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『白イルカは夢をみる 』
真野 縁ja3294)&小野友真ja6901


 ぽこり、ぽこりと泡が上がる。

 海面から差し込む光は、やけに淡く穏やかで。

 たゆたいながら、歌をうたう。

 そして優しい、夢をみる。


●とぷん

「わあ、おっきいんだよー!」
 目前にそびえる建物を見上げ、真野縁は翡翠色の瞳を輝かせた。
「凄いなー、やっぱ水族館っておっきいなー」
 同じく見上げているのは、小野友真。縁にとっては大好きな友だちであり兄であり、どこかお母さんのような存在だ。
 二人が訪れたのはとある有名な水族館。大型魚が見られる世界でも最大級の場所であり、中でもジンベイザメが泳ぐ巨大水槽が売りらしい。
「お魚見るのわくわくなんだね!」
 縁はうんしょとリュックを背負い直すと、張り切った声を出す。口から顔を出した道化人形が、いつもの微笑を浮かべていて。
「縁それ落ちへんか?」
 友真は笑いながら、彼女の少し後ろを見守って歩く。館内は夏休みと言う事もあり、カップルや家族連れで賑わっている。
 小型水槽が並ぶ通路を抜け、奥へと進むと急に開けた場所に出た。そこにあるのは、視界いっぱいに広がる巨大パノラマ。
「ほわー……凄いんだよー……!」
「ほんとに海の中にいるみたいやな……」
 館内中央に据えられた大水槽の前で、二人はしばし沈黙していた。
 一面を蒼で埋め尽くされた水中の世界は、いつの間にか時間をも忘れさせてくれて。
 しばらく魅入っていると、ふと気配を感じた二人は水槽から視線を外す。
 きょろきょろと見渡した先に佇む人影。
 深緑の長袍に似た衣服を身につけた少年が、大型回遊魚がゆったりと泳ぐさまをじっと見上げていた。
 年の頃は13,4歳位だろうか、蒼銀色の猫っ毛からのぞく横顔は、どこかで見た微笑が浮かんでいて。
 縁達の存在に気付いたのか、少年はゆっくりとこちらを振り向く。髪色と同じ蒼銀の瞳が二人を捉えた瞬間、縁は無意識に呟いた。

「……ミスター……?」

 少年は、くすりと微笑った。

 その表情は自分たちがよく知っているもので、思わず涙腺がゆるみそうになる。
「こんな所で奇遇、なんだねー……!」
 例え姿が違っていても、なぜだかわかってしまう。
 話したい事がたくさんありすぎて、縁は言葉が続かない。そんな彼女に気付いてか、友真が気易く声をかける。
「はろーミスター、久しぶり……でもないか」
「ふふ……こんな所で会うとは思いませんでしたよ」
「俺もやで。でもせっかくやからさ、一緒に回らへん?」
 うなずく様子を見た縁の顔が、ぱっと輝いて。
「うに! じゃあ縁が案内するんだね!」
 そう言ってクラウンと友真の手を取ると、エスコート開始。三人のちょっと不思議なデートの始まりだ。

 彼らはのんびりと館内を歩きながら、海の生き物たちを眺めていく。
 熱帯海域を再現した水槽では、色とりどりの魚や珊瑚がまるで一つの絵画のように海中を彩っていて。
 近海水槽の前で、三人は足を止める。食卓でも見たことのある魚が群れを成して泳いでいるのに気付いたからだ。
「おおー、泳いでるのを見る機会なんてそうそうないもんな」
 ディープブルーの中ですべるように、舞うように動くシマアジ、カワハギ、チヌにヒラメ。
 実際に泳いでいる姿を見るのは、なぜだか不思議で新鮮だ。
「刺身ー寿司ー塩焼き煮付けー♪」
 ご機嫌で魚料理を鼻歌まじりに口ずさむ縁の隣では、クラウンがじっと泳ぐ石鯛を見つめている。
「……美味しそうですね」
「縁もミスターもこれ食用やないからな観賞用な」
 友真が生暖かい微笑みでつっこむ。
 ふれあいコーナーでは浅い水底に、大きなヒトデやナマコ、それになんと小さなサメまでいる。
「サメって大丈夫なん!?」
 既におよび腰な友真の言葉に、スタッフの女性がにっこりとうなずき。
「このイヌザメは大人しくて噛んだりしないんですよ」
 そう言われて恐る恐る触ってみると、ざらざらとした感触が手に奇妙な刺激を与える。
「おお、意外と硬い……?」
「これが本物の鮫肌ってやつなんだね!」
 縁も優しく頭を撫でてご満悦。クラウンは水槽の縁に両肘を乗せ、サメの姿に瞳を細めている。
「ミスターえらいお気に入りやなー」
 笑いながらツッコむ友真に、クラウンはうっとりと。
「ええ。このサメとやらの姿は浪漫です。美しいではありませんか」
「そ、そうか」
 彼の趣味はそっとしておいたところで、縁が手に謎の物体を乗せて笑顔。
「ミスター、友真くん! これなまこ!」
 身体全体をゴムのような突起物で覆われ、どこに目や口があるのかも分からないフォルム。
「ちょ、何コレやべえなまこ怖い」
 異形生物っぷりに真顔で距離を取る友真と、対照的に人差し指でなまこをつんつんする悪魔。
「おや……体は思ったよりしっかりしているのですね」
「食べたらこりこりして美味しいんだよー♪」
「ほう」
「いやいやミスターそれ食べたらあかんやつやから!」
 一瞬瞳が爛としたクラウンに、友真は全力阻止。ちょっぴり残念そうな様子を見て、彼は思うのだった。

