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『Lucky? Unlucky? 』
猫野・宮子ja0024)&ALjb4583

 ガランガランと、掌サイズのベルが威勢よく鳴り響く。
「おめでとう〜。特賞、一泊旅行大当たり〜」
 テンションも高らかに、朗らかに告げる商店街のおばちゃんの前で。
 その、特賞を引き当てた猫野・宮子(ja0024)と、その買い物に付き合う形で居合わせたAL(jb4583)は、暫く状況が飲み込めずに呆然としていた。
 あら可愛いお嬢ちゃん本当に良かったわねえ楽しんできてねえこれも何かの縁だしこれからもごひいきにねーと等々マシンガンのごとくまくし立てながら目録を引き渡すおばちゃんの声が右から左へ流れていき。特等の実在にざわめく、福引の順番待ちの列に押し出され。良く分からぬままに流れ流されふらふらと商店街をさ迷い歩くことしばし。
「え、え〜〜〜〜!?」
 ようやく脳に理解が達した宮子は、手にした目録を改めて確認して素っ頓狂な声を上げた。
「こういう籤って当たる事あるんだねー……」
「ええ。凄いですね……でも、きっと宮子様の普段の頑張りが報われたのだと思いますよ」
「え? えへへ……そうかな……。ん、それじゃ、丁度いいしALくん、一緒にいかないかな?」
「え、ええ!?」
 宮子の返しに、今度はALが戸惑いの声を上げる番だった。一体、今の話の流れでどう、「それじゃ」になるのか。つい、執事たる振舞いも一瞬忘れて言葉を失うALに、宮子が再び口を開く。
「だって、ALくんもいっつも頑張ってくれるから……ね」
 にっこりと微笑んで言う宮子。その笑顔に、ALは益々胸が一杯になって言葉を継げなかった。何か返さねばとは思うものの、ろくな言葉が思い浮かばずに口をパクパクとさせることしか出来ない。
「……もしかして、メーワク?」
 そして、続く宮子の言葉に。
 テンパっていたALは、反射的に全力で首を横に振っていた。
「……ん、良かった。それじゃあ、一緒にいこうねっ」
 そう言って前に向き直り、上機嫌で歩き始める宮子の背中に、今更ALが「いや、それはまずくないですか」などと言えるはずもなかった。
 ……宮子を悲しませたくないから、じゃない。純粋に、ALが宮子と一緒に旅行に行きたいかと問われれば、行きたくない訳がない、そのことを自覚しているから。躊躇うのはただ、「いいんだろうか」という気持ちだけ。
 だけど。
 もし、宮子が言うとおり、これが、普段の自分の行いに対する褒美だというのなら。それに値すると、誰が認めなくても彼女が思ってくれるなら。
 ――そうして訪れた幸運を誰かと分かち合えるなら、彼女とがいい。
 素直に、ALは自分のその気持ちを認めていた。だから、スキップで歩く彼女の背中に、もう、何もいえなくて。

 かくして、幸運から舞い降りた二人の旅行がここに決定した。
 ああ、しかし。禍福は糾える縄の如し。人間万事塞翁が馬。幸運の訪れは、試練の開始でもあることを、このときの二人はまだ、分って、いなかった。




「わー! 綺麗だねー!」
 海水浴場に到着するなり、宮子が歓声を上げる。
 照りつける太陽。青空の下に蒼い海が煌びやかな光を放つ。
 日差しは肌を焼くほどに暑いが、冷たい水に素足をさらしたとたん、それすらも心地よさに変わる。
「いい天気でよかったですね」
 微笑むALの声を背に、宮子が元気よく海へと駆けて行く。買ったばかりのツーピース水着。背中で紐で結ぶタイプの、少し大胆な水着姿が、澄んだ海、揺らめく水面へと沈んでいく。
「……ぷはっ。ALくーん、気持ちいいよー!」
「はい! 今参りますね」
 水面から顔を出し、手を振って招く宮子に、ALも海中へと進んでいく。
 夏休みの海水浴場。だが、福引でただで当てたとあって、日付的には一番人気の無い時期なのだろう。それほど混み合ってはいない。
 思い切り泳いだり、あるいは砂を盛って遊んだりと、しばらくは時を忘れて海を堪能する二人。
 普段は真面目なALも、口調こそはいつも通りの執事然としたしっかりしたものであったが、表情には時折、年相応の少年らしさが垣間見られていた。

