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『夏のお嬢さんたち 』
天川 麗美ka1355)&Uisca=S=Amhranka0754

1.
 クリムゾンウェストの夏は暑い。
 ギラギラと照りつける太陽を避けるように、屋根の下で涼みつつもみんな頑張って働いている。
「シスターはこんなに暑いのに、どうして汗をかかないんですか?」
 教会のシスター・天川 麗美(ka1355)は、教会に参拝に来ていた女性にそう訊かれにっこりと笑う。
「皆さんの幸せを願いお世話をしていると、不思議と汗をかきません」
 優しげなその笑みに、女性は頷いた。
「シスターの鏡ですね。見習わないと」
 和やかなそんな雰囲気の中、突如教会の扉を開けて走り込んできた者がいた。
「麗美さん! れーみーさーん!」
 金色の長い髪を揺らしながら走ってきたのはUisca Amhran(ka0754)。手には何やら紙を持っている。
「うるさ‥‥ゴホンっ‥‥お静かにお願いします。お話はこちらで」
 一瞬見せた裏の顔を掻き消す勢いで、麗美はUiscaをスマートなエスコートで奥の小部屋へと通した。
「っていうかぁ、教会で騒いじゃダメだしっ! ‥‥でぇ、どおしたのぉ? イスカ」
 ササッとUiscaを椅子に座らせて、麗美は声を落として素の顔を見せた。先ほどまでのシスター・麗美はどこへやら。
「あ、そうでした! これ、これ! ナガシ・スメン〜!」
 Uiscaは手に持っていた紙切れを麗美に差し出した。
「ナガシ・スメン〜?」
 紙切れを覗き込むと確かに、こう書かれている。

『流し素麺』

「イスカぁ‥‥これ『ナガシ・スメン』じゃないしぃ‥‥。これはぁ『ナガシ・ソウメン』って読むんだよ」
 きょとんと真ん丸な瞳で麗美を見るUisca。無理もない。Uiscaは今までエルフの巫女として生きてきた。外の世界に触れてから、まだそう時間が経っていないのだ。
 麗美はそんなUiscaに持っている限りの知識を分け与える。
「流し素麺っていうのはぁ‥‥ん〜、まぁ、アレよね。麺がぁ、ピュ〜ッて流れてきて・パッてとって・ズルズルってカンジぃ?」
「ぴゅ〜っで、パッで、ズルズルですか?」
 麗美の説明をもとにUiscaは流し素麺を想像してみる。
 ‥‥やっぱりよくわからない。
「折角だしぃ、行ってみる?」
 特徴的な耳まで垂れ下げて悩むUiscaに麗美は笑う。するとUiscaはぱぁっと顔を明るくした。
「行ってみたいです! 麗美さん」


2.
 Uiscaが持ってきた紙切れには、流し素麺の店の場所が記されていた。
 麗美とUiscaはその地図を頼りに散歩がてら歩くことにした。日差しが強かったが、歩いていくうちに木陰が多くなっていく。やがて道の傍には川が寄り添い、キラキラと光る魚を追いかけたりしながら楽しく歩いた。そうこうしているうちに、川沿いに小さな入口と看板が見えてきた。
 『流し素麺処』
「意外と‥‥ひっそりしてますね」
 きょろきょろと不安げに辺りを見回すUisca。気持ちはわからなくもない。辺りは川のせせらぎと葉擦れの音が聞こえるほど静かで、人の気配がない。
「もしや、これは‥‥か弱き乙女2人をかどわかすための罠だったりするカンジぃ!?」
「わ、罠!? どこっ、どこですっ!?」
 麗美の呟きにUiscaが驚き、怯える。
 しかし、それは杞憂に終わる。店の入り口に女性が現れて「いらっしゃいませ」とにこやかにお辞儀した。
「麗美さん、『いらっしゃいませ』だって! はーい、いらっしゃいまーす!」
 Uiscaが嬉しそうに麗美の手を引き、女性の後をトコトコとついていく。
「麗美さん! 床の下を川が流れてますよ!」
「うわ〜、すげっ‥‥ゴホン‥‥素晴らしいですね」
 店の中は川の上につくられており、床の下を川が流れているのがわかる。少し足元が怖い感じもするが、涼しさは外の比ではない。
「こちらの席でどうぞ」
 2人の席の前には凹型の長い筒が川の奥の方からずっと伸びている。座って少し経つと、箸と汁と具材の載ったお盆が2人の前に置かれた。Uiscaは不思議そうに一通り眺めて、次にどうしたらいいのかわからずに麗美を見る。
「麗美さん、これをどうしたら‥‥?」
「そ、そうねぇ‥‥た、多分ここに流れてくるカンジじゃないかなぁ?」
 箸を持った手で麗美は目の前の筒を指差す。筒の中にはちょろちょろと水が流れている。
「あ! なにか白いものが!」
 Uiscaが叫び、麗美もそちらを慌てて見る。確かになにか白いものが流れてくるのが見える。
「あれが流し素麺!」

