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『melt 』
常木 黎ja0718


 ――今から会える?

 そう、連絡が入ったのは午前8時のことだった。


「昨日のうちに目途はついてたんだけど、誘っておいて俺が起きれなかったら申し訳ないと思って」
「……それは、いいんだけど」
 筧 鷹政は、仕事明けでようやく時間が取れたのだと笑う。
 気を惹く依頼が無いか斡旋所で確認をしていた常木 黎は、そのままディメンションサークル利用で待ち合わせに応じるなどという便利なことを。
 朝食が未だだという鷹政に付き合い、街中のコーヒーショップでこうして過ごしていた。
「撃退士って便利だよなー」
「便利の使い方が、ちょっと違うとは思うけど」
「うん、乱用するなって怒られてる」
「……してるんだ」
 鷹政の事務所と学園は、決して近いとは言えない。
 その割に頻繁に顔を出すと思えば、片道の交通費をこんな形で浮かせていたのか。
 他愛もない雑談さえ、二人きりというのは久しぶりに感じる。
 なかなか時間を取れないから、少しでも余裕が出来たならと連絡をくれたのだろう。
 幸いにして、今日は黎にも予定がない。
 射撃訓練だけをして帰るつもりだったのだと告げたら、苦笑いで髪をかき混ぜられた。
「じゃ、まだ昼前だし、遠出とかする?」
「それなら海、行きたいな」
 学園からの仕事で出向いたことはあったが、黎は『仕事』じゃ息抜きなんてできない性分であるし。
「この辺だと―― ああ、行ける行ける。季節的に、最後になるかぁ」
「その前に、買物」
「え」




 急に呼び出され、急に行先を決め、つまるところ備えがない。なるほど。
 近場の百貨店、女性用水着コーナーへ案内された鷹政が、納得と共にうなだれる。
「いや、俺、こういう場所は」
「その……いいよ、何でも。過激な物でも、鷹政さんが良いって思うなら」
「そういうことを! さらっと言わないの!!」
「……さらっとでも…… ないよ」
「…………」
「…………」

(少々お待ちください)

「断っておくけど、俺もセンスは自信ないからね……!」
 というわりに、鷹政はかなり真剣な表情で水着選びに突入する。
(黎さん自身は、シンプルなデザインのが好きなんだろうなぁ)
 去年・今年と振り返り、そんなことを考えつつ。

(そも、過激って。見られたら減るっつう……)
※恋人の水着姿を他人へ見せたがらないというのは、独占欲の強さの表れらしいです

「かといって、フリル過多で隠すのももったいないし。泳ぎやすい方がいいだろうし……」
※思考が声に出始めています

(……思った以上に目が本気)
 本気のベクトルが、黎の考えていたものと若干違うようにも感じるが。
「個人的には、良いデザインがあればワンピースのが好き派なんだよね」
「そうなんだ」
「本人に似合うものに勝るは無し、なんだけどさ。水着に限らず」
「まあ、それは確かに」
「黎さん、スタイル良いからさ。カバーするようなパターンじゃない方が良いんだよな。コレ絶対な。よし、次のコーナー」
「えっ」
 当初、店舗前で赤面して硬直していなかったか。
 鷹政はどんどん奥へと向かってゆく。
「らしいというか、なんというか」
「なにー?」
「鷹政さん、物持ちいいでしょう?」
「選ぶ時は、いつだって慎重ですよー。行動は大雑把だけどー」
 すごく、腑に落ちた。気がした。
 選ぶ、その中に自分は含まれている? そんなことを、ふと考えた。


 悩み抜いて、ツーパターンに絞られた。
「あとは試着してみて、かな。最後の最後は黎さんが決めて?」
「えー」
「どっちでくるかな、って俺にもお楽しみ残してよ」
「……一緒に試着室に来てもいいのに」
「蔵倫的にアウトコール入るから!!」
 まったくもう!
 思いきった黎の発言は、思いきりすぎて時折カッ飛ぶことがあるな、ということも鷹政には解ってきた。
「言ってる傍から、黎さん耳赤いし」
「そ、そんなこと」
「ほら、泳ぐ時間無くなるよー」
「えーーー」
 ずるい。
 ぶつくさ不平を言いながら、黎は試着室へ。