 そうして。『福』にまみれた二人の楽しい旅行に、最初の『禍』が訪れたのは。
 海の中、寄せては返す波を楽しみながら、談笑に夢中になっていたときだった。

「そう言えばね、このあいだ……」
 学校のこと。部活のこと。……あるいは、戦いの日々のこと。そんな、たわいの無い言葉が突如さえぎられたのは。別に気まずい失言とかそう言ったものではなく、ただ物理的な障害。不注意で接近に気付かなかった大波を頭から被ることになったという、それだけの事だった。
「わぷっ!? 凄い波だったねー」
 我に返った宮子が、そんなハプニングも楽しいよね、とばかりに笑い声を上げる……が。ALはまったく、笑う気配は無かった。
 やや乱暴な動作でぷい、と宮子から顔を背け背中を向ける。一瞬見えた表情は、やけに真顔だったように見えた。
「……って、どうしたの?」
「宮子様いけません!」
 不審に思って回り込もうとした宮子を、ALが鋭い声で制する。
「その……水着……が……」
 そして、非常に遠慮がちに掛けられた言葉。
「え、水着……って、きゃぁ!?」
 とりあえず、発せられた単語があるべき場所へと視線を向けて、宮子は己の状態を理解する。
 ない。あるはずの水着がそこに無い。結び方が緩かったのか、さっきの波でさらわれたのだろう。
「身を御隠しください、今僕が探しますので」
 どうにか、先に――かなりの気力を動員しての無理矢理だが――気を静めたALが声をかけると同時に、宮子は腕で身体を隠して海に身を沈める。
 ALも即座に海中に潜り、宮子の水着の行方を追った。
 ……だが、海の水は常に動き続けている。大波にさらわれた布切れの在り処などそう簡単に分るものではない。
 それでも宮子の危機と、懸命に、何度も海へと潜り探し続けるALだったが……。
「……ALくん、もういいよ」
 宮子の方が、そう、声をかける。
「宮子様。しかし、……」
「ううん。ALくんはもう十分頑張ってくれたよ。……あのね、唇真っ青だよ。これ以上続けたら、ALくんが倒れちゃう」
 言われて、ALははっとした。優しく、穏やかに告げる宮子の声。彼女もまた軽く震えていることに気付いたからだ。
 彼女自身、これ以上海の中でじっとしているのは限界が近いだろう。
 力なく項垂れて、ALはせめて、海に上るまで自分の背で身体を隠すようにと申し出る。
 服があるところまではそうするしかないだろう。宮子もその提案には素直に従った。
「……すみません。僕の力不足です」
 歩きながら、搾り出すようにALが告げた。……そうしなければ、背中の感触に平静を保つのが難しかったというのもあるが。
「……言ったよね。ALくんは十分頑張ってくれたよ、って。もともとはボクがちゃんとつけてなかったせいだし」
「はあ……しかし」
「それに、十分海も楽しんだしっ」
「そうですか? 結果的に、僕ばかりが泳いでしまった気がしますが……」
「うんっ。ボクのために一生懸命探してくれるALくん格好良かったからねー。それを見てるのも、結構楽しかったよっ」
 無邪気に、宮子が笑う。その朗らかな声は、嘘や慰めだけには思えなくて。彼女の優しさと純粋さが、とても良く分ってきて。
 荷物を置いた場所にたどり着く。振り向かぬままタオルを手渡すと、彼女の身体が離れていく。
 ……それを、惜しいと思ってしまう己はなんと度し難いのだろうと、ALは宮子に気付かれぬように、ひっそりと溜息をついた。