 ‥‥ここでいうのもなんだが、麗美もそれほど流し素麺について知っているわけではない。リアルブルーから伝わった食文化という程度の知識だ。見るのも初めて。知識のほどはUiscaと五十歩百歩である。
 しかし! ここでまさか羨望の眼差しでこちらを見つめるUiscaの期待を裏切るわけにはいかないのだ!

「ていうか、臨戦態勢だし! ドンとこいってカンジぃ!」
 箸を構えて白いものが流れてくるのを待つ。要はこの箸でぴゅ〜ッと流れてくるアレをパッと掬い取ってズルズルっと口に持って行けばいいだけの話なのだ。
「そぉれっ!」
 流れてくる瞬間を捕えた! ‥‥つもりだった。
 しかしつるりと箸の間をすり抜け、さらに流れに乗って遠くへ遠くへと流れていくソレ‥‥。
「い、今のは練習だしぃ‥‥そう、練習!」
 悔し紛れのセリフを口にして横に座るUiscaを見ると、Uiscaは箸の持ち方に苦戦していた。
「こう‥‥? あれ? 違う、こうかな??」
 それでも、にこにこと笑顔が絶えず楽しそうなUiscaに麗美は少し笑うと丁寧に箸の持ち方を教えた。


3.
「私、箸の使い方覚えましたよ! ほらっ!」
 箸で薬味の胡麻を一粒掴んだり、氷を掴んで見せたUiscaは素麺を掬う気満々。やる気に満ち満ちている。
「練習もいっぱいしたしぃ、ていうか、これからが本番なカンジぃ?」
 逃した素麺は数多いが、麗美も何度かのチャレンジで素麺を掬うコツがつかめてきた気がする。‥‥あくまで気がする。
「あ、麗美ちゃん! 来たよ!」
「イスカ、ちょーチャンスだしっ! ガンバッ!」
 流れに乗って素麺がつるつるとUiscaたちの元へと‥‥。
「!! 取ったよ! 取れたよ!」
「イスカ、やればできる子っ!」
 ひとすくいの素麺に、2人は手を取り合って喜ぶ。次は麗美の番だ。
「先に箸を立てておけば、いいんだしぃ‥‥それっ!」
「麗美さん、すごいよ! いっぱい取れました!」
 Uiscaよりも多めの素麺を掬い上げ、麗美はふふっと笑う。
「麗美、能ある鷹は何とやらってヤツだからねェ」
「麗美さん、『何とやら』なの?」
「‥‥『能ある鷹は爪を隠す』っていうの。麗美は『何とやら』じゃないしぃ」
 Uiscaの疑問に答えながら、2人はようやく掬い取った素麺を一口頂く。
「冷たーい! 冷え冷えですね!」
「夏にこの冷たさは嬉しい感じだよねぇ」
 頑張って取ったからか、はたまた友人と楽しく取ったからか。素麺は大変おいしく感じられた。
「よぉし、この調子で頑張りましょうね」
「ていうか、食べまくろぉー!」
 おー! っと、気合いを入れ直してUiscaと麗美は素麺を掬っては食べ、掬っては食べる。
 素麺流しマスターを自称してもいいくらいに2人が食べまくった頃、ふと色の違う麺が流れていることに気が付いた。
「ねぇ? 麗美さん、あれはどうして色が違うのかな?」
「え? ん〜‥‥運試し的な?」
「運試し?!」
 実のところそんな大した理由で色がついているわけではないし、麗美は正直自分がそうであったら楽しいだろうなと思ったことを言ったまでだった。
 しかし『そうであったらいいな』と思ったことがUiscaの興味を引いてしまったことは、同じ女の子としては至極当然だったのかもしれない。
「私、取ります! 色つきの麺をとって運を試しますよ!」
 真剣に流し素麺に挑むUiscaに麗美は「ごめんねぇ、ウソってカンジぃ?」とは口に出せなくなった。心の中で「ごめん、ていうかゴメン」と繰り返してはみるが、純粋に流し素麺に向き合うUiscaに心が痛む。
 神よ、お許しください‥‥!