 海へは、1時間足らずのツーリングだ。
 黎は、鷹政のタンデムシートへと。彼女自身もバイクには慣れているから、この辺りは心配不要といったところだろう。
「っと」
 ぎゅ、と後ろから強く抱きしめられて、彼の声が詰まるのを感じ取りながらも、黎はそのまま背中に顔を埋める。
 気持ちを言葉に出すことは苦手だけれど、こうしてしまえば平気。
 エンジン音が唸りをあげ、加速してゆく。
 年季の入ったマシンは学園卒業時に当時の先輩から譲り受けたそうで、なる程の物持ちだった。
(こうやって乗るのは…… 初めてかな)
 ジャケット越しの体温は、切る風の強さに優しい。同じだけの熱が、伝わっているだろうか。
 夕暮れ時のいつかに触れたような緊張は、時間とともに互いにほぐれていった。
 残るのは安心感と、微かな渇望。
(このまま、融けちゃえばいいのに)
 温度も鼓動も、重なり合って。




 夏休み最後を遊び倒すと言わんばかりに海水浴場は混雑していた。
(賑やかさに紛れて、多少の照れは吹き飛ぶかな……)
「着替えは俺のが先に終わるか。荷物持ち兼ねて、向こうで待ってるな」
「う、うん」
(鋼の理性かー)
 密着作戦に動じる風でもなく、鷹政の様子は至って普通だった。
(融けちゃえばいいのに)
 改めて、黎はそんなことを考える。
(せっかくの休日、二人きりなんだよ?)


 着替え終え、待ち合わせ場所へ向かえば鷹政は借りて来たらしいビーチチェアで寛いでいた。
 仕事明けということもあって、疲れも出ているのだろうか。

「えっと…… ど、どう……?」

 寝入っているなら邪魔をしないように、そっと呼びかける。
 黎が最終的に選んだ水着は、夜明け色のワンピースタイプだった。
 胸元の切り込みは深めだが、リボンで結ぶ形になっていて明け透けじゃない。
 ホルターネックで背中のラインが綺麗に出ること、ウエストラインはシンプルで最後は三段切り替えのフリル。
 トータルで見ると大人らしい落ち着いたデザインだ。
 なお、鷹政が悩んで決めあぐねていた一方は胸元のチャームとレースのスカートが可愛いビキニタイプで、色は白だと断言していた。
 熱弁する姿が面白かったけれど、ワンピースは良デザインを見つけることから難しいと唸っていたことを考えればこちらかな、などと。
「…………」
「鷹政さん?」
「……似合う」
「!!?」
 軽く上半身を上げ、一言つぶやき、チェアへ伏せる。
 ――どうなの、そのリアクションは。
「いや! 薦めたの、俺だけど!!」
「それって、どういう」
「ちょっと時間下さい、落ち着くから」
「……鋼の理性?」
「立て直し中です」
「我慢しなくていいのに」
「なっ」
 キシ、ビーチチェアが小さく軋む。
 何事か言い返そうと振り向いた鷹政の視界が、ふと暗くなった。

「……簡単、じゃない?」
「声、震えてるよ、黎さん」
「だだだだって!」

 触れて離れた唇が、伝えたい言葉を飲み込むように動く。
「……もうちょっと、慣れたら」
 海へ向かおうとする彼女の手を取り、鷹政が引き寄せる。チェアの半分へ座らせて、後ろから抱きすくめる。
「泳ぎに行こっか」
「……うん」
 ぺたりと重なる肌の感触、寄せられる頬と。
 照り付ける太陽の熱とに、融けてしまえばいいのに。




【melt 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja0718/ 常木 黎 / 女 / 25歳 / インフィルトレイター】
【jz0077/ 筧 鷹政 / 男 / 27歳 / 阿修羅】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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裏テーマ『vs鋼の理性』、夏のエピソードお届けいたします。
筧と一緒に楽しんで頂けましたら幸いです。
アクアPCパーティノベル -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2014年08月27日

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