『クラゲの舞う中で 』

ランベルセ（jb3553）＆百々　清世（ja3082）

●
　学園の図書館は空調が利いて夏の暑い日中でも涼しい。
「ん〜、何か……」
　空調が利いて涼しい。
「あ〜、なんと言うか……」
　涼しいったら涼しい。
「暇だー」
「暑っくるしいな、おい！」
　突然だが、図書館内で雑誌をぴらぴら適当にめくって立ち読みしていたランベルセ(jb3553)は、背後から聞こえるぐだぐだな声の主に振り返って激しく突っ込んだ。
「えー……」
　これに気付き、突っ伏しうだっていた人物が顔を上げる。
「だって、暇じゃねー？」
　百々　清世(ja3082)である。ランベルセの知人のようで。
「暇なのはお前だけだ」
「じゃ、デートなー」
「あ？」
　ランベルセの橙の瞳が引き絞られた。唐突な言葉に、何言ってるんだこいつ、と言わんばかり。
「俺に気があるのか？」
　眉を寄せてぐぐいと清世のほうに迫る。心底意味不明のようで。
「前にデートに連れて行けっていってたじゃん」
「ああ？」
　ぐでー、と再び机に脱力しながら清世は言うが、当のランベルセの方はそんなん知らねー状態。哀れみの視線を投げ、「休む間もなく遊び回って気でも病んでるのか…？」とか眉を捩じる。
「何でベルセー？　ってのは適当かなー」
　清世も心底意味不明といった感じで眉をへにょり。それもそのはず。ランベルセは以前、清世にデートに連れて行けと要求したことがある。
「適当はお前だろ？」
「最近顔見てない気がしただけ」
「……」
　適当に適当と言われカチンと来たが、脱力したままの格好でじっと見返され言葉を失ってしまった。
　ここでランベルセ、自らの持っていた雑誌に気付く。
「月刊ヤギ〜夏の浴衣特集」
　と、タイトル。
　改めて清世に振り返る。
「わかった、付き合ってやる。浴衣買いに行きたいんだけどショッピングモールは……」
「だめー、前行ったじゃんー。海とか花火はー」
「イヤだ！　だったら水族館」
　ここで、ふうん、というような清世の視線。
「ど、どっかで見たデートスポットだ文句ないだろ？」
――がた。
　清世、無言。
　うんともすんとも言わずに立ち上がるだけ。さらにランベルセが声を掛ける。
「お前がバイク出せよ。エスコートされたきゃ女装でもして来い」
　この声には清世、反応した。
「えー、お前が出せよー」
　暑いよー、面倒ー、とかごちゃごちゃ言い始める。
「俺の運転はやさしくねーぞ？」
　ドМかお前、といった感じでねめつけた。
「まあ別にいいけどー」
　脱力しながらランベルセの視線を受け流した清世、七分丈の袖からさらした腕を泳がせるように動かしぐだってた時に遊ぶだけ遊んでしまった長い前髪を流した。ちら、と切れ長の目から視線を流す。
「決まりだな」
　ランベルセ、気もないように言う。
　清世についていく背中に黒い翼が気分良さそうに一瞬ぱたついてはいたが。


●
――ファーン……。
　空は高く青く、そして流れる岩肌の海岸線から見える海はどこまでも青かった。
「気持ちいーな」
　ライムグリーンのバイクにタンデムして、水族館。
　適当に羽織ってへそとか出してるいい加減な服装の肌に、吹きつける風が心地いい。
「んー？」
　前で運転する清世が聞いてきた。風の音で何を言ったのか聞き取れなかったのだろう。
――カ・カン。ファファーン。
「もっと飛ばせって」
　ランベルセ、今度は後部座席から身を前に伸ばしてはっきり分かるように言った。
「えー、無茶。ここコーナー多いしー」
　清世、スムーズな減速やら加速で忙しい。おかげでランベルセは比較的快適に後部座席に収まっていられるのだが。
　そんな清世の苦労も知らず、ふんとスピードアップへの楽しみを捨て海岸線に目をやるランベルセ。
　不意に、対向車線の車がぶおんと通り過ぎた。
　ボックスタイプで大勢若者が乗っていた。わいわいやってそうだ。女性が多く、男が少ないように見えた。
　もしかしたら水族館の帰りかもしれない。
「そーいやベルセー、水族館好きなん？」
　車体を倒して加速。コーナーを出てしばらく直線が続くところで清世が聞いてきた。
「……」
　ランベルセ、上の空。
　あるいは、すれ違った車が気になっていたのかもしれない。
「ん？」
　清世の方は顔を上げた。
　車道横に水族館の看板が出ている。イルカのイラストも一緒だ。
「おい、あれやってくれ」
　不意にランベルセが腕を伸ばし看板を指差した。イルカはジャンプしている。
「無茶言うなー」
　ぱぁん、と加速する清世。
　ジャンプの代わりにスピードアップでリクエストに応えておく。ランベルセ、少し目を細めている。嬉しそう、なのか。当る風が先ほどより強い。これまでの人生、そんな場面もあったかもしれない。
　水族館は、もうすぐ――。