 今の目は本気やった(真顔)。

 トンネル状になった水槽の中を、三人は連れだって歩く。
「あ、この通路ペンギンが泳いでいるんだよー!」
 頭上にはペンギンがまるで空を飛んでいるかのように、悠々と水中をすべっていく。
「うわーペンギン速ぇw」
 地上でよちよち歩く姿とは別物。ビロードのような被毛となだらかな流線型の体躯を生かして、水槽内を縦横無尽に飛び回る。
「なるほど。あのような形であれば、鳥でもあれほどに速く泳げるのですね」
 感心したように頷くクラウンに、友真は冗談めかして。
「ほーら二人とも真似っこしてきてごら…ごめん嘘やからやめような」
 やる気になっていた縁の隣で、クラウンはあっさりと。
「心配しなくても、私はやりませんよ」
「うや、そうなの?」
「ええ。水は苦手ですから」
 見ているだけがいいのです、と微笑む彼に友真は思い出す。
「そう言えば……ミスターってねk」
「あっ友真くん見て、帆立がいるよー!」
 じゅるりと縁が指さした先には、砂底に見え隠れする扇形の二枚貝。サメの往来する水槽でたくましく生きる姿を見て、友真はそっと呟いた。
「ふ……お前は美味しく育つんかな、大きく育てよ……」

 イルカ水槽の前ではベルーガと呼ばれる白イルカを見て、大はしゃぎ。
「おおお!あのイルカ白いんだよー! 可愛いんだね!」
 丸っこい頭が妙に愛らしいベルーガは、三人の前にやってくると口からバブルリングを吐き出してみせる。
「おおーうまいなー!」
 ちょっと得意げなイルカに向けて、友真はピースサイン。
「ふふ……なかなかやりますね」
 クラウンも愉しそうに、泡が上がっていくさまを眺めている。それを見た友真が、ふと。
「なあ、ミスター聞いてもええ?」
「なんですか」
「水が苦手やのに、どうしてここに来たん?」
「うや、縁もそれが気になったんだよ」
 その問いにクラウンはああと呟いてから、ゆっくりと水槽へ視線を移す。
 蒼銀の瞳に蒼の色彩が映り込み、それはまるでプリズムのようで。
「海はこの星の地表七割を占めていると、聞いています」
 広い広いこの世界。
 自分たちが見ているのは、ほんの一部でしかなくて。
「地上のものを全て見尽くしたとしても、たった三割にしかならないのですよ。勿体ないと思いませんか?」
 こちらを振り向く面差しには、いつもの優美な微笑が宿っている。
「故に海中とはどのような世界か、知りたいと思いましてね」

