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『真夏のデート(仮) 』
百々 清世ja3082)&宇田川 千鶴ja1613

 宇田川 千鶴(ja1613)がハンカチでひたいを押さえながら待ち合わせ場所に向かうと、既に多くの人でごった返していた。さすが、お決まりの待ち合わせスポットなだけはある。元より夏の暑さは全開もいいところだけれど、人の多さがそこに拍車をかけているようで、数少ない木陰がまるで陣取り合戦だ。
 しばらく待つ予定なのだが、オアシスには潜り込めそうもない。コンビニで水分を確保してきたほうがよさそうだと、千鶴は踵を返した。
「え、なんで帰っちゃうのー?」
 そこに軽い感じで声がかかった。周囲にはもちろん大勢の人がいるが、千鶴は迷うことなく振り向いた。人の群れをかき分けるようにしてオアシスから出てきたのは、千鶴が待とうとしていた相手、百々 清世(ja3082)だった。
 清世は避けてくれる人にごめんねーと笑顔で礼を言いながら千鶴の前までやってきた。しかし千鶴は朝の挨拶をするやいなや、腕時計に視線を落とす。あれ、と清世が首をかしげた。
「今からもう帰りの時間の心配?」
「あんまり早いと寝坊するゆうて待ち合わせを遅めにしたのに、私より先に来とるから……私が時間を間違えたんか思って」
「ああ、そういうこと。暑い中、女の子を待たせるわけにいかないでしょー。頑張って起きたんだからほめてほめてー♪」
 そう言って、清世はことさら頬を緩めて、そのままあくびした。朝が苦手なのに頑張って起きたのだろう。
「あ、そういえばちゃんと俺とデートするって許可取ってきたー?」
 するりと話題が変わった。千鶴が清世を見ると、清世はやはり笑った。なので、千鶴も頷いた。
「うん、百々さんと買い物行く言うてきたよ。気をつけていってらっしゃい、って」
「俺ってば信頼されてるなぁ」
「百々さんは? 言うてきたん?」
「俺は言ってないけど、まあべつに怒らねぇでしょ」
「はいはい、信頼されてるゆうんね」
 ふたりは会話を続けながら、連れだって、すぐそこに建つファッションビルへと向かう。その後ろ姿は仲の良いカップルそのものだ。
 ……ただし、手をつないだり腕を組んだりしないことをのぞいて。彼らのどちらにも、既に決まった相手がいるのだった。
 デートなのかそうでないのかと問われれば、少なくとも清世は笑顔でデートだと答えるだろうが。

 ◆◆◆

 目的地に到着した途端、千鶴は遠い目をして途方に暮れた。
 そこは女性用の水着売り場だった。季節物で今が売り時とくれば、商品の種類、量だけでなく、ディスプレイや店員まで、力の入りようが違う。
 会計までは控えていてもらうよう、清世は南の島の住人と化した店員にお願いした。ただでさえいっぱいいっぱいなのに、横から口を出されては決まるものも決まらない。
 それから千鶴に向き直ると、ずらりと並ぶ水着を前にいまだ立ち尽くしていた。
「百々さん……どれも鮮やかすぎて……どれがえぇと思う?」
 いつもと違って小動物のような雰囲気を漂わせている千鶴は、とりあえず色々見てみようという発想すらできないようだ。
 清世の脳裏に「このまま眺める」という選択肢が浮かんだのは仕方のないこと。しかしそれでは時間がいくらあっても足りないので、先に進む道を示すのもまた致し方ない。
「可愛いから何でも似合うと思うよー」
 無難で面白みのない水着につい伸ばされた手を遮って、清世は千鶴の鼻の先に自分の顔を近づけた。するとそれまで戸惑っていた千鶴の焦点が、なかば強制的にではあるが、清世に定まった。
「でも、折角だから自信持って着られるのがいいよねー、あそこにあるビキニのさー、パレオ? スカート付きのやつとかいいんじゃない?」
 指で示すとともに顔も動かして、誘導する。その先では麦わら帽子をかぶった水着姿のマネキン2体が誇らしげに胸を張っていた。どちらもビキニ姿だが、1体は足首まであるパレオ。もう1体はフリルのついたスカート。
「……確かにビキニでもスカート付きならえぇかな」
 女性が恋人に見せる水着とくれば、その選択には気合が入るとされている。しかし現実問題、過度な露出は羞恥心を呼び覚ますものだ。
 清世から適度なバランスを提示されて、無意識に強張っていた気持ちが落ち着いたのだろう。千鶴の肩から無駄な力が抜けていった。

「そういえば、なんで彼氏と買いに行かねぇの?」
 何度目かの試着室入りの際、ふと気になった清世はカーテン越しに尋ねてみた。
「そやね……私はファッションはわからんし、あん人に聞いてもどれも良いと言いかねんし。第三者の意見貰って、あん人を少し驚かそうかと」
「ふーん」
 一般的に第三者となるのは同性ではなかろうかと考えて、やめた。今が楽しいから、同行者に自分を選んでくれたことを素直に喜ぼう。
 シャッ、と音を立ててカーテンが開いた。
「あの……どうやろか」
 薄水色の、上は正面に共布リボンのついたホルターネック、下は大ぶりなフリルのスカート。色白ですらりとした手足と腹部がよく映える。
「お、いいんじゃない? これならあいつも喜ぶでしょー」
 背中側を見せるためにくるりと回ったところ、スカートもふわりと広がった。清世がうんうんとうなずきながら親指を立てる。千鶴はひとつ息をつくと同時に、口元がほころんでいた。