●
　そして入り口。
　夏らしく家族連れが多い。若いカップルも目立つ。一眼レフのカメラを提げた撮影の愛好家の姿も。
「じゃ、行くぜー」
　入場して左に行こうとした清世だが、ランベルセは右に行こうとしていた。
「あ？　何でそっちだ？」
「えー、イルカのショーがあるらしーぜー？」
　どうやら左に行くとイルカショー会場らしい。もう始まる時間間際で、すでに人がいっぱいだ。
「えーでもせっかくじゃねー」
「知るかうるせー。文句言うなら勝手に帰れ」
　不満そうな清世に背を向け館内奥を目指すランベルセ。これには清世、流石に溜息をつく。
「水族館は初めてだ。好きにさせろ」
　ランベルセ、清世が付いてきているのを感じて背中越しに言う。
「好きだねー」
「好きって何だよ」
「いま好きにしてるだろー」
　つかつか歩きながら右に左に水槽を通過する。
「知るか」
「ベルセー水族館好きなん？」
　清世、前を行くランベルセにもう一度聞いてみた。
「魚は非常に面白い」
「だったら……」
　いままでも熱帯魚や鮫などの水槽の前を通っている。魚たちは呑気にゆうらゆうらと漂っていたり尻尾を大きく振って向きを変えたりと魅力的な動きをしているが、まったく足を止めるわけでもなく。
「……特にクラゲと深海魚」
　ランベルセの言葉には続きがあったようで、これを聞いて清世も納得した。
　目的が違う。
　というか、ちゃんと目的があったらしい。
「俺も好きー、クラゲとか超かわいいよねー」
　これを聞いて清世、歩く速度を上げて前に出た。館内は徐々に狭く、やや暗い演出になっていく。
　やがて――。
「おー」
　小さなクラゲ水槽の並ぶ壁面に。
「うじゃうじゃいるな」
「見ごたえあっていいんじゃんー」
　半透明の体に、演出の薄紫色をしたライトが当っている。ふわふわとうごめき浮遊する姿と相まって幻想的だ。
「何でこんなにいるんだ？」
「ちっちゃいからじゃね？」
　クラゲは群れをなして、どこに向かっているでもなく体を大きくしたり小さくしたり、それかと思うと触手を細かく扇動させて泳いでいる。
「でかいのはいねーのか？」
「いないねー」
　ふん、と反り返るランベルセに、べつにいいじゃん、と前屈みになり水槽に顔を寄せる清世。
「こっちはサカサクラゲだってー」
「さっきのミズクラゲも逆さの奴いただろ」
「えー、別に逆さになってもいいだろー」
「……こっちはさらに小さいな」
「可愛いよねー」
「それにしても数が多いな」
「いいんじゃない、別に〜」
　ごちゃごちゃ言いつつかなり堪能している。
　そしてランベルセ、改めて思う。
（すれ違った車、中にごちゃごちゃいたな）
　気付けば、周りに人はいない。
　遠くから歓声が聞こえるような気がする。イルカのショーが盛り上がっているのかもしれない。
「それにしてもこれだけいて、よくぶつからないな〜」
　目の前では清世がまったりしている。
　不思議な人物だ。
　彼は人々に揉まれて、ぶつからない。衝突しない。
「……おまえ、何人も恋人がいて疲れないのか？」
　あ、と思ったがもう遅い。
　物思いに耽るあまり、ついつい口に出してしまった。
　そんなランベルセを振り返った清世がまじまじと見ている。
「いや……」
「一人だけ、の方が疲れるよ」
　うろたえるランベルセに真顔で答える清世。少し、寂しそう。クラゲのような透明感がある。
　が、それは一瞬だけ。
「あ、これ内緒な？　女の子怒るから」
　微笑して、水槽に向き直る。
「ふぅん」
　ランベルセも元に戻る。
　そして改めて思う。
（百々は百々、か。……百々がいて百々で良かったと思う事は……）
　前屈みになってクラゲを目で追う背中を改めて見る。
「……特に無いな」
　今度の独り言は、口の中だけ。清世は気付かない。
「べるせー？」
　逆に、背中越しに清世が聞いてきた。
「あぁ？」
　生返事をすると、振り返った清世の瞳は淡く陰り、それでいていたずらそうだった。
　顔を寄せてくる。
――ちゅ……。
　そのままランベルセの唇に軽く……いや、それでいて少し音が出てしまうようなキスをした。
「……この、キス魔」
「デートだし。暗いし、見えないよ」
　ランベルセが唇を尖らせたのは不満からなのだが、まるでねだって尖らせたとでも断定するかのように清世は再び唇を重ねた。もちろん、クラゲは見ているが。
「へー。なら後悔させてやる」
　下から身を伸ばしていた清世に本格的にのしかかるように前に出るランベルセ。右手で清世の顎を支え、本格的にぶちゅー。
　クラゲ水槽を照らす薄紫色の淡い照明が、猫のように伸ばした背中と翼のある背中のキスシーンを薄く闇に閉じていた。


●おまけ
　そしていつの間にかクラゲ水槽付近も賑やかに。
「イルカのショー、終ったようだねー」
「それより次は深海魚だろ」
　周りを見て言う清世に、次の目当てを探すランベルセ。
　が、ない。
　もしかしたら深海魚のコーナーはないのか？
「あ、ここ」
　おっと、清世が発見した。
　ところが。
「あぁ？　どこが魚だ？　タカアシガニじゃねーか」
「深海生物って説明あるだろー」
　どうもお気に召さないようで、まるでタカアシガニの甲羅のような渋面を浮かべて清世に顔を近付けるランベルセだった。
　あはは、とその横を入館している子供たちが駆けていく。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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jb3553／ランベルセ／男／２５（外見）／陰陽師
ja3082／百々　清世／男／２３（外見）／インフィルトレイター

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ランベルセ　様　＆　百々　清世　様

　初めまして。ＯＭＣライターの瀬川潮です。
　なんだか慣れてらっしゃるようでいろんなところでしてらっしゃるんだろーなー、というわけで幻想的なクラゲ水槽をバックにしたキスシーンを（どういう表現）。
　では、日常空間から夏の水族館まで一連の流れを堪能してください。

　この度は独特な関係で楽しそうなご発注、ありがとうございました。

アクアPCパーティノベル

瀬川潮

エリュシオン

2014年08月19日