 でもこれは、まだ本当の姿ではなくて。
 実物はもっともっと、美しいに違いないから。

「私はいつか、本物の海を見て回りたいと思っているのですよ」

 聞いた縁は友真とうなずき合う。
「うに、じゃあその時は縁たちも一緒に行くんだね!」
 彼女たちの提案に、クラウンは愉快そうに微笑んだ。

「楽しみにしておきましょう」


●ゆらゆら

 歩き回って疲れてきたら、ベンチで休憩。
「アイス買ってきたんだよー!」
 満面の笑みで縁が差し出すのは、クラゲ・ほたて・しらす味のアイス。
「縁、そのチョイスはおかしいんちゃうかな……?」
 遠い目をしている友真の横で、クラウンは特に気にする様子もなく。
「私はしらす味をいただきましょう」
「ミスター勇気あるな、それ一番やばそうやで!」
 友真のつっこみにも、アイスの常識を知らないクラウンは今一つぴんと来ていない様子。
「はい、友真くんにはもちろんほたて味!」
「お、おう」
 仕方なくアイスを受け取った友真は、覚悟を決めて口に入れる。
「おいし? おいし?」
「まずくはない……けど、帆立はそのままが一番美味しいとよく覚えておいて欲しい」
 真顔で訴えかける横で、クラウンはアイスをぱくぱく。
「ミスターのはどう?どう?」
「ええ、結構いけますよ」
 意外と生臭くなく、最後にほんのりと残る塩味が絶妙だったりもする。
 最後は皆でお土産コーナー。
 縁が浮き浮きと買ってきた物を二人に渡す。
「これ、三人お揃いなんだね!」
 差し出したのは白イルカのストラップ。愛らしいベルーガのデザインがお気に入りだ。
「ミスターにも持っておいて欲しいんだよ!」
 受け取ったクラウンはストラップをまじまじと見つめた後。縁に向けて口元をほころばせてみせた。

「礼を言いましょう、エニシ」

 そして、再び別れの時が近付いてくる。
「ミスター今日はありがとな! デートの邪魔してごめんな?」
 いたずらっぽく笑う友真の隣では、縁がほんの少し名残惜しそうに。
「とっても楽しかったんだよ!」
 次いつ会えるかは分からなくて、それでも寂しさを表情に出すまいと、めいっぱいの笑顔で告げる。

「また絶対会おうね、クラウン!」

 言い終えたと同時、急に意識が薄れゆく。ゆっくりと倒れ込む彼女をクラウンは抱き留め。
「縁!?」
「大丈夫です、眠っているだけですから」
 慌てて駆け寄る友真に微笑むと、そのまま縁を差し出す。
「彼女を頼みましたよ」
「……わかった」
 友真はそれだけ言うと縁を抱きかかえる。クラウンは幸せそうに眠っている縁の髪を、一撫でして。
「では、私はここで」
「あ、ミスター!」
 去ろうとする背中が立ち止まる。
「また会える……よな?」
 振り返った道化の悪魔は、ほんの少し瞳を細めた後。
 手にしたストラップを軽く掲げ――くすりと微笑ってみせた。

「会いに来てくれるのでしょう? ユウマ」


●ぷかり

 目が覚めると、そこはいつもの縁側。
 風鈴の音が微かに響き、頬を撫でるそよ風が夕焼けの気配を運んでくる。
「あれ……ミスターは……?」
 縁は身体を起こしきょろきょろと辺りを見渡す。
 けれどそこはいつもの見慣れた風景で、クラウンの影も形も見えない。
「夢……だったのかな」
 けれど頭を優しく撫でられた感触が、残っていて。
「今の……何やったんやろ……」
 友真も困惑した表情で起き上がる。
「俺、さっきまでミスターと水族館行ってた夢見てたん」
「うや? 縁もなんだよ!」
 二人して顔を見合わせる。その時、そばに置いてあった道化人形が何かを持っているのに気付き。
「これ……」
 白イルカのストラップ、二つ。夢の中で三人お揃いで買ったものと同じだ。
「……ほんとに夢やったんか……?」
 二人で首を傾げるも、答えは返ってこない。けれど愛嬌たっぷりのベルーガを見て、くすりと笑い合う。
「白イルカの夢を、きっと縁たちも見せてもらったんだね」

 それはとても、幸せなゆめだから。

「次は現実で、なんだね!」

 きっとその時は訪れると、信じて。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/外見年齢/海好】

【ja3294/真野 縁/女/12/なまこ】
【ja6901/小野友真/男/19/ほたて】

【jz0145/マッド・ザ・クラウン/男/サメ】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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この度はご発注ありがとうございました。
水族館は何を隠そう私自身が大好きなもので、大変楽しく書かせていただきました。
サメのフォルムは浪漫だと思います(きり
いつか皆さんが、本物を海で見られますように。
アクアPCパーティノベル -
久生夕貴 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年08月15日

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