 ◆◆◆

「なんや疲れたわ……」
 購入した水着入りのショッパーを手にする千鶴には、明らかな疲労の色が見てとれた。達成感はあるものの、といったところだろう。
「じゃあ甘いものでも食べにいこー? 上の階にパーラーあったはずだから」
「そやね、そうしようか」
 売り場を出てエスカレーターに向かいながら、そんな会話を交わす。案内板を確認すると確かに、最上階のレストラン街にあるようだ。ふたりは躊躇することなく移動した。
 ひんやり冷たいデザートとあって、レジには軽く列ができていた。テイクアウトもできる店なので今は先払い方式になっており、買うものを決めてから並んだほうが良さそうだと、メニュー一覧が掲示された店頭の立て看板を注視する。看板でひときわ大きな写真が掲示されているのは、どうやら季節の限定品らしい。
「夏限定マンゴーパフェだって、これにしようかなー。あ、一緒のにする? 違うのにしてあーんってしようか?」
「折角やしね、違うのにする。私はパインで」
 ふたりとも決まったのでレジに並ぼうと顔を上げた千鶴。すると清世が満面の笑みを浮かべていた。
「そっか、俺とあーんしたいんだね?」
「そういうわけやないから」
 しかし千鶴はさらりと否定した。表情も特に変化しない。
「ちぇー。じゃあ俺が買ってくるから、席取りよろしくねー」
 とんがる唇。そのままレジの列に並びに行った清世は、さすがというかとても自然だった。客席を見渡せば、ほぼ満席に近い。千鶴も納得するしかない分業だ。
 タイミングよく、手近な2人がけのテーブル席があいた。迷っていてはあっという間に埋まってしまうだろう。小走りで近づき、さっと座る。
 待っているのはもどかしかったものの、買った水着にどんな感想が向けられるかを想像していたら、割と早く時が過ぎていたようだ。トレイがテーブルに置かれた音で顔を上げると、清世が着席するところだった。
 小さなテーブルを挟んで向かい合う。トレイの上には、異なるカットフルーツが盛られたパフェがふたつ。
 早速食べてみると、人と暑さと水着に揉まれたゆえの疲労がじんわり溶けていく感じがした。
「百々さん、これおいしいから味見せえへん?」
 千鶴から差し出されたのは柄の長いスプーンで、乗っているパインがさあどうぞと言っているように見える。虚を突かれたのか、清世は一瞬動きを止めたが、すぐに再起動してスプーンに食いついた。
「本当だ、うまいね。酸味と甘みのバランスっていうの?」
「そやろ?」
「こっちも食べてみなよ、宇田川ちゃん。ほら、あーん♪」
「……」
 笑顔で差し出されたスプーンに、けれど千鶴は一瞥をくれただけで、食いつきはしなかった。
「次は何処行こうかね」
 素知らぬ顔で話を変える。
「俺も今聞こうと思ってたんだ」
 清世も深追いはしなかった。スプーンは清世自身の口に運ばれた。
「どこに行こうか。服? アクセショップ?」
「百々さんが行きたいお店に付き合うわ。私は、今日の目当てのもんは買えたから」
「そう? んー、それなら、とにかく気になるところに片っ端から行こう。いろいろ見て回るだけでも楽しいよー」
 でもまずはこのパフェを堪能してからね、ともうひとくち。千鶴もうなずく代わりに手を動かした。
 しばし言葉ではなく表情でパフェのおいしさを語る時間が続き、
「ねー、宇田川ちゃん」
 先にたいらげた清世が口火を切る。
「デートうまくいくと良いねー。で、また俺ともデートしてくれると嬉しいなー」
 にっこり。そんな効果音が浮かんでいるような気がするほど目を細めて、清世は告げる。
 千鶴はすぐには答えない。最後のひとくちを飲み込み、食べ終わり、静かにスプーンを置いた。
「楽しそうやけど、また許可をもらわんとね」
 そして微笑を浮かべる。まっすぐに、清瀬の目を見て。
 清世ももう一度微笑んだ。今度こそ、今日一番のと言っていい笑顔だ。
 そう、今日という楽しい日はまだ終わっていない。ふたりはトレイを持って席を立った。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja3082/百々 清世/男性/外見年齢:23歳/インフィルトレイター】

【ja1613/宇田川 千鶴/女性/外見年齢:22歳/鬼道忍軍】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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言の羽です。この度はご依頼ありがとうございました!
どんな水着が似合うのか、最近はどんな水着があるのか、楽しませていただきました。
ご期待に添えていれば幸いです。
アクアPCパーティノベル -
言の羽 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年08月18日

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