「麗美さん! 取れました!」

 ‥‥あぁ! 心が! 心が痛い!! その眼差しすら痛い!


4.
「麗美さんも‥‥あ、ほら、流れてきたよ!」
 獲得した色つき素麺を嬉しそうに揺らしながら、Uiscaは麗美のために次の色つき流し素麺が流れてきたのを告げた。
「う、うん。麗美も取るよォ」
 こうなったら麗美も色つきの流し素麺をキャッチするしかない。せめてもの罪滅ぼしだ。
 きらきらとしたUiscaの瞳が麗美の箸をじっと見つめる。ものすごいプレッシャーだ。
「てぇい!!」
 掛け声とともに麗美の箸が光る。飛び散る水しぶき。煌めくUiscaの笑顔。
「麗美さぁぁん! すごい、すごいよ!」
 満面の笑みと拍手でUiscaは麗美を賛美する。
「あ‥‥ありがとうねぇ」
 箸にぶら下がる色つき素麺と眩しいほどのUiscaの笑顔に麗美も思わずつられて笑顔になるのだった。
「クリムゾンブルーの皆が、元気でいられますように」
 そんな願いを口にしながら、Uiscaはつるんと色つき素麺を口にした。
「‥‥ゴホン‥‥」
 小さな願いを口に、麗美も色つきの素麺を食べた。
 
「麗美さん、美味しかったですね」
 流し素麺を堪能した帰り道、Uiscaは楽しそうにステップを踏みながらそう言った。
「楽しかったね〜。っていうか、また来ようね」
「今度はクリムゾンブルーの皆も一緒に来たいですね!」
 軽やかなステップに合わせ、Uiscaは歌いだす。
「さぁおいでよ Welcome to world♪ そう行こう Let's go together♪」
 舞台で一緒に歌った歌を。
「君も一緒に ユメ見よう――♪」
 麗美も一緒に歌いだす。木漏れ日の中にこだまするハーモニー。今年の夏の思い出が一つできた。

「ところで、麗美さんは何をお願いしたんですか?」
 唐突に歌を止め、Uiscaは麗美に訊いた。
「‥‥ていうか、それはナイショだしィ」
 言えない。絶対にUiscaには言えない。

 願わくば、イスカが色つき素麺のデマカセをすっかり忘れてくれますように‥‥。 
 

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 ka1355 / 天川 麗美 / 女性 / 20歳 / 機導師

 ka0754 / Uisca Amhran / 女性 / 16歳 / 聖導士

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 天川 麗美 様
 Uisca Amhran 様

 こんにちは、三咲都李です。
 この度はアクアPCパーティーノベルへご依頼いただきましてありがとうございます。
 初めての流し素麺、コメディ風味。
 夏の暑さを一瞬でも忘れて楽しんでいただければ幸いです。
アクアPCパーティノベル -
三咲 都李 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2014年08月19日

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