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『情熱のウェディングドレス! 』
エスメラルダ・ポローニオ3831)&アリサ・シルヴァンティエ(3826)&サクラ(3853)&(登場しない)
●きっかけは1枚のチラシ
 時は6月――その日は終始心地よい風が吹き、過ごしやすい日であった。街の食堂の中には、店の外にもテーブルを並べている所があったが、今日みたいな日であればそこに座って食べるのも悪くないと思わせるには十分な気候だった。
 実際、今日はどの店も外のテーブルは8割方座席が埋まっている。その中の1軒、外のテーブルにほぼ食事を終えていた女性3人が座っていて――。
「そうだ。そういえば今日、向こうの通りでこんなのもらって」
 お腹が膨れ料理から意識が外れたかして、ふと思い出したかのようにエスメラルダ・ポローニオは1枚のチラシを取り出して言った。
「あら……」
「……ああ、もうそんな時期よね」
 そのチラシを一目見るなり、アリサ・シルヴァンティエとサクラがそう口々につぶやいた。そのチラシに記されていた内容とは、ドレスアップコンテストの開催と出場者を募るものであった。ドレスアップコンテストといっても、普通のそれではない。6月というこの時期ゆえの、ジューンブライド絡みのドレスアップコンテストである。ここ聖獣界ソーンにおいても、やはり6月は花嫁の季節なのだ。
「え、2人とも知ってたの?」
 目をぱちくりして、アリサとサクラを交互に見るエスメラルダ。
「あの、後援の所を見てもらってもいいですか?」
 アリサが少し苦笑いを浮かべ言うと、エスメラルダはすぐさま後援の所に目をやった。
「あ」
 短く声を発しエスメラルダの動きが止まる。後援の所にはいくつか書かれているが、その中にアリサが所属する宗派の教会連もあったのである。少し大きめに文字が記されていたことからしても、後援の中でも力を持っているのであろうとは容易に想像がつく。
「そういう訳でして」
「……あー、それは知ってて当然だよね。じゃあサクラは?」
「私?」
 エスメラルダが話を振ると、サクラは少し思案してからそれに答えた。
「んー……前に優勝したことがあって」
「え」
 絶句するエスメラルダ。現役のモデルにして歌姫のサクラであるからして、こういったコンテストの類に出たのであればほぼ間違いなく優勝争いに加わるだろうなとは思っていたのだが、よもやすでに出場経験があって、しかも優勝していたとは思ってもみなかったのだ。
「……このコンテストって、平気で『該当者なし』が出るコンテストだったよね……?」
 確認するかのようにエスメラルダが言うと、アリサとサクラはこくこくと無言で頷いてみせた。
 世にドレスアップコンテストは数あれど、今3人の話題に上っているこのコンテストはある意味別格だ。普通のコンテストであれば、その時の出場者の上から順番に順位付けをしていくものである。しかしこのコンテスト、3位以内に入るハードルが高いことで知られていて、3位以内に『該当者なし』が含まれることも何ら珍しくはない。酷い年には3位以内どころか4位まで『該当者なし』になり、その年の最高位が5位だったこともあったという話である。
「あ、でも、それだけ厳しいからこそ、ドレスやタキシードなんかの貸し出しもしっかりしてるのかな……」
 思案顔で言うエスメラルダ。このコンテストにはいくつか部門があって、例えばシングル部門やカップル部門などが存在する。メインとなるのはコンテストの趣旨からして当然女性だが、カップル部門ともなれば男性だって会場の舞台に立つ訳で。そのため、必要となる物は男女問わず各教会から貸し出してもらえることになっており、あらゆるデザインやサイズの物が揃うと言われている。まあ、自前で用意出来る猛者であれば、全部自前で用意しても何ら問題はないのだが。
 余談ながら――そういうことが出来るのも、各教会に貴族やら大商人などからコンテストのために寄進があったりするからであろう。3位以内に入るために高いハードルを持つコンテストゆえに自然発生的に一定の価値が生じ、このコンテストに関わることが名誉になったり宣伝になったりという効果をもたらすようになったからだ。考えてみるといい、優勝者が自分の所が扱っている生地を使ったドレスを纏っていたとなれば、どれだけ注目を浴びることになるか――閑話休題。
「アリサは関係者で、サクラは優勝者だから出れないんだよね。じゃあ、あたしが出て……みようかな?」
 ややあって、エスメラルダが冗談めかしてそんなことを言った。口調こそ冗談めかしてはいたが、実際の所、内心ではそれなりに本気だった。何せサクラの影響で、最近のエスメラルダはお洒落に目覚め始めていたりする。ドレスアップコンテストの舞台というのは現在の自分を知るという意味でも、他者のお洒落に触れるという意味でも、悪くない場所ではないだろうか。と、その時――。
「プッ……クスクス……」
 どこか小馬鹿にしたかのような笑い声が、エスメラルダの耳に届いた。無論それを発したのは、目の前に居るアリサやサクラなどではない。
「出てみようかな……ですって。いかがですか、お嬢さま?」
「あの娘じゃとても無理だわ、何言ってるのかしら……」
「ええ、身の程知らずとはよく言ったものですわね……お嬢さま」
 そんなこそこそと小さな声で喋っているのが、1つ空けたテーブルの方から聞こえてくる。見れば、綺麗な衣服に身を包んだ女性が1人と、その取り巻きと思われる女性たちが何人か座っている。時折エスメラルダたちの方をちらりと見ては、顔を見合わせてクスクスと笑い合ったりしていた。明らかに、先程のはエスメラルダを小馬鹿にするやり取りである。
 お嬢さまと呼ばれている女性に、エスメラルダはうっすら見覚えがあった。確かどこかの豪商の娘であったろうか。何にせよ、その口振りからすると、その女性も今回のドレスアップコンテストに出場する予定なのであろう。
 その後も、エスメラルダたちに聞こえるか聞こえないかといったくらいの声で、揶揄するようなことを女性たちは喋り続ける。でもそれが、エスメラルダのことであるとは特定出来ないように喋っている。もし女性たちに文句をつけたなら、知り合いの話だと言ってしらばっくれることだろう。
「さ、そろそろ行きましょう。当日に向けて、色々と磨かなければなりませんもの」
「さすがお嬢さまですわ!」
「磨いても、何ら変わらぬ方とは違いますものね、お嬢さま」
 などと言い合って席を立ち去る女性たち。いつしか無言になっていたエスメラルダであったが、女性たちが立ち去った頃にはすっかり凹んでいて、表情も半泣きの状態となってしまっていた。
「…………やめておいた方がいいのかなあ…………」
 ぼそり、うつむき顔のエスメラルダがつぶやいた。先程の女性たちの心ない言葉を受け、心がかなり折れた状態のようだ。
「いいえ、やめるのはやめましょう」
 そんなエスメラルダに向け、アリサがきっぱりと言い放つ。
「そうね、やめるだなんてもったいないわよ」
 それに同意するようにサクラも言う。
「へっ?」
 エスメラルダが顔を上げると、アリサとサクラはにこっと微笑んで言葉を続けた。
「出場して――」
「――見返したくはない?」
 2人とも微笑んではいるが、その裏にはオーラのようなものを感じ取れた。それは、可愛い妹分に何をしてくれているんだ、という静かな怒りのオーラで――。