 さて、問題の福引で当たった旅館はといえば、海でのハプニングで沈んだ気分を吹き飛ばしてくれる程度には予想を上回るものだった。
 老舗の風格。かといって、決して古臭いわけではない。威厳のある立派な構えに、手入れの行き届いた庭園。畳の独特の香りが心地よい、純和風旅館。
 むしろ落ち込んだことがあった分だけ、期待以上のものに出会えた喜びは大きかったかもしれない。これが今度は、禍転じて福、というべきか。
「……今度は、一緒に水着を買いに行きませんか?」
 すっかり機嫌を取り戻し、ALは宮子にそう誘いかける。
 チェックインを済ませてから二人はまた買い物に出て。戻って風呂を済ませればちょうど食事の時間。
 大広間での食事を堪能し。そうして、二人が宿泊予定の部屋を訪れたのは、もう日が沈んでからのことだった。
「宿、意外に立派だったね。部屋も綺麗な部屋かな……って、え?」
 がらり。仲居さんに教えられた部屋の戸を開けて、宮子がこわばった声を上げる。
 案内されたされた部屋は、食事中に支度されていたのだろう、既に布団が敷かれていた。
 ……ぴったりと並べて、二つ。
 指定された部屋はここ一つ。疑いようも無く、「ここで二人で寝る」事が想定された状態。
 なんで? なんで? とパニくる宮子であるが、こうなったのはある意味仕方が無い。
 なぜならば、今この状態はある意味、宮子の責任なのである。
 ……宿に宿泊の確定を告げるとき、彼女は受付にこう伝えていた。
「友達と二人で行きます」
 と。
 それは、現在の二人の関係性として現状、確かに間違ってはいないのだが、そう聞いた旅館の人間は至極常識的な判断で以てこうメモを残した。「女性客二名」と。
 ……そして、その誤解は、仲居がALの姿を確認した後も正されること無く今に至る、というわけだ。
 もし旅館を予約したのが、福引に当たった、という少々浮かれた状態でなければ、誤解のないように伝えられただろうか。
 あるいは、旅館の立派さに機嫌を直し、再び買い物に出る気力など湧かずにそのまま旅館で過ごしていれば、誤解を正す機会もあっただろうか。
 ……もう、それを言っても遅い。
「……御心配ならず。僕、離れたところで寝ますから」
 内心心臓バクバクで変な汗が流れ出るのを感じながら、ALは布団を離そうと手をかける。
「ええと……ん、ALくんなら変なこともしないだろうし、ボクはこのままでも大丈夫だよっ」
 宮子は何故か慌ててそんなことをいうと、誤魔化すようにすばやく布団にもぐりこんだ。
 ……ややテンパリ気味ではあるが、己を気遣っての行動に。ALは布団を離すべきか、このままでいるべきか、しばし考え込んでいた。
 近くで寝るのはつまり、信頼してくれた、ということで。それを無碍にするのは逆に下心があると伝えてしまうようで。
 だけど実際……ALはもう自覚しているのだ。己が宮子に向ける感情は、異性と意識して向ける恋心であることに。

 ――……まるで警戒されないというのはつまり、向こうはまったくそのつもりは無い、とも言われているようで。

 ならばいっそ、裏切ってしまおうか。
 貴方のそばにいるのは、『可愛い後輩』なだけじゃなくて、一人の男なんですよ、ということを教えてしまおうか。
 ……なんて。

「宮子様……? とても楽しまれた様ですね」
 くすりと微笑う。
 疲れからだろう、布団に包まれて僅かな間に、既に寝息を立てている彼女に。安心しきったその表情に。邪な想いが実行できる、わけも無くて。
 ほろ苦い想いとともに。それでもこうして、彼女のそばで仕えられる今の状態は間違いなく『幸福』なのだろうと。
 そう信じて、ALもまた、彼女のそばで眠りに付いた。

 ……はずなのだが。



「?……っ!?!? これは……如何声を掛ければ……」
 翌朝。ALの目覚めは。
 抱き枕と勘違いしているのか。宮子に抱きつかれた状態で目を覚ますという試練から始まり。
 はたして今日もまたこの旅行、穏やかに終わるのだろうか。不安がよぎるところからのスタートとなったのはまあ、余談である。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja0024 / 猫野・宮子 / 女 / 14 / アカシックレコーダー:タイプB】
【jb4583 / AL / 男 / 13 / ダアト】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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すみません。大変お待たせいたしました。
ハプニング塗れの二人の旅行、ということで、楽しんで書かせていただきました。
ご不満な点あれば遠慮なくお申し付けください。
このたびはご発注、ありがとうございました。
アクアPCパーティノベル -
凪池 シリル クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年08月26日

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