かいにあるわたあめの大袋を買う。
 悪魔はそんなセレシュにならい、イカ焼きと焼きもろこし、あんず飴と牛串、フランクフルトにじゃがバターなどを次々に買い漁る。
 気がつけば両手一杯になってしまった食べ物に、二人は互いを見合わせながらクスクスと笑う。
「こんなにぎょうさん食べられへんのとちゃう?」
「でも買っちゃった以上、食べるしかないよね」
 二人は抱えるようにしながら社までやってくると、境内の端に腰を下ろして互いに買った物を食べ始めた。
「楽しいね〜、お祭って」
 フランクフルトを頬張りながらニコニコ顔の悪魔にセレシュもまた、イカ焼きに噛り付きながら微笑む。
「そうやな〜。お祭はこの時期やからこそ楽しめる期間限定の物やしな!」
「食べ物も美味しいし、こんなに楽しいと思わなかった」
「悪魔は神仏とは相容れん仲やし、来られへんのが普通やもんな」
 悪魔は食べ終えたフランクフルトの串を手に、少し考えるようにしてからくるりとセレシュを振り返った。
 セレシュはあんず飴を頬張りつつ、じっとこちらを見つめてくる悪魔に気付いてそちらを振り返る。
 いつになく真面目な顔をしている悪魔に、セレシュは目を瞬かせた。
「……ほんと、セレシュには感謝してる」
「な、何やの? 突然……」
 まるで何か重大な告白を受ける直前のようで、セレシュは苦笑いと共にぎくしゃくしてしまう。
「だって、セレシュと会ってなかったらこんな風にお祭にこれなかったし、他にも楽しい事とか知らなかったから」
「……」
「だからありがとう」
 照れくさそうに笑う悪魔は、ぎこちなく視線を逸らし焼きもろこしに噛り付く。
 セレシュもまた食べかけのあんず飴を口に運びながら、それとなく視線を逸らす。
 どうにもこうにも、改めて言われるとムズ痒くて照れくさい。
「よ、よっしゃ。ほんなら次、射的行こか! その次は金魚すくいして輪投げするで!」
 照れを隠すように、セレシュはあんず飴を飲み込み立ち上がる。
 悪魔は食べかけた焼きもろこしを手にしたまま、戸惑った様子でセレシュを見た。
「え? ちょ、だってまだ食べ終わってないよ?」
「ええねん。お腹いっぱいになったし、ちょっと運動してからべようや。一気には食べられへんやろ?」
 そう言いながらセレシュは笑みを浮かべて境内に座ったままの悪魔に手を差し伸べる。
「もうちょっとしたら花火が上がるらしいし、それまで遊ばんと損するで!」
「も〜……強引だなぁ」
 そう呟きながらも、悪魔はセレシュの手を取り境内から立ち上がると手を繋いだまま屋台の並ぶ路地へ再び踏み出した。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
りむそん クリエイターズルームへ
東京怪談
2014年08月11日

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