●磨けば光るのです
 そしてやってくる、ドレスアップコンテスト当日。会場となったのは、後援に名を連ねる教会連の中でも1、2を争うほどの大きな教会――余談だが、アリサの所ではない――の広場である。各部門の出場者もそれなりに居るが、見物人の方はそれを遥かに超える人数が居る訳で。やはりそれなりの広さを持つ場所が必要となるのは当然のことであった。
「エスメラルダちゃん、そろそろかしら?」
 客席から見ていたサクラが、そばに居たアリサに尋ねた。エスメラルダが参加したのは、当然ながらシングル部門であった。
「そうですね。先程聞いてきた所によると、中程の出番ということでしたから、次かその次かと――」
 とアリサが答えていると、ちょうど舞台にエスメラルダが登場した所であった。純白のウェディングドレスに身を包み、顔には普段は施さないメイクをきっちりと施し、手にはブーケ、頭にはエスメラルダの聖獣装具であるバニーティアラをつけている。そういえばどことなく、ホワイトラビットを思わせるようなコーディネイトになっているような気がした。そしてエスメラルダは、身体をぶれさせることなく舞台を歩く。
 前日まで、アリサとサクラによってしっかりと仕込まれていた。何しろアリサは、結婚式であれば無数に面倒を見てきている。どのようなウェディングドレスやメイクが結婚式に向いているかは、ばっちり把握している。サクラもサクラでコンテストの優勝経験があることもあって、舞台での歩き方やアピールの時の声の出し方もばっちり理解している。エスメラルダ自らの情熱に加え、この2人の情熱ある特訓を受けたのだ、下手な者に習うよりも身に付くことは間違いなく。実際、この舞台でのエスメラルダの見物人からの評判はなかなかのものであった。
 エスメラルダの出番も無事終わり、出場者全員が出終わった後、しばらくしてシングル部門の結果発表となった。舞台上に出場者が勢揃いする。その中にはエスメラルダはもちろん、先日の小馬鹿にしてきた女性も深紅のウェディングドレス姿で居た。
 10位から順番に発表され、件の女性が9位で呼ばれる。そして続く8位で――。
「8位、エスメラルダ・ポローニオさん!」
 何ということか、エスメラルダが8位入賞を果たしたではないか!
「やったわ!」
「やりましたね!」
 エスメラルダの名が呼ばれ、客席で喜び抱き合うサクラとアリサ。エスメラルダは晴れ晴れとした笑顔で舞台の前方へと出ていった。9位である件の女性はそれを見て、何とも言えぬ居心地の悪そうな表情を浮かべていた。ここに見事、エスメラルダは見返すのに成功したのであった。
 なお、今回のコンテストは3位以内に『該当者なし』が存在せず、それどころか同率3位で2人発表されるなど、近年まれに見るレベルの高い回であった。その中で8位に入ったエスメラルダは、上々の結果と言ってよいだろう――。

【了】
PCシチュエーションノベル(グループ3) -
高原恵 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2014年08月